大阪教育大学開学60周年(創基135周年)記念事業ウェブページ
大学HOME > 60周年記念事業HOME > 記念事業シンポジウム > 記念事業シンポジウム スケジュール

大阪教育大学開学60周年記念事業 第5回シンポジウム
卒業生教育長らによるリレー提言収録要旨

<主催・後援>
主催 大阪教育大学
後援 大阪府教育委員会、大阪市教育委員会、堺市教育委員会、読売新聞大阪本社

 大阪教育大学開学60周年(創基135周年)記念事業の締めくくりとなる、第5回シンポジウム が11月7日、大阪市北区中之島の大阪市中央公会堂で開かれ,約1100人が参加しました。(11月30日に既報)当日は、「卒業生教育長 大いに語る−大阪教育大学に期待する」と題して,府内の教育長ら7人によるリレー提言が行われました。

 要旨を次の通りまとめましたので、掲載いたします。


<出席者>
 芝村巧・堺市教育長  森田雅彦・箕面市教育長  藤川博史・守口市教育長
 下浦克明・門真市教育長  堂山博也・富田林市教育長  那谷定彦・太子町教育長
 沼守誠也・大阪市教育次長

 コーディネーター:長尾彰夫学長

<要旨>

【芝村】
 「発信する大教大」とありますが、この「発信する」ということが、今の教育界全体に投げかけられた大きな課題であると考えています。「発信する」というのは、だれがだれに発信するか。とりわけ、だれに発信するかということですけれど、学校でいいましたら保護者に発信するということにとどまらず、校区、あるいは地域社会の多くの人に発信するということで、各学校はホームページを工夫したりしています。大阪教育大もご努力をされているかと思いますけれども、さらなる期待となりますと、教育関係者以外の方にも積極的に発信していただきたいということです。

 というのも、今、子どものそばで教育の難しさ、課題をしっかりとらえて、自分たちもかかわろうという気持ちを持っていただいている人も多いわけですが、マスコミあるいは社会全体には、教育から離れたところで、いわゆるそれぞれの方の成育歴というのをもとにしながら、もっと教育はこうあらねばならないとか、そういうさまざまな言説があるわけです。そういった方たちを、あるいは社会全体をより子どものほうに近づけていく。教育の課題は、学校の課題、教員の課題、さらに社会全体の課題なのだということを積極的に訴えていく仕事を担うのが、学校であったり、あるいは教育委員会であったりします。

 そうしますと、大阪教育大もすでにそのご努力をしていただいているかと思いますけれども、さらなることを期待しろということでしたら、いわゆる教育関係者への発信は既に十分していただいているということで、それ以上に教育関係者以外の方にも積極的に発信していただいて、教育の外側にいる人も教育関係者に、そして教育の当事者に引き込むというような発信力を発揮していただきたいということでございます。

【森田】
 市町村が抱える教育課題を、大阪教育大学と共同で研究できないかなと思います。池田分校が柏原キャンパスに移りまして、本市から大学は遠くなりました。しかしながら、教育実習や学生ボランティアとか、たくさんの教育大生が市内の学校に入ってくれております。附属学校とも、研究や人事の交流を進めております。市内の研究学校は、教育大学の先生を講師に招いて指導をしていただいております。その上に立って、大学と附属学校、そして関係する教育委員会、現場の学校が一体となって研究を進められないかと思っています。

 例えば、本市ではいろいろな教育課題の解決の1つの方策として、小中一貫教育に取り組んでいます。とりわけ6年間の歳月をかけまして、府内で初めての施設一体型の小中一貫校を平成20年4月に開校いたしました。2校目も平成23年4月に開校を予定しています。

 このように推進する中で、不登校の子どもがピーク時の半分に減ってきたということで、少しずつ効果は出てきております。ただ、やはり理論的な裏づけですとか、それぞれの教科の検証や、あるいは効果の検証、こういうものはまだまだです。そこで、関係者が定期的に集まって情報を持ち寄って、その中で情報や課題を共有し、役割分担をする中で効率よく研究を進められないのか考えています。同じような課題を有している市町村とともに、教育大学の先生方や附属学校も一体となって進められたらと考えています。さらに、小中一貫教育だけではなく、子どもたちの学力の問題ですとか、体力向上の問題ですとか、いろいろな課題に取り組み、大阪の教育を前へ進めることができるのではないか。またそういう研究を進める中で人事交流も進められるのではないか。長尾学長が冒頭のあいさつで、地域と連携をしてやっていこう、“のろし”を上げていこうとおっしゃっていただいておりますので、そういうことを期待するものでございます。

【藤川】
 大学の教育実習は3回生の4週間でやっています。その教育実習自体を大胆に改革したらどうかということで、提言をさせていただきたいのです。本市は、3月に大阪教育大学と包括連携協定を結ばせていただいて、大学の先生を自由に、また学生を自由に来てくださいということで誘致をしています。その中で、1年生から学校現場でほんとうの学校の姿、子どもの姿、教師の姿を見ていただいて、総合的な教師力をしっかりつけていってほしい。学校側も学生が入ってくることによって、子どもたちの支援などでお互いに連携ができるのではないかと思っています。

 具体的には、1年次のときには『学校を知る』というテーマで、教師の手伝いとか教材の作成を、年間を通じて10回程度でいいのかなというように思っています。2年次では『子どもを知る』というテーマで、遊びを通した子ども理解であるとか、放課後学習、またクラブ活動の補助、これはほんとうに週1回ぐらいのペースで来ていただければいいのかな、そういう実習ができればいいのかなと思っています。

 3年次は『授業をつくる』ということで、これは本来の教育実習の期間も含めて、年間を通して教材研究、指導案の作成等にかかわって、授業というのがどういうものなのか、そういう中で授業規律を高めていくためにどうすればいいのか、そういったことを学んでほしいと思います。

 そして、4年次では『学校マネジメントを学ぶ』ということで、学級経営、また学校における校務分掌のあり方ですとか、保護者対応、そういったものを総合的に学びます。

 そういう実習を通して総合的な力をつけて、使命感や責任感、子どもが大好きだという教員の育成に取り組んでいただければと思っています。ぜひ、本市ではすべての小中学校でこの実習に取り組んでいきたいと思っていますので、よろしくお願いしたいと思います。

 幅の広い教師、また即戦力の教師を、学校現場では求めていると思います。そういう中で、やはり教師として育っていくには、現場での経験を踏まえて、何年かたってほんとうに自分が教師に向いている、さらに立派な教師を目指していこうという向上心、そういったものが生まれてこなければいけないと思います。だからこそ、総合的な教師力の基礎を身に付けた後に現場に入ってほしい、そういう思いがあります。

 また、1年次からの教育実習を通して、やはり自分が教師に向いているのだろうか、子どもが好きなのだろうかという見きわめの場にもなってきます。教育実習が始まって3年のときに、教師に向いてないということに気づき、教師をめざすのをやめていく、そういった学生も何人かいるのです。早く見きわめれば自分の将来も修正できるのではないかなと思っています。そういう意味で、大学で講義ばかりを受けるのではなく、教育大学のキャンパスへ訪ねたら学生が全然いない、みんな学校現場へ行っている。そんなユニークな大学もいいのかなと思います。

【下浦】
 本市は子どもたちの学力の面で大変厳しい状況を抱えています。子どもたちの置かれた生活実態、それから親御さんたちの経済状況も非常に厳しいという中で、市長はまちづくり、わたしは学校改革ということで、両輪で捉えて進んでいます。そういった中で、大阪教育大学の先生方にいろんな形で学校現場の支援に入っていただいていまして、感謝をしているところです。

 今、学校が力を持つべきと思っておりまして、学校長を中心とした校内研修体制、授業を中心とした校内研修体制を、何とかしてつくりたいと思っていますが、やはり子どもたちの心を開くのは、学校であり授業であり教師であるということを強く思っています。子どもたちは、特に門真の子どもたち、大阪の子どもたちと言ってもいいかもしれませんけれども、心に何重にもまといをまとって武装をしている子どもたちが多いのです。なかなか教師に、学校に心を開かない。その心のよろいを、オーバーを、コートを一つ一つ取り去って、心の中にふつふつと燃えている赤い炎に近づくことができること、これは授業をおいて他にないと、わたしは思っております。教育大学にお願いすることといたしましたら、そういったことをやり遂げることが教育の喜びだという思いを持った学生を、学校現場に送っていただきたいと思っています。

 もう1つ、授業の中で問題を解決していくために、教師と子どもと教室全体が厳しさを共有したいと思っています。今、教師も子どもたちも、乗り越えるための厳しさに立ち向かうことが非常に苦手となっています。学校で、教室で厳しさを共有する体制をつくり出す、このことは学校を中心とした校内研究体制をおいてないと、わたしは確信をしているところです。大変しんどい市ですけども、情熱を持ったやる気のある教師を、門真に送っていただきたいのです。どうかよろしくお願い申し上げます。

【堂山】
 過日、大阪府の来年度の教員採用試験の合否結果が発表になりました。大阪府のいわゆる教員採用テストで求める人物像の中に、豊かな人間性、実践的な専門性、開かれた社会性、という人物像があります。教員養成大学の4年間で実践的な専門性をつけられるのかどうかが、実は課題ですが、これは、またつけてもらわなければならないのです。

 そういう意味では、大学の4年間で即戦力となる人材を現場へ送り出してほしい。中学校の場合は教科ごとのコースに分かれていますが、小学校も含めて各教科の専門性を高めてほしいなという強い希望を持っております。当然、現場で教材研究なり授業研究、研修はしなければいけませんけれども、その前提となる基礎・基本や、専門的な知識、そういうあたりは養成大学の4年間できっちり身につけさせて学校現場へ送り出してほしいと思います。

 同時に、学習指導力といいますか、教科指導力とともに、車の両輪である子どもを理解する力があります。一般には生徒指導と呼んでおりますけれども、子ども理解力、生徒指導力、車の両輪でありますから、こういうあたりもしっかりと鍛えた人材を現場へ送り込んでほしいなと、このように思っております。

 即戦力といいますと大学では4年間、勉強ばかりしなさいと言っているみたいですが、実はそうじゃない。幅広い体験活動といいますか、人と人のつながりでの経験をしてほしいということです。これは学生さんに対する要望なのですが、現場では一番最初にやられるのは保護者対応です。子ども、保護者の反発を受けると、すぐにぐらっとなっていきます。打たれ弱いといいますか、なかなか立ち直れない。それが病気になり、1年たった末には退職ということになるケースは大阪教育大学出身の学生にも何名もいます。

 そういう中で、大学のときは座学の学問だけではなく、サークル活動、部活動、教育実習もその実習の期間だけでなく、時間があれば学校現場にもボランティア活動として参加するなり、あるいはアルバイトも含めたさまざまな体験活動、地域での活動、いろんな人々との間での関係をつくっておいたほうが現場へ来たときには非常に役に立つのではないかと思っております。いわゆる子ども相手だけではなく、さまざまな人間関係の中でもまれる訓練をしてから現場に来てほしい、これは学生さん方に対する要望でございます。

 現場はさまざまな課題を抱えながら日々、奮闘努力しています。教科の授業力向上はもちろん、今日的な教育課題の解決のために取り組んでいますが、府内の市町村教育委員会は指導主事の数が足りない状況です。そういう状況なので、現場でいろんな研究あるいは実践をやっているときに、大阪教育大学からぜひ講師を派遣してほしいなと願っていますが、学校現場から人づてに頼んでもなかなか来てもらえないのが実情です。

 先ほどの長尾学長のごあいさつの中に、大阪の教育は大阪教育大学が責任を持ってやりますというような力強いごあいさつがありましたので、ぜひ現場から教育大学に講師派遣をお願いしたときに、ボランティアで行かせてもらいますというようなことを言っていたけたらありがたいと、強く要望したいと思います。

【那谷】
 井村雅代さんが、講演の中でおっしゃいましたように、「人が好きでない人は教師になるな」私もそれは同感でございます。子どもが好きでないような人が、最近教員の中にも出ているのではないかなと思っています。そういう意味では、やはり非常にまじめなのはいいのですけれど、反面、もっと幅の広い先生が欲しい、また、なっていただきたいなと思います。先ほど、コーラスの指導をしていただいた先生、幼稚園の指導をしていただいた先生、あるいは小学校で、先ほどのリズムダンスが指導できる先生、そういう先生になってほしいと思います。

 いつも新任の先生に言うのですけれど、1つスポーツができる、あるいは音楽ができるというものをもってほしいと。「お父さん、お母さん、うちの今度担任の先生な、スポーツすごいねんで、歌は上手やねんで、あの楽器もできるねん」。こういう先生というのは担任しても保護者から信頼されるのではないかと、私自身は思っています。

 今、小学校、中学校で総合学習をやっています。クラス経営を見ていましても、やっぱりその担任の先生の資質というものが出てまいります。どうぞ、井村先生がおっしゃいましたように、いっぱい引き出しを持った、幅の広い先生を目指していただきたいと思います。

 本市の中学校でチューター学習をやっています。10名ほどの学生が来ていただいています。教育大学の学生も一緒に子どもたちに指導をしていただいています。こういう経験や体験が将来のいい先生を育てていくのではないかなと思っています。どうぞ、教育実習はもちろんでございますが、ふだんから母校や、あるいは近くの小学校、中学校に出ていただいて、実践もしていただければありがたいかなと思っております。

 それから、今の子どもたちは達成感とか充足感、充実感が非常に薄くなっています。運動会なり、あるいは文化祭なり、いろいろな学校行事等を通して、クラスづくりができるような先生になってほしい。子どもたちが、今日の運動会みんなで走ってよかったな、と最後に言えるような、そういう取り組みもわたしは大事ではないかなと思っています。

 厚かましいお願いばかりですが、来年度から小学校5年生、6年生で英語の授業が始まります。非常に厳しい状況でございますけれど、学生は中学校3年間、高校3年間、大学4年間と英語を勉強してきたので、小学校5年生、6年生に英語が指導できるような、そういう質も備えていただきたいと思っています。また中学校は武道、あるいは部活動というのも非常に大切な要因です。

 そういう中でひとつ、おれが、わたしが中学校へ行ってこんな部活をしたい、子どもたちと一緒に汗を流したい、そして子どもたちとクラブ活動を通じて人間関係を結んでいきたい、そう思って大学4年間大いに勉強をしていただけたらと思いますし、また教育大学としてそういう人を育てていただきますようお願いを申し上げます。

【沼守】
 大阪教育大を卒業されて大阪市の学校に来られた方々をどう育てていくのか。わたしは、やはり1年目に赴任した学校で育てていただきたいと思っております。各学校できっちりした形をつくって育てていただきたい。先ほど車いすダンスの蛭池さんが、教員採用テスト通りましたよ、と言いましたけども、どこを受けたんだろうなと気になっていました。本市だと聞いて、やったと思いましたけども、そういう意味では、この方をこれから最後まできちっと育て上げるのは大きな責任があるなと痛感しています。

 この方だけではなく、多くの若い先生を育てていかなければと感じています。それはやはり教育委員会と現場の責務だと感じています。何を身につけさせるのかということになると思いますが、教員としての生きる力を身につけて欲しいと思います。

 教師は教員としての確かな専門性を持っていただきたい。豊かな人間性という点では、いろいろな経験、部活動、または社会生活の中で人間性を広げ、それを持ちながら教えていく。さらには健康な体で子どもたちにかかわって、本来の意味の子どもたちの生きる力をつけていくのではないかなと。即戦力という意味では、大学というのは学生に確かな学力、基本をきちっと教えていただきながら、その中でいろいろな人間性の育つ場であってほしいなと思います。


【長尾】
 7人の先生方、ありがとうございました。

 非常に短い時間でございましたけれども、教員養成大学とは何をするところなのかということが非常にクリアに出てきたのではないかなと思っております。教師が一人前の教師になっていくには、養成、採用、研修というプロセスがあるということは中教審等でもずっと言われてきたことでございます。

 わたしは、一人前の教師ができ上がるには大変な苦労があると実感しております。教育大学も頑張りますし、現場でもまたそれぞれお願いしたいことがあると思っております。

 時あたかも教員養成は6年制にということも言われたりしております。どういう教師をいかにして育てていくのかという大きな課題が、日本全体でも取り沙汰されてくるという状況に至っております。

 冒頭の挨拶で大阪の教育に責任を持つ、持ちたいという“のろし”を上げたと申しましたが、60周年を機に本学はさらに前進していきたいと思っております。ほんとうに限られた時間でございましたけれども、教育長の皆様からたくさんの提言をいただきました。

 今日いただいたことを受けとめ、新たな60年に向かっていきたいと思っております。本日はどうもありがとうございました。


582-8582 大阪府柏原市旭ヶ丘4-698-1
国立大学法人大阪教育大学 総務課
Tel:072-978-3212  E-mail:somuka@bur.osaka-kyoiku.ac.jp