ウェーブレットツールボックス(Wavelet Toolbox)は MATLAB の数値計算とグラフィックスの機能を拡張し,局所的な解析, 多重スケール解析,あるいは非定常現象の解析に適したウェーブレット解析の数々の手法を包括的に提供するツールボックスである. ウェーブレット解析は非常に新しく進んだ手法であって, フーリエ解析が用いられてきたあらゆる分野で フーリエ解析を補って別の視点から解析を行う. ウェーブレット解析によって, 従来の手法では検知できなかったデータの傾向や崩壊点あるいはデータの導関数の不連続点や自己相似性といった様相を視覚化したり探究することできる.詳しくは拙著「ウェーブレット解析」を参照されたい.
このツールボックスの特徴は分析,合成,雑音除去,信号や画像の圧縮などのための完全なグラフィカルユーザインタフェースとコマンドラインから使うことができる関数を豊富にもつことである. 特にグラフィカルユーザインタフェースの完成度は高く, 多重スケールで信号解析ができる連続ウェーブレット変換, 1 次元および 2 次元の離散ウェーブレット変換, 信号や画像を解析する多重解像度分解, 1 次元および 2 次元のウェーブレットパケット展開, ウェーブレットパケットにおけるエントロピーにもとづく最適基底や最適レベル,各種の閾値による雑音除去などのウェーブレット解析をすべて対話的に行うことが可能である. したがって,コマンドラインからウェーブレット解析を行う必要はほとんどないが, このホームページでは MATLAB の数値計算機能を理解してもらうため,コマンドラインから行うウェーブレット解析の例を述べよう. 詳しくは拙著「はやわかり MATLAB」を参照されたい.
このツールボックスには幾つかのサンプルデータが用意されているが, ここでは解析するサンプルデータを準備しよう.
x = 0:4; y = zeros(1,5); y(3) = 2; t = linspace(0,4,2^9);
sample = interp1(x,y,t);さらに
save sample sampleによりディスクに変数sampleを保存しておく. 次にwnoiseを使って Quadchirp と呼ばれる振動数がしだいに高くなる雑音を付加したサンプルデータを作ろう.
noise = wnoise(5,9); nsample = sample+0.1*noise;さらに
save nsample nsampleによりディスクに変数nsampleを保存しておく. どのようなデータか知りたければ
plot([nsample; sample]')とすれば次の図を得る.

help waveinfoにより使えるウェーブレット関数を確認する. たとえば,ドベシィのウェーブレットを使うことにし,waveinfo('db')で詳しい説明を読むとdb1 or haar, db4, db1などというウェーブレットを指定する文字列'wname'が与えられていることがわかる. 1 次元連続ウェーブレット変換の関数はコマンドと関数のリストによればcwtであるから,help cwtで説明を読むとベクトルのデータ列S, スケールベクトルSCALES, ウェーブレットを指定する文字列'wname'に対し,COEFS = CWT(S,SCALES,'wname','plot')により 1 次元連続ウェーブレット変換の係数を計算し, 図示することがわかる. 例として,c = CWT(s,[3 18 12.9 7 1.5],'db2')などがある. サンプルデータsampleがワークスペースになければload sampleでディスクから読み込む.そして
c = cwt(sample,1:32,'db3','plot');を実行してみると次の図(左)が得られる. カラーマップを
colormap(pink)によりpinkに変えてみると次の図(右)が得られる.

サンプルデータ
sampleの第 1 次導関数の不連続点が係数に反映されていることがわかる. 得られた係数はsave coef cによりディスクに変数cをcoefというファイル名で保存しておくことができる.
1 次元離散ウェーブレット変換の関数はコマンドと関数のリストによれば
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dwt |
idwt |
detcoef |
ddencmp |
wavedec |
waverec |
appcoef |
wdencmp |
wrcoef |
upwlev |
wden |
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upcoef |
プロンプトで
load nsampleとタイプし, サンプルデータnsampleをディスクから読み込む. ドベシィの N=3 のウェーブレットを使うことにする. レベル 1 の 1 次元離散ウェーブレット変換係数を計算するには
[cA1,cD1] = dwt(nsample,'db3');である.この係数からレベル 1 の近似(approximation)を構成するには
ls = length(nsample); A1 = upcoef('a',cA1,'db3',1,ls);詳細(detail)を構成するには
D1 = upcoef('d',cD1,'db3',1,ls);である.この結果を図示するには
subplot(1,2,1); plot(A1); subplot(1,2,2); plot(D1);とする.次の図を得る.

1 次元逆離散ウェーブレット変換は
A0 = idwt(cA1,cD1,'db3',ls);である. レベル 3 まで 1 次元ウェーブレット分解を計算するには
[C,L] = wavedec(nsample,3,'db3');である.レベル 3 の近似係数は
cA3 = appcoef(C,L,'db3',3);レベル 3 からレベル 1 まで詳細係数は
cD3 = detcoef(C,L,3); cD2 = detcoef(C,L,2);
cD1 = detcoef(C,L,1);である.レベル 3 の近似を構成するには
A3 = wrcoef('a',C,L,'db3',3);レベル 1 からレベル 3 までの詳細を構成するには
D1 = wrcoef('d',C,L,'db3',1); D2 = wrcoef('d',C,L,'db3',2);
D3 = wrcoef('d',C,L,'db3',3);である.この結果を図示するには
subplot(2,2,1); plot(A3); subplot(2,2,2); plot(D1);
subplot(2,2,3); plot(D2); subplot(2,2,4); plot(D3);とする.次の図を得る.

付加した雑音
noise = wnoise(5,9)は Quadchirp と呼ばれる振動数がしだいに高くなる雑音である. レベル 3 の分解によりレベルが高くなるに従ってしだいに低周波部分が 分離されているのがわかる. レベル 3 の分解から元の信号を再構成するには
A0 = waverec(C,L,'db3');である.元の信号とレベル 3 の分解の近似を
subplot(1,2,1); plot(nsample); v = axis;
subplot(1,2,2); plot(A3); axis(v);によりプロットする.次の図を得る.

図の左右を比較すれば, 一般に詳細を捨てることにより信号から高周波の雑音を除去することができて,除去した結果の信号が近似として与えられることがわかる. 関数
ddencmpにより閾値を与えてより細かい雑音除去ができる. 正数tを閾値とするとき, hard thresholding は信号xがabs(x) <= tを満たす成分は0とし, soft thresholding は信号xがabs(x) <= tを満たす成分は0とし,かつabs(x) > tを満たす成分はsign(x).*(abs(x)-t)とする. 詳しい使い方はhelp ddencmpによりオンラインヘルプを参照すればよい.
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