広汎性発達障害による感覚過敏・鈍麻の実態に対する支援

山本奈津美


【問題と目的】
 近年、アスペルガー症候群や自閉症などの障害特性の一つとして感覚の問題に強い関心が向けられつつある。
 自閉症の感覚刺激に対する異常な反応については、カナー(1943)やアスペルガー(1944)がそれぞれ発表した論文の症例の中にも見られる。原因に関する詳細は不明である。その後、自閉症の国際的な診断基準であるICD-10(WH0,1992)やDSM-IV(APA,1994)が自閉症の多様な樟害特性の中から、社会性の障害、コミュニーケーションの障害、常同反復の3つの特徴を重視した。また、ウイング(1998)も自閉症の特徴の中で、人との相互交渉、コミュニケーション、想像力の障害の3つに注目し、感覚過敏よりもその他の特性に注目されることが多かった。
 現在、ドナ・ウィリアムズ(1993)やテンプル・グランディン(1994)を始め、泉(2003)、森口(2004)、藤家(2004)、ニキ・リンコ(2004)などにより自らの内面を語った著作の中に、感覚過敏等の障害特性について書かれており、感覚の問題が再び注目されている。
 増渕ら(2007)は、特にアスペルガー症候群はその障害の独特の困難が理解されにくく、本人の抱える困難が「自分勝手」、「わがまま」などと誤解されやすいと指摘している。障害があるが故の困難を正しく理解されないことは、新たに不適応や問題行動などの二次障害を引き起こすことにつながる。
 東條(2002)は、感覚過敏が現在用いられている自閉症の診断基準よりも、本人が実生活の中で抱く困難性の本質に近く、自閉症の核心部分との関連がより深いとの見方をしている。
 今回、感覚過敏の先行研究にある実態調査と実践例から支援方法を模索し、一つの研究としてまとめることを通して、感覚の問題を中心とした広汎性発達障害がある子どもの理解を深め、感覚の課題を視野に入れた特別支援教育の推進に役立てたい。

【方法】
 第2章で自閉症の感覚過敏も含めた全体的な障害特性について述べ、第3章からは、高橋智らによる「アスペルガー障害・高機能自閉症における感覚の過敏・鈍麻の実態と支援に関する研究−本人へのニーズ調査から−」(2007)で明らかになった感覚過敏・鈍麻の実態や、小松ら(2005)による自閉症の子どもが苦痛や不安を抱かずに参加できる授業づくりに取り組んだ実践報告である「自閉症の感覚過敏に着目した授業改善の取り組み」についてまとめ、感覚に配慮が必要な子どもへの支援について考察する。

【結果と考察】
 「感覚の過敏・鈍麻のチェックリスト」の調査結果を全体的に見ると、アスペルガー障害・高機能自閉症本人のチェック率は、一番高い人で61.5%、一番低い人で0.9%という結果になり、個人差がとても大きい。同様に「本人が求める感覚の過敏・鈍麻への理解・支援チックリスト」全体のチェック率も、一番高い人が62.5%、一番低い人が0.0%という結果となり、求める理解・支援にも大きな個人差があるといえる(高橋:2007)。

●教員が学校で出来る支援方法について
 全体を過して、アスペルガー障害や高機能自閉症の人が感覚の過敏さや鈍感さがあるために日常生活を送る上で困難が多いことがわかった。教員として学校でできることは何かということ/について考察したい。3つの視点から考えられる。1点目は、物や場所などの環境整備である。感覚の過敏さがある場合、可能な限り刺激を減らすことが有効である。音・声・教材・掲示物・窓外の景色等の刺激に十分に配慮し、調整する必要がある。2点目は人の環境整備として周囲の理解を得られるように支援を行うことである。3点目は、本人が自ら刺激を調節できるような方法を身に付けることである。子どもによって必要な支援は異なるため、一人一人の子どもの様子を日頃からよく観察し、どの感覚に課題があるのかということをチエックリストや保護者、本人から聞きとるなどし、作業療法士などと連携して、個のニーズに応じることが子どもの成長や2次障害を防ぐことにつながる。また、本人の取り組みとしては配慮のもとで行動できるようになれば、少しずつ耐性や柔軟性を育てていくこレども重要である。
 第5章でまとめた、感覚過敏に着目した授業改善の取り組みでは、学習環境と授業形態を子どもの特性に合わせて工夫することで本人が落ち着いて学習に取り組めるようになったと同時に教員や周りの子ども、保護者の意識を変えた。自閉症の子どもが苦痛や混乱の中で生活しているという実態に気付くことが学習環境や授業形態を見直し、改善するきっかけとなる。子どもの立場に立つということは、子どものことを理解し、子どもの視点で考えることである。子どもがいつパニックをおこすか心配して授業を参観することが多かった保護者も、授業に集中して生き生きとした子どもの様子を見てグループ別の授業があってもよいと実践を評価している。また、教員が子どもの障害特性を理解し、配慮することが、周りの子どもにも良い影響を与えた。具体的には、大きな音が苦手な子どもの気持ちを教員が代弁することによって周りの子どもたち同士が注意し合って静かにするように気を付けるようになったことが挙げられる。これは周りの子どもたちが自閉症の子どもを理解し、思いやりの気持が育った結果であるといえる。小松ら(2005)も実践を過して変わったのは自閉症の子どもたちだけではなく、周りの教員や子どもたちであると述べている。本人への働きかけを考えるときに、周りの人を視野に入れてアプローチすることが重要である。

<おわりに>
 この研究を通して、実態調査結果からアスペルガー症候群や高機能自閉症の本人たちは通常の感覚とは異なる「身体感覚」を持っており、周囲から「自分勝手」、「わがまま」などと誤解されていたことが、アスペルガー症候群や高機能自閉症特有の感覚に起因するものであったと明らかになった。また、感覚の敏感さや鈍感さは一人一人違い、求める支援も大きく異なることがわかった。感覚過敏に着目した授業実践報告からは、少しの工夫で子どもが安心して学習できる環境を整えることができるが、そのために周囲の大人は子どもが感覚の敏感さや鈍感さを抱えているのではないかという視点を持ち、感覚に課題がある場合に本人を中心にその周囲の大人や子どもの協力を呼びかける必要がケあることがわかった。そして本人へこの支援を考える際には、感覚の問題だけではなく子どもの全体像を捉え、どの方法が一番子どもに合っているのかということを常に模索していかなければならない。なお、今回はアスペルガー症候群や自閉症の調査や実践報告の研究を中心にまとめたため、他の軽度発達障害であるLD、AD/HD等の検討がなされていない。これらは今後の課

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