肺結核患者におけるヘリカルCTを用いた肺容積と肺機能との関連
Evaluation of lung volume using helical CT and
pulmonary function
for tuberculosis patients.
研究分野名 健康生理学研究 学籍番号 029728
氏 名 M本 健二 指導教官 東 眞美教授
キーワード(和文): 肺結核, 肺機能, 肺容積
キーワード(英文): pulmonary tuberculosis, pulmonary functions, lung volume
要旨
結核は今日では治癒可能な疾患であるが,多くの場合その後遺症による種々の病態が残存する.その中でも呼吸機能障害は患者のQOLの低下を招く大きな要因のひとつであり,その障害の程度を評価する上で肺機能検査は重要な指標である.しかし排菌がある場合,院内感染防止の目的から肺機能検査は施行されないことが多い.このような場合,胸部CTより求めた肺容積と呼吸機能検査値との間で相関があれば,CTのみでも肺機能の把握ができるであろうと考えられる.そこで,ヘリカルCTを用いて病変部の収束性治癒に伴う代償性気腫性変化が存在する肺結核20例に対して,CT測定肺容積と肺機能検査値との相関関係について検討した.
CTを用いた肺容積は,閾値として上限と下限のCT値(cut-off値)を設定することで選択的に面積を求め,この面積にスライス厚を乗じ,最終スライスまで合計することで得られる.従って,まず正常肺の上・下限cut-off値の算定と検証を行った.算定は,正常者14例に対して,診療放射線技師,放射線科専門医,胸部外科専門医,各1名による視覚評価法で行い,上限cut-off値に-500HU,下限cut-off値に-960HUを得た.検証は,新たに正常者6例に対して,cut-off値を用いるコンピュータで求めた肺容積と,放射線科専門医が手動トレースにより求めた肺容積との比較で行った結果,両者の間に高い一致度(平均絶対誤差率1.7%)を認めた.
得られたcut-off値を用いて肺結核例に対して正常肺容積(NLV),気腫性肺容積(ELV),NLVとELVの和を全肺容積(TLV),肺結核の気腫性変化の指標として気腫性肺容積比(ELV/TLV)を求め,肺機能検査値{肺活量(VC),比肺活量(%VC),1秒率(FEV1.0)}との相関について検討した.その結果,NLVとVCに正の相関(r=0.90,p<0.001)を得た.このことから容積変化を伴う結核病変による場合,NLVはかなり正確にVCを反映していると考えられ,容積減少に起因する拘束性障害の評価や,肺組織の破壊の程度の把握が可能であることが示唆された.ELV/TLVと%VCの間には有意な相関(r=0.35,p=0.12)は得られなかった.これは%VCが拘束性障害を示す指標であり,ELV/TLVでは拘束性障害の主因である肺・胸郭系の可動制限を捉えることができないことが一因と考えられた.ELV/TLVとFEV1.0の間に負の相関(r=0.69,p<0.001)を得た.これは,全肺に対して気腫性肺の占める割合が高くなるに伴いFEV1.0が低下することを意味し,FEV1.0が閉塞性障害の指標であることから,ELV/TLVが閉塞性障害の重症度の把握に役立つものと期待された.これらのことから,肺結核患者に対するヘリカルCTを用いて求めた肺容積は,排菌時の呼吸機能の把握とその予後の判断に貢献しうると考えられた.