◇ 体育科
運動を楽しむ中で育まれる感覚を大切にした体育科学習の構想
はじめに
本校体育科では、「生涯を通じて運動・スポーツを自ら楽しむことのできる主体的な子ども」の育成を目標に、ゲーム学習を対象として研究を進めてきた。そこでは、ゲームを楽しむ子どもの内面をとらえ単元構成や支援に生かすことで、子どもは大いに自己を発揮し自ら変容していくことが明らかになった。この成果を体育科学習全般に広げていくためには、次のようなことを明らかにしていくことが課題となる。
○ ゲームだけでなく他の運動領域も含めた学習で、
子どもの内面に育まれていくものは何か。
○ 子どもの内面に育まれるものはどのように発達していくのか。
そこで、もう一度原点に立ち返って体育科学習を見直し、子どもの内面の育ちに即した学習を構成していこうと考え、「運動を楽しむ中で育まれる感覚を大切にした体育科学習の構想」とテーマを設定した。研究を進めるにあたって、まず本年度は、これまでの実践を基にして、ゲーム学習の構成を探っていく。次年度以降は、今年度の成果を基盤にして他の運動領域の学習を対象として研究を進めていきたいと考えている。
1 活動する子どもの内面をとらえる
S 活動を推し進める情意
子どもは運動に出合うと、「思い切り身体を動かしたい」「上手に運動したい」といった、それぞれその子なりの思いや願いをもつ。運動への好奇心やこれまでの経験に基づいた自分なりの思いや願いの実現に向けて、子どもは学習の第一歩を踏み出していく。
図10−1 子どもの情意と活動
しかし、学習を進める中で、思いや願いの実現に向けた活動が進まなくなる場面が生じてくる。子どもは、活動を切り開くための目標を設定し、友達の協力を得て、思考・判断と運動の実行を行い、振り返る(図10−1)。そして、自分の思いや願いの実現に向けた活動に対して手応えや満足感を感じ取ることができたとき、子どもの内面から楽しさが溢れ出てくる。この楽しさを原動力にして、さらに活動を連続・発展させていく。
このように、「思いや願い」「活動に対する手応えや満足感」とは、子どもが全力で活動を推し進めていこうとするときに働く情意である。
活動を切り拓く中で育まれていく感覚
子どもの活動が思うように進まなくなるのは、自分のイメージした動きと実際の動きにずれが生じるからである。動きのイメージが漠然としていたり、自分の身体をうまくコントロールできなかったりするのである。子どもは、動きのイメージを鮮明にしたり、実際の動きを高めたりして、イメージした動きと実際の動きのずれを埋めていく。そこに、芽生え育まれてくるものが、身体操作に関わる感覚(以下、感覚)である(図10−2)。意識しなくても自分の思い描いたように動いているのは、まさに感覚をつかみ磨いた姿なのである。
このように、子どもは、自分の思いや願いの達成に向けて「目標の設定」から「振り返り」までの一連の活動を繰り返す中で、感覚をつかみ磨いて、「分かった」「うまくできた」といった手応えや満足感を感じ取り、運動を楽しんでいくのである。そして、つかみ磨いた感覚を子どもが自覚し、思いのままに生かすことができてこそ、生涯に渡って運動に親しむことができるのである。 故に、子ども自らが身体活動の主体となって感覚を育んでいくことこそ体育科の本質であり、情意を大切にしながら感覚の育ちに即した学習を構築していかなければならないと考える。 図10−2 つかみ磨かれていく感覚2 情意や感覚の育ちを探る S 情意の発達 子どもの情意の発達を明らかにすることは、体育科学習を構想していくのに欠くことができないものである。子どもがどのような思いや願いをもつか、活動に対してどのような手応えや満足感をもつか、これまでの研究を基に低・中・高学年別の様相に表したものが図10−3である。図10−3 子どもの活動の様相 低学年の子どもは、身体を思い切り動かしたいという思いや願いをもち、集団の中にいても個人的な行動が目立つ。また、できないことでもやりたがり、個人的競争によって優越したがる傾向が強い。 中学年になると、課題を設定して活動できるようになる。個人的な活動に加え、グループを作って活動し合うことを好むようになるとともに、グループ間の競争に目が向き、教師や集団からの承認を求めるようになる。 高学年では、グループのまとまりを意識して活動できるようになる。競争したいという思いは何にでも向けられるのではなく、自分の得意なものに特に強く向けられるようになり、グループの一員として成功を望むようになる。 T 感覚の育ち 小学校の時期は、さまざまな感覚を、豊富な運動体験で、より系統的に育むことのできる時期であり、「感覚形成期」とでも呼べる時期である。そのため、感覚の育ちを仕組んだ学習を考えていくべきであると考える。 低学年の子どもは、できないことでもやりたがることから、「感覚の広がり」を仕組んでいく。学年が進むにつれ、課題を設定してより上手に運動できることを求めるようになることから、「感覚の深まり」を仕組んだ学習が必要となる。○感覚の広がり 今までに経験したことのない新たな動きをしようとするときの感覚の量的な育ち。○感覚の深まり 自分の動きをよりよくしようとするときの感覚の質的な育ち。3 ゲーム学習の構成 S ゲーム学習で育まれる感覚 ゲーム学習では、自分が思い描いた動きをしようとしても、それを阻止しようとする相手がいるために、思いや願いの実現に向けた活動が進まない場面が生じてくる。 例えば、2年「宝取り鬼」で、子どもは宝を取ろうとしても、それを邪魔する鬼が存在する。宝を取るために子どもは、鬼が今どこにいて、どのように動くのか、自分はどのように動けばよいかといった思考・判断し運動を実行していく中で、「宝を取るスペース」「宝を取るタイミング」といった、「相手の動きに応じて身体操作する感覚」をつかみ磨いてゲームを楽しんでいく。 このような感覚は、ゲーム学習ならではのものである。子ども自らが相手の動きに応じて身体操作する感覚をつかみ磨いてゲームを楽しむことのできる学習を構成していくことが大切である。 T 単元構成のあり方 h 感覚をつかみ磨いていく学習の流れ ゲ−ムに出合った子どもは、まず、自分が今もっている力でゲ−ムを楽しもうとする。そこで、ルールやコ−トといった設定された条件の中で思考・判断力を駆使して、ゲ−ムの特徴をつかみ、自分の力が発揮できるようにするために、ル−ルを変えたり、作戦を工夫したりする。そして、自分の動きのイメ−ジを明らかにし、感覚をつかんでゲームを楽しむ。 動きのイメージが鮮明になった子どもは、それを具現化するために、外的な状況としてのル−ルや作戦をある程度固定し、ゲ−ムの形を決めていく。そして、自分の動きを工夫し、感覚を磨いてゲ−ムを楽しんでいく。 このようなことから、次のように活動を構成する。 ゚活動}〈動きのイメ−ジづくり〉焉@艨@ ル−ルや作戦を工夫して 艨@艨@ ゲ−ムを楽しむ 艨@瘋繙繙繙繙繙繙繙繙繙繙繙繙繙繙繙繙繙竅@ ┛I ゚活動~〈動きづくり〉繙繙繙繙繙焉@艨@ 動きを工夫して 艨@艨@ ゲ−ムを楽しむ 艨@瘋繙繙繙繙繙繙繙繙繙繙繙繙繙繙繙繙繙竅@i 情意を高め、感覚を育む場の設定 ア.ゲ−ムの設定○コ−トについて まず、コ−トという「わく」が必要かどうかから検討すべきである。コ−トによって動きが制限されることで、感覚がつかみ磨けずゲームを楽しめない場合が考えられるからである。 例えば、2年「宝取り鬼」では、まず、鬼のいない側に安全なスペ−スを見つけてタイミングよく動く感覚をつかんで楽しませたい。ところが、コートがあると鬼がライン沿いに宝を置くため、子にとって安全なスペ−スは限定されてしまう。ラインでコ−トを仕切るのは、感覚が十分に育まれた後が望ましいのである。 次に、コ−トの広さの問題をサッカ−を例に考えてみる。コ−トが広いと、守れないスペ−スも広くなる。攻める側にとっては、ボ−ルを取りに来ても、そのスペ−スにさえボ−ルを出しておけば、取られる心配はない。また、コ−トが狭すぎると、攻める側に求められる感覚が高度になりすぎる反面、守りは非常に容易になり、子どもはゲームを楽しめなくなってしまう。 このように、コ−トの広さは、子どもの実態をとらえ、ゲームでプレ−をする人数を考慮した上で、設定していく必要がある。○人数について ゲ−ムでプレーする人数は、概ね低・中・高学年で次のようなものであると考える。 低学年の場合、自分(一人)がゲ−ムの中で活躍することが最大の関心事である。だからゲ−ムの基本単位は1人対1人の攻防である。この動きの中で、「相手をかわすタイミング」「相手をマークするスペース」といった感覚をつかみ磨いて楽しむのである。 中学年では、チームで力を合わせ活動できるようになり、チーム間の競争に目が向いてくる。簡単なパスプレーを中心に、自分だけでなくもう一人の味方を想定した動きの感覚が育ってくる。そこで、自分ともう一人の味方を合わせた2人がゲ−ムの基本単位となる。 高学年になると、チームのまとまりを意識し、コ−ト全体の状況を把握できるようになる。また、アシストプレーやフォロープレーなどができるようになり、チームの一員としての成功を望むようになる。そこで、自分と自分の左右にいる味方をあわせた3人がゲ−ムの基本単位となる。○ル−ルについて ル−ルについても、コ−トと同様に動きを制限することで、感覚をつかみ磨けずゲームを楽しめないことがないようにしなければならない。 例えば、低学年でボ−ルを手で扱うゲ−ムをするとき、ボ−ルを持って走ってもよいことにするのである。ドリブルという動きの制限がない分、フェイントなどの動きが自由に行われるようになり、その結果、相手の動きに応じて身体操作する感覚を育むことができるのである。 また、ル−ルは、必要最小限にとどめることが望ましい。子どもはルールを工夫することで、自分の動きのイメージを鮮明にし、感覚をつかみ磨いて活動を連続・発展させていくのである。 イ.自分の活動を振り返る場の設定 プレーの中で、「分かった」「できた」と感じたときに、その子はある感覚をつかんでいるのである。これが、次の活動に生かされるためには、そのときの感じや状況を、文字や図、身体の動きなど客観的な形で自覚される必要がある。 低学年では、その場で自分が実際に動いて感覚をつかんだときの状況を再現させていく。また、いくつかのゲームをまとめて振り返るのは難しいので、ゲームが終わる毎に振り返りの場を設ける。 中、高学年では、作戦盤や黒板を使って平面図に表したり、学習カードに文章で表したりして、そのときの感じと状況を再現させていく。また、ゲーム毎に振り返るだけでなく、複数のゲームをまとめて振り返ることのできる場も設定する。 U 単元配列について 子ども自らが身体活動の主体となって感覚を育みゲームを楽しむためには、単元構成だけでなく子どもの育ちに即した単元配列が必要となる。そこで、次のような視点から単元配列を考えていく。○ 単元の時間数を見直していくとともに、低学年において1時間の学習の中に複数の単元を組 み合わせない単元配列を行っていく。○ 各学年複数のゲーム学習を位置付けているが、子どもの情意や感覚の育ちをもとにその必要性 を考察し、厳選していく。○ 「ティーアップベースボール」「タッチフットボール」などのゲーム学習を組み入れた単元 配列を行っていく。おわりに^ 本年度は、ゲーム学習の単元構成について、子どもの心情調査や動きの分析を通して検証していくとともに、感覚の育ちの構造を明らかにして単元配列を見直していく。 また、他の運動領域の学習へ研究を進めていく手掛かりを探っていきたい。