◇ 家庭科 ◇
よりよいくらしを求め続ける
子どもを育てる学習の構想
はじめに
本校の家庭科では、「生活者として自立する子どもの育成」を目指して、これまで研究に取り組んできた。その結果、子どもたちは、一人一人が自らのめあてを達成するために実践力(思考力・判断力・表現力などの能力、知識や技能、この発揮と密接に結びついた関心・意欲・態度等)を駆使したり、追究活動を進める指針となって働く、家庭生活に対する見方・考え方を生かして学習に取り組んだりすることができるようになってきた。そして、生活者としての自立に向けても高まりが見られるようになってきた。
しかし、生活者としての意識が自分を中心としたもので、周りの人々(主に家族)のことを考えた学習内容が少なかったように思われる。また、自分のめあてを達成するために実践力を発揮し、さまざまな見方・考え方を生かしていくが、素材や素材の扱い方に対する一面的な見方・考え方が多く、取り組み全体をト−タルで考えた見方・考え方にまで及んでいなかった。
そこで、今後は家族の人との生活を大切に考え、豊かな心で共にくらしを営んでいける子ども、そして、家庭生活に対して常に広く、深い視点をもち、時代に適応しながら改善し続けることのできる子どもを育てていきたいと考えた。そして、このような子どもを「よりよいくらしを求め続ける子ども」ととらえ、本年度はそういった子どもの育成に焦点を当て、その学習のあり方を探っていきたいと考えた。
1.よりよいくらしを求め続ける 子どもとは
(1) 家庭でのくらしの様子
子どもたちの家庭でのくらしは、「着る」「食べる」「住まう」といった、衣食住に関わる営みが中心に行われている。そして、この時、常に家族が存在し、家族同士お互いに支え合い、心を通わせながら生活をしており、すべて家族という共同体の中で行われている。
こういった家族を中心とした家庭生活には、消費活動、創作活動が主として行われている。一方、これらの生活にはさまざまな側面が見られ、それがくらしのあり方と考えられる。くらしを改善し、より快適に生活をするための方策を整理すると、次の3点にまとめることができる。
○環境を考える ○健康・安全を考える ○時代に適応する
こういった家庭でのくらしをまとめたものが図9−1である。
(2)よりよいくらしを求め続ける子どもとは
(a)家族のことを考えた生活を送れる子ども
子どもたちは自分一人だけで生活しているのではなく、周りの人々から何らかの恩恵をうけてくらしている。特に家庭においては、「家族」と共に生活しているわけで、家族の一員としての自分を自覚し、自ら家庭生活の一端を担うべき存在である。しかし、残念ながら子どもたちの言動は積極的に実践的な態度で臨むよりは、世話をしてもらって当たり前といった傾向が強いようである。
子どもの発達からみて、本来小学校高学年の児童は、他者を意識し、相手の立場を考え、相手を意識した言動が行える段階である。そのため「○○に役立つために△△したい」といった気持ちが強まり、相手に喜んでもらうことを自分の喜びととらえることが可能である。特にこの傾向は5年生より6年生の方が強い。そこで、子どもたちには家族の一員としての自分を自覚し、「家族に役立つために○○しよう」といった気持ちをもって家庭生活を送り、家族への思いやりや感謝の気持ちをもったくらしを営んでほしいと考える。
(b)より快適な生活を工夫する子ども
(ア)環境へのやさしさを考える子ども
子どもたちの周りは衣食住すべてにわたってものがあふれている。そのため、何でも手軽に手に入り、もののありがたさ、尊さを見失いがちである。つまり、一つのものを最後まで使いきらず、次から次へと新しいものを欲しがったり、使い捨てのものを好んで利用したりする傾向が強い。そこで、「ものを大事に使う」つまり、「必要なものだけ使う」「むだなく最後まで使いきる」「再利用する」という、環境資源を大事に使い、自然環境を汚さない生活ができるようになってほしい。また、このことはものを購入する時にも当てはめることができ、消費者としての確かな目をもち、さまざまな諸条件を考え合わせて、価値判断・意志決定することが大切である。
(イ)健康で安全に気をつける子ども
家庭生活において最も大切なことが家族の生命を維持することである。つまり、より健康的で、より安全なくらしを営むことが主眼となり、自分の身の回りを清潔に保ったり、品質や栄養を考えた食事をしたりする等、健康を考えた生活を送ることが生活の基本になると思われる。また、家庭内には危険な箇所があったり、電気製品やガスの取り扱い等、安全面で気を付けなければいけないことがたくさんあったりする。自分や家族の健康保持や安全な生活に注意を向けることのできる子どもであってほしいと考える。
(ウ)時代に適応したくらしを考える子ども
衣食住それぞれには、日本独特の文化があり、それぞれの伝統を受け継いでいくことは大切なことである。ただ、いつでも、どんなことにでも昔からの方法を採り入れるのではなく、その場その場に応じて、最適な取り組みができるよう工夫をこらしてほしいと考える。つまり、「時・場所・目的」に合った取り組みが必要であり、その時、その時の諸条件を考え合わせ、家族のニ−ズにうまく応えることができるよう価値判断できることが大切である。
(c)「創る」ことを大切にする子ども
作りあげられたものを買うという消費活動だけでなく、自分で調理をしたり、被服製作をしたりして、手作りの楽しさを味わうことは豊かな人間性を育むために大切なことである。特に小学校高学年の子どもにとってはこれまで習得してきた知識や技能を利用し、創造性をいかんなく発揮して、生活に役立ったり、生活に潤いを与えたりするものを十分工夫できると考えられる。
2.よりよいくらしを求め続ける家庭科学習とは
(1)家庭科学習の本質
家庭科は家庭生活の改善向上を図る実践的な態度と能力を育成する教科である。つまり、
☆家族のことを考え、生活に役立ったり、潤いを与えたりするために
創意工夫し、創作しようとする実践的な態度・能力
☆環境への優しさを考え、時代に適応したくらしを考える力
といった態度や能力を育てる教科である。そして家庭と社会を生活の中に同時にとらえ、人間と環境との相互作用を扱っていく。つまり、生活を営む活動、人間(人)、及び生活に必要な物資(もの)がその対象になり、人と人、人ともの、人と環境とのかかわりを合わせてとらえていく教科である。
人間は生きるためによりよい環境を創造することができる。家庭科では、生活の充実向上を図り、衣食住にわたって「よりよい生活」を追究していくために、環境との相互作用を図りながら、生活の自立を目指し、生活を見直す人間の育成をはかっていきたいと考える。
(2)家庭科学習の構成
前述のように子どもの主体的な追究活動のために、家庭科では、一人一人の実践力を大切にしたいと考えた。そして、その中でも豊かな人間性を育む学習においては情意を大切にしたいと考える。情意は知識の定着のための手段として使われるのではなく、新しい知識を構成していくことを推進していく上で、重要な働きをもっている。「おもしろそうだ」「やってみたい」という情意が働いて、連続的、発展的な活動がなされ、新しい知識を見い出していくことになる。つまり、学ぶエネルギ−が情意である。
このように、子どもたちが情意を前面に打ち出して追究活動を行っている時、その指針となって働く力が、家庭生活に対する見方・考え方である。現在のように多様なライフスタイルが行きわたりそれぞれの家庭によって、多種多様な見方・考え方が見られる時、子どもたちも大きくその影響を受けていると思われる。そこで、問題解決のさまざまな場面でこの見方・考え方を用い、価値判断・意思決定していくことが大切であり、さらに友達との交流を通して、より広い、より深い見方・考え方へと変容をとげていくことが重要となる。
なお、この変容が情意と深くかかわりをもっており、見方・考え方に広まりや深まりができるからこそ、情意がより質の高いものになっていくであろうし、一方では、情意が高まるからこそ、見方・考え方が生きて働くもとになっていくのである。学習活動の最後には「○○すれば△△なるなんておもしろいな」「家の人にもっと○○してみたいな」といったような、最初とは質の異なった情意に高まっていくと考えられる。
3.よりよいくらしを求め続ける子どもを育てる家庭科学習の実際
よりよいくらしを求め続ける子どもを育てるために、実際の学習場面で、次のような場の設定や支援を試みようと考えた。
(1)家族を対象にした内容を全領域に組み込む。
家庭科学習ではこれまで、家族に関する内容について、「家族の生活と住居」の「家族の生活」で主に扱われてきた。しかし、「家族に役立つ○○」といった心情や態度を「住居」と組み合わせたり、独立したものととらえたりするだけではなく、家庭生活全般にわたる領域に組み込ませることによって、より高めることができると考える。
☆「家族に役立つ○○を」「家族の好みに応じた○○を」
といった時間を題材内に位置づける。 →2回実習の実践
子どもたちは特に調理や被服製作を行う時、初めは「自分が気に入る物」「自分の好みの物」といったように、自分にかかわるものを作ろうとする。そこで、1回目の実習では、自分のめあてに合ったものを作るようにし、2回目にもう一度実習の機会を設定し、1回目の工夫を生かせるようにする。その時、今度は家族に目を向け、「家族に役立つための○○を作ろう」といった家族への思いを馳せた実習となるようにする。
(2)家庭生活に密着した、カリキュラムの構想をはかる。
子どもたちの主体性や創造性を十分に発揮させ、よりよいくらしを求め続けるためには、日常の生活に応じた、一人一人の家庭の実情に合った素材を取り扱う必要がある。そうすることによって多様な見方・考え方を駆使することができ、子どもたちの学習への取り組みもより意欲的なものになり、自分のくらしを改善していこうとする気持ちが高まるものと考えられる。また、特に6年生は5年生での学習を生かして取り組みの幅を広げ、より多くの中から選択できるようにすると共に、見通しをもった、計画性のある実践ができるのではないかと思われる。
具体的には次のような教材の工夫を試みたい。
(a)領域内の教材の精選を行う。
『食物領域』
○調理を伴う題材は、素材を中心に考え、調理例や調理方法を多様化する。
・幅広い献立を考え、「煮る」も取り入れる。
・「野菜」や「たまご」等と「魚や肉の加工品」を同時に扱う。
○エコ・クッキングを奨励する。
『被服領域』
○子ども達の実態をふまえた教材を選ぶ。
・子どもの実態に応じた簡単なものを製作する。
・ミシンの扱いについては、時間数を減らし、
マニュアルの読み方を中心に簡単に扱う。
・性差が出ない教材を考える。
『住居領域』
・環境を考えたくらし方や家族のことを考えたくらし方」
(高齢者や乳幼児にもしっかり目を向ける)を探る題材を設定する。
(b)領域を越えた教材の開発を行う。
「家族の生活」「食物」「被服」「住居」のいくつかを兼ね合わせて、実生活の場面に近く、さまざまな見方・考え方を生かせるような教材の開発をはかる。
おわりに
本年度は、「よりよいくらしを求め続ける子どもの育成をはかる」ために学習構想を探っていきたいと考え、先ず、くらしの基盤である「家庭でのくらしのあり方」を見直した。その結果、前述のような家庭生活の営み、そして、より快適に生活をしていくための側面を見つけ出すことができた。しかし、家庭での生活のあり方は多様であり、「よいくらし」を定義付けてしまうことは難しい。そこで、子どもにとっての家庭でのくらしという視点で生活を見つめ直し、そのあり方についてさらに探っていく必要がある。
次に、家庭科学習の構成については、学習過程での情意の高まりと家庭生活に対する見方・考え方との結びつきが重要な意味をもつと考えられた。しかし、この結びつきのあり方はまだまだ漠然としたもので、今後は、情意の様相や連続性、及び、家庭生活に対する見方・考え方の具体的な内容等をさらに吟味し、検証していかなければならない。
そして、「よりよいくらしを求め続ける」ための実際の学習場面を再検討し、本年度までの実践を精選する。また、家庭生活に密着したカリキュラムについては、その検証をはかると共に、新しい教材の開発を積極的に行い、その内容を充実させていきたい。
〔参考文献〕
野田文子『新しい小学校家庭科の研究』
教育出版センタ− 1995年
家庭科教育法研究会『新編 家庭科教育法』
学芸図書株式会社 1992年
