◆国 語 科◆
表現愛を育む国語科学習の構成
1 テーマ設定の理由
国語科では、昭和63年度より、子どもの作文における表現活動に焦点をあてて実践的な研究を重ねてきた。そこでは、自己を発揮した学習を成立させたいと考え、一人一人の子どもが考えた解決方法を生かした問題解決活動のあり方を探ってきた。
その結果、子どもたち一人一人が「その子なりの表現」ができるようになってきた。特に、平成5年度からは、自分らしさを発揮する表現学習における基礎・基本として、心情面では「表現愛」知識・技能面では「表現意識」「表現技能」の三つを想定してきた。そして、これらは、子どもの中に別個に存在するのではなく、お互いが補い合って伸びていくものであるということが分かった。また、一人一人の子どもが「自分らしさ」を発揮することを考えたとき、知識・技能面からの発達とともに、「表現愛」という心情面からの発達の重要性も明らかになった。さらに、昨年度は「自分らしさを発揮する表現活動が成立するための評価と支援のあり方」というテーマのもとに、評価の観点、規準、時期などを明確にしていくことや、教師の役割・評価の方法などを具体化することができた。
しかし、その反面、作文を書き終えた後の交流で、相手のアドバイスをいとも簡単に受け入れて書き換えてしまい、自分らしい表現がなくなったり、逆にかたくなに拒否したりして、自分の作文をさらに良いものへと高めていこうとする心情が育たなかったりするといった問題も生じてきた。
これは、自分や友達や作品などの良さを正しく理解し、お互いが自分の考えを関わらせて表現していく力が不足していたことに原因がある。つまり、知識・技能面と関わって発揮されるべき「表現愛」が有効に働いていなかったのである。
そこで、本年度は「表現愛」の定義をもう一度見直して、国語科の研究を進めていきたいと考え国語科のテーマを「表現愛を重視した国語科学習の構成」とした。
2 国語科の本質
国語科の活動には、「読む」「書く」「聞く」「話す」の四つの活動がある。この四つの活動の目標を考えていくとどの活動も、自分の内にある思いや考えを豊かにし、それを外に表現していくことに結びつく。すなわち、今ある自分そのものを、「読む」「書く」「聞く」「話す」ことで、さらに豊かに自分らしくしていこうとすることである。これは、国語科で培う知識・技能面と心情面とが密接に関連しあってはじめて生まれてくるものであり、国語の本質だといえる。
今までは、この本質を知識・技能面から研究することが多かった。しかし、本校では「表現愛」という心情面からも捉えなおしていこうとしてきた。 その初めとして、昨年度の研究では、作文における表現活動が対象だった。そこで分かってきたことは、子どもの様相を見ていくと、心情の育ちには、常に知識・技能面の育ちを含んでいるということだった。そこで、本年度は知識・技能面の育ちの様相を含んだ心情のことを「表現愛」と呼ぶことにした。
つまり、ただ単に「おもしろかった。」「楽しかった。」といったものではなく、「何が」「どのように」おもしろかったのかといった具体的な子どもの様相を含んだ心情を「表現愛」と捉えていくことにする。
3 研究の方向・仮説
文学教材による話し合い活動昨年度の研究で明らかになったように、「書く」ということを取り立てて指導していった場合、一人一人の力としては、どの子もある程度の成果が見られた。「読む」「聞く」「話す」についても別々に取り立て指導すれば成果が上げられるであろう。ところが、全体の場面でみんなの考えを合わせて高めあっていくような場面、つまり、「聞く」「話す」活動が交互になされている話し合い活動になると、相手の話を正しく理解し、それに自分の意見を関わらせて話していく力は不十分であった。
そこで、本年度の研究の方向としては、昨年度までの作文における表現活動の研究から、話し合いを中心にした音声言語における表現活動を研究の対象にしていくことにした。これは「話す」こと「聞く」ことを特別に取り上げて指導するのではなく、「話す」ことと「聞く」こととが交互になされている活動のことを指す。つまり、自分の考えや友達の考え、作品の良さを正しく理解する力や、お互いの考えを関わらせながらより豊かな考えへと表現し合っていく力といった知識・技能面の育ちの様相を、心情面から探っていくことにする。
まさに、これからの21世紀の国際社会を考えたときに、大切にしていかなければいけない国語科で担う力とは、このような人と人とが対話することを通して、お互いの思いや考えを高め合っていく力であろう。
もちろん、話し合いによって自分の考えを高め合っていくことは、全ての学習活動において押し進めなければいけない目標である。そこで、国語科としては、話し合う内容ばかりでなく、話し合うことを通して、今の自分の思いや考えを相手に正確に伝えたり、相手の考えを正しく理解して自分の考えをさらに豊かなものにしていったりすることを大切に考えていきたいと思っている。
また、話し合いの際に取り上げる教材として、本年度は文学教材を考えている。それは、話し合いの中で、一つの答えや真理を追求していくのではなく、自ずと一人一人が自由に想像したり、表現したりでき、友達の読みと自分の読みとを比べながら、自分の思いをより深めていくことが期待できるからである。表現愛の育ちを探る 昨年度までの「表現愛」を具体的に想定すると低学年では「おもしろそうだなあ。」「もっとかけるぞ。」「たのしかったなあ。」というものから、学年が上がるにしたがって、「自分もこんな書き方をしてみよう。」「こんなふうにも書けるぞ。」というものになり、さらに高学年では、「自分らしく書けたぞ。」「こんな書き方をすれば読む人にわかってもらえそうだ。」といったものまで入ると考えた。 しかし、これらは、知識・技能面との関わりが明確に表れていなかった。そこで、本年度は「表現愛」の育ちを、知識・技能面が育つことによって生じる子どもの様相で想定することにした。まず、話し合いで培われる知識・技能面の育ちとしては、「友達の言ってることが分かる」「自分の考えを言う、友達の考えのいいところが言える」という段階から、「自分の考えと比べて聞く」「友達に正しく伝わるように話す工夫をする」ようになり、高学年になると「友達の意見を自分の考えの中に取り入れたほうが良いかどうかの判断ができる」「話し合いの場に応じた発言ができる」というように発達していくだろうと想定する。 これらの様相を、学習終末時の子どもの心情面から具体的に想定すると次のように考えることができる。
低学年
・「〇〇くんの△△という考えがわかってうれしかった。」
・「〇〇さんの意見につないで話すことができてよかった。」
中学年
・「〇〇さんの△△という考えとぼくの考えと同じだ。(ということが分かってうれしかった)」
・「僕の考えたことが、みんなに分かってもらえるように話すことができた。(のでよかった)」
高学年
・「〇〇さんの△△という考えを取り入れるとよいことが分かった。(のでうれしかった)」
・「〇〇くんには、△△という考えを言ってあげたから、よく分かってもらえた。(のでよかった)」
このように、同じ心情的な言葉(「うれしかった」「よかった」など)を使っていても、そこでの子どもの様相は発達段階で異なってくる。このことを「表現愛」の育ちと捉えて探っていくことにする。
尚これらは、子どものつぶやきやワークシートへの書き込み、授業後の感想などから読み取ることにする。子どもの側に立った話し合い活動 前項で述べた仮説を、検証していくために本年度は「子どもの側に立った話し合い活動」ということを考えて取り組んでいきたいと考えている。つまり、指導者が指導事項を教え込む授業から脱皮して、子どもが自ら学んでいくような授業を組んでいきたい。話し合いの場面でも、子どもたちが発言したことを整理したり、言い直したりしていたのでは、いつまでたっても子どもの意識の中に、「友達の発表を聞き逃しても、必ず先生がもう一度言ってくれる。」とか「自分の思ったことを言えば先生が分かりやすく言いかえてくれる。といった受け身的な態度は直らない。そのような学級の雰囲気の中では、決して「表現愛」は育たない。
そこで、子どもが主体的に授業に参加していくことができるような授業形態を取り入れたり一人一人がお互いの考えを知った上で、話し合いに参加できるようにしたりするなどの工夫をしたい。
また、このように、子どもの側に立って話し合いを組み立てた場合に、いつも子どもたち自身がその日の学習を振り返って自己評価していく活動を取り入れたい。このことは、次時の学習へと発展していくだけでなく、その日の学習において自分が主体的に関われたかという「表現愛」を見直す視点にもなる。そして、このことが習慣として根づくことが話し合いを通して、表現愛が育っていくことにもつながっていくと考える。
4 表現愛を育む話し合いの場の構成
低・中・高学年ごとの子どもの活動の様相に応じて、次のような指導の重点を置くことにした。意見をつなぐ低学年 低学年の子どもの達は、自分の意見を言いたいという意欲が強く、友達の話をじっくり聞いたり友達に分かりやすく話したりすることまで意識できないことが多い。そこで、指導者としては、できるだけ多くの子ども達が発表できるような発問や話題を提示し、発表意欲を大切にするとともに友だちの意見につないで話することを意識させたい。
1年生の「おつきさま」の学習では、子どもたちに自分の生活経験を想起させながら、登場人物の気持ちを考えていくことで、様々な読みが出てきた。そこで、一人の子どもの意見を取り上げ全体の場に返すことで、拍手が起こったり、「私も〇〇さんとおなじ考えです。」といった言葉が返ってきたりして、意見をつないでいくことができるのである。違いに気付く中学年中学年の子ども達は、自分の考えと比べながら友達の考えを聞こうとする気持ちは育ってくるが友達の発表を正確に聞くことができない子どもや自分の言いたいことがまとまらないまま発表しようとする子どもがいる。そこで、一つの手だてとして子どもたちが、事前に書いた作文や感想を印刷して配っておくことで、一人一人が自分の意見をもって話し合いに臨むことができるような工夫をする。そうすることで、授業前に自分の考えに近い子、自分と違った考えの子などが分かり、話し合いのときもより明確に話し手の意見を理解することができる。そして、授業後に自分の思いがどう変容したかもよくわかると考えた。 4年生の「たかの巣取り」の学習では、事前に「理想の友達」というテーマで作文を書き、それぞれの考えを知ったうえで友だちについて話し合った。すると、「少しくらいケンカをする」と捉えている子、逆に「決してケンカをしない」と捉えている子など、一人一人の思いが微妙にずれていることがわかった。「なぜ、あの子はこんな風に考えているのだろうか。」「〇〇君とは、友達なのに考えがちがうなあ。」と子どもたちの意識の中に、相手の考えを聞きたい気持ちが生まれてきて、真剣に友達の意見を聞き、話す姿が見られた。そして、自分の考えと友達の考えの相違点を理解し、初めに書いた「理想の友達」像が、学習の終わりにはさらに深まった思いに変わっていった。授業後の感想では「違った友達の意見を聞いて、なるほどなあと思った。」「始めは、〇〇ちゃんの考えとぼくの考えが違っていると思っていたけど、話し合っているとあまり違っていないことがわかった。」といった話がでていた。よさがわかる高学年 高学年の子ども達は、友達の思いや考えを理解しながら自分の考えを深めたり、広めたりすることが出来てくる。しかし、話し合いの中で、友達の発表を瞬時に理解し、その意見に対して自分の考えを述べることは難しい。
そこで、一つの手だてとして、提案班形式の授業を考えてみることにした。これは、子どもたちが教材に出会ってから、一人一人が自分の課題をもち、自分たちで考えたものを提案し、そのことについてみんなで話し合っていく授業である。話し合いも、子どもが司会し、授業を進めていく形態をとり、指導者は一歩引いて話し合い活動を支援する。そうすることで、当然聞き手も話し手も自分の考えと関わらせて一生懸命聞いたり、わかりやすく話したりするだろうと考えた。 5年生の「大造じいさんとがん」では、上記のような授業を行った。始めは、要領がよく分からず指導者が司会の立場に立ったり、聞く側の立場に立ったりして見本を示すことが多かった。しかし、回数を重ねるごとに、子どもたちの発言もつながっていくようになり、最後は聞き手を意識した話し方が少しできるようになってきた。また、話し手の言ったことに対して、聞き返す場面も見られるようになった。子どもたちの感想を聞くと「今までよりも、真剣に友達の話を聞いた。」「相手を意識して話すことで自分の考えが整理されるような感じがした。」といった声も聞くことができた。
5 今後の見通し
このように、本年度は、昨年度までの作文領域での表現活動の研究を生かして、話し合い活動へと発展していこうとしている。今後、表現愛の育ちを中核にしながら、多様な教材を取り上げ、他教科との関連も図りながら、カリキュラムの再編を考えていきたい。
