◇生活科◇
 

子どもの豊かな生き方を創造し続ける
 生活科カリキュラムの構想



 

 はじめに

 私たちは昨年度まで、学習の個性化に向け研究を重ねてきた。その結果、子どもが自分なりの想いを実現するための生活科学習の評価と指導のあり方を明らかにすることができた。
 本年度からは、標題のテーマを掲げ、子どもに豊かな人間性を育んでいく生活科学習の構成のあり方を探ることにした。
 子どもが主体的に生活科学習を進めていくとき、願いのもち方、活動の仕方、振り返り方、新たな願いのもち方などには、「よりよさを求める心の働き」である情意と密接に関連した育ちが見られるはずである。ならば、子どもが学習成果を深め続けるためには、自分なりの想いを実現するだけでなく、その育ちに寄り添った生活科学習の構成が必要になるだろう。これにより、子どもが豊かな生き方を創造し続けることができると考えた。 
 そこで、本年度は本研究の一年次として、次の三点を中心に研究を進め、それぞれに成果を得ることができた。
(1) 生活科が豊かな人間性の育成にむけて担う部分(生活科の本質)の明確化
 (2) 子どもの生活の仕方と情意の働きや質的な高まりの想定と、実践での検証
 (3) 豊かな生き方を創造する情意を重視した指導の構想
  以下、それらについて述べていきたい。

1.生活科の本質としての豊かな生き方の創造

 (1) 豊かな生き方のとらえ方
 生活科では、具体的な活動や体験を通して、自立への基礎を養うことがねらいである。これは、よりよい未来を創り出す生活者として望ましい態度や能力を培うことであり、子どもの側に立つと「よりよい見方・考え方・扱い方」つまり生活の仕方を身につけていくことである。
 豊かな人間性の育成を目指す時、子どもが生活科学習で利己的な生活の方法を身につけていくことは望まれない。子どもが社会や自然のもつ機能をよりよくとらえ、それらに対しての生活の仕方を深め続けることが、豊かな生き方を創造していくことになる。このような豊かな生き方の創造こそが生活科の本質と考えている。

(2) 社会、自然の機能と豊かな生き方
 社会の機能とはその規則性であり、よりよい未来を目指して集団の中に生まれた願いやもの・こと、生活の仕方等である。社会ではその集団で共有されたよりよい未来を目指すことが望まれるため、個人の利己的な生活の方法は認められない。しかし、多様な個人の生活の仕方も、集団で目指すよりよい未来の範囲の中であれば、暖かく認められる。また、個人が自分の願いに合わせて社会のあり方を変えていくこともできる。
 自然の機能とはその法則性であり、人間の力では動かし難い自然物のもつあり様である。自然物は、人間の働き掛けではどうにもならない成長の順序や存在の仕方等をもっている。しかし人がそれに応じた働き掛けをした場合には、自然の不思議さや神秘さを感じることができる。
 このような社会と自然に子どもが情意に支えられ主体的な働き掛けていくことで、それぞれの機能に気付いたり、それらを尊重することの大切さを体得したりして、社会や自然に対する生活の仕方を深めていく。すなわち、豊かな生き方が創造されていくのである。 
(3) 子どもにとっての豊かな生き方の創造
 豊かな生き方の創造は、下図のように子どもの情意と生活の仕方に密接な関わりをもっていると考えられる。
 子どもが自然や社会などの対象と出合った時には、既に身につけた生活の仕方をもとによりよい方向に向かう情意を働かせて、対象に対する心情や願いなどをもつ。この情意を推進力として、子どもは目的の達成に向けて、対象に主体的に働き掛けていくことになる。
 子どもは願いをもって対象に働き掛ける時にも、よりよい方向へ向かう情意を働かせる。既有の生活の仕方を実際の身の振る舞いとして発揮しながら、自分なりに判断したり工夫したりしていく。そして、次第により明確に自分の願いを意識していくことで、より意欲的な活動を継続して行えるようになっていく。
 そして、子どもは働き掛けに対する対象からの反応を受け取ることでも、「うれしい」「満足だ」などの手応えを感じる。更に、明確な目的をもって活動し、それを成し遂げた時には、自分の願いとそれまでの活動を振り返り、大きな達成感を得るはずである。このような活動を通して、子どもは対象や自分自身をより確かに理解し、生活の仕方を深めていく。
 また、目的意識に対応した大きな達成感を得ることが、さらに情意を働かせることになる。つまり、対象とのよりよい関わり方を目指して新たな活動のイメージを膨らませ、新たな願いをもつようになっていく。
 このように情意に支えられた生活の仕方の発揮と深まりを子どもが繰り返していくことによって、豊かな生き方が創造されていくのである。
 一方、子どもが活動によって生活の仕方を深めていくに従って、情意の質も高まっていくことになり、自ずと子どもの願いのもち方、活動の仕方、振り返り方、新たな願いのもち方などが変容していく。これらの変容とともに、子どもは自らの生活の仕方をよりよい方向へ更に深めていく。例えば、子どもが生活の仕方を深めると、対象とのよりよい関わり方を目指してより大きな情意を働かせて、より速やかに具体的な願いを持つようになる。願いの実現に向けてもより大きな情意を働かせて、確かな活動を行うようになる。そして、自分の願いの実現に向けた活動を的確に振り返り、大きな満足感を得ると共に、自分や対象をよりよくとらえることができる。そして、新たな願いをもつようになっていく。このような情意の質の高まりをともなった生活の仕方の深まりを繰り返すことより、子どもは豊かな生き方を創造し続けていくのである。
 豊かな生き方の創造を支える生活科カリキュラムの構成に向け、子どもの願いの持ち方、活動の仕方、振り返り方、新たな願いのもち方の変容をとらえることは不可欠であろう。

2.カリキュラム構成のための子ども像の想定

 豊かな生き方を十分に身につけた子どもは、次のような活動の様相を示すと考えた。 このような子どもの姿に向け、学習の中での望ましい情意の働きを、次のように想定した。
 「秋さがし」の学習で屋外のどんぐりが対象となった場合、子どもの願いは次第に「より多く」から「よりきれいなもの」を集めるというように変化していく。また、子どもはこのような活動を通して、徐々に「どんぐりを並べて遊びたい」など対象との関わりについて具体的な願いをもつようになっていく。
 このような経験の後、次にどんぐりと出合った時に多くの子どもは「この木の下に沢山落ちている」「首飾りを作りたい」等、速やかに明確な目的をもつようになる。
 このように初め子どもは興味・関心を向ける範囲が比較的狭く、もの・ことを表面的にとらえる傾向がある。そして次第に、より広い範囲に興味を示し、もの・ことの本質的な特徴つまり社会や自然の機能に目を向けていく。
 また、子どもは活動しながら徐々に自分なりの願いや実現するための見通しをもっていく。そして次第に、対象との出合い後より速やかに具体的な願いや見通しをもつようになっていく。
 1・2年の花を育てる学習では、当初多くの子どもは水やり等の具体的な作業自体に喜びを感じて花を育てていく。その経験の後には、「大きな花をさかせたい」等自分の願いを意識しその実現にむけて、花の世話を花の特徴に合わせて工夫しながら続けていくことができるようになっていく。
 このように、初め子どもは働き掛けた対象からの即時的な反応に気付いて喜びを感じながら活動を進めていく傾向がある。そして次第に、即時的な反応がなくても、自分の願いの達成に向け自分の行動が適切かどうか判断や工夫をすることができるようになっていく。
 1年「砂場遊び」の学習で、子どもは「大きな山を作りたい」という願いをが実現できなかった場合でも「砂場で遊んだ」という活動自体に満足感を得ることがある。 
 このような経験をした子どもは、次に土や砂を対象とした場合には、「固いだんごを作りたい」等の願いが実現されたかどうかという視点で活動をふりかえるようになる。このことで、砂の特徴をよりよくとらえるとともに、願いを達成したことに大きな達成感を感じるようになる。
 このように当初多くの子どもは、目的達成が不十分であっても、活動自体が楽しければ満足感を感じる。そして次第に自分の願いが達成されたかを振り返って、対象への理解を深めると共に願い達成の満足感を得るようになっていく。
 1年「公園で遊ぼう」の学習を振り返った後、子どもは「同じ公園で違う遊びをしたい」「違う公園を探しに行きたい」などの新たな願いをもつ。その発展として2年「町探検」の後、「お店の人ともっと話したい」「隣の町に行ってみたい」という願いをもつようになる。
 このように子どもは活動で得た満足感や気付きをもとに、もの・ことや人との関わりをより深く求めたりより広い範囲に興味を示したりして、より具体的で発展的な願いをもつようになっていく。
 以上、子どもが自ら豊かな生き方を創造していく活動の姿を子どもの発達に即して想定した。この想定に基づき生活科指導のあるべき姿を探りカリキュラムを構成していくことになる。

3.豊かな生き方を創造する情意の高まりを重視した指導の仮説

 
(1) 豊かな生き方が育つ連続した活動の構成
 当初子どもは、対象に出合っただけでは、情意を働かせて願いを明確にもてない場合が多い。そこで、子どもが願いをもつための活動の機会を保障する。続いて、願いを実現するための活動の機会を設けることで、子どもが生活の仕方を発揮し変容させていくことができる。
 例えば、入学当初の「校内の新しい遊具で遊ぶ」の学習で、遊具を見ただけで子どもに遊び方を考えさせるのではなく、実際の遊びを通して多様な遊び方を発見できるようにする。その後、もう一度遊ぶ機会を設けることで、自分の好きな遊具について明確な願いをもって遊びやすくなっていく。

 (2) 豊かな生き方が育つ関連単元の構成
 願いに対応した活動を通して生活の仕方を深めつつある子どもは、、活動後新たな活動に向けて具体的なイメージをもち、意欲を高めていく。その情意の働きを生かすためには、内容が連続する関連単元を設定することが重要である。 
 例えば、1年生の子どもは秋から育てて春に咲いた花を見て、「この次は大きな花を学校のみんなに見てもらうために育てたい」等新たな活動に対しての具体的なイメージをもつようになる。ここで、関連単元として2年でも草花を育てる学習をすることは、子どもの情意の働きや質的な高まりを保障する上で大変有効であろう。

 (3) 子どもが豊かな生き方の意味を見い出せる大単元構成
 豊かな生き方の創造を考えた場合、子どもが自らの意志決定と価値判断で社会や自然等の対象への適切な働き掛けが行えるようにしたい。つまり、社会や自然に対する生活の仕方のいずれも発揮し深めていくことが望まれるのである。
 そのためには、子どもが社会や自然へのよりよい関わり方を目指して、意識が連続して学習できるような単元配列が必要であろう。また、そこで大切にしたい社会や自然の機能としては、「自分と自分以外の人の存在と願い」「自分と自分以外の生命」が考えられる。それらの機能を子どもが主体的にとらえ生活の仕方を深められるように、社会や自然のもの・ことや人と関わる活動を連続的に行える大単元を構成していきたい。

 4.おわりに

 情意が働く姿の想定の妥当性や、情意を重視した指導の有効性は、次章で述べる実践によって部分的に検証することができたと考えている。今後、子どもの意識が連続発展していく単元配列の軸となる「自分や自分以外の人の願い」「自分や自分以外の生命」などの観点を、子どもの側からさらに探り、豊かな生き方を創造する生活科カリキュラムの具体化を行っていきたい。

<主な参考文献>
蛯谷米司他著『生活科の理論と実践』           1988 初教出版  
宮本光雄著『生活科の理論と実践』            1990 東洋館出版
益地勝志著『新しい観点に立った生活科の評価』      1992 初教出版
片上宗二編著『オープンエンド化による生活科授業の創造』 1995 明治図書