◇ 総 論 ◇
豊かな人間性を育む教育課程の創造(第1年次)
−教科の本質と総合活動のあり方を探る−
研 究 部
はじめに本校では昭和63年より「自己を発揮し自ら変容する子ども」の育成を目標に研究を進めてきた。この研究によって教科で大切にする基礎・基本が明確になり、子どもが自分の可能性を最大限に発揮できる指導のあり方の具体的な方法論が明確になってきた。特に昨年度は、「学習の個性化を支える評価と指導」というテーマのもとに研究をし、「子どもの活動を共感的に受け止め、主体的な学習を支援すること」「成長の手ごたえを味わえるようにし、一人一人の子どものよさを生かすようにすること」「評価は授業改善に生かすとともに学校教育全体に生かすこと」が重要であることが明らかになった。
しかし、次のような問題点も明らかになってきた。・これまでの学習では、子どもが教科の枠を超えた方向へ興味・関心をもった場合には、活動を保障しきれず、行動の仕方を自らの価値判断・意志決定で発揮し変容することが十分できなかったことがあった。・研究内容が教科の内容や方法に限られ、教科間や教育課程全体からの位置づけが不明確であった。
また、社会や環境は劇的に変化しており、子どもたちは今まで以上にその変化に対応し、生じてくるであろう多くの問題を解決し、豊かな未来を築くための能力を必要としている。
氈@研究テーマ設定
そこで、本年度からは、教育課程の再編をにらみながら、今まで以上に子どもの心情面の高まりを重視した各教科のカリキュラムの研究をしていくと同時に、教科や領域枠を束ねる総合活動という学習の場を構想し、教育課程そのものを見直していきたいと考え、「豊かな人間性を育む教育課程の創造」という研究テーマを設定した。そして、このテーマのもと、各教科が担うべきものは何なのかを明らかにするとともに、子どもの発達に応じた総合活動において大切にしたい学習内容や学習方法を探っていきたいと考え、本年度の年次テーマを「教科の本質と総合活動のあり方を探る」とすることにした。
豊かな人間性を育む教育
人は、よりよい未来を築くために、絶えず自分自身を見つめながら、他の人と関わり、身の回りにある「もの」や起こっている「こと」にうまく対応しながら生きていこうとする。ここでいう「よりよい未来」の内容とは、「よりよい自分」であり、「よりよい環境」であり、「よりよい人間関係」であり、「よりよい文化」である。このような「よりよい未来」を目指して行動するということは、対象に対して子どもが所属している社会が共有する「よりよい」という価値をもって行動するということである。学習の中では、子どもが共有された課題の元に自らの価値判断・意志決定で行動していくということである。そのような行動の仕方のもとになっているものは、一人一人の感性や主体性や協調性や創造性であり、総合的に捉えるならば人間性といえるものである。すなわち、よりよい未来に向かって行動していくためには、「豊かな人間性」の発揮が欠かせないのである。
そこで、「自分」「他の人」「もの・こと」に対する行動の仕方から、これから育てたい人間性の具体的な姿を次のように想定した。
○ 自分に対する行動の仕方 自分の行動を絶えず見つめながら、
自らの価値判断・意志決定によって行動しようとする。
○ 他の人と関わった行動の仕方人の立場や思いを共感的に理解し、
共に共有した目標に向かって行動しようとする。
○ もの・ことに対する行動の仕方対象に対して興味・関心をもって接し、
よりよい未来の実現に向けて、既習経験や体験を関係づけて、
工夫していこうとする。
感性・主体性・協調性・創造性
。 豊かな人間性の育成を支える教育のあり方
1.情意に支えられた豊かな人間性の育成
豊かな人間性の育成を目指す教育においては、自らの価値判断・意志決定によって主体的に行動できることが重要である。そのような活動とは、一定の進むべき方向をもった主体的な学習に他ならない。そのような学習の方向を生み出すのは、子どもの中にある心的なエネルギーである情意である。情意とは、自らの行動の目標を価値付けたり、自らの行動の方向を意志決定したりする感情なのである。そして、子どもたちは、このような情意に支えられて行動することによって自分の中に確かな見方・考え方・行動の仕方を作り、情意も高められる。そのような高められた情意は、次の活動を進めることになるのである。即ち豊かな人間性は、情意に支えられて連続していく学習によって育成されるのである。
豊かな人間性の育成のためには、全教育課程でその高まりの様相を見出し、カリキュラムを構成する必要があるだろう。
2.教科の本質を探る
これまでの研究で各教科は、目標を各学年ごとに設定し、その目標達成のための場の設定や評価のあり方を研究してきた。しかし、情意に支えられた「豊かな人間性」を育むという観点からの教科の目標や単元配列の見直しとしては十分ではなかった。情意の捉えといっても、その時間や単元の初めと終了時の興味・関心の高まりといった狭いものでしかなかった。
そこで、「豊かな人間性」の育成を背景にして情意を中核にした各教科独自の目標を見直す必要がある。子どもが教科の対象に対して自らの感じ方・考え方・行動の仕方を十分に発揮しながら目標を達成できるように、単元配列や単元構成や場の構成を探っていきたい。このことによって、各教科の存在価値がより明確になり、将来的には学習内容の精選や学習方法の改善につながると考えている。
(1) 情意の高まりの様相から教科の内容を見直す
各教科の目標を子どもの情意の発達から見直すというのは、子どもの興味・関心の拠り所を探ったり、どのような内容により大きな達成の満足感を抱くのかということを想定して、教科の内容を見直すことになるだろう。
(2) 発達課題から教科の内容を見直す
子どもには、健全な成長のために、発達のある段階で学習しなければならない課題が存在している。そのような課題が子どもに身につかない場合、単元の目標自身に発達に即して考えて無理があったのか、単に場の設定が悪かったのか、年間の単元配列に問題があるのかといったことを見直す必要があるだろう。また、年間の単元配列だけではなく、学年間の配列を見直す場合もあるだろう。
このような子どもの側からの見直しによって教科で重要に考えている目標の達成がより確かになってくると考えられる。
3.豊かな人間性を対象にした教活動としての総合活動のあり方を探る
前述したように各教科は、情意の高まりと教科で大切にしたいことを軸にした主体的な活動を保障することによって「豊かな人間性」の育成の一翼を担うわけである。子どもたちは、そのような活動を通して「よりよい未来」を築いていくことになるはずである。子どもが自ら豊かな人間性を育成するということを考えるとき、子どもの人間性自体を対象にした教育活動を考える必要があるだろう。また、「よりよい未来を築く」という目標に対して、これまでの教科の枠には収まりきれない内容もあるだろう。例えば、実践的に他者を理解し、信頼関係を深めるという活動である。「よりよく相手を理解し、互いに尊重して行動できる」という目標に対して、子ども自身が対象にするのは、「友だち」と「自分自身」の行動の仕方である。互いの立場を共感的に捉えられる学習を進める中で、豊かな人間性がダイレクトに育つことになるのである。しかし、そのような活動を保障しようとすると、既存の教科枠にはとらわれない新しい学習内容や学習場面が必要になってくる。ここに総合活動の設定の意味がある。
即ち、総合活動は、次の仮説で構成されることになるだろう。
子どもの情意(意志決定、有能感)を軸にした活動が保障されることによって、子どもが、よりよい環境や人との結びつきについての自らの目標に向かって行動できる。
つまり、総合活動についてのサブテーマは、
「環境や人との関わりの中で自らの存在を
確かなものとして感じる活動のあり方」
と設定する。
(1) 総合活動の対象
@ よりよい環境を目指した活動
各教科でも子どもが自分の身の回りのものやことといった環境を対象にして学習が進むわけであるが、子ども自身が環境に関わって環境自身を変化させることに満足感をもつというところまで枠を広げてはいない。観察者として環境に向かうのではなく、主体者として環境に関わり、よりよい方向へ環境を変化させるとともに自分自身をも変容させることが重要である。
Aよりよい人間関係の創造を目指した活動
子どもの豊かな人間性で重要になってくるもう一つのものは、よりよい人間関係の創造である。これまでの学習でも生活科において他者理解を行ってきたし、道徳においてもよりよい人間関係については学習してきている。しかし、学年の発達を踏まえて、自らの人との関わり方を対象にして実践的に活動を構成してきたとは、言えない。
(2) 発達に即して総合活動の可能性を探る
@ 環境や人間についての捉え方の発達
総合活動においても、各学年の発達を踏まえて活動を構成する必要がある。この発達とは、一つは、情意の高まりであり、もう一つは、環境や人間についての理解や活動の範囲である。環境についての働き掛け方は、低学年であれば、活動を通して環境に親しもうとするだろうし、中学年であれば、自分なりのとらえ方をして環境に関わるだろう。高学年であれば、環境を構成している要素とその関連を理解した上で、よりよい環境作りに向けての具体的な活動内容を想定できる必要があるだろう。また、人間関係については、低学年であれば、一人でも多くのことを知っていくということに主眼がおかれるのに対して、中学年では、相手の立場を共感的に理解することが中心になるだろう。高学年であれば、互いのことを理解し合いながら、尚かつ、よりよい方向へと高め合うといったことになるだろう。
A 教科と総合活動との連携
総合活動が幾つかの教科を束ねる意味をもつ場合もあるということを述べたが、各教科が、連携をとることによって総合活動の意味が増してくる。ある教科での対象に対する理解の度合いと総合活動で扱う対象への理解が違っていてはいけない。これは、総合活動と教科間だけではなく、各教科間でもいえることである。
