◇図画工作科◇

子どもが造形活動に楽しさを感じる
題材のまとまりを探る




 はじめに

 造形的な創造性、感性および表現力を育てるという教育目標を実現する題材を発達を想定してまとめたものが、図画工作科のカリキュラムである。しかし、どんなに機能的に構成されたカリキュラムも、学校や教室といった枠組みのなかでの義務感や、教師の一方的な期待感をその背景にしていては、有効な成果を発揮しない。題材は、子どもが、造形的な価値をともなう楽しさを感じるものでなければならず、カリキュラムは活動内容と子どもの造形表現の育ちが連動する観点によって構成されなければならない。
 今、学校教育では、教科内容の厳選を求められている。図画工作科のカリキュラムを創造する初年度の「子どもが造形活動に楽しさを感じる題材のまとまりを探る」研究により明らかになった題材のまとまりと、その観点について述べていきたい。

1 造形活動に感じる楽しさと子どもの造形表現の育ち

 造形活動に感じる楽しさとは、子どもが、自分の感性や創造性と表現力を協動させながら、造形表現に関わる、創造的な態度・能力を自ら発揮し、思いや感じを具現化しようとするときに働く情意である。楽しさを感じる題材における子どもの造形表現の育ちは次のような活動の様相によって表すことができる。
 ○低学年 見つける
  繰り返し試みることで、材料を扱うことを楽しみ、その色や形、材質
  から受ける思いや感じに合わせて自分なりの表し方を見つける。
 ○中学年 ひろげる
  主材料と、従材料を組み合わせることを楽しみ、図の重なりを始めと
  する構造の多様化がもたらす視覚的・触覚的効果から受ける思いや感
  じに合わせて自分なりの表し方をひろげる。
 ○高学年 かえる
  材料や扱い方の経験や体験を生かせる材料を、組み換えたり、技巧的
  に扱ったりすることを楽しみ、自分なりの思いや感じに合わせて、表
  わし方を量的にひろげたり、質的に深めたりする。

2 楽しさを感じる造形活動とまとまりの構想


 楽しさを感じる造形活動の内容の全体像は、低学年の造形活動にその基盤を求めることができる。ここでは、低中高学年すべての子どもが楽しむ砂を扱う活動のひろがりや、現在実施されている題材の材料や操作を探ることにより、題材のまとまりを構想する基盤を明らかにしたい。
(1) 子どもが楽しさを感じる造形活動
 図8-1は砂場で、造形的な遊びをする子どもの意識や活動の流れを図示したものである。
 この図から、子どもは砂を主材料として、様々なモノやコトを表していることがわかる。豊かな造形表現は、材料を扱い、扱う過程における操作やイメージに関わる感性を豊かにするとともに、そこから得られる経験や体験を新たな造形活動の糧にすることでも培われる。材料やその扱い方の体験や経験が比較的少ない低学年の子どもは、材料の扱い方を繰り返し楽しんだり、楽しさの内容を友達と交流することで、必要な体験や経験を得るのである。ここに、図画工作科が材料を扱う造形活動をその中核に据える大きな意味がある。
 造形活動を楽しむ子どもには、造形表現を育てる2つの態度・能力を見い出すことができる。その構造を図8-2に示す。
 ○扱おうとする態度・能力
   環境や材料が持つ、独自の色や形、性質を思いのままに
   扱おうとする態度・能力。
 ○見て取ろうとする態度・能力
   環境や材料が持つ色や形、性質のよさや扱うことで起こる
   変化のよさを見てとろうとする態度・能力



 (2) 題材構想の基盤を探る
 低学年で取り扱われている材料には、繰り返し試みるうえで、存分に扱える新聞紙や繰り返し扱える粘土、土、砂といった子どもの材料や操作に関わる体験に適した材料が、中心となっている。またその一方では、ダンボールやカンのように、特定の活動内容に適した材料があることがわかる。それは、題材が、材料の体験や経験を目指したものと、特定の表現内容を目指したものからなることを示している。

3 楽しさを感じる題材のまとまりをさぐる

 子どもが楽しさを感じる造形活動の内容を追究することにより、題材のまとまりをさぐるための視点を見い出すことができる。
(1) 活動内容で題材のまとまりをさぐる
 砂場における活動から、子どもが満足感を得る造形的な内容を様々に導くことができる。
 例えば、子どもは、盛り上げた砂から山を発想し、木切れや小枝を持ち込んで建物や木立に見立てて街づくりに活動をひろげていく。こうした活動から、子どもが、出合う材料の形から発想・連想することで好きな形をつくりだしていくことに楽しさを感じることが読み取れる。また、深く、大きな穴を掘ってそこに入り、体で感じられる大きさや広さを感じるといったこと、砂でつくった山からボールを転がしたり、水を流したりしてそれが動く様子をつくり出すことにも同様に子どもの楽しさが読み取れる。砂場での活動に子どもが感じる楽しさから活動の内容を構想すると、次のようにまとめることができる。
 ・材料の色や形、あるいは情報として得られた図や言葉の持つ
  イメージに触発された発想や連想を楽しみ表わす活動
 ・大きさや、広さ、長さを感じるものを楽しみ、つくりだす活動
 ・動き方や動く仕組みを楽しみ、つくりだす活動
 これらは、豊かな造形表現を育てる造形的な価値につながる活動内容であると同時に、美術文化的な価値内容でもある。これらの価値内容が、カリキュラムの横軸に位置する。
(2) 材料・操作から題材のまとまりをさぐる
 造形表現の育ちを表す活動の様相から、低・中・高学年それぞれの時期に必ず経験させたい材料とそれに関わる操作を示すことができる。
☆低学年
 ・存分に扱うことのできる材料 土、砂、粘土、新聞紙、
  ペンによる描画等を並べる、つなぐ
☆中学年
 ・主材料とその扱い方をひろげる従材料 ダンボール、
  発泡スチロール、色セロハン、ビニールシート、
  ピアノ線、割ピン等を組み合わせる、重ねる
☆高学年
 ・経験や体験を生かせる材料、低中学年で扱ったことが
  ある材料や技術的に高学年で初めて扱える材料の扱い方
  の組み替えや緻密化を進める
 材料と操作によってまとめられる題材には、先に挙げた3つの造形的な価値を包含する活動のすべてが内在する。「どういった材料の扱い方が見られたか、それはどんなひろがりをしたか」が重要であり、もう一つの横軸となる。それと同時に、それぞれの学年で経験させたい「並べる、つなぐ」、「組み合わせる」、「組み換える、緻密にする」は、子どもの造形活動の楽しみ方と関わって、造形環境の設定や材料の選択、期待したい造形活動の具体的な階層性として縦軸となる。
(3) 題材名の工夫と子どもがつくり出す題材
 子どもが楽しさを感じる造形活動をを構想するにあたって、材料や操作、活動内容との出合いを、端的に表すものが提案であり、それを活動を表わす題材名と考えたい。「〜することから」「〜の中で(の場所で)」といった材料と操作や環境設定を表すものや「〜ができたよ」といった子どもが満足感を得られる活動内容を表すものなどをもとにして、子どもが造形的な価値を包含する楽しさを期待できるものになるよう工夫するのである。 造形活動を体験することでより具体化する楽しさを感じる造形的な価値内容は、活動の連続発展の可能性を示す、題材が終るごとに、子どもが楽しさを感じ、満足した造形目標をもとに、新たな意欲を抱ける活動がどんな発展性を持つものかということをカードやなどで探ることによりそれを明らかにできる。教師はその結果をもとに、子どもの関心・意欲にもとづいた、題材構想のてがかりや題材と題材をつなぐ観点を導き出すのである。

4 題材のあり方と題材のまとまりの構想

 子どもが楽しさを感じる造形活動を導く題材をまとまりには、美術文化的な価値内容を持つ活動内容から構成されるものと、それぞれの時期に経験させたい材料・操作から構成されるものがある。
(1) 活動内容を観点とする題材のまとまり
 美術文化的な価値内容を観点としたまとまりでは、造形表現の育ちに応じて、子どもに期待する活動内容を、必然的に楽しめる環境や提案、情報を構想することによって題材が導かれる。



 図8-3に示したまとまりの中にはさらに、低・中・高それぞれの学年の育ちに応じた活動内容が期待できる題材を構想する観点がある。それぞれのまとまりが、子どもの育ちに応じて階層的に捉えることができる縦軸とクロスすることにより、題材が導かれるのである。「動きを楽しみ、表わす」「発想・連想し、表わす」の具体例は後述の実践事例に譲るとして、ここでは、「大きさ・広さ・長さを表わす」題材のまとまりとクロスする縦軸の実際、そこから導かれる題材を図8-4でしめす。
 こうした構造が材料や活動内容を厳選する具体的な方法になるのである。



(2) 材料・操作を観点とする題材のまとま
 それぞれの育ちに応じて必ず経験させたい材料・操作を観点とするまとまりでは、材料や操作に出合う場を構成することによって題材が導かれる。



図8-4に示したこのまとまりには、「造形遊び」が位置し、造形表現の育ちに応じた材料と出合うことにより、子ども自身に、それぞれの材料の経験に応じた幅やひろがりのある材料観が育つことが期待される。

 おわりに

 本年度の研究では、美術文化的な価値と、子どもの育ちに応じてそれぞれの時期に体験させたい材料・操作をもとに、いくつかの題材のまとまりと題材を導く縦軸を明らかにしてきた。
 今後、子どもの楽しさを感じる内容をさらに追究し、子どもが造形活動に楽しさを感じる題材を構想することにより、子どもの楽しさの連続発展としての題材のまとまりを明らかにしていきたいと考えている。