◇家庭科

子どもが確かな学びを創り出す家庭科の授業と評価のあり方

金代 純子・宮本 靖子

はじめに
 今日子どもたちをとりまく社会は、情報化、環境問題への関心の高まりや、高齢化、少子化、核家族化などの変化がめまぐるしく起こっている。その変化に伴って、家庭生活のあり方もこれからますます大きく変化することが考えられる。しかしいくら社会が変化しようとも、家庭生活には、いろいろな人・もの・ことによって営まれ、それらはお互いに支え合っていることには変わりない。むしろ社会を構成する単位としての家庭の重要性が増してくるといえる。家庭科ではこの激しく変化する社会の中で、子どもが自分に対する気づきを深め、家庭の中での自分の役割を意識し、家族に対する思いを深めていくことが、今まで以上に大切になってくると考える。
本校家庭科では、これまでに教科の本質とは何かを明らかにし、それに基づくカリキュラム研究をすすめてきた。そして昨年度は「よりよい生活を創り出す子どもを育てる家庭科の授業と評価」をテーマに、家庭科学習の中で、子どもが課題に対して自分なりの解決方法を見つけたり、自分の生活に照らし合わせて考えたりして、「自分への気づき」を深めることが家族とよりよい生活を創り出していこうとする実践的な態度を育てる上で重要と考え、授業づくりをすすめてきた。そこでは「自分への気づき」を深めながら、よりよい生活を創り出していく子どもの育ちを「見方・考え方」「実践力」の2つの観点から捉えようとしてきた。この2観点での評価では、子どもが個性を生かした追究活動を支える評価と支援に効果的であった。しかし、この2観点では、家庭科で育てたい態度や思考力、基礎的な技能、認識を読み取って、子どもの学びを支えることへの課題が残った。そこで、子どもたちに確かな学びを保障しようとするとき、家庭科での基礎・基本を明らかにし、それらを子どもが確実に身につける授業のあり方、評価のあり方を改めて考え直し、さらに研究をすすめていきたいと考え、本年度の家庭科の研究テーマを

子どもが確かな学びを創り出す家庭科の授業と評価のあり方と設定した。

1. 家庭科における確かな学びとは

(1)家庭科で育てたい子ども像
家庭科では、子どもが家庭の中での自分の役割を意識し、家族に対する思いを深めていく中で、よりよい家庭生活を創り出す糧となるような考え方・技能・理解を身につけ、家庭人として積極的に自分の家庭へ働きかける態度を大切にしたい。
そこで本校家庭科でめざす子どもの姿を次のように設定した。

自分の生活を見つめ、家族の一員としての自分に気づき、家族や周りの人々にとってよりよい生活を創り出そうとする思考力、技能や理解、実践的な態度を高める子ども

(2)家庭科での基礎・基本
 上記のようなめざす子ども像の中には、家庭生活をよりよくしようとする子ども(態度に関すること)、家族のために自分ができることを考え、工夫する子ども(思考力に関すること)、家庭生活へ積極的に参加するために必要な情報を使い、用具を安全・衛生的に使う子ども(技能に関すること)、家庭生活に対して理解していく子ども(認識に関すること)といった主に4つの姿の表れがある。
 そこで家庭科での基礎・基本を
○態度:家族などにとってよりよい生活を工夫しようとする態度
○思考:家族などにとってよりよい生活を考え、工夫する力
○技能:必要な方法、情報を活用し、用具を安全・衛生的に使う力
○認識:家庭生活を支えているものの要素や活動の意味や大切さに気づき、分かる
と考えた。そして、この基礎・基本を育てていくためには「自分に対する気づき」や「家族に対する思い」といった心情的側面を大切にすることが効果的であると考える。

図9−1 家庭科での基礎基本と「自分に対する気づき」と「家族に対する思い」のとらえ方

2.家庭科における確かな学びを支える授業のあり方
 家庭科で育てたい「態度」「思考」「技能」「認識」が子どもにとって確かな学びとなるには、「自分に対する気づき」「家族に対する思い」を大切にした次のような活動を組み合わせて各題材に取り入れ、授業を構成しようと考えた。第6学年の題材「衣服を気持ちよく」での活動を例にして述べる。
@生活観察から課題をもつ
 家庭生活の中には子どもが学ぶべきもの・ことが宝の山となって存在する。家庭科の学習は、まず、子どもたちが毎日何気なく生活しているこの空間から様々な興味や課題をもちすすめられるものである。しかし、生活空間は特に意識して過ごすことは少ない。そこで学習の中に意識して自分の家庭生活を観察する時間をとって、そこから普段気にしていなかったことや、家庭の仕事をしている人の姿を見つめられるような活動を取り入れる。自分の生活を観察したことから、子どもたちは素朴な疑問をもつであろう。
 例えば家庭学習で洗濯の様子を観察し、見たこと・聞いたことを全体の場で交流する中で洗濯の一連の流れに整理・分類していく。そこで自分が「どうしてかなあ」「これだとだめなのかあ」と追究していきたいことを明らかにし、自分の課題へとする。
A自らの課題に対して追究する
 自分の課題を解決するために必要な情報を集めたり、生活を見直したりしながら、課題を追究していく。そこでは、観察のみならず、実験的手法や認識による解決も考えられる。ここではできるだけ個人の課題を保障したい。
 例えば「手洗いと洗濯機の汚れの落ち方」について課題をもった子どもは、自分のくつ下の片方を手洗いで、もう片方はペットボトルを半分に切ったものを洗濯機に見立てて棒で回す。「汚れの日数と落ち方」について課題をもった子どもは、一週間前から毎日、同素材の布にソースやマヨネーズなどを汚れとしてつけておき、全ての布を同一条件で洗うといったように、自分の課題を追究する。

図9−2 子どもが自分の課題を追究する姿

B個人の学びと集団を結ぶ
 生活観察や課題追求といった活動では、自分の家庭や、課題に合わせて活動をすすめる。その過程ではそれまで見過ごしていた自分の生活や家族に対する思いに気づくであろう。それを集団の場で交流し合うことでそれぞれの家庭の様子や工夫などを知ることができ、「自分への気づき」(それまで知らなかった自分に気づく)や「家族に対する思い」を深めていくと考える。
 例えば体操服を「早く持って帰ってきなさい」と言われていたのは、汚れが落ちにくくなるからだったんだ」「持ち帰るのを忘れたら怒られたなあ」とか、「汚れが落ちにくくなるとまた大変だから毎日持ち帰るようにしよう」「怒らせないようにしよう」といったように、自分や友だちの課題追究を通して気づいていく。

図9−3 自分と友だちとの交流のとらえ方

D自分の学習をふり返る
学習が子どもの生活の中に位置づけられるには、子どもが学習全体の中で得た様々なことがらを整理し、ふり返ることが必要である。このことは学習後の子どもの実践を支えるものとなると考える。
例えば学習の終末に学習前と比べて「どんなことができるようになったのか」「どんなことを知ったのか」をあらためてふり返ることで、子どもが自信をもち、今の自分にできることを見つけることができると考える。

図9−4 学習末での子どものふりかえり


3.家庭科における確かな学びを支える評価のあり方
(1)基本的な考え方 
 これまでの本校家庭科では、先に述べたように「見方・考え方」「実践力」の2観点で子どもの学習状況を捉えようとしてきた。しかしこの2観点で捉えようとすると「意欲的に追究できていないのか」「意欲はあるが技能が伴っていないのか」「知識としてはあるが態度が育っていないのか」…とその子どもが何でつまずいているのか、何を伸ばしていったらよいのかという視点を明らかにしにくいという課題が残った。
 そこで一人一人の子どもが何でつまずき、何を伸ばしていけばよいのかを明確にするために家庭科の評価を次の4観点とすることにした。
@家庭生活への関心・意欲・態度
A家庭生活への創意工夫
B家庭生活への基礎的な技能
C家庭生活への基礎的な知識・理解
(2)観点別評価の具体について
 本校家庭科でのめざす子ども像に基づき、それぞれの観点別評価の視点と評価規準を第6学年の題材「衣服を気持ちよく」での子どもの姿を例にして述べる。
【家庭生活への関心・意欲・態度】
 家庭生活への関心・意欲・態度の評価は、学習の導入時には「洗濯の前に仕分けしていたよ」「黒いものは裏返して干すって言っていたよ」といった家庭生活について調べたり、聞き取ったりする活動への【関心】がより発揮されると考えられる。また、学習中には「手洗いができるようになりたいな」「汚れの落ち方を調べてみたいな」など学習への【意欲】、学習終末には「家の人は毎日してくれているんだな」「ぼくができることはやっていこう」とする家族の一員としての【態度】が顕著に表れると考えられる。それらは、子どもの活動の様子や発言、つぶやき、ワークシートへの記述、実習や作品作りなどから読み取る。
 子どもが学習の切り口となる日常生活や家庭生活の事象にどのような関心をもち、学習過程で発展、継続していくかが大切である。
【家庭生活への創意工夫】
 家庭生活への創意工夫の評価は、「パンパンするとシワにならないって本当かな」「洗濯機と手洗いの違いを調べよう」といったような【課題をもつ姿】を読み取る。また、課題を追究する過程で「パンパンしたときはシワにならなかったけど、パンパンしなかったときはしわくしゃになったよ」や、洗剤について課題をもった子どもは「洗剤の量を変えてみたけど、たくさん入れたらなかなかアワがなくならなかったよ」と子どもたち同士で自らの課題について交流していく。そうすることで、お互いの結果を結びつけて考えたり、家族はどう感じているのかな、どうしたらいいかな、といった家族の立場に立ってよりよい解決方法を考えたりする。学習過程で交流したそれぞれの家庭での工夫の中から「洗濯物を乾かしているときにパンパンするのを手伝おう」「資源のことを考えて、むやみに洗剤を入れないでおこう」といった【家族などを意識した上で、今ある家庭生活を見直し、よりよくできそうな現実的なことを選択する姿】が表れると考えられる。この姿こそが家庭生活での創意工夫であると考える。
 それらは、子どもの活動の様子や発言、つぶやき、ワークシートへの記述、実習や作品作り、子どもとの対話などから読み取る。
子どもが課題解決する中で、家庭生活の中で行われている工夫や思いに触れ、家族や周りを考えるようになってほしい。
【家庭生活への基礎的な技能】
 家庭生活への基礎的な技能の評価は、「手洗いしようと思うんだけど、この絵表示の意味が分からないから、まず調べてみよう」といったような【家庭生活に必要な情報を入手し、活用する姿】、「手洗い」といった【簡単な生活技能】や【用具を安全・衛生的に使う姿】とし、学習計画表やワークシートへの記述、実習や作品作りの様子などから読み取る。
 変化の激しい現在、子どもが生活を豊かにするための情報を効果的に自分の中に取り入れ、活用する力も必要な技能の一つとして位置付けたい。
【家庭生活への基礎的知識・理解】
 家庭生活への基礎的知識・理解の評価は、「洗剤をスプーンで入れていたのは、入れすぎないためだ」「水を節約するためにお風呂のお湯を使っていたのか」といった【調べたり、聞いたりして得た知識や事象の要素を、それぞれに結びつけたものとなっている姿】とし、子どもの活動の様子、発言、つぶやき、ワークシートへの記述や子どもとの対話、客観テストなどで読み取る。
子どもが「シワになってないほうがあとかたづけのときに楽だな」「洗剤は多いほど汚れが落ちるわけではないな、適当な量があるんだな」と家庭生活で何気に行われていることにもそれぞれ工夫や知識がつまっていることに気づき、「だからパンパンしていたんだな」などと、家族の家庭の仕事をする姿やそこに家族を思う気持ちからであることに共感するようになっていく。「なるほどそうだったのか」「わかったぞ」といった基礎的な知識や理解から「自分でもできそうだな」「助かるんだな」と家族のために家庭生活に協力しようとする態度へとつながっていくようにしたい。そして、学習したことが家庭へと返っていき、そこから新たな課題を見いだし積極的に家庭生活へ働きかける子どもをめざしていきたい。

4.授業の中での評価・評価を生かした授業づくり
(1)指導計画と評価計画
本校家庭科でめざす子どもの姿を育てるためには、上で述べたような活動の組み合わせによって「授業」を構成し、題材ごとの評価規準に照らし合わせた「評価」を的確に行い、次の指導で生かし子どもへ返すといったような連続性が重要になってくる。「授業」と「評価」は、一方通行的なものではなく、活動から評価を設定するものもあれば、評価から授業を設定するものもある。例えば、学習の流れの中で、導入時には観点別評価の「関心」を、課題をもつ場面では「創意工夫」をといったように、子どもの学習全体を支える意味でも、その学習場面でしか評価・支援のできない観点もあると考える。また学習に対する「態度」など学習全体を通して評価する観点もある。
いずれにしてもまず大切なのは、子どもの姿をみる明確な視点「評価規準」をもつことである。この評価規準は、題材ごとの学習計画段階で、いつ・どのような学習活動を設定し、その学習で題材の目標に照らし合わせた子どもの学びをどのように評価するかということを、それまでの学習過程や子どもの実態に合わせて計画し、設定するものである。
(2)学習状況の把握
一授業の学習活動で、複数の観点から子どもの姿を見ることが可能であったとしても、45分の授業でそれらすべての観点から評価することは非常に難しい。子ども一人ひとりの姿から、その子どもが順調に学習を進められているかといった視点をもって的確に評価・支援するには、学習活動で特に重点をおく評価の観点を1つ設定することが有効であると考える。そして、それぞれの観点別で見取った子どもの姿、学習状況の評価をから、学習が停滞している子どもに対しては、その場で学習活動が順調に進むように支援することに生かすことが必要である。また、順調に進んでいる子どもに対しても、賞賛の言葉をかけるなどして生かしていくものである。
さらに、より一人一人の子どもの学習状況を的確に捉えるために、それぞれの学習活動における評価の観点を明確にしておかなければならない。

図9−5 子どもの学習状況を読み取る

(3)総括的な評価のあり方
複数の教師で子どもをみていく時には、前もって評価についてあらかじめ「いつ」「どのように」「どのような姿をよしとするのか」共通理解し、同じ目で子どもを読み取っていく必要がある。また、学期末にそれぞれの評価規準について、「同じ目で評価できていたのか」「評価規準は妥当であったか」についての見直しをしなければならないであろう。  このように共有された評価規準でもって、学期末や学年末などの総括した形で評価するときには、いくつかの題材においての子どもの姿を評価しなければならない。ある観点において、どの題材においても努力を要する学習状況であれば、子どものその観点での評価は「努力を要する」になり、逆にどの題材においても十分満足な学習状況であれば、子どものその観点での評価は「十分満足できる」となるものと考える。


おわりに
今年度は評価の観点の見直し、さらにそれらの観点での題材ごとの評価規準を明らかにすることができた。
今後は子どもが学習したことを家庭へ返していけるような学習や評価のあり方、子どもの追究活動を保障する支援の体制を考えていく必要がある。