家庭生活に働きかける子どもを育てる授業づくり
宮本 靖子
はじめに
確かな学びを育てる手立てとして,昨年度は評価を4つの観点から見直し,さらに題材ごとの指導計画とともに観点での評価規準を明らかにしてきた。成果として,4観点の妥当性は得られたと考える。家庭科の題材は,5,6年生の2年間という期間の中で計画され,さらに地域や他教科,総合的学習との関連の中で柔軟に対応することができる。このことからも,評価規準は指導計画とともに常に見直し,改善していくものであると考える。そこで,本年度も引き続き,題材ごとの指導計画と観点ごとの評価規準の妥当性を検証することで,確かな支援につなげていきたい。
家庭科では,生涯にわたり学んだことが実生活に生かされ,家庭生活を営み,社会の一員として責任をもち,生活を創り出していけるようになることを目指している。今,子どもたちにとっての生活を創り出すこととは,それぞれの家庭に働きかけることにほかならない。また,子どもを育てていくにあたり,家庭や地域の教育力の在り方も課題となってきているからこそ,家庭科学習において,なおさら,家庭との連携を積極的に取り入れ,家庭科での学びが「家庭生活に働きかける」ことにつながる在り方を模索したいと考える。
1 家庭科で育てたい子ども
(1) 家庭科における目指す子どもの姿
家庭科の大きな目標は,その学びが実践の場,つまり,家庭生活の中で生かされることにある。さらには,本年度の研究テーマでもある,自ら積極的に「家庭生活に働きかける」姿を目指すものである。その際には,自分が楽しいという視点だけではなく,家族やまわりの人々にとって,ともによりよいという視点にたって生活を創り出さなくてはならない。これは本校でいうところの「共創的実践力」を発揮している姿であり,育てたいと願う姿である。そこで,家庭科での目指す子どもの姿を次のように想定する。
自分の生活を見つめ,家族の一員としての自分に気づき,家族やまわりの人々にとってよりよい生活を創り出そうとする思考力,技能や理解,実践的な態度を高める子ども
(2) 目指す子どもの姿と評価の観点
昨年度までの研究で妥当性も得られており,今年度も引き続いて,評価の観点を次の4観点で捉えていくこととする。
@家庭生活への関心・意欲・態度
A家庭生活への創意工夫
B家庭生活への基礎的な技能
C家庭生活への基礎的な知識・理解
この4観点に基づき,目指す子どもの姿を明確にした評価計画および学習計画をたてるわけであるが,これらの4観点は,それぞれが独立したものではなく,図9-1のように関連していると想定した。(図はすべて後日アップします)
「関心・意欲・態度」がすべての活動の支えになっていることは家庭科の学習だけでなく,すべての学習においても同様のことがいえるであろう。家庭科では,日常の中で,なにげなく過ごしてしまっていることの中に,学習対象となるものがたくさんある。それらに対して,立ち止まり,見直すことから生活の中に課題が発見される。課題をもち,解決,改善していくことは生活への「創意工夫」であり,課題をもつ前の見直す段階,つまり学習のスタートとなるところが「関心・意欲・態度」である。
また,前にも述べたように,家庭科の目標は,その学びが実践の場,つまり,家庭生活の中で生かされることにある。学習したことを技能として習得したり,知識を身につけたりすることは重要なことであるが,習得や理解そのものが目標ではなく,生活をしていく上で,さまざまな課題を解決しようとしたり,あるいは,改善していこうとしたりするときの手立てとして,それらが生かされることこそ,生活を創り出すという家庭科の目指すところである。つまり,生活における「創意工夫」がなされるためには「基礎的な技能」「基礎的な知識・理解」が必要となり,また,技能の習得や知識が深まることで新たな課題を発見し,追求するという学習の流れになる。すなわち,これらの3観点は互いに関連しながら深まりあう関係にあると考えられる。
2 評価を活かした授業構成
(1) 評価の4観点の関連から考える学習計画
目指す子どもの姿を明らかにすることは,教師の働きかけをよりよく,また確かなものにする手立てである。具体的な目指す子どもの姿は,評価規準につながり,評価計画は常に見直し,妥当性を検討していく必要がある。評価計画については「どのような」といった具体的な姿のみならず「いつ」評価するのかという題材の流れも計画されなければならない。そこで,昨年度の研究事例である5年生の題材「ゆでるほかにも・・・」を例に4観点の関連をもとにした学習計画を想定したものが図9-2である。
「関心・意欲・態度」がすべての活動の支えになっていることは前に述べた通りである。そこで,学習の導入時には,特にこの観点を取り上げる学習計画を考える。もちろん,導入時だけでなく,学習を通して,この観点における姿を育てていかなければならない。対象に関心をもったところで,次には生活の中に課題が見つかる。生活のどのような点に目を向け,何をどうしたいのか,また,それは,だれにとってよりよいものなのか,というのは生活への「創意工夫」であり,この課題をもつ段階がこの観点の評価対象となる。課題を解決するために「技能」や「知識・理解」が必要となる。「技能」の評価はその過程とともに行い,必要に応じて個別対応するなどの支援により確かな習得を目指す。また,情報のたくさん得られる今,その中で自分にとってどれが必要か,どれを活かしていくのかという力も求められる。これも「技能」の一つとして捉えたい。同様に,知識を獲得することによって課題が解決できることもある。「知識・理解」は課題解決の過程が評価の対象であるとともに,学習を振り返る段階でもその定着を客観テストなどによって評価することもできる。もちろん,「知識・理解」の評価結果は子どもに返され,課題解決のためにそれらが必要であると子ども自身が感じられるようにすることが大切である。
「技能」や「知識・理解」によって生活における一つの課題が解決され,その時点から生活を見直すと,また新たな課題が見えてくる。つまり,新たな「創意工夫」であり,
3つの観点が循環しながら高まりあう学習計画ができる。
(2) 評価結果をもとに子どもと子どもの学びあいの場を設定する
学習において,子どもと子どもが学びあう過程も確かな学びにつながる手立ての一つである。他教科や道徳,総合的学習などいろいろな学習場面で,グループ活動や交流活動が多く取り入れられているが,家庭科でも,それらの中で子ども同士の学びの深まりを期待している。もちろん,指導者側が個々の意見を全体の話し合いの中で広げていったり,まとめていったりという活動でも同様の目的を持ち,学習を計画する場合がある。グループ活動による子どもどうしの学びあいをとりあげることのよさは,少人数になることで,自分の生活での積極的な選択を自分の言葉で説明しなければならない,つまりは生活の主体としての意識を高められることが期待できることにある。
では「家庭生活に働きかける子ども」を育てる家庭科としてのグループ活動や交流活動とはどのようなものなのか,読み取った子どもの姿である評価結果の活かされる授業の在り方を「ゆでるほかにも・・・」を例に考える。
5年生の「ゆでるほかにも・・・」の題材では,いろいろな調理方法のよさとメニューを調べ,自分の選んだ調理方法ごとにグループになり,交流する学習をした。それぞれの調理には「手間・工夫」「栄養」「食感」「味や好み」といった視点がある。このときのグルーピングでは,ワークシートの記述をもとに「知識・理解」の観点である生活事象への気づきを評価した。その結果をもとに「おいしい(自分の嗜好)」としか記述していない子どもと「後片付けが大変だった(手間・工夫)」の視点を捉えてきた子どもをグルーピングし,話し合いをすすめることで,自分の嗜好だけしか考えていなかった子どもが「おいしいけど,後片付けが大変なんだな,それでも家の人は作ってくれているんだな」とこれまでは考えなかった方向から見ることができるようになった。また「栄養」をおもに見てきた子どもと「味や好み」に着目している子どもというように,異なる視点を持つ子ども同士が話し合う活動を設定することで,それぞれの子どもが自分だけではわからなかった視点に気づくことができ,新たな知識を獲得することができる。その知識をもとに,生活を見直してみると,「では,この場合は,どうなるのかな」というようにまた新しい課題が見つかり,生活への創意工夫が深まっていく。
このように家庭科では「生活事象への視点」に重点をおいたグループ活動や交流活動で「深まり」をめざす。いろいろな視点から生活事象を捉え,その中から自分が,家族が何を大切にし,選択しているのかに気づくことが,生活への新たな働きかけにつながっていくと考える。
3 家庭との連携を深め,家庭生活に働きかける子どもを育てる
これまでの家庭科の学習でも,「家庭生活を振り返る→課題をもつ→家庭へ返す→実践したことをみんなで共有する→新たな視点を持って家庭生活を振り返り,課題をもつ」という流れを取り入れてきた。家庭科の教科の特質として家庭との連携は欠かせない。また,家庭での経験も学習にも大きな影響を与えることからも,目指す姿を学校と家庭が共有することは学習にとって大きな効果となる。
家庭との連携は,家庭科だよりや学級懇談会で教師が家庭に向けて説明するばかりでなく,学習過程で,子どもが家族に「こんな学習をしている」「家でのこんなことが知りたい」と伝えたり,家族と一緒に話し合ったりと,子どもを介しての在り方もその一つと考えられる。
例えば,6年生の「生活に役立つものを作ろう」の実践では,子どもが製作するものを決定する際に,「自分だけではなく,家の人も使うから,家の人にも聞かないといけないな」ということになり,ワークシートをもとに家族に必要なものをインタビューする活動を取り入れた。
本年度の研究では,PTA活動やサークルの保護者,キッズ・サポーターらがゲスト・ティ?チャーとして学習に参画することを取り入れる。子どもたちにとって「?さんのお家の人」から話をきくことで,学習が家庭に近い話題となり,「?さんのところは?しているそうだよ」「うちでも?してみたらどうかな」と子どもが家庭で話題にしやすく,働きかけやすくするのではないかと考え,このような活動が取り入れられる題材設定や授業を構成する。
おわりに
評価規準の設定に妥当性は得られたものの,その改善は今後も継続した課題となっていくだろう。生活事象への気づきや家庭との連携を深めていくことは,家庭科学習にとって重要であることは確かである。今後は,それらの活動について,その過程を評価できるような,または,子ども自身が見直すことで自分の生活と結びつけていくような学習の在り方を検討していくことが課題である。