平成10年度国語科各論テーマ
対話を楽しみ、表現愛を育む国語科カリキュラムの具体化
はじめに
国語科では、昨年度、「表現愛を育むカリキュラムの構築」というテーマをあげ、国語科カリキュラムを構築する際の指針を考えてきた。
国語科でいう表現愛とは、子どもに育てたい教科の本質である。表現愛とは、子どもが「読みたい」「書きたい」「話したい」「聞きたい」という心情に満ち溢れながら、自分の思ったことや、書いたことや、聞いたことや、調べたことや、読みたいことを言語化して、今ある自分を、さらに豊かに自分らしく表現していこうとすることである。 昨年度は、このような表現愛の高まりをシーケンス(系統)とし、「理解」「表現」の2領域をスコープ(領域)として、カリキュラムの配列を行った。 そして、実践として、高学年に向けて子ども中心の話し合いができるように学年差を意識した「読み」の学習を行った。子どもの活動をみると、学級全体として活発な話し合いが子ども達だけでできるようになってきた反面、子ども一人一人に焦点をあてると、十分に自分の意見や考えを述べられないで、聞き役に回っている子どもの姿がまだまだ見られるという実態があった。そこで本年度は、研究のテーマを上記のように設定し、研究を重ねていくことにする。シーケンス(系統)ととスコープ(領域)に関しても子どもの実態をもとに、新たにとらえなおしながら、実践としては、「話し合い」の中の「対話」に焦点を当てて研究を重ねていこうと考えている。ここでいう「対話」とは、1対1で行う話し合い、聞き合いのことである。話し合いの中でも、対話に絞ったのは、1対1という最小人数での「対話」を楽しんで行えてはじめて、学級全体で話し合う場面においても、生活の場面で知らない人とコミュニケーションをする必要に迫られた場面においても、より積極的に話し合うことができると考えたからである。
1.本質的目標を具現化するためのカリキュラムの構想
新たなカリキュラムを構築するにあたっては、本質的目標にせまる系統(シーケンス)と領域(スコープ)の位置づけが必要となってくる。
(1) 子どもの学びの想定
子どもは低学年と高学年の間には、発達の面で大いに違いがある。この年齢における発達特性を十分留意することで、子どもに寄り添った、無理、無駄、むらのないカリキュラム編成ができると考えられる。当然、国語という教科の特性上、よく似た活動を繰り返し行うことも必要であるが、発達を無視した題材や目標を設定すると、子どもに負担がかかり、無駄に時間がかかってしまったり、逆に、簡単すぎてやる気が起こらなかったりすることも考えられるからである。
本質的目標にせまるために、それぞれの学年で想定した学びの姿は次の通りである。
ア 低学年における学びの想定
低学年の子どもは、「言語活動をすることに楽しさをもつ」段階であると考えられる。具体的に言うと、聞いたり、話したり、読んだり、書いたりすることで、たくさんのことばに触れ、自分の考えや願いを表現することに喜びをもつ段階であろう。言い換えると、言語活動をすることを楽しむ段階と言える。
イ 中学年における学びの想定
中学年の子どもは、「言語活動することによって、考えが広がることによさを感じる」段階であろう。教材を読んだり、友達の考えなどを聞いたりする際、友達の考えと自分自分の考えを比べることで、友達の考えのいいところをそのまま取り入れるなどしながら、自分の考えや願いを膨らませていく。そのことによさを感じる段階であろう。低学年のように単に楽しむだけでなく、他者を通して、自分の考えや思いが広がることによさを感じる段階であろう。
ウ 高学年における学びの想定
高学年の子どもは、「言語活動することによって、考えが深まることのよさがわかる」段階と言えるだろう。自分の思いを解決したり、考えを深めたりするために、進んで教材を読んだり、友だちの思いや考えなどを聞いたりする。その際、自分の思いや考えに教材に書かれたことや友だちの思いや考えを組み入れつつ、自分の思いや考えを新たに創り出していく。その新たに創りだした自分の思いや考えを書いたり、話したりすることで、自分の思いや考えがより深くなる。深まった自分の思いや考えをさらに友だちなどに伝えていくことに喜びをもち、そのことのよさがわかる段階であろう。
(2) 本質的目標を見据えたスコ−プ(領域)
昨年度は「聞く」「読む」を含んだ「理解」と「話す」「書く」を含んだ「表現」の2領域で考えてきた。今年度からは、「聞く・話す」「読む」「書く」の3領域に分けて考えたい。「理解」「表現」の2領域から「聞く・話す」「読む」「書く」の3領域に変えるのは次のような理由からである。
「聞く・話す」は、本来、昨年度の分け方のように「理解」「表現」という別の能力を伴う活動である。しかし、日常生活はもとより、国語科の学習や他教科の学習においても、子どもは、「聞く・話す」の活動を一連の活動とみなしている実態がある。それは、この2つの活動が、同じ場に相手がいて初めて成り立つ活動だからである。聞くということは目の前の相手の話を聞くことが、話すということは目の前の相手に向かって話すことが一般的である。このように、「聞く・話す」活動を「理解」「表現」に区切ることはできない。「聞く・話す」は相手があって初めて成り立つ活動ということで、一つの領域と考えるのが自然である。
「聞く・話す」に比べ「読む」と「書く」は必ずしもその場に人がいなくでもできる活動である。また、「読む」ことと「書く」ことに関しては、駆使される能力や技能が違う。それゆえここでは、分けて考えることにした。
(3)3領域の中で「聞く・話す」領域を中核にする
国語の学習を「聞く・話す」「読む」「書く」の3領域に分けた理由については述べた。この3つの領域は対等の関係に並ぶのではなく、まず第一に育てたいものは、「聞く・話す」に関する態度・能力である。なぜ「聞く・話す」を第一に育てたいものとして考えているのか、ここでは次の2つがある。
1つ目の理由は、社会の変化である。日本は、同質性が高いという社会の特性ゆえに「言う必要がない」「言わなくてもこと足りる」「察することが尊ばれる」社会であった。しかし、価値観の多様化や、国際化、在日外国人の増加などにより、日本社会のいたるところで、はっきりと言わないと分からない社会へとなりつつある。このような社会においては、「対話を通じて、考え方が異なる相手と問題を共有し、よりよい解決策を生み出すコミュニケーション能力」を育てることが求められているからである。このことは、共創的実践力を育むことにおいても、一番重要になってくる態度・能力である。国語科で学習した「聞く・話す」ことにおける「人の話を進んで聞き、それに対して答えていこう」とする態度・能力が総合的学習を行う際にも基盤になると考えるからである。
2つ目の理由は、日常生活において、一番よく行う言語活動であるのに、意識的に学習されることが少ない現状があるからである。日常生活において、文字を書き、文字を読まない日はあっても、言葉を口にし、耳にしない日はないのが一般的である。「聞く・話す」領域は、言語生活の全領域のうち地盤領域と言ってもよい領域である。しかし、「聞く・話す」は日常活動に入り込みすぎている分だけ、普段特別に意識することが少ない。このような現状を打破するのが2つ目の理由である。
この際に基盤となる形態は、「1対1」つまり「対話」の形態が基本になると考える。「対話」という1対1の形態においては、必ず全ての子どもが「聞く・話す」ことができる。低学年の活動だけでなく、高学年の「話し合い」においても「1対1」での「対話」での形態を核にしたい。1対1での形態で、進んで聞き、進んで話し、対話を楽しむことができて初めて、グループや学級全体など多くの人たちと行う「話し合い」においても必要に応じて話すこと、積極的に聞くことができるようになると考える。
今年度の研究においては、「聞く・話す」領域を中核においた領域の編成を考えることにする。「読む」「書く」は、「聞く・話す」の基盤の上に育てていくものとして考えていくことにする。
2.カリキュラムの具体化に向けて
以上のようにシーケンス(縦軸)とスコープ(横軸)を考え、それらが交わる部分に各学年でふさわしい学習内容が位置付くことになる。 本年度の研究においては、「聞く・話す」「読む」「書く」の3領域のうち「聞く・話す」に重点をあてて研究を進めていく。
(1) 子どもの学びに即した「聞く・話す」の育ち
ア 低学年における「聞く・話す」=対話することに楽しさをもつ
低学年の子どもに育てたい態度は、「対話を楽しむ」ということである。話すことや聞くことそのものを楽しむだけでなく、友達や身近な人々との対話を行い、気持ちや考えを知り合うことは楽しいことであると感じ、進んで話そうとする態度を育てたい。
一般的に「読み」の活動などで行われているように必ずしも、話し合う活動があるからといって「読みが深まること」を目的としない。むずかしいことを言い合うのではなく、お互いに知らないことや経験したことを伝え合うことを通して、対話することの楽しさを十分に感じとることができる活動を中心に進めていく。
合わせて、対話における態度だけでなく、「聞く技能」「話す技能」「対話する技能」といった技能的について系統的な育ちを想定し、学習を進めていきたい。(「聞く技能」「話す技能」「対話する技能」について低・中・高学年の2学年程度の大きなスパンの中での育ちを考えていく方が子どもの実態に対応できると考えている。)
低学年における聞くことの技能としては、「頷きながら」「あらすじをつかみながら」「事柄の順序を考えて」聞くこと、話すことの技能としては、「順序を考えて」「整理してわかりやすく」「必要に応じて大きな声で」「相手を見ながら」話すことを想定している。合わせて、「1つの話題を巡って少し長い対話ができる」「場を独占しないで交代して話せる」「わからないことがあればすぐに質問ができ、その質問に答えられる」と言った対話する上で必要な技能も育てたいと思っている。
イ 中学年における「聞く・話す」=対話を通して、考えが広がることによさを感じる
中学年の子どもに育てたい態度は、「対話を通して、考えが広がることによさを感じる」ということである。友達などの他の人と言葉を介して経験や情報や気持ちを伝え合うことで、自分の考えが広がることを感じるであろう。また、この時期においては対話することで、経験や情報を伝え合うばかりでなく、わかりあえることで気持ちがよくなる。だから、進んで対話をしようとする態度を育てたい。
合わせて、「聞き手意識を持ち」「内容の要点や中心点を押さえながら」「必要に応じてメモを取りながら」聞くこと、「筋道を立てて」「相手を意識しながらわかりやすく」「必要に応じて多くの人の前でよく聞こえる声で」話すこと、「相手から話を引き出したり」「質疑応答をしたり」「目的にそって」「話題からそれずに」対話することといった技能も育てたい。また、対話の様子を意識できるように録音したり、録画したり、互いに聞き合ったことをフィードバックしたりしながら、自分の話し方・聞き方を客観的にとらえる機会をもつようにする。
ウ 高学年における「聞く・話す」=対話を通して、考えが深まることのよさがわかる
高学年の子どもに育てたい態度は、「対話を通して、考えが深まることのよさがわかる」ということである。この時期は、自分のわからないことや疑問に思うことを尋ねたり、質問に対応した答え方をしようとしたりする態度がより育つようになるだろう。そして、対話を通じて、他者に対する理解を深めるだけでなく、物事の認識を深めたり、身の回りの問題を解決したりするなど対話することでよりよい社会や人間関係をつくろうとする態度も育っていくと考える。
合わせて、「目的に応じて」「話し手の意図をつかみながら」「自分の経験や考えと比べつつ」「メモの取り方を工夫して」聞くこと、「全体を見通して」「情報、気持ち、意見を順序立てて」「意図や根拠を明らかにしながら」「発音、スピードなどに気を付けて」話すこと、「訊かれたことに対応して答えたり」「異学年や学外の人などあまり親しくない人とも積極的に」対話することなどの技能も育てるようにしたい。また、対話の様子を後から客観的にとらえる機会をもつだけでなく、対話中に対話の様子を第三者の目で観察し、目的達成に向けて軌道を調整する能力も育てるような場も工夫したい。
(2) 総合的学習との関連の中で具体化を考える
「聞く・話す」の単元は、できるだけ具体的な生活の場面で生かされるように設定していきたい。具体的にいうと、できるだけ総合的学習(低学年では生活科)を行う時期に合わせて国語科の「話す・聞く」単元を設定するようにする。こうすることで国語科で培った「話す・聞く」に関する態度や能力が総合的学習の中で生かされ発揮されると考えるからである。
しかし、その際に取り上げる内容や題材は、総合的学習と国語の学習とは基本的には、別個であるべきだと考えている。国語科における内容や題材は、「話す・聞く」に関する能力や態度を高めるのに適したものを用意していく。国語科の学習の中では子どもにとって楽しく、必要感のある、目的意識のはっきりした「聞く・話す」学習を構成していく。その上で、できるだけ総合的学習と平行させながら、国語の「聞く・話す」の学習を行うことで、「先程の時間に国語の学習で似たことをしたな」「国語の時間でしたようにメモを取りながら人の話を聞くといいな」といった「話す・聞く」に関する態度や能力がより子どもの中に定着していくと考えられる。 そして、総合的学習の中で、子どもがどの程度国語で学習した「話す・聞く」に関する態度・能力を生かそうとしているか絶えずフィードバックしながら、カリキュラの見直しをしていきたい。
〔参考文献〕
田近洵一編・「現代国語教育論集成・西尾実」(明治図書)
村松賢一「いま求められるコミュニケ−ション能力」(明治図書)
市毛勝男「言語技術教育としての国語科」(明治図書)
田近洵一「コミュニケーションを深める話しことばの授業」(国土社)