◇音楽科@
音に「感じる・楽しむ」子どもの育成をめざすカリキュラムの展開
はじめに
われわれ人間は、生まれる以前から母親の心臓の鼓動を聞いて育ち、生まれてからもそれに安心感を感じると言われている。心臓の鼓動は、音楽のことばでとらえるとリズムということができる。また、生まれたばかりの赤ちゃんは母親の出す高い声を聴き取ることができると言われている。これは音高ととらえることができるであろう。このように、人間は生まれる前から、音に対して敏感であり、音楽的な要素に反応するのである。このような、もって生まれたリズム感や音感というものは、人が生活していく中で自然と表れてくるものであり、成長の過程において、さまざまな音楽様式やリズム、和声に触れることによって、本来人間がもっている音楽性や音楽的能力が引き出され、豊かな人間性が育まれるのである。
1. 音楽科で育てたいもの
学校における音楽教育では、子どもが本来もっている音楽性を引き出し、音での表現力や音に対する感受力、音を通しての感情的共感や美しいものに対する感覚を育てることに、そのねらいがあると考える。また、自分の創りたい音楽を創り出すことで、課題を解決しようとする課題解決力や新たなものを創り出す創造力が培われる。音楽を創りだすときには、音と音を合わせ、重ねることも必要になってくる。そのときには、友だちと協力し、共に創り出していくという活動も行われる。そこでは、互いに影響し合いながら活動をすすめる協調性といったものが培われるのである。それは、本校でいう共創的実践力に他ならない。
本校音楽科では、子どもたちの音楽性を、音楽に対して感じたり、音楽を楽しんだりする姿の中に見い出してきた。そこで、学年ごとの音楽の感じ方や、楽しみ方を想定し、それをもとに題材を設定することで音楽性を育てることができるという考えにたって研究を進めてきた。
昨年度までは、音楽性を育てるには、表現と鑑賞を一体であると考えるような、子どもが本来もっている音楽的な育ちを見据えたカリキュラムが必要であると考え、子どもたちの音楽的な育ちを支えるための題材のあり方と、その配列について探ってきた。子ども自らが学び、考えることができるカリキュラムを展開するには、他の教科・道徳・総合的学習との関連や教科内の領域の統合から内容の厳選を行い、子どもの実態に応じ、発達を見通した弾力的でゆとりのある配列を図ることが大切である。本年度は、昨年度までに実践し、構想してきたカリキュラムをもとに、上の考えに立ってそれらを具体化しようと考え、教科テーマを「音に『感じる・楽しむ』子どもの育成をめざすカリキュラムの展開」と設定し、さらに研究を進めることにした。
2. 子どもの音楽的な育ちを支えるカリキュラム構成の考え方
今日の子どもをとりまく、新しい学力観への対応、多様になった音楽的環境への対応を考えたとき、音楽科の担う本質的目標を達成するためには、音楽を構成している諸要素の相互関連を体全体で感じ取り、表現できるようにカリキュラムの構成を考えていく必要がある。
そこで、カリキュラムの構成に当たっては、次のようなことが大切であると考える。
(1)カリキュラム構成の視点
@ 子どもの音楽的な育ちを見据える
子どもの音楽的な育ちを音への感じ方・楽しみ方の変容としてとらえることにした。子どもたちがどんなふうに音に関わっていくかを感じ方と楽しみ方の両面からとらえたのである。それを大きく低・中・高学年でみてみると、その変容は「見つける」「合わせる」「変える」をキーワードとして見いだすことができる。
A 子どもが形成する音楽的価値内容を想定する
それでは、子どもたちはどんなことに感じ、どんなことを楽しんでいるのであろうか。その感じる内容、楽しむ内容を音楽科で大事にしたい音楽的価値内容と考えた。それは、音への感性を高める「音素材を追究する」、イメージを音で表現する「感情や様子を表す」、音楽の構成を理解し表現する「形式をつくる」が考えられ、題材を実施する中で子どもたちはこのいずれかに、感じ、楽しんで活動していると想定した。
(2)題材構成の留意点
@ 子どもの情意から生まれる表現活動を保障する
題材を設定するときには、子どもの音楽的な育ちを支えるという面から考えると、子どもの表現意欲を大事にした情意にもとづいたものであることが必要となる。この題材を通して子どもが学んだことを次にどう生かしていけるのだろうか、子どもたちは今、どんな題材に取り組みたいと考えているのかといったことを考慮しながら、その時の子どもたちの状態と音楽的な育ちを十分ふまえた上で題材を設定する。
A 音楽科としておさえたい内容との関連を図る
学習の過程において、読譜や記譜などが必要になる。題材を進める中で理論的なことが自然と身につけることができるように題材設定をしていくことが大切である。子どもの音楽的な発達に応じて、概ね決まった学年や学期に設定することになる。
(3) それぞれの配分を考えた配列
子どもの情意から生まれる題材と音楽科としておさえる内容を含んだ題材には、アカデミックなものと創造的音楽学習の流れをくむものとがあるが、それらを考慮しながら、各学年、各学期によって偏りのないように6年間を見通して配列することが望ましい。次に、今年度のカリキュラムの展開の実際について述べる。
3 カリキュラム展開の実際
(1)子どもの育ちと価値内容からの編成
カリキュラムの横軸を感じ方や楽しみ方の変容に表れる子どもの音楽的な育ちとしてとらえた。それは、前述の「見つける」「合わせる」「かえる」に表され、学年の音楽的な現れを大きく2学年のまとまりでとらえている。
次に、縦軸を前述の音楽的価値内容ととらえ3つの柱を想定している。この「音素材を追究する」「様子や感情を表す」「形式をつくる」の3つはひとつひとつがばらばらではなく、相互に絡み合っているのではあるが、題材のねらいによって分けたときに、この3つのうちのどれかに感じ、楽しさを見い出すと考えられる。
そして、この3つの音楽的価値内容をもとに学習を進めることによって、それぞれの柱において音楽的能力が育まれる。それは、「音素材を追究する」の低学年では音色、中学年あたりからは音から感じ取る明暗、高学年では音と音との重なりから奏でられる味わい(テクスチュア)といったものである。「感情や様子を表す」ではイメージを膨らませる拠り所となる色や形、動きといったものと音との関わりや、高学年になるにつれて変化や感情といった抽象的なものと音との関わりによる想像性と表現力が育まれる。「形式をつくる」では音楽をまとまりとしてとらえようとする並べる、組み合わせるといった操作性の伴う表現力が育まれるのである。
この横軸と縦軸の広がりの中でカリキュラムが展開されていくのである(図7ー1)。
(2) 連続発展する題材の構想
題材には、それぞれの国の音楽を鑑賞し、演奏することによって異文化に触れ、文
化としての音楽を感じ取ることから異文化を理解したり、文化を継承したりするとい
うアカデミックな流れをくむものと、今までの音楽経験をもとに新たに自分なりの音楽を創り出したり、音素材に触れることから新たな音の世界を広げたりする創造的音楽づくりの流れをくむものの2つが考えられる。この2つの流れをふまえた上で、子どもの情意から生まれる題材と音楽科としておさえたい内容を盛り込んだ題材とを構想する。
「音素材を追究する」柱では、次の図のように6年間を通した題材配列を考えた(図7ー2)。
低学年ではそれぞれの音素材の音色の違いを感じ、それを知ることによってその音
色を楽しむことができるような題材を見いだすことができる。そして、中学年では、低学年で感じ取った音色を重ねたり、合わせたりすることによって新たな音色を創りだし、そこから音のもつ明暗や色合いといったものを感じ、表現する題材を見いだすことができる。さらに高学年では、高学年で扱える素材から生み出される音色を中心にいろいろな音を組み合わせて音と音との重なりから生まれる味わいを感じ取り、表現し、自分なりに音楽を創り出せる題材を見いだすことができるのである。このように子どもの側にたって題材を考えたとき、低学年では、多くの題材が設定される。また、高学年になるにつれ、いろいろな要素を内包した題材が可能となるため数的には少なくなる。
さらに、他の価値内容との関連を考えると、低学年でいろいろな楽器や素材の音色
にふれた子どもたちは、次に「いろいろな楽器で合奏したい」「○○の音を使って自分の音楽をつくってみたい」というように今までの経験をもとに新たな題材へと学習をすすめようとする。このように題材が「感情や様子を表す」「形式をつくる」といった他の柱へと連続発展していくのである。また同時に、音色に対する鋭敏な感じ方はアンサンブルをする力やリズムや強弱、速さといった構成要素を駆使する力とあいまって感情豊かに表現する力となるのである。
また、コンピュータによるDTM(Desk Top Music)やマルチメディア的な音楽表現を3年生あたりから経験することによって、6年生では映像と組み合わせたり、自分の表したい音楽を創るときの一つの楽器として扱ったりできるようになる。いろいろなメディアを用いることによって、一人一人の感性がゆすぶられ、音楽で表現しようとする意欲が高まる。このように、これも音素材のひとつとして考えることで音楽の幅が広がると思われる。
(3)年間を通した題材配列
子どもたちが音に感じ、楽しみながら、音楽性を育んでいくためには、さまざまな音楽経験を積むことが大事である。そのためには、どの学年においても、「音素材を追究する」「感情や様子を表す」「形式をつくる」の3つの価値内容がバランスよく配列されていることが、子どもの育ちを支えるという面において、望ましい。そこで、低・中・高学年と大きなまとまりの中でバランスがとれるように題材を配列する。また、2年間の中でその発達段階に応じたさまざまな音色や音質、様式、技能的なことに出合うことによって、ゆとりをもって学習をすすめることができるのである。
さらに、子どもの興味・関心に応じて創って表現したり、鑑賞と表現を一体化させたりして学習形態を柔軟にすることによって、子どもの発達を見据えたカリキュラムが展開されるのである。これらの学習を経験してきている子どもたちは「みんなで一緒に演奏したい」「大きな曲を創りたい」といった気持ちをもつようになる。そこで、3学期には、各学年の学習の集大成として学校行事と関連づけながら、音楽会を位置付けている。全校児童や保護者の前で、学習してきたことの成果を発表することは、自分の取り組みに対する振り返りや満足感といった面からも重要なことである。また、友だちと共に創り上げることによって、協調性が培われる。このように、大きな学年発達の中で題材を設定し、子どもの情意とおさえたい内容との関連を図り、他の教科などと関連づけた題材配列を考えることによって、内容の精選が行われ、弾力的なカリキュラムの運用が図れるのである。
このようなことを考慮しながら、低・中・高で題材を配列したものが図7ー3である。これらを合わせることによって子どもの音楽的な育ちを支えるカリキュラムが構成されるのである。
(4) カリキュラムの検証方法
子どもの発達を見据えたカリキュラムを展開するには、子どもの側にたった検証が必要になってくる。そのために、各題材の終了時に、この題材が楽しかったかどうかを「楽しかったこととそのわけ」として学習カードに記入するようにした。さらに「この学習をもとに次にやってみたいこと」を書くことによって、子どもの側からの題材の連続発展を探ろうとした。
6年生の一学期におこなった題材では「いろいろな曲を自分なりにつなげて演奏したことが楽しかった」(形式に目を向けた記述)「パソコンでしかでない音と映像がうまくあって楽しかった」(音色とイメージに目を向けた記述)といった感想がもたれた。また、次にしたいことでは、「クラス全員で演奏したい」「曲をつなげて演奏したい」「日本の曲を演奏したい(自分たちで創ってみたい)」「パソコンと生の楽器を合わせてみたい」「1つの楽器だけで演奏してみたい」などという記述が多かった。
このことから、6年生の子どもたちは、数人のグループで音を合わせることに楽しみを見いだし、曲と曲の組み合わせを楽しんだり、楽器独特(コンピュータも含めて)の音色を生かした音づくりをしたすることに楽しみを見いだしていると考えられる。
さらに、してみたいことからその国独特の音楽を楽しんだり、大勢で合わせたりすることへの可能性を導き出すことができる。
学習カードだけでなく、その題材が子どもの育ちに合っていたかどうかを、子どもたちの表現の中に駆使されている構成要素や表現の仕方などからも読みとっていくようにする。
このように、子どもが何を楽しみ、何に感じたかを探ることによって、その題材が3つの音楽的価値内容のどれに位置付いているのかを、子どもの側からも探ることによって題材の妥当性とそれらを配置したカリキュラムの妥当性が見えてくると考える。今後も引き続き、このような検証方法を継続することによって、カリキュラムの妥当性を探っていきたい。
4 他の教科・総合的学習へのアプローチ
音楽を通して培われた、音楽的センスや感受力、音楽を生み出すための協調性などといったものは他の教科や総合的学習に生かされる。6年生の1学期の総合的学習「ひとりひとりが地球人として」では、各国の建築物や料理、遊びなどを調べたが、その中でドイツの音楽について調べている子どもがいた。流行歌、わらべうた、民謡などに熱心に耳を傾けながら、その特徴を見つけようとしていた。これは、普段の音楽の学習の中で培われた力が他の場面で発揮されたととらえることができるのではないだろうか。また、その調べたことを互いに交流し合うことで、調べていなかった子どもたちにも、音楽のよさや自国との相違が伝わるのである。
また、各国の様子を調べたことをもとに、音楽として各民族の音楽をとりあげ、聴く活動や表現する活動を取り入れることによって、音楽の題材として位置付けることも可能である。低学年では、今まで扱ってきた遊び歌やわらべうたを生活科の「一年生とあそぼう」の中で実際に遊んだり歌ったりして試したり、音あつめを「がっこうたんけん」のひとつとして扱い、集めた音を音楽の時間で交流したりする。こうすることによって、音楽を生活の中にとけ込んだものとして子どもたちがとらえることができる。
このように、音楽で培われた力が他の学習において発揮されたり、他の教科で培われた力が音楽の面で発揮されたりするように、音楽と他の教科・総合的学習とはいったりきたりの関係があり、それらを考慮した上でカリキュラムを構成することが教科のスリム化をはかることにつながると考える。
音楽科で育つものと総合的学習で育つものを明確にとらえ、それらを互いに関連づけ、内容の精選と充実をはかったカリキュラムの構築を今後さらに追究していきたい。