第1章
第7節 音楽科
新たな音楽の感じ方・楽しみ方をつくり出すカリキュラム
1 子どもが音や音楽から感じ取るもの
祭りなどで太鼓の音を耳にすると、その響きやリズムを心地よいと感じる人も多いのではないだろうか。それは、太鼓のもつ独特の響きが体そのものに働きかけてくるからであろう。また、わたしたちもそれを耳にする機会が少なからずある。このように身のまわりで耳にする音の心地よさは生まれながらに感じるものもあり、音や音楽にかかわってきた経験によって人それぞれに違ってくるものもある。人は音楽経験を積み重ねることによって、心地よいと感じる音や音楽の世界への視野を広げることになる。視野を広げていくということは、音楽の世界に限らずその人の人間性を豊かにし、豊かな生き方ができることにつながっていくのである。
2 音楽科でめざす子どもの姿
音や音楽の感じ方・楽しみ方は、例えば一度聴いた後とくり返し聴いた後とでは違ってくる。その違いとは、新たな音や音楽の感じ方・楽しみ方が生まれたかどうかということである。そして、新たな音とのかかわりを想定した音楽の学習の中で子どもが音楽経験を積み重ねることによって新たな音や音楽の感じ方・楽しみ方が生まれ、その子の音や音楽の世界が広がっていく。逆にその積み重ねがなければ成長が見られないのである。このように音楽経験によって育ち、音や音楽を感じ楽しむ際に私たちの内面で働くものを音楽的感受力と呼ぶことし、これを育てていくことを音楽科の本質的な目標とした。
新たな音や音楽の感じ方・楽しみ方ができるということは、音楽的感受力が育ったことの現れである。この音楽的感受力を高めるためには、子どもが自ら表現してみることが大切になってくる。音を通した実際の表現活動によって、その時の自分がどのような音や音楽の世界をもっているかを確かめることができるのである。自分の音や音楽の感じ方・楽しみ方を大切にしつつ、よりよい表現を追究することによって、新たな感じ方・楽しみ方を得ることになる。そして、音楽的感受力を豊かに発揮し、よりよい表現を追究していく子どもの姿を音楽科でめざしていくのである。ふだんの音楽経験においても音楽的感受力は働いていくものだが、音楽科学習のカリキュラムによって、より育てていくことができるのである。

3 子どもが、感じ楽しむ音楽科カリキュラムの考え方
(1)
カリキュラム構成の柱

子どもが音や音楽に接する時、何に感じ楽しむのかを探り、「音素材を楽しむ」「感情や様子を楽しむ」「形式を楽しむ」という音楽活動の3つの側面があることを明らかにしてきた(※2)。この3つから題材を構成していくことで、音楽科学習の本質に迫ることができると考え、3つの側面を柱とし、カリキュラム構成の横軸とする。そして先ほど述べた音楽的感受力を高めるために必要な、感受し表現する育ちの姿を縦軸とし、カリキュラムの考え方とする(図7−2)。そしてカリキュラムとして運用していく際には、この3つそれぞれに焦点をあてた題材をバランスよく各学年で配列していくことが必要である。
(2)感受・表現の育ち
図7−3に示したように、3つの柱において見られる感受・表現の育ち(「音素材を楽しむ」際の子どもの姿、見つける・合わせる・変える…など)は、
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学年 |
音素材を楽しむ |
感情や様子を楽しむ |
形式を楽しむ |
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低学年 |
見つける |
感覚的なイメージ |
パターンのくり返し |
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中学年 |
合わせる |
創造的・具体的なイメージ |
フレーズのまとまり |
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高学年 |
変える |
創造的・抽象的なイメージ |
曲形式のバランス |
図7−3 感受・表現の育ち
音楽的感受力の育ちの姿だと考えられる。例えば、低学年の「音素材を楽しむ」柱に位置づく題材を想定する場合、音を見つけるということを楽しむ時期であるということを想定して題材設定することが大切である。このようにカリキュラムを構成する際には子どもの育ちをカ
リキュラムの縦軸とし、低学年・中学年・高学年それぞれの2年間でめざす姿としてとらえていく(図7−3)。そして、カリキュラム構成の3つの柱と、子どもの表現・感受の育ちを想定した題材を配列していく(図7−4)。
図7−4 音楽科カリキュラムモデル(例・中学年)
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4 授業づくりの考え方
カリキュラムに基づいた音楽科学習を経験する子どもの姿を見ていくと、例えば形式を楽しむ柱の「トガトン音楽を楽しもう」という題材で、一定の形式を持つリズムをつくり出していきながらも、タイトルをつけてそれらしくすることを楽しんだりするという感情や様子を楽しむ姿が見られる(図7−4の「音づくり」の部分)。このように音楽学習において、「音素材を楽しむ」「感情や様子を楽しむ」「形式を楽しむ」という3つの柱は子どもにとっては深くかかわりをもつものである。
子どもにとっての学習として3つの柱のかかわりあいを深めていくためには、そのかかわり方を想定した支援が大切である。その支援によって中心的な柱の活動の目標がより深まり、音楽的感受力をより育てることになるのである。図7−2のように、低学年・中学年・高学年と育っていく中で、3つの柱のかかわり合い方は広がり、深まってくる。例えば低学年では、ギロの音を試しながらも「虫の声みたいだな。」とつぶやいたりする。これは音素材を楽しみながらも、そこに様子が思い浮かんだことを示している。つまり、音素材を楽しむ活動をする場合にも、子どもの中では感情や様子を楽しむことも同時に行われている。そこでこのような、子どもの音や音楽の楽しみ方を想定した活動構成や支援を行うことによって、子どもはよりよい表現を追究できるようになるのである。
また、授業中の子どもの姿を見ていると、例えば低学年で体を動かしながら音楽を聴く姿をしばしば見かける。これは子どもの無意識の楽しみ方であるが、
動くことによってその音楽のもつリズムを感じ取りやすくなるのは事実である。このように、音楽以外の要素を取り入れることによって音や音楽を感じ取りやすくなったり、より楽しむことができるようになる場合が多くあることを想定した活動構成や支援も必要である。(第2章 第2節 事例1参照)
5 音や音楽を楽しむ子どもの評価のあり方
(1)音楽的感受力の評価
先に述べたように、子どもの表
現から、音楽的感受力の育ちを見ることができる。さらに、表現を支えるためには関心・意欲・態度面といった情意的な側面やそれを支える技能的な側面が必要になる。このことをふまえて子どもの表現をとらえていくことが大切である。 図7−6表現を通した子どもの表現のとらえ方
音楽科学習において、子どもの中に育ったものの評価の核と考えるのは音楽的感
受力である。なぜなら音楽的感受力の高まりは、必要な技能を身につけていこうという意欲にもつながり、音や音楽に対する子どもの関心・意欲・態度面も高めることになる。そして、技能を身につけることによっても音楽的感受力が高まり、音や音楽に対する関心・意欲・態度面も高まるのである。
以上のように評価をしていく際には、音楽的感受力を核として、表現するための技能や音や音楽に対する関心・意欲・態度もふまえることが必要となってくる。
音楽科の学習において表現する際には、身体の動きをともなう。つまり表現するための技能には手や指をはじめとする身体的な発達がかかわっている。また感じ取ったことを表すために、発表したりワークシートに書いたりすることもあるため、言葉の表現の発達もかかわってくる。これらは音楽科のみならず、他教科とともに一人の子どもを育てていく部分であると考えている。
(2)評価の観点と方法
@授業に生きる評価
音や音楽を子どもが感じ取る際に、ただ「きれいだな」というだけでなく、「響いているな」「ゆっくりになったり速くなったりしてる」といっ
た音楽の構成要素を意識したつぶやきが聞かれる。それは、音色やテンポの知覚を示している。子どもが知覚する音や音楽の構成要素は、音色・旋律・拍子・重なり・リズム・テンポ・強弱などがあり、学年を経るごとに大まかな知覚から詳細な知覚へと進んでいく。さらに子どもは、
これらの構成要素を知覚すると、そこにイメージをふくらませる。例えばある音を聴いて、低学年では「虫の鳴き声みたい。」中学年では「秋みたいだな。」高学年では「静かな田舎みたいで、懐かしい感じがする。」というように、低学年から中学年・高学年になるにつれて多様なものとなっていくのである。
子どもが知覚・感受しているものを把握するためには、学習において自分のつくった音を録音したものや友だちの音をよく聴く場面をつくる必要がある。例えば図7−7にあるように、「形式を楽しむ」活動をしている高学年に対して、曲全体としての形式(曲形式のバランス)を知覚・感受できるような指導者の支援は必要である。その際、音をよく聴く場面を多くつくることによって、曲形式のバランスを知覚・感受して表現へと、子ども自らが向かっていくことができるのである。そこでのつぶやきやワークシート、また子どもとの対話の中で感じ取っているものを読みとっていくことで、知覚・感受されているものを見るのである。知覚・感受されていなければ表現はそのままであるが、されたものはいずれその子に技能がともなってくれば、表現に取り入れることができる。
A 題材・カリキュラムに生きる評価
音楽的感受力は、一つの授業のみでなくカリキュラムを通じて育てていかなければならない。そこで、題材や低学年・中学年・高学年を通じたカリキュラムにおいて音楽的感受力がどのように育ったかを評価していく必要があると考えている。そのために、ポートフォリオ評価法を使うことができる。例えば、子どもたちのワークシートや録音を題材ごとにまとめてポートフォリオを作成し、題材や学期・年間を通して自分の学習をふりかえることができるようにする。つまり、子ども自身も自分の学習のプロセスを知ることで、どのように音楽的感受力が育ってきたのかを自覚できるようにする。そして、教師は図7−7で示した観点と規準に基づいて、実際の音の表現やポートフォリオから、その育ちを読み取っていくのである。それは題材・カリキュラムの改善の視点ともなる。
このように子どもが、題材や学期という長い期間における自らの成長を知ることは、次の活動へ意欲につながる。
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学年 |
表現・感受 |
関心・意欲・態度 |
技能 |
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音素材を楽しむ |
低学年 |
いろいろな音を見つけ、それらの音の特質を知覚し、感受できている。 |
いろいろな音を見つけることに意欲的である。 |
いろいろな音を見つけることができる。 |
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中学年 |
自分や友だちの見つけた音を合わせ、それらの音の特質を知覚し、感受できている。 |
自分や友だちの音を合わせることに意欲的である。 |
音と音とを合わせることができる。 |
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高学年 |
いろいろな音に変化をつけ、それらの音の特質を知覚し、感受できている。 |
音の変化をつけることに意欲的である。 |
音に変化をつけることができる。 |
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感情や様子を楽しむ |
低学年 |
表現しようとするテーマや、対象に対して感覚的なイメージをもてている。 |
感覚的なイメージに関心をもてている。 |
感覚的なイメージを生かして表現できている。 |
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中学年 |
表現しようとするテーマや、対象に対して創造的・具体的なイメージをもてている。 |
創造的・具体的なイメージに関心をもてている。 |
創造的・具体的なイメージを生かして表現できている。 |
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高学年 |
表現しようとするテーマや、対象に対して創造的・抽象的なイメージをもてている。 |
創造的・抽象的なイメージに関心をもてている。 |
創造的・抽象的なイメージに関心をもてている。 |
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形式を楽しむ |
低学年 |
音楽のもつパターンのくり返しを知覚・感受できている。 |
パターンのくり返しに関心をもっている。 |
パターンのくり返しが表現できている。 |
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中学年 |
音楽のもつフレーズのまとまりを知覚・感受できている。 |
フレーズのまとまりに関心をもっている。 |
フレーズのまとまりが表現できている。 |
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高学年 |
音楽のもつ曲形式のバランスを知覚・感受できている。 |
曲形式のバランスに関心をもっている。 |
曲形式のバランスが表現できている。 |
図7−7 評価の観点と規準