音楽的感受力と技能が関わり合い、高まり合う授業

東 真理子・松本 泰子



はじめに

昨年度までの研究では、以下の内容を明らかにしてきた。

成果 

・音楽科の指導内容が学習され、かつ子どもが楽しさを感じる授業となる要件が明らかになった。

・子どもの関心と指導内容を基にしたカリキュラムを作成し、授業での評価規準の設定方法が明らかになった。


 評価規準の設定方法が明らかになり、子どもの音楽学習を、内面に働く力と目に見える力の両面から評価することができるようになってきた。しかし、それらは関わり合い、高まり合っていくと考えられる。そこで次の事が課題となってきた。
課題・内面に働く力(音楽的感受力)と、目に見える力(表現の技能・鑑賞の能力)との関わりを明らかにして、音楽科で育てたい子ども像により近づけるようにする。
 そして、本年度のテーマを「音楽的感受力と技能が関わり合い、高まり合う授業」と設定し、研究をすすめることにした。

1,音楽科で育てたい子ども像
 本校では、「音楽的感受力」を、音や音楽を知覚・感受する際に、内面に働く力であると定義している。そして、音楽的感受力を豊かに発揮する子どもを育てることをめざしている。(図7−1参照)

  音楽的感受力を育てることで、生涯にわたって音楽を楽しむことができるようになると考える。学習を通じて、子どもの内面には音楽的感受力が育ち、目に見える身体には、知覚・感受したものを表現できる技能が身についてくる。
 音楽的感受力と技能が相互に高まり合って育つことで、子どもは音楽を深く理解することができ、思いを表現する喜びを知ることができる。また、「いいな、好きだな。」と感じる音楽の幅が広がり、自分の音楽の世界を広げることができると考える。


2,カリキュラムの考え方
カリキュラムは、「子どもの関心」と「指導内容」の二つの軸から考えている。一つは子どもが音楽学習の、どの側面に関心をもって楽しんでいるか、もう一つは指導者が何を指導するべきか、である。
(1)子どもが音楽学習を楽しむ姿
子どもは音楽学習の何を楽しんでいるのか。それは先行研究で、「音素材を楽しむ」「形式を楽しむ」「感情や様子を楽しむ」の3つの側面であるということを明らかにしてきた。
(2)音楽科の指導内容
音楽科で指導すべき内容については、平成14年度より研究を進めてきた。(平成14年度よりの紀要参照)その内容は、音楽の構成要素およびその音や音楽が持つイメージを基にしている。
音楽の構成要素を知覚・感受し、自分の経験と結びつけて、曲の感じや様子を表すための構成要素の工夫をして表現することで、子どもが今まで意識していなかった音楽の楽しさを学ぶことができると考える。

3.子どもの音楽的感受力の育ち
 指導者は一つの題材の中で、指導内容として設定した構成要素を子どもが知覚・感受して、表現するように活動を構成する。しかし、子どもが「こんな音にしたい。」とつくり出そうとする音や、「こんな音楽なんだよ。」と伝えようとするイメージや解釈は、一つの題材で指導者が設定した構成要素に限られるわけではない。学年が上がる毎に学習する指導内容は増え、それらの関わり合いを感じられるようになるので当然のことと言える。それまでに知覚・感受してきた音楽の構成要素を統合しながら、自分がよりよいと感じる音楽をつくり出そうとしたり、他者に伝えようとしたりする子どもの姿が音楽的感受力が育った姿と言える。
(1)知覚・感受を意識する
音楽的感受力は先にも述べたように、音や音楽を知覚・感受する力が核となっている。指導者が授業を構成する際には、子どもが音楽の構成要素を知覚・感受し、さらにそれを意識することが大切である。そして、学習後に出会った音楽の中にその良さを感じたり、自分の考えをもって演奏の工夫をしたりすることができるようになることが音楽的感受力が成長した姿と言える。
学習において知覚・感受した内容を子ども自身に意識させるこ。
 (2)意識した構成要素の表現を工夫する
表現においては、子どもが意識した構成要素を音で表現する。音を通して音楽的感受力が発揮されるのである。しかし、音での表現以外にも、身体や言語や絵・図などもその子の音楽的感受力を発揮する手段として取り入れることができる。
鑑賞において、意識した構成要素が生み出す楽曲全体の味わいを身体や言葉などで表現し、他者に伝える。例えば、グリーグの『山の魔王の宮殿にて』を聴いて、「同じメロディをくり返しているけれど、だんだん楽器が増えてこわさが増していっている。」「始めはゆっくりだけれど、途中から速く音も大きくなって魔王が近づいてくるのが感じられる。」など、感じたことの伝え方の工夫を通して子どもは自分の音楽的感受力を発揮する。 

このようなプロセスを大事にすることで、子どもの音楽的感受力が発揮され、成長していくと考える。

4,音楽的感受力と技能との関わり
 音楽的感受力を発揮し、表現するには技能が必要である。自分なりの表現を試みることで、音楽的感受力を成長させることができる。しかし、「本当の技術が何かと言えば、それは、意図された音楽的効果を、ある媒体手段によって的確に表す能力のことである。(※1)」とあるように、技能のみをくり返し練習させるのではなく、その子どもの表現しようとする意図と関連付けて技能を捉えなければならない。
音楽的感受力と表現の技能、音楽的感受力と鑑賞の能力は常に関わり合うことで、相互に高まり合っていくものと考える。
(1)音楽的感受力と表現の技能との関わり
 表現の技能は、子どもが意識した構成要素を、思いをもって音で表現するのに必要である。「思いが実現できる」経験は子どもにとって楽しいことである。知覚・感受した音楽の構成要素を、どのように表現しようかを考え、実際に技能を使って表現していく。子どもは、音を通して自分の工夫をふり返り、よりよくしたり、自分の工夫を実現するために技能を高めようとしたりする。これは音楽的感受力と技能は関わり合うだけでなく、高まり合っている姿だと言える。
 指導者は子どもの技能に合った題材を選ぶようにし、また学習中は、子どもが知覚・感受したことをもとに必要とする技能を評価・支援する必要がある。
(2)音楽的感受力と鑑賞の能力との関わり
 鑑賞の能力は、子どもが意識した音楽の構成要素が生み出す味わいを、楽曲全体のものとしてとらえ、自分の味わいを身体や言葉などで相手にわかるように表現するのに必要である。表現の技能と同じく、「思いが実現できる」経験は子どもにとって楽しいことである。自分以外の人にも自分の味わいが伝えたり、伝わる方法を考え直したりすることで音楽的感受力と鑑賞の能力は関わり合い、さらに高まり合っていく。

5,音楽的感受力を高めるための授業
 音楽的感受力を高めるための方法は、先に述べてきたように、子どもが音楽的感受力を意識する場面をつくり、音楽的感受力を発揮できる技能を獲得できるようにすることであると考える。
 実際の授業の中で音楽的感受力を高めるための具体的な場面について、以下のような場面を意識してつくるようにした。

<表現活動の題材の流れ/例>


      子どもの活動       音楽的感受力を高める場面

(1)知覚・感受を表に出す場面
 知覚・感受したことを身体・言葉・ワークシートでの記述などを通して表に出すことで、知覚・感受したことを意識することができる。特に低学年はまずは身体全体で音楽を感じ、表に出すことが自然な姿である。例えば1年生で「速さ」を指導内容とした時は、使った楽曲の速い部分では急ぎ足や走る子も見られ、ゆっくりの部分では皆歩いていた。また中学年で「音色」を指導内容とした時も、バイオリンをひく時の
なめらかな動きを自分でもやってみることで、その音色の知覚・感受が促された。このように身体表現は知覚・感受を表に出すのに有効な方法の一つであると考える。また学年が上がるにつれて、言葉やワークシートも抵抗なく使えるようになってくる。
(2)表現しながら考えを深める場面
 表現活動においては、例えば創作では、低学年の場合は音を出してみてから、イメージが広がることが多いので、即興的に音を出し、そこから得たイメージをもとにまた音を出してみる、というプロセスの中で音楽的感受力と技能が相互に高まって行く。中学年・高学年では個人やグループで考える時に、音で表現しながら自分の考え・工夫を見直したり、工夫の通りにできるように何度も練習したりする。この際、指導者から子どもが必要とする技能の想定と、支援が必要であると考える。
 鑑賞活動においては、ワークシートに考えをまとめたり、感じたことを身体で表現してみることで、その楽曲への理解を深めていくことができると考える。
 (3)工夫を交流する場面
表現活動において、表現の工夫は知覚・感受したものがもとになる。活動中にそれを友だちと聴きあう場を設けることで、音を通して表現の工夫を交流する。そこで友だちの工夫を知ったり、友だちにアドバイスをもらうことでよりよい表現を求めてさらに工夫していくことができる。
鑑賞活動においては、自分が知覚・感受した楽曲の味わいについて相手に伝える(身体や言葉で表現する)場を設定し、その楽曲全体の味わいを全体で共有する。それによって自分の味わいの良さを知ったり、友だちの味わいを知って曲の良さを知ることができる。この時に伝える手段となる言葉や身体が鑑賞においては技能にあたり、その方法を試行錯誤する中でうまく伝えられるようになり、楽曲への理解が深まっていく。
 (4)表現から、自分の成長を知る場面
表現活動においては、自分の考えをもとに表現した演奏や音楽作品を録音して聴かせ、子ども自身の目標からふり返らせる。それによって自分の音楽的感受力の成長を知り、それが今後の題材へも生かされると考える。
 (5)自分の考えをふりかえる場面(ポートフォリオの活用)
活動を通して、必要に応じてワークシートに書かれた自分の考えをポートフォリオとしてふり返ることは、表現の工夫を深めるために必要である。これはワークシートを見直す他に、表現した音を録音して、聞き直す方法もある。
記述を見直したり、表現を聞き直したりすることで、もう一度試してみよう、変えてみよう、などと自分の考えをまとめていくことができる。

6,小学校音楽科で培う学力に、生きるものや生かされるもの
(1)知覚・感受の段階で、生活経験を生かす
〜 家庭・幼稚園(遊び、生活などのさまざまな経験から)から小学校へ
「なんか音がする、耳を澄ませてみよう。」「砂で遊んでいたら、こんな音がしておもしろかったよ。」
音への興味はそのようにして生活の中から始まる。その際に出てくる子どもたちの会話には、家庭や幼稚園などで培った「音への興味」が深く関わっていると考えられる。家庭や幼稚園での生活経験をよく知ることで、そこでの「音への興味」を教材選択や題材構成に生かすことができる。
また、幼児期は音への反応が自然な時期なので、「気持ちいい」と感じたら、30分もその場でずっと雨の音を聴いている子がいたり、考えるよりも先に体がリズムに合わせて動き出す子がいたりする。学習においてもこの自然な反応を大切にすることが、音楽への関心を高めることにつながる。
また、「音楽」という形にとらわれず、音楽につながるものとして、普段使う言葉の持つリズムや抑揚、楽しい時の声や悲しい時の声などの持つ表情などを感じ取ることも、音楽を楽しむ資質へつながると考えられる。
(2)幅広い音楽への興味を持つ〜そして中学・高校へ・・・
 小学校においては音楽的感受力を育てることを大事にし、「この音いいな。」という受け止めを深め広げる。その後、音楽の文化的側面を合わせて理解できるようになってきた中学校段階では、地域的にも、ジャンル的にも、時代的にも幅広い音楽への興味を引き出すよう学習を進め、生徒が音楽に対する価値観を形成していくことを助けることになる。
 また、音楽はその地域、時代、文化を反映した存在といえる。中学校に入り、文化的側面も合わせて音楽に興味を持てば、その音楽を深く理解できるようになり、音楽の知覚・感受もこれまでよりも深まっていく。音楽の知覚・感受を深める経験は、自分がどのような表現を好み、どのような表現をしたいと思っているのかを知ることにつながる。これは自分を知ることであり、青年期には必要な経験であると考えられる。

引用文献:
1)ジェームズ・マーセル著(美田節子訳)『音楽的成長のための教育』音楽之友社、昭和46年、252頁。


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