◇音楽科 子どもが音や音楽に感じ、楽しむ授業づくり
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はじめに
本校では、音楽学習の中で子どもが何に感じ、何に楽しむかをふまえて、過去5年間カリキュラム研究を行ってきた。その結果、音楽学習の活動には「音素材を追究する」「感情や様子を表す」「形式をつくる」の3つの側面があることが明らかになってきた。実際の活動では、それらの側面は相互に重なり合って展開される。しかし、音楽科の学習として子どもの能力を高めるためには、3つの側面のいずれかに焦点ををあてた学習が必要であると考える。そこで本校では、これまで3つの側面にそれぞれに焦点を当てた題材を開発し、「音素材を追究する」「感情や様子を表す」「形式をつくる」という3つの側面を3本の柱とするカリキュラムの構想を試みてきた。
そして、「音素材を追究する」「感情や様子を表す」「形式をつくる」という各柱に配置された題材によるそれぞれの活動を、本校では音楽科の「本質的活動」と呼ぶことにした。この本質的活動をもととして、生涯にわたって「音素材を追究する」「感情や様子を表す」「形式をつくる」という3つの側面を自らの力で統合して音や音楽を楽しめる子どもの育成をめざすのである。
「音素材を追究する」「感情や様子を表す」「形式をつくる」を柱とするカリキュラムで育てる能力を、本校では「音楽的感受力」と名づけた。「音楽的感受力」とは音や音楽を知覚する能力と、それをイメージをもって感じ取る能力の両者を含むものとする。両者の能力が一体として働くことで、子どもは音や音楽に感じ、楽しむことができるのである。つまり、本校の音楽科カリキュラムの基本構造として以下のことが明らかになったと言える。
・音楽科カリキュラムは「音素材を追究する」「感情や様子を表す」「形式をつくる」の3つの柱から成るということ。
・「音素材を追究する」「感情や様子を表す」「形式をつくる」という3つの柱に基づく諸題材による活動、つまり「音楽科の本質的活動」が相互に関連しあって「音楽的感受力」を養うということ。
しかし、具体的な授業を構想していく際には、次のような課題が出てくる。
・子どもの音楽活動において、「音素材を追究する」「感情や様子を表す」「形式をつくる」という3つの側面が、実際にどう関わりあっていくのか明らかにすること。
・「音楽的感受力」を育てる場面について、これまでの教科の枠をより広げたところで考えていくこと。
そこで、今年度はテーマを「子どもが音や音楽に感じ、楽しむ授業づくり」と設定して研究を進めていくことにした。
1、音楽科で育てたいもの
わたしたちは、さまざまな音や音楽に囲まれて生活している。また、メロディーやリズムを伴う音楽にもふれる機会が多くある。わたしたちは生まれながらに、それらの音や音楽を感じ、耳にきこえてくる音や音楽を自分なりのイメージをもって楽しむ。この時に、人は音楽的感受力を発揮して音や音楽を感じとっていると言えるだろう。
しかし、音や音楽を様々な意識をもって聴く機会を持たずに生活する場合と、そうでない場合には差が出てくるのも事実である。そこには、その子なりの楽しみ方はあるが、働きかけによって、その楽しみ方の可能性が豊かに広がっていくのである。例えば、身の周りのさまざまなものや楽器や、自らの声にいたるまで、音の素材としてとらえることによって、今まで気づかなかった音にも耳を傾けられるようになるというようなことである。そして、さまざまな音や音楽に耳を傾けることによって、その音や音楽に対する理解を深め、より深く感じられる子どもは、物事に対しても広い視野を持って接することができるだろう。それは、豊かな人間性を持ち、豊かな生き方ができるという本校でめざす子ども像に他ならない。このような活動を通して、音や音楽を楽しむ原動力となるべき、音楽的感受力がさらに育っていくのである。そこで、音楽科学習の目標を次のようにまとめた。
多様な音や音楽を自分なりに広く理解し、深く感じられるような音楽的感受力を高める。
この音楽的感受力は音楽学習やその他のさまざまな体験によって高まっていくものである。子どもはその高まりの過程で、自分の心地よく感じる音や音楽の世界を広げながら育っていくと考えられる。
2、音楽科カリキュラムの基本的な考え方
(1)音楽科で考える教科の本質的活動
音楽科学習の活動を進める子どもの姿を見た時に、子どもが感じ、楽しんでいるのは「音素材を追究する」「感情や様子を表す」「形式をつくる」の3つであるととらえ、カリキュラムの柱と考えてきた。
この基本構造は、表現について、主に述べるものとなっているが、この表現の活動を通して鑑賞を楽しんだり、その鑑賞から得たものを表現に生かしていくことができるものと考える。「表現」と「鑑賞」の関わりについては、後に述べていくことにする。
(2)子どもの音楽的感受力の育ち
イメージの具現化 (他教科・領域との関わり)
音素材や形式や気持ち、全てが関わった音楽学習をすることは、子どもにとって楽
しいものである。なぜなら、そこにはこの音を、こんな風に、こういう気持ちで表そうというその子なりの工夫があるからである。脈絡なく、音のみ、形式のみ、気持ちのみでは本当に音楽を楽しいとは感じにくいだろう。そして、「音素材を追究する」「感情や様子を表す」「形式をつくる」の3つを元にした音楽学習を経験することで子どもの音楽的感受力が育つと考えられる。この音楽的感受力の育ちは、3つの本質的活動を経験する子どもたちの姿に表れると考えている。(図7−1)
カリキュラムの基本的な考え方(図7−1)
(3)カリキュラム構成の視点
以上述べてきたように、「音素材を追究する」「感情や様子を表す」「形式をつくる」の3つの柱における題材が、バランスよく配列されていることが望ましい。また、はじめに述べてきたように、音楽学習として子どもの能力を高めるためには3つの側面のいずれかに焦点をあてる必要がある。しかし、子どもの活動の姿を追ってみると、3つの本質的活動のそれぞれが別のものではないということもわかってきている。例えば、子どもは自分の体を音素材として見た時に、音を追究しながらも、その音の並び方を工夫するようになる。これは「音素材を追究」しながらも「形式をつくる」ことに関わっていると言える。
この3つの本質的活動の関わりを見据えた音楽学習を子どもが経験することで、音楽的感受力が育ち、子どもにとっての音や音楽がより深い感動を持ったものになると考えられる。
3、3つの本質的活動の関わりを意識した授業
「音素材を追究する」「感情や様子を表す」「形式をつくる」の3つの本質的活動は、子どもの音楽的感受力の育ちに応じて、関わり方が違ってくる。その関わりに応じた題材・活動構成・支援が必要である。そこで、その関わり方を探っていきたいと考える。例えば、低学年から高学年にかけて、子どもの育ちによっては1つの本質的活動における題材でも、3つの本質的活動の目標の全てに関わってくるものが多くなっていく。このように子どもにとって、本質的活動が関わりあった統合的な題材が多く明らかになれば、単独で行うよりも効率が良く、題材の重複を避けることにもつながるだろう。
@題材のあり方
題材には、3つの本質的活動の関わりをもちつつ、本来の目標をより深められる題材が各学年それぞれにある。そこで次にその関わりについて述べていくこととする。
低学年では、例えば「音素材を追究する」題材の中の「新聞紙の音集め」において、子どもたちは、まず新聞紙の持つ音をたくさん見つけていく。この段階では「音素材を追究する」活動だが、その後、出した音について「〜な感じがする」と言い出す児童が出てくる。これは、「感情や様子を表す」活動に関わっていると言える。また、いくつかの出した音を並べて順番にならす児童も出てくる。これは、「形式をつくる」活動に関わっていると言えるだろう。このように関わりを持つ題材として、指導者がとらえることで、子どもの活動がより広がるものと考えられる。
低学年のうちは、単純な関わりが多く、「感情や様子を表す」や「形式をつくる」題材においても同じような関わり方が想定できる。その関わりについては、音づくり・歌唱・器
(例)低学年の題材のあり方
音素材を追求する (見つける) 新聞紙の音集め 感情や様子を表す (具体的なもののイメージ) 形式をつくる (パターンをつくる)
楽・鑑賞を伴ったカリキュラムモデルとして示している。(図7−2)音づくりと歌唱・器楽・鑑賞の間には密接な関わりがあり、どちらもなくてはならないものであると考えている。
中学年の3つの本質的活動の関わりを「素材の響きを生かして」という竹を使った題材を例にして述べると、子どもは、始め竹のさまざまな音色を試していくことを楽しむ。そして、出した音によってなんらかのイメージを持つ。それは例えば「こんな音の楽器があったな。」というように、低学年の時と比べて、自分なりの言葉で表せるようなイメージを持つようになるのである。高学年では、「自分たちの四季を表そう」を例にすると、子どもたちは活動の中で、表現する季節のイメージを持ち、そのイメージを表すのにふさわしい音素材を選んでいく。また、そのイメージを表すために、どのような構成にするとよいかを工夫していくようになる。このように、高学年になってくると、自ら関わりを持った活動を楽しむようになるのである。このような題材のあり方については、3つの本質的活動の関わりを指導者が見通していることが必要になってくる。(図7−3と4)
A活動構成と支援のあり方
T、子供の気づきを広める活動構成と支援
低学年の題材のあり方で「音素材を追究する」題材の「新聞の音集め」を例にして述べたように、出している音に対して「スケートをすべっているみたいな感じがする」と言う子どもが出てくる。その子どもの気づきを、他の児童にも広める場を構成することによって、低学年なりに関わりを広げていくことができるようになる。例えば「元気な感じ」「さみしい感じ」などといった、音に対するイメージが広がり、音素材の追究も深まっていくということである。また、出した音を並べパターンをつくりだしている児童を取り上げることで、停滞している児童も、たくさんの音を見つける楽しさを実感できるようになるだろう。そして、中学年では、自分なりに関わりを広げようとしている子どもを取り上げ、広げられるようにする。例えば「からだの音を楽しもう」で、「音素材を追究する」と「形式をつくる」の関わりに気づいている児童と「音素材を追究する」と「感情や様子を表す」の関わりに気づいている児童との交流をはかることで、活動を更に広げることができる。更に、高学年になってくると、今までの経験を活用しながら、自ら3つの本質的活動の関わりあった活動を楽しむようになってくる。その活動へ入っていく子どものイメージを大切にする支援によって更に表現が深まっていく。例えば、5年生の「変奏曲をつくろう」は「形式をつくる」活動だが、形式の変化によって感じが変わることを、まず取り上げることによってイメージを持って活動できるようになるのである。
U、イメージをふくらませるための活動構成と支援(ストーリー性を持たせる・主人公を意識する等)
音づくりの活動を進める際に、子ども自身が何を表しているのかを明確に意識することが大切である。それによって活動に主体的に取り組むことができ、音づくりもより楽しみながら進めることができるからである。低学年はその音楽的感受力の育ちから見ると、具体的なものを表すことを楽しむ。そこで絵本などを使って、「ボールがコロコロ転がる様子」のような具体的な場面を想像しやすくする支援をしていく。また、中学年ではいくつかの様子を1つのまとまりとして表すことができるようになる。それぞれの場面として意識できるようにストーリー性を持たせることが有効になってくる。その支援として、その流れの中で核となるものとして登場人物や主人公を意識できるようにすることがあげられる。そして、高学年では抽象的なものを表せるようになってくるので、全体の雰囲気を表す「季節」といったテーマを提示することから自分なりの発想を生かして活動を進めることができる。しかし、高学年でも必要に応じて、導入の段階では、具体的なイメージをもてるように促す支援をしていくことも必要である。
V、音を視覚的に楽しむための活動構成と支援
音は耳から入ってくるものであるが、「映像と音」の一体化や「動きと音」の一体化によって音を視覚的にもとらえることができる。その一体化によって、より音や音楽を楽しむことができる場合がある。それは音や音楽を聴くとそのリズムが体の動きとして表れたり、音のない映像に音をつけたくなったりする子どもの姿に表れている。また、しばしば民俗音楽でも見られるように、音を動きと共に表現するようなことは人間の生まれながらの姿であると言える。このように、子どもの自然な姿を生かした活動を構成することで、子どもの音楽的感受力は更に育つと考えられる。例えば低学年では、「遊び歌を歌おう」という題材において身体表現を取り入れたり、中学年で音のない映像に音をつけていく「アニメサウンドをつくろう」といった映像と音の一体化をはかる活動構成が考えられる。
B評価
子どもたちの表現の評価は終わりにするのでなく、自分自身や友達どうしで活動しながらも、評価しあえるようにする。その評価を自分の表現に生かすようにすることで、自分たちのめざしたいものを明確につかむことができるだろう。そのために、まず、自分の表現をふりかえって自己評価をし、更に友達どうしで評価しあうことが大切である。そして、指導者は子どもの音楽的感受力の育ちに合わせて支援しながら、子どもの姿を評価していくことができると考えている。
子どもの意識
音素材を追究する 感情や様子を表す 形式をつくる
ことばに合うように歌おう (夕焼けこやけ) 様子を思いうかべて (きらきら星・虫の声) リズムにのって歌おう(春がきた)

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低学年の題材配列モデル(図7−2)
子どもの意識
音素材を追究する 感情や様子を表す 形式をつくる

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中学年の題材配列モデル(図7−3)
子どもの意識
音素材を追究する 感情や様子を表す 形式をつくる


高学年の題材配列モデル(図7−4)