音楽を楽しむことを通じて指導内容を学習する授業
                                      東 真理子・當麻 裕彦・松本 康子
はじめに
昨年度までの研究では、指導内容を明確に設定し、その上で授業を構成してきた。また、指導内容を具体的に設定することで、評価規準が明確化され、最適な評価に向けて研究を進めることができた。
 そこで、本年度は、子どもの音や音楽の楽しむ姿にしっかりと目を向け、楽しい授業となる要件を洗い出して授業を構成し、実際にひとつひとつの授業が、子どもが指導内容を身につけ、しかも子どもの思いに添った授業となるように研究を進めていきたい。

1,音楽科でめざす子ども像
 音楽科でめざす子ども像を
「音楽的感受力を豊かに発揮し、より良い表現を追究していく子ども」
としている。
 音楽的感受力とは、音楽を聴いた際に私たちの内面で働く力である。例えば、ドヴォルザーク作曲「新世界より」第2楽章(家路)を聴いたとする。この時に、どこか寂しげな感じを受ける。これは、この音楽を特徴付けている要素であるイングリッシュホルンの優しい音色やゆったりとした旋律を知覚し、それらが生み出す曲想や美しさを感受するからである。このように音楽を特徴付けている要素を知覚し、その音楽が生み出す曲想や美しさを感受する力が音楽的感受力である。
 こうした知覚と感受を結びつけていく経験を積み重ねることで新たな音楽の感じ方・楽しみ方ができるようになる。そして様々な経験のひきだしを増やしていくことがその子の音楽の世界を豊かにしていくものと考える。この「音楽的感受力(音や音楽への知覚・感受)」を核としながら、「音楽への関心・意欲・態度」「表現の技能」「鑑賞の能力」の4つの学力を育んでいきたい。

 


2,カリキュラムの考え方
音楽科カリキュラムでは次の2つの軸から考えている。ひとつは、子どもが音楽活動において音楽のどの側面に関心を持って楽しんでいるかであり、もうひとつは小学校音楽科で指導すべき内容は何かである。
(1)子どもの音楽的に楽しむ姿
子どもは音楽の何を楽しんでいるのだろうか。先行研究で明らかにしてきたように、子どもが楽しんでいるのは「音素材を楽しむ」「形式を楽しむ」「感情や様子を楽しむ」の3つの側面であり以下のような姿として表れている。
「音素材を楽しむ」
・ 一つの楽器(素材)から出る様々な音を探したり、その奏法を工夫したりする。
・ いろいろな楽器で音色の違いを楽しむ。
・ 楽曲に相応しい音色や自分の想像する音色になるように楽器や音素材を探したり、変えたり、組み合わせたりする。
「形式を楽しむ」
・ 繰り返されるリズムを演奏したり感じたりして楽しむ。
・ 楽曲に何らかのパターンを見つける。
・ 速さや強弱などの楽曲を形作っている要素(音楽の構成要素)を使って演奏したり創作したりする。
「感情や様子を楽しむ」
・ 感情や様子が表せるように音楽を創作する。
・ 感情や様子を楽曲から感じ取る。
・ 感情や様子を生かした演奏をする。
(2)音楽科で指導すべき内容
 音楽科で指導すべき内容(指導内容)について昨年度より研究を進めてきた。(平成14.15年度紀要参照)音楽の形式的側面である音楽の構成要素と内容的側面である曲が表す感情や様子について子どもの育ちに応じた指導内容が図7−2である。

3,音楽を楽しみ指導内容を身につける授業
 音楽の授業は歌ったり演奏したりする活動の楽しさだけではいけない。子どもが音楽的な内容を楽しく感じながら活動し、さらにねらいとする指導内容を身につけていかなければならない。音楽的な内容を楽しく感じながらも指導内容を身につけるという両方があってこそ楽しい音楽科の授業だと考える。
 もちろん授業の前提として、「身につけさせたい指導内容」を指導者が明確に持ち、さらに「音楽を子どもが感じ・楽しむ姿」があらわれるだろうと想定するものを題材として設定しておく必要がある。図7−3は、それらを踏まえた上で構成した本校のカリキュラムの一例である。それぞれの指導内容の系統性を考慮し、学年に応じた題材を設定する。題材によってはひとつの指導内容だけでなく、複数の指導内容を同時に設定する場合もある。また、「音素材を楽しむ」「形式を楽しむ」形式的側面と「感情や様子を楽しむ」情意的側面は密接な関わりがあるため、指導内容としていなくても常に関連させて考えておくことが大切だと考える。

(図7−3 しばらくおまちください…)

次に、こうして設定した題材を実際の授業において子どもが楽しいと感じられるように図7−4のようにさらに活動を構成していく。


(1)授業で感じる楽しさ
 音楽の授業で感じる「楽しさ」とは何だろうか。子どもにとって「楽しい」とは次のようなことだと考える。
@主体的な活動
・自分が対象に働きかけることで新しい気づきを得ること。
・興味の対象との関わりにひたること。
・自分の力で試してみること。
・自分の思いを持って活動できること。
A自己実現
・自分の思いが実現すること。
・自分の成長を感じること。
B共感
・友だちの成長を感じること。
・友だちと思いを共有できること。
・楽曲に共感し、楽曲にひたること。
・友だちの音に共感し、自分の演奏に取り入れること。


(2)授業を構想するときに考慮すべき視点と教師の関わり

前述のような@主体的な活動A自己実現B共感が、音楽科授業の中で行われれば子どもにとってより良い授業となるだろう。加えて、指導者側としては、指導内容を確実に身につけさせたい。では、これらを実現するために、音楽科授業をどのような視点で構成していけばよいのだろうか。子どもの楽しさを大切にし、指導内容を身につけられるような授業にするために、次のようなことを意識して授業を構成していくとよいのではないかと考えた。

@主体的な活動にむけて
【教材選択】【思いの醸成】【身体表現】【知的な満足】
A自己実現にむけて
【成長の自覚】【知覚・感受の意識化】【教材選択】
B共感にむけて
【コミュニケーション】【教材選択】

@【教材選択】
「意欲を持って取り組めるように、技能的・発達年齢的に現状から手の届く教材を選ぶ」
教材を選択するときには、図7−2をもとにして指導内容を達成するに相応しい教材を選ぶ。
しかもその時点でちょっと努力すれば手の届く教材が良いと考える。その教材を終えたときに、自分の成長を感じられることは、うれしいことだ。また“頑張ったらできそう”という前向きな気持ちで取り組み続けられることも大切だ。そこで、教材選択には、技能的・発達年齢的に現状から手の届く教材を選ぶことが必要だと考える。例えば、3年生で指導内容「音色」でリコーダーの音色を知覚・感受し、表現する。初めて経験するリコーダーなので技術的に複数の音を演奏することはまだできないが、1つか2つの音ならば可能である。また、リコーダーの音色の良さを知覚・感受できないときれいな音色で演奏できない。そこで、教材としてきれいなリコーダーの音色のみで演奏されている鑑賞曲『きらきら星』を教材として音色の知覚・感受を促し、技能的に簡単なシの音のみの『ちょっとまってね』という曲を教材として選んだ。子どもにとって『ちょっとまってね』を演奏することは、指づかいとしては簡単なので新しい楽器を演奏できることに楽しさを感じる。しかし、『きらきら星』で知覚・感受した音色にするには少し難しい。そこで、“頑張ってみよう”と前向きに取り組むことができる。

「指導内容を身につけられるいくつかの教材から、子どもが興味のあるものを選択する」
指導者が選んだ身につけさせたい指導内容を達成できるいくつかの教材から、子どもが自分たちで教材を選択することで、使用するその曲により共感でき、楽しんで取り組むことができると考える。5年生「言葉を生かして」(全6時間)は、曲が表す感情や様子を指導内容とした題材である。指導者が子どもの育ちにあった教材をいくつか用意し、子どもが興味を持ったものを選択することとした。
 
A【知覚・感受の意識化
「指導内容に対する知覚・感受を意識化する時間を取る」
 音楽の構成要素を無意識に知覚・感受していることが多い。例えば音楽を聴くとき、ただ聴くだけでなく何を意識して聴けばよいのか、その音楽を特徴づけているものは何かなどを確認することで、指導内容が意識化され、より音楽を味わうことができるだろう。そのためには、何を意識すればできるようになるのかなど、指導内容に目をむけるだろう発問を指導者がしたり、子どもが話し合いをしたりすることが必要だと考える。この知覚・感受の意識化が行われることこそが、ねらいとする指導内容を達成することに大きく関わっている(特に観点2「音楽的な感受や表現の工夫」)ので指導者として、常に心に留めて授業を進めなければいけないと考える。4年生「アンサンブルを楽しもう」(全6時間)は音の重なりを指導内容としてアンサンブルの各パートの役割(主旋律・伴奏・ベースの関係)を知覚・感受することがねらいである。『茶色の小びん』を演奏するだけでなく、1パートのみの演奏をはじめとして、いろいろなパートの組み合わせの演奏を聴き、他のパートを加えることによってどのように感じが変わったのかを話し合う活動を行う。このようにパートの表現効果と役割について感じ取ることができるようにする。こうした活動を行うことで子どもが楽器を選ぶときにも表現効果に応じた楽器を選ぶことができ、よりよいアンサンブルになり、子ども自身も心地よい響きの演奏をすることができる。

B【思いの醸成】
「自分の表現への思いをもつ時間を保障する」
 ある楽曲を演奏するとき、できるようになると喜びを感じる。そこにはやらされているのではない“こんな風に演奏したい”“こんな気持ちを表現したい”という思いがありその思いが実現されたときにこそより深い満足感を得られるだろう。そこで、漠然と演奏するのではなく自分の思いを持つことを確実に行いたい。そのためには、その時間のめあてを持たせたり、自分の目指す表現を発言やワークシートに書くことではっきりさせたり、自分の思いを持つ時間を保障することが大切だと考える。

C【成長の自覚】
「一人一人ができた喜びや分かった喜び(満足感)を得られるように支援する」
 自分ができなかったことをできるようになったり、知らなかったことを分かるようになったりすることはうれしいことである。ある楽曲を演奏したとき、はじめはつたない演奏だったり、音色が良くなかったりするだろう。その楽曲を通じて指導内容を学習していくことでできるようになったり、指導内容を意識することで音色がかわったりするだろう。このような自分たちの成長を自覚できるような時間をもつことで満足感を持たせたい。3年生「リコーダーの音はどんな音かな」(全6時間)の実践では「リコーダーの音色」を指導内容として、表現活動と鑑賞活動との両方からねらいに迫った。【成長の自覚】を促すため、授業の始めに自分たちの演奏を録音し、聴くことにより問題意識を持つようにした。次に、ソプラノリコーダーとアルトリコーダーで演奏されている「きらきら星」を鑑賞した。この鑑賞活動で子どもたちはソプラノリコーダーの音色に関心を持ち、その良さを知覚・感受した。その後、再度自分たちの演奏を録音し、聴く活動を行った。子どもたちはソプラノリコーダーの澄んだ伸びのある音色を意識して演奏したため、当初の演奏よりも良い音色になっていた。自分たちの演奏の変化を自分たちで聴き取る活動を取り入れたことで、子どもたちは成長を感じ、満足感を得ることができた。

D【コミュニケーションの場】
「コミュニケーションの場を設定し、感じたことを分かち合える時間を取る」
 子どもたちにとって友だちとの関係は重要なものである。音楽から感じたことを友だちと分かち合えることは嬉しいことだと考える。自分の感じたことを友だちに紹介した時に“共感してもらえて嬉しい”、“友だちが自分とは違う感じ方をしていて様々な感じ方を知ってそれもいいなあ”と思える場を設定していくことが大切だと考える。6年生「シンセサイザーがつくり出すひびきを味わおう」(1時間)の実践では「シンセサイザーがつくる音色とその重なりの響き」を指導内容として、広大な情景を想像する鑑賞活動を『シルクロード(喜多郎 作曲)を使って行った。子どもたちにはタイトルを伝えずに楽曲から受ける情景をひとりひとり想像した。同じ楽曲を聴いても、想像することはそれぞれ違ってくる。そこでクラスで交流を行った。「田舎」「きれいな川の流れ」「夕日」「夜」「海」「何もないところ」などの景色やその他にも「失恋」「ドラマのエンディングみたい」「のんびり」といった感じ方が出てきた。音楽のどんなところからそれらの情景が想像できたのかを話し合った。自分とは違う友だちの想像したことやその理由を聞きながら、「そんな風にもきこえるなあ。」「それおもしろい!」などの声が聞かれ、友だちの意見を興味深く聞いていた。

「相互鑑賞の場をつくる」
相互鑑賞をすることによって、思いを共有したり、面白さを感じたりすることはもちろん、自分の考えていなかった新たな考えや方法を知ることができる。友だちの表現をきいて、こんな方法もあるんだということが分かれば次に自分がするときに生かすことができ、新たなアイデアへの材料となるだろう。5年生「変奏曲をつくろう」(全6時間)は、旋律の変化を指導内容とした題材で、簡単な旋律を様々な構成要素を操作することで、感じの変化を楽しむねらいで行った。まず簡単な旋律を自分で変奏する活動を行った。この時に創った変奏を友だちと交流した。グループで交流している子どもたちは、生き生きとした表情で自分と似ている変奏や自分とは異なった方法をしている変奏など友だちの作品を聴いていた。友だちと相互鑑賞したことは、友だちの良さを感じると共にその後の自分の変奏に取り入れることにもつながった。

E【知的な満足】
「必要な音楽的知識を伝える場をつくる」
音楽的な知識がなければ、人に伝えるときに語彙がなくうまく伝わりきらなかったり、逆に情報を得られなかったりする。必要な音楽的知識を伝え、教えることは大切である。また、子どもにとって新しいことを知ることは知的好奇心を満足させるもので楽しいことである。3年生「バイオリンの音色を楽しもう」はバイオリンの音色を指導内容とした題材である。子どもたちのバイオリンについての知識は非常に少ない。そこで楽器自体の特徴やいろいろな奏法などを実際に紹介する。これらを知ることでより楽器の音色の特徴や良さを捉えることができるだろう。

F【身体表現】
「身体表現を取り入れた活動をする」
 子どもは体を動かすことが好きである。音楽では特に、低学年を中心として体で感じる事も重要である。拍や速さの変化などに合わせて動くことで音楽を体で感じ取る、音で表現したい感情や様子を体で表してみたり、音楽を聴いて感じるままに動いてみたりするなどがある。これらは知覚・感受を助けることにもなるし、感じたことを具体化することにもつながる。このように、身体表現を取り入れた活動を大切だと考える。

 これらの視点でどのような活動を取り入れていけばよいのかを考え、授業を構成していくこととする。しかし1時間に必ずしもこれらすべてを取り入れなければいけないということではなく、活動の流れやその時間に大切にしたいことから必要な視点を取り入れると良いと考える。
 

4,評価がはたらくカリキュラムへ
 今年度の研究を進めた結果によって、それぞれの題材における子どもの育ちに応じた想定する感じ楽しみ方がと指導内容が適切であったかを評価していくことでカリキュラムの改善をしていくことになるだろう。これはカリキュラムに評価がはたらくといえる。

H16,12.22現在