算数科教科提案
はじめに
本校算数科では、「一人一人が算数に感じる学習」という研究テーマで実践研究を進めてきている。昨年度は、共創的実践力を育成するための算数科の新たなカリキュラム構成をめざして「一人一人が算数に感じる学習を支えるカリキュラムの構想」というテーマのもとで研究を進めてきた。その中で、子どもの側に立った算数の系統性(シーケンス)を考え、領域の統合やパソコンの活用などを考えながら部分的ではあるがカリキュラム構想の視点を明らかにしてきた。
そこで本年度は、より子どもの側に立った領域(スコープ)にも目を向け、カリキュラムの具体的な全体像を明らかにするため、上記のような研究テーマを設定した。
1.算数科がめざす新たなカリキュラム
(1)算数科の本質的目標
昨年度より算数科の本質的目標を以下のように設定している。
従来、本校算数科がいう「算数に感じる学習」においてめざしてきたことは、解決活動の楽しさに感じたり、数理的な処理のよさに感じたりすることであった。これは、情意的側面を重視した問題解決活動における目標であった。
しかし、これからの算数科で必要になってくるものは、算数科で培った態度や能力を算数科とは離れた生活場面や他の教科の中でも進んで使っていこうとすることであり、さらには価値判断・意志決定のもとに算数科で培われた態度や能力を活用し、豊かな人間性を育むといった心の教育である。これが共創的実践力の育成に関わる算数科の本質的目標といえる。この目標では、抽象化・一般化という算数・数学の特性としての目標だけで終わらず、考える喜び・真理の追究するよさといったところまでめざしているが、その部分に算数科の枠を越えた部分での目標がある。
(2)新たな算数科カリキュラム構成にあたっての基本的な考え
共創的実践力を育成すべく、そして算数科の本質的目標にせまるために新しいカリキュラムを構成することは、単に学習内容の配列を組み替えるだけでは達成できない。どのような学習内容をどこまで深く扱うのかといったことも必要であると考える。総論でも述べられているように、算数科という教科はその学年で学習すべき内容は決まっているので、学年を越えて変更することも困難であろう。したがって、今ある学習内容をもとに、本質的目標にせまるために重点化を図る内容や、発展的に扱う内容、関連づけて学習する内容など、学習内容に軽重をかけていくことが指導内容の厳選にもつながり、新しい教育課程にも対応できるのではないかと考えた。そこで、新たなカリキュラム構成の基本的な考えとして以下の4つを指標とした。
1つめは、子ども一人一人が主体的な学習活動を展開していくということ、そのために情意的側面を重視した学習指導をおこなうことである。直面した問題場面に対して、自分の力で切り開いていくことはこれからの子どもたちに不可欠な態度・能力である。与えられた問題だけでなく、自分の内面からわき出る疑問をもとに問題を発見し、既習経験を駆使しながら自分で解決をしていくような学習を取り入れることが大切であると考える。本校では、従来「算数に感じる学習」という情意面を重視した問題解決活動を進めているが、一つの単元だけでこのような学習の成立を考えるのではなく、カリキュラムレベルにおいても情意の高まりを考慮しながら構成していきたいと考えた。
2つめとして、各学年に応じた学び方を身につけていくということである。算数科の中で問題解決活動を進める場合、低・中・高学年それぞれの子どもの発達に即した問題解決力があることは総論でも述べられているとおりである。各学年でふさわしい学び方を身につけていくことが、算数に感じる学習にいっそう磨きをかけていくことになり、本質的目標の達成に迫っていくものであると考えた。
3つめに、コンピュータを活用した学習内容を取り入れることである。コンピュータは、人間の思考や操作を支援できる道具の一つといえる。しかも、実際の操作では曖昧になってしまうこと、不可能なことを処理することもできる。このようなコンピュータの特性を生かしたカリキュラムを考えることは、活動が意欲的になり学習内容を深く掘り下げていくことができ、さらには真理を追究することも可能となる。
4つめとして、算数科だけでなく、他の教科、あるいは教科を越えた自分たちの生活場面において算数が役立つようになることが重要である。これは、近年「生きる力」といわれているように、将来において、日常の様々な事象を、必要に応じて、算数・数学の目でとらえていくような能力ととらえることができよう。
以上のことをカリキュラム構成における基本的な考えとしてとらえ、より具体化されたカリキュラム構成のあり方を述べていくことにする。
2.新たなカリキュラムを構築する視点
新たなカリキュラムを構築するに当たって、本質的目標にせまる系統(シーケンス)と領域(スコープ)の位置づけが必要となってくる。ここでは、それぞれについて述べることにする。
(1)子どもの学びの育ちを想定したシーケンス(系統)
本質的目標にせまるためには、各学年での子どもの発達にともなう学びの育ちを考慮し、徐々にステップアップすることが必要となる。昨年度の研究で、低・中・高学年における子どもの学びの育ちの様相を明らかにし、シーケンスとして位置づけている。
これをみれば分かるように、どの学年でも問題解決活動を進めるのであるが、それぞれの学年の発達の違いによって活動のレベルが違ってきている。もちろん、個人差があるので低学年でも中学年のような様相を示す子どもがいて当然のことである。しかし、24か月をサイクルとした最後には、どの子もが上に述べたような学びの育ちを見せてほしいという教師側の期待値としてとらえたいと考えている。
また、このシーケンスを考えるとき、「算数に感じる」いった情意的側面の発達も含んでいることは言うまでもない。これまでの研究から、低学年では「解決活動の楽しさに感じる」ことが強く表れてきているし、高学年に進むにつれて「数理的な処理のよさ」、さらには「真理を追究するよさ」に感じてくることが多いことが明らかになってきている。
従って、カリキュラムを考える場合、例えば数の仕組みの学習をするとしても、低・中・高学年では、それぞれの学年での学びの育ちの達成に向けたカリキュラム構成や指導方法を工夫することが大切となってくる。
(2)生きる力を見据えたスコープ(領域)
算数で学習する内容は、「数と計算」「量と測定」「図形」「数量関係」といった内容的な領域で区分されている。これは、算数・数学の系統性を重んじた区分であり、必ずしも子どもたちがこの領域を意識して学習を進めているわけではない。そこで本校では、子どもたちが将来、どのような生活場面で算数・数学と関わるか、すなわち本質的目標を達成し、実際の生活に生かすことができるかといった「生きる力」に関わる部分を見据えた領域設定が重要となってくる。
では、将来どのような場面で算数が活用されるであろうか。本校算数科では、次の3つの場面でとらえ、スコープを考えることとした。
○事物・事象を数に置きかえてとらえ、目的に応じた処理をする
日常場面では、いろいろな事象をとらえる際、数に置き換えて表すことが多い。例えば、写真4-1のような風景にある対象物をとらえるとき、高さや奥行き、幅などを数値で置き換えてとらえることができる。このようにしてとらえると、例えば近くにいない相手に伝えることができるし、計算などを用いた処理がしやすくなる。
この領域は、従来の数と計算領域と深く関わるが、量を数に置き換える(量と測定領域)ことも含まれてくると考える。従って、数と計算領域を見直し、量と数の関わりを重視したカリキュラムを構成したり、計算領域においては単なる技能面の定着の学習を軽減し、生活場面と密着した中で定着できるような工夫が必要になってくるであろう。
○事物・事象を見たままでとらえ、いろいろな視点から考察する
身の回りにある事物を見たままにとらえることも多い。例えば、写真4-2にある「仁徳天皇陵」の形を見て、どのような形でできているのだろうと疑問をもった場合、外形を直観的にとらえるだけでなく、どのような形が組み合わさっているのかと考えることもあるだろう。
この領域は従来の図形領域に深く関わるが、面積、体積の直観的な把握(量と測定領域)もこの領域に含まれてくるであろう。従って、「量と測定」「図形」領域の区切りをなくすことで、一人一人の真理をめざした幅広い追究活動を期待することができ、そのよさに感じることもできるものと考えた。
○事物・事象の動きやいくつかの事象から関係を見抜く
例えば、遊園地の観覧車を見て、どれぐらいの速さで動いているのか、どのような間隔で配置されているのかなど、身の回りには関係概念を生み出すような事物・事象が多い。このようなことに目を向け、どのような関係になっているのかを追究することは重要なことである。算数科でも、数量関係領域で取り扱っているが位置付けは中学年からであるが、低学年から積極的に取り入れていきたい。
これら3つのスコープは、互いに関連があり、例えば、一つの事象を見たままの形でとらえた後に数に置き換える場合もあるし、目的によっては、関係を見抜く際に数に置き換える場合もある。しかし、より子どもの側に立ち、どの学年でも大切にしたい生きる力を育むための窓口として、この3つをとらえたい。
3.カリキュラムの具体化に向けて
以上のようにシーケンス(縦軸)とスコープ(横軸)を考え、それらの交わる部分に各学年でふさわしい学習内容(単元)が位置付くことになる。
それでは、低・中・高学年の各ステージ上で考えたとき、どのようにカリキュラム構成を考えればよいのであろうか。教科書の配列も工夫はされているが、それだけでは先に述べた各学年で期待する学びの育ちの様相は見えにくい。
子どもの主体的な活動のもとに学びの育ちを獲得していくためには、「算数に感じる」ことも含めた情意の高まりを中核に据えてカリキュラムを構成する必要があると考えた。
(1)情意の高まりの2側面
1つの単元の中で、一人一人が算数に感じる学習を進めたときに、子どもたちの情意に表れてくるものとして、2つの側面が考えられる。
1つは、問題解決活動を振り返ったときに、既習の数学的な見方・考え方を駆使することで解決できたというよさ、友だちと考えを高め合うことのよさ、そして自分で追究活動をすることのよさなど、学び方に関わる部分での情意の高まりである。このような情意が顕著に表れる学習内容を設定し、子どもたちが主題全体(あるいは一部)の学習計画を立て、複線化の学習スタイルを取り入れながら、一人一人が自分の課題に沿って追究活動を進めるとよい。
もう一つは、分数のかけ算ができるようになったとき「分数のわり算はできるのかな」とか、「平行四辺形の求積方法は三角形にも使えそうだ」など、その単元を学習した内容をもとに、次に学習したいことを見いだすような意識の連続としての情意の高まりである。このような情意が顕著に表れる学習内容を設定し、子どもたちが課題に対して、自分なりの見通しや方法で問題解決活動を進め、解決したことを交流する中で既習の内容と結びつけたり関連付けたりしながら、次なる課題を見つけだすとよい。
(2)情意の高まりを考慮した新たなカリキュラム
以上のように、2つの側面の情意の高まりを重視することで新たなカリキュラムを考えることができ、いっそう本質的目標にせまることができると考えた。以下、情意の高まりを考慮したカリキュラム構築の例を述べることにする。
@他の教科や日常生活との関連を図る
算数科の内容で、他の教科でも用いたり、重複して学習したりする内容がある。そのような学習内容については、算数科だけで学習するより、他の教科と関連づけながら学習を進めた方が、意識を連続させることができ、本質的目標に迫れたり、子どもにとっても活動が深まる。例えば、統計的な内容については他の教科での資料をもとに学習内容を構築していくことで、他教科で起こった疑問を算数科の学習で主体的に解決することも可能となってくるであろう。さらに、他の教科の学習内容を、単に導入素材として生かすだけでなく、算数科で学習したことを他の教科の学習、あるいは普段の学校生活の場面で生きて働くようにすることも情意を高める上で重要であると考える。
Aコンピュータを活用し、内容を深める
学習を進める際、思考を支援する道具としてコンピュータを活用することで、より情意を高めるとともに学習内容にも深まりが見られる。従って、コンピュータを活用した単元を積極的に位置付けるようにしたい。特に、以下のような場面で活用を図ることを考えた。
○ 動きのある表現を含む場面
映像やアニメーションなどの情報は、子どもたちの内面にある情意を刺激する。しかも、受け身的に見ているだけでなく、子どもたちから操作しながら何度もみる中で、疑問点や気づきなどいろいろな問題意識が表れてくる。したがって、導入場面で活用することにより、自分なりの問題を発見しやすくなる考えた。
○ 念頭での操作を視覚化する場面
「〜なったらどんな形になるのだろう」「こんな場合はどうなるのかな」などいった念頭での操作活動をすることが算数科の学習では多い。そこで、念頭での操作をコンピュータ上で視覚化し、自分のイメージをより確かなものにしていくことで、学習内容がいっそう深まると考えた。
○ 半具体物による操作活動をする場面
算数科の学習では、具体的な場面で問題を考えるが、解決するときは、おはじき、数直線、線分図などを用いるため、早い時期に抽象的な思考を進めることが多い。そこで、コンピュータ上で実物に近いものを操作しながら具体と抽象の双方向の行き来をする中で、思考を進めやすくし、追究活動が深まるものと思われる。