1 豊かな生き方を創造し続ける生活科
(1) 自立の中から育つ豊かな生き方
生活科では、自立への基礎を養うことを目標にしている。ここでいう自立とは、学
習上の自立(学習活動を自ら進んで行うことができる。自分の思いや考えなどを適切
な方法で表現することができる。)、生活上の自立(基本的生活習慣や生活技能を身に
つけて、身近な人々、社会及び自然と適切にかかわることができる。自らよりよい生
活を創り出していくことができる。)、精神的な自立(自分のよさや可能性に気づき、
意欲や自信をもつことによって、現在及び将来における自分自身の在り方を一層強化
していくことができる。)を意味している。
これらの自立が、今後の教科、道徳、総合的学習といった学習において、対象から
価値を見出し意欲的に追究活動や表現活動を行ったり、それらの学習活動を自分の生
活に生かしたり、自分を見つめ直しよりよい自分の在り方を考えたりすることができ
ることにつながっていく。このように、子どもたちが生活科の中で自立への基礎を身
につけることによって豊かな生き方を創造するができると考えた。
(2) 本校生活科が目指すもの
本校の生活科では、豊かな生き方を創造できる子どもを育てていくために、次のこ
とが必要であると考えた。一つは子ども自身が何らかの問題に出合ったとき、その問
題への臨み方、対処の仕方を考えたり、問題解決を実行したりする力である。もう一
つは、自然のもつしくみの巧みさにふれたり、社会の機能をよりよくとらえたりする
ことを通して、社会の一員としての豊かな生活を創造していくことである。そこで、
を育成したいと考えた。
ここでいう「問題解決力」、「時間・空間」「自他」の意識は次のことを示している。
| 問題解決力 | 主体的に学ぶ力。(問題発見力、問題追究力、自己評価能力、表現力、判断力などを総合した力) |
| 時間・空間の意識 | 動植物の成長や季節の変化、身の回りの社会の様子などから、自分たちの生活時間や生活空間を意識すること。(比較、関連づけ、因果、意味付けなど科学的な見方・考え方につながる。) |
| 自他の意識 | 自分と他者、自分と対象の違いを意識すること。自分と他の違いを認め、尊重しようとする意識。 |
これらの生活科で培った力は、すべての教科・道徳・総合的学習に生かされていき、
生活科が本校の目指す共創的実践力の基礎づくりを担っていると考えた。
2 カリキュラムの構造
(1)本校生活科の学習内容の範囲
子どもが生活の仕方を深めていく対象から、大きく「自然」「社会」という2つのス
コープが設定できる。子どもたちにとっての「自然」とは身近な植物や動物である。
その自然とのかかわりに豊かな出合いや発見があり、自然の不思議さや神秘さを感じ
とることができる。「社会」とは学校内や学校の周り、通学路、地域などの子どもたち
の日常生活する身近な場所が対象となる。これらの社会とのかかわりを通して、自分
と社会とのつながりやルールに気づき、さまざまな方向から考えることによって、自
分たちの暮らしをよりよいものとすることができるようになる。このように、「自然」
「社会」に働きかけることによって、それぞれの機能に気づいたり、それらを尊重す
ることの大切さを実感したりして、「自然」「社会」に対する生活の仕方を深めていく
ことができる。
さらに、今日の子どもに見られる少子化・高齢化などの社会の変化にともなった人
とのかかわりの希薄化や、子どもの通学する範囲が広く、地域における友だち(他学
年を含む)とのかかわりの不十分さなどという本校の実態から、人と直接かかわるこ
とによって、集団や社会の一員としての自分の在り方を考えたり、人とコミュニケー
ションをはかることができるようにしたいと考え、「人」というスコープを設定した。
例えば、2年生「いらっしゃい1年生」では、入学してきた自分たちより年少の子ど
もたちを見て、希望をもっていて新鮮で活発ではあるが、学校生活に慣れないが様子
から、期待と不安の混在していた1年前の自分たちのことを思い出し、自分たちに何
かできることを考える。新入生とかかわりをもつ活動を通して、学校内での2年生と
しての役割に気づき、1年生に対しての思いやりの気持ちが芽生えていく。そして、
日常的な学校生活の中で交流の場が生まれ、1年生との活動によって知り合いになっ
た子どもと遊び、触れ合って、ともに学び合うことができる。こうした交流を、地域
における友だちとのかかわりが少ない本校ではより大切にしていきたいと考えている。
(2)生活科における学習内容の系統性
カリキュラムの全体計画を示すため、24ヶ月をひとまとまりとして考える。単元配
列の構成し、@子どもの問題解決力の育ち、A意識の育ちを大切にした。
@問題解決力の育ちから考えた配列
子どもが、生活をよりよくしようという願いをもち、その願いを実現しようとして
いく。さらに、自分の行動を考察・吟味して新たな願いを見出す中で「見方、考え方、
感じ方、行動の仕方」を深めていく。そこで、子どもがこのような過程で発揮する問
題解決力の育ちを単元配列の重要な視点とした。入学当初においては、まず自分の願
いをもち、子ども自身が主体的に対象に働きかける活動を重視する。そして、学校生
活に慣れ、問題解決力が育つにしたがって、少しずつ追究活動に見通しをもちながら
友だちと協力して自分で活動を進めていけるように、さらには、自分の活動を見直し
ながら活動を進めることができるように学習内容を設定する。
A子どもの意識の育ちから考えた配列
また、子どもは自分の願いを実現しようと問題解決力を発揮する中で、子どもは対
象の特徴をより深く理解し、それに応じて自分のかかわり方を変容させていく。子ど
もが対象によってかかわり方を変えていくのは、内面にその対象に対する意識が育ち、
新たな発見があるからである。この意識とは、対象や自分のあり方をはっきりさせる
ものであり、感情から認識までを含めたものである。私たちは、単元配列を考える際
に、このような子どもの内面に育つ意識、その中でも特に「時間・空間」や「自他」
の意識の育ちに着目しようと考えた。
各スコープごとにおける子どもたちの問題解決力と意識の育ちからとらえた活動の
構成を 図6−2 のように考えた。
3 カリキュラムの具体化
(1)具体的な単元構成
具体的に単元構成しそれらを配列していくには、子どもたちが生活環境の変化を感
じ取り、その変化に応じた思いや願いをもつようになることから、学習内容の系統性
とともに、子どもたちの生活環境の変化を考慮に入れる。そして、より積極的な生活
者としての態度を育てることができるような単元構成をしていきたい。
@季節の変化に応じた単元構成
生活環境の変化の中で、まず子どもたちが感じることは四季の変化である。四季の
変化にともなって自然環境や社会環境が変化していく、それらの季節の変化にかかわ
る子どもの思いや願い、欲している活動を考えて単元構成していく。
A子どもの生活実態に応じた単元構成
子どもたちは学校内の環境を使って学校生活をしている。そこで、子どもたちの学
校環境に対する思いや願いを大切にする必要がある。本校内には、附小広場やへび池、
大学跡地、むしむし村、りんご園など多くの自然環境に恵まれ、多くの種類の野草が
生えており、昆虫や鳥類などの動物がたくさん生息している。子どもたちが校内の動
植物に継続してかかわったり、自ら生き物を育てたりしてそれらの場所に親しみ、学
校の環境について考えたり、学校で捕った虫などを教室で飼い、生き物の不思議しさ
やおもしろさを感じたりすることができるように単元構成をする。
また、本校は校区が広範囲にわたっており、多くの児童が通学にバスや地下鉄など
の公共の交通機関を使っており、長い距離を徒歩で通学している子どももいる。子ど
もたちが、登下校の途中に様々な物や人と出合い、かかわり合い、それらに対する意
識を深めていく活動を通して、安全な登下校の仕方やマナーを身に付けたり、1日の
生活時間の変化に気付いたり、登下校する道が自分だけの道であるという愛着をもち、
学校や地域の一員としての自覚をもつことができるように単元構成をする。
B学校行事を生かす単元構成
入学式や夏休み、遠足などの学校行事を経験することに成長していく自分に気づき、
生活に対するかかわり方がより主体的になるように、カリキュラムを構成していくこ
とが大切である。例えば長期休業中は特に家族とのかかわりが多くなることから、長
期休業をはさんで家族とのかかわりを豊かにすることができるように単元構成をする。
(2)生活科カリキュラム
本校で設定した学習内容の範囲、学習内容の系統性をもとに、季節の変化や学校行
事、生活実態に合わせた生活科カリキュラムを 表6−1 のように設定した。
4 生活科の本質的目標に基づく授業の構想
豊かな生活を創造していく力の育成を目指し、問題解決力や「時間・空間」「自他」
の意識を育んでいくことが大切である。そのために、本校生活科では、人、社会や自
然を対象にした問題解決を単元構成の軸とし、単元を、願いをもつ、願いを達成する
ために追究活動する、学習を振り返り、生活化していき、新たな願いをもつという学
習過程の中で、「時間・空間」「自他」の意識を育んでいこうと考えた。
(1)願いをもつ
子どもたちが人や社会、自然の対象と出合うと、個々に様々な「思い」(「気づいた
こと」「感じたこと」)をもつ。それぞれの「思い」が高められるような場面構成をす
ることによって、「願い」をもつようになる。1年生では、小学校という新しい環境に
対する大きな期待と同時に不安をもっている。入学以来の活動から、生活時間や生活
空間、自分と他者とのかかわりに対する認識が深まり、子どもたちの行動は豊かにな
りつつある。例えば「いいこといっぱい、ぼくのみち、わたしのみち」では、これま
での安全な通学の仕方を学んだり、遠足など学校の外に出かけたりする活動を通して、
次第に毎日通っている自分の通学路を意識するようになり、「楽しいことを探してみ
たい」「友だちに教えたい」という「願い」をもつようになると考えた。そして、2年
生になるとさらにより広い範囲に興味を示し、自分たちの生活を豊かなものにしてい
こうとする「願い」へと発展していく。例えば「秋を楽しもう」では、自分たちの育
てていたさつまいもが採れたことから、さつまいもを使って、みんなで楽しもうと、
かかわりのあった人たちと楽しむ会をもちたいという「願い」をもつようになると考
えた。
(2)願いを達成するための追究活動の実行
子どもたちは、自分たちの「願い」に対して見通しをもって行動し、自分の目標と
実際の行動を見比べながら、対象をよりよくとらえ継続的に追究活動を実行していく。
追究活動を実行していく中で、働きかけた対象から生活時間や生活空間に対する認識
の広がり、時間の経過に対する空間の変化などに気づいていく。1年生では、活動し
ながら少しずつ自分なりの願いや実現するための見通しをもち、即時的な反応に気づ
きながら活動を進めていく。「いいこと―」では、自分の通学路を表現するとき、
自分の家から学校までを順にたどって順序性を意識したり、行きと帰りの人の様子が
違うことに気づくなど時間の経過とともに変化することを意識したりすると考えた。
2年生では、1年生での経験を踏まえ、自分の「願い」の実現に向けて対象に対して
自分の行動が適切かどうか判断したり工夫したりすることができるようになる。「秋
を―」では、前年に今の3年生から招待されたことから3年生に自分たちの計画に
ついての意見を聞きに行ったり、自分たちが楽しむだけでなく来てもらった人たちに
喜んでもらうように考えたりするようになると考えた。
(3)振り返り、生活化し新たな願いをもつ
自分や友だちの活動から、始めに抱いた自分たちの「願い」が達成できたかどうか
を振り返り、認識が深まっていったことを実感していく。1年生は、入学当初は活動
自体に喜びを感じていたが、次第に自分が目的を達成したことに喜びを感じるように
なる。「いいこと―」では、自分が通学路について見つけたこと、表現したことに
も達成の喜びを感じるが、自分が今まであまり気にしてこなかった通学路の中にも
色々なことがあることに気づき、広がってきた意識を実感できるようになると考えた。
2年生では、さらに、人や社会、自然の本質的な特徴をとらえるようになる。「秋を
―」では、よりよい自然環境への働きかけ方、かかわってきた人たちの違いなどに
気づくことができるようになると考えた。
さらに、学習してきたことを取り入れたよりよい生活を創造していくことによって、
その生活の中から新しい気づきや問題点が生まれ、新たな「願い」から新たな学習へ
と発展していくと考えた。
<参考文献>
松本勝信編著 「生活科授業の創造と実践」(教育情報研究所)「理科教育法」(三晃書房)、
蛯谷米司、増地勝志共著 「生活科の理論と実践」(初教出版)、
嶋野道弘編著 「新しい教育課程と学習活動の実際」(東洋館出版)、
文部省 「小学校学習指導要領解説生活編」(文教出版)
大阪教育大学教育学部附属平野小学校著「学習の個性化における教師の役割」「学習の個性化を支える評価と指導」(東洋館出版)ほか