◇生活科各論
 一人ひとりの成長や伸びの自覚を促す生活科の授業と評価



はじめに
 確かな学びを創り出すために、昨年度は、評価規準を単元レベルにおいて明確化し、活動の中で表出される子どもの姿・育ちを的確に見取るための【評価の視点】を設定し、指導者の評価が子どもの学習に生きるよう研究を進めてきた。【評価の視点】とは、評価規準を、その単元におけるより具体的な子どもの活動・姿として想定したものであり、個々の子どもの行動を見取る際に、フィルターとして働くものである。
 【評価の視点】をそれぞれの単元で設定することで、子どもの姿・育ちを確かな目で見取り、評価を授業に生かすことができるようになってきたが、次の2点が課題として明らかになった。

  @ 積み上げられた単位時間の評価を、如何に子どもに返し、成長や伸びを自覚できるようにするか。
  A 評価を授業やカリキュラムの改善に生かし、学びがいのある学習を如何に組織するか。
 
生活科の学習において、子どもは「こんなことがしたい」「もっと○○したい」という願い・思いをもち、自然的・社会的事象に働きかけていくが、願いの実現に向ける活動の過程において、個々の子どもの資質や能力が発現され、そのことで資質や能力は磨きがかけられ、伸ばされていく。こうした子どもの内面に在る資質や能力が、よりよく発現され、伸ばされていくためには、教師の評価が授業に生かされ、授業と授業が有機的につなげられるだけでは不十分であると考えられる。活動が個の資質・能力の発現によりダイナミックに発展することで、自己成長がなされる【確かな学び】が成立するためには、教師側の評価と子ども側の評価(自己評価および相互評価)が相互に関連し合いながら、個の学習を支えるという状況が必要である。こうした状況を【評価がはたらく授業】と捉え、生活科の学習において評価がはたらけば、個の学習が動的に発展・深化し、自立の基礎が図られるのではという仮説を立てた。そこで、今年度のテーマを「一人ひとりの成長や伸びの自覚を促す生活科の授業と評価」と設定した。


1. 生活科がめざす自立への基礎
 生活科は自立への基礎を養うことを目標としているが、ここでいう自立とは次の3点を意味するものである。
@ 学習上の自立(学習活動を自ら進んで行うことができる。思いや考えを自分の言葉で適切に表現することができる。)
A 生活上の自立(基本的生活習慣・技能を身につけ、身近な人々や社会及び自然と適切にかかわることができる。自らよりよい生活を創り出していくことができる。)
B 精神的な自立(自分のよさや可能性に気付き、困難な問題に出合っても自分なりに解決していくことができる。)
 こうした自立が、個の学習において、対象から学ぶ価値を見出し意欲的に追究活動や表現活動を行ったり、それらの学習活動で得たものを自分の生活に生かしたり、自分を見つめ直すことで、よりよい自分の在り方を考えたりすることにつながっていくのである。
 本校生活科では、自立への基礎を養うために問題解決力及び「時間と空間」「自他」の意識という育ちを大切にしている。

問題解決力
主体的に学ぶ力。(問題発見力、問題追究力、自己評価能力、表現力、判断力などを総合した力)
時間・空間の意識
生き物の成長や季節の変化、身の周りの社会の様子などから、自分たちの生活時間や生活空間を意識すること。(比較、関連づけ、因果、意味づけなど科学的な見方・考え方につながる。)
自他の意識
自分の他者、自分と対象との違いを意識すること。自分と他との違いを認め、尊重しようとする意識。

 子どもは、生活をよりよいものにしようとする願いをもち(問題を見つけ)、主体的に問題を追究し、自分の行動を考察・吟味して新たな願いを見出す中で「見方・考え方・感じ方・行動の仕方」を深めていく。そうした一連の学習活動を積み上げていく中で、自立への基礎が養われるのである。

2. 生活科において、成長や伸びの自覚を促すことの意味
 自然や社会の対象と出合った際、子どもは何がしかの思いや願いをもち、対象に働きかけていくが、こうした思いや願い・対象への働きかけ方は、個の関心・意欲・態度の在りように大きく左右される。子どもは、自分の関心・意欲に応じた働きかけを対象に対してなし、それに応じて対象から働きかけを受ける。こうして、個と対象の間に「対象世界」が開かれるわけであるが、関心・意欲の高い子どもの場合、開かれる「対象世界」が深く、かつ広いものとなる。つまりそこでなされる知的な気付き(本校が想定している時間・空間の意識、自他の意識)は深いものが望まれるのである。
 したがって、関心・意欲・態度を育むことが自立への基礎づくりのために必要になってくるが、ここに成長や伸びの自覚が大きくかかわってくるのである。自分の成長や伸びを自覚できた子どもは、学習の効力感をもち「よし、次の活動ではもっと○○しよう」「こんなこともしたいな」と新たな願いや思いを抱き、主体的に問題解決に向かう。その際、個々の子どもの資質や能力が発現され、磨きがかけられていく。本校生活科が、一人ひとりの子どもが対象に出合ったときに抱く願いや思いを重視するのも、こうした意味からである。一人ひとりに成長や伸びの自覚を促すことで、よりよい生活を創り出そうと、身近な環境に能動的に働きかけ、働きかけの過程で自然や社会の対象に対する「見方・考え方・感じ方・行動の仕方」を深めていく子どもを育てることができるのである。一人ひとりに成長や伸びの自覚を促すためは、評価が子どもの学びにはたらくことが必要である。

3. 「一人ひとりに成長や伸びの自覚を促す生活科」における授業と評価
@ 子どもの行動の背景にある、思い・願い、思考を的確に捉える。
生活科の学習では、子どもが自分の願いや思いをもって、対象に働きかけていくという活動が重視される。つまり、「対象に働きかける」、まさにその活動に個の思いや願い・思考が発現されるのである。活動している際、意図的・無意図的になされる態度、表情、行動の背景に、思い・願いの質や深さ、感じ方や考え方、それまでの生活経験をもとにした【事象の解釈】の仕方、その子の人格が在るわけである。タンポポの綿毛を息で吹き飛ばすという行動でも、綿毛が風に乗って飛んでいく様子に楽しさを感じるA児、遠くまで、あるいは高く飛ばせたことに楽しさを感じるB児、綿毛の下に種があることを知っていて、タンポポを増やすことに楽しさを感じるC児というように、その背景で核となる思い・願いは異なっている。さらには、子どもの挙手の仕方、立ち方、話しているときの声の大きさや目線など、何気ない動きの背景にも、その子の「今」の思いや願いが表れている。そうした仔細な行動の背景を的確に捉え、価値付けるとともに支えて行くことが、自ら学習を深めようとする体勢に整えるためには必要なことである。

A 単元のもつ、教科の本質的なねらいをしっかりつかむことで評価規準を明確化し、「評価の視点」を設定する
 子どもの生活には、学びの素材となる事象が溢れている。さらに事象との出会いを計画的に作ることにより、学びの対象に広がり・深まりも生まれてくる。つまり学ばせたいことは、すべて子どもの中から生ずるのである。したがって指導者は、生活科という教科のねらいを念頭に置き、どの事象を、どのようなタイミングで取り上げればよいか、という視点で子どもの生活を追う必要があるだろう。このように、カリキュラムを単元として具体化し、授業構想をしていくわけであるが、その際、単元がもつ、教科の本質的なねらいを明確にしておかなければ、焦点化すべき方向が見定まらず、這い回りの活動に終わってしまう。さらに子どもの活動を見取る視点がはっきりしていなければ、子どもの伸びや導くべき成長の方向が見えなくなってしまう。評価規準を明確に設定することで、子どもの伸びや導くべき成長の方向が明らかになってくるのであるが、子ども自らが求め、学びを深めていく学習を成立させるためには、子どもが活動の過程で発現させる資質・能力を的確に見取り、交流や対話を組織することで、「どうすればもっとよく育つか」「どうすればもっとうまく作れるか」「どうすればもっと喜びを味わえるか」などの新たな、あるいは質の深まった【思い・願い】をもてるようにしていく必要がある。その際に、評価規準をその単元におけるより具体な子どもの姿・行動として想定した【評価の視点】で子どもの活動を追うことで、個の活動の背景にあるものや伸びるべき方向が見えやすくなるのである。また、「どうして、こういう行動をとっているのだろうか」という目で、個の活動を追うことができるのである。つまり、【評価の視点】とは、その項目一つひとつについて、子どもが到達できているか否かを見取るためにあるのではなく、子どもたちの活動を追い、その背景にある意味を捉えるための、フィルターとして機能するものである。フィルターの網の目が細かければ細かいほど、子どもの様々な動きが指導者に「意味あり」と引っかかるわけである。このように、子どものすべてを掴むことは不可能であるが、少しでもそれに近づけ、個的全体性に迫ることは大切なことであろう。そのためにも【評価の視点】は子どもの学習活動において表出される個の現れをより的確に捉えるためのフィルターとして、機能させなければならないのである。
 1年生の単元「生き物いっぱい附属平野小学校―草花を育てようー」において、思考・表現の観点では「自分なりの発想でよりよく育つ活動を進めている。」という評価規準の下に次のような【評価の視点】を設定している。

○支柱や肥料など必要な準備物を考えている。
○友だちの活動を参考にして、自分の活動をよりよくしようとしている。
○これまでの経験を生かそうとしている。
○その日の天候などを考えながら、必要な世話をしている。

 朝、登校してきた子どもが「先生、アサガオにお水をあげるんですか」と質問してくることがあるが、この質問の背景にある思いや思考を指導者は捉える必要がある。よく生長してほしいという願いがあるからこその質問であるが、「あげていいですか」という言葉を遣っていない。植物の生長には水が必要であるという認識をもち、今水をあげるべきなのか迷っている姿がここにはある。関心・意欲・態度という項目では規準を達成しているが、思考という観点からは、教師のかかわり如何によって子どもの行動・姿が変わる部分である。「君は、どう思うの」という言葉をかけたが、その子はアサガオをもう一度見に行き、「土が濡れていたから、今はあげなくても大丈夫だ。昨日雨だったからね。」と報告しに来た。
 この例のように、【評価の視点】を設定することで、子どもの行動を的確に見取り、その背景にある思い・願い・思考及びその子のもつ成長の課題に応じて必要な支援を行うことができるのである。
 さらに、【評価の視点】を設定し、子どもの活動を追っていくことは、一人ひとりの子どもに活動の達成感・満足感を味わえるように支えていくことであるため、伸びや成長を自覚できるようにするためにも必要不可欠なものとなる。【評価の視点】が伸びや成長を自覚できるように有効に働くためには、子どもの「今」だけでなく、「今までの行動」の軌跡を捉えておくことが必要である。そのために、行動の観察やワークシートの記述された内容の読み取りをもとに、個を追いかけ、記録を積み重ねて行くことが重要となる。

B 個の思い・願いに寄り添い、授業展開を柔軟に図る。
@で捉えた「個の思い・願い、思考」を、単元のもつ教科の本質に照らし合わせ、教科、単元のねらいとするところへ、子どもの活動が自ずから発展していくように、さらに子ども自らが求めるように導いていくことこそが、授業である。その際、まず「個の思い・願い、思考」が、教科、単元の本質に迫りうるかを見極めることが必要である。次に如何なる授業を構想(場の設定、個と個の関わらせ方の構想など)すれば、教科・単元のねらいに子どもの学習活動が必然的に導かれるかを判断する。指導者は、子どもの活動を下から支えることで、自分たちの力でうまく解決できた、自分たちの力は伸びたと達成感・成就感を実感できるようにしていくのである。こうした点から、生活科の授業においては、一人ひとりの子どもに本時のねらいとする学びが成立するよう、授業の中では評価の観点をできるだけ絞り込み、支援を中心に行うべきである。評価のための評価を行うのではなく、個の学びが成立するよう、評価を生かし、達成感・満足感を感じることのできるよう支え、自分の活動の手ごたえ・成長を実感できるようにしていくのである。

 C教科、単元のねらいが達成されたかを評価し、個に対する新たな目標を設定、および授業改善に生かす。
 自らが学習を深めていくように子どもを導いていくためには、子どもが学習活動によって伸びた、成長したということを実感できる場を設定する必要がある。このような【伸び・成長の実感】こそが、次の学習の内発的な動機となって働くのである。個に【伸び・成長】の自覚を促す契機として、次の3つの要素が挙げられるだろう。

個に【伸び・成長】の自覚を促す契機
a.指導者の適切な関わりによって、自覚化を促す。【指導者の評価】
b.振り返る活動で、自覚化を促す。 【自己評価】
c.認め合う活動で、自覚化を促す。 【相互評価】

 まず、指導者の関わりという契機であるが、生活科の学習では、個の活動そのものにそうした資質・能力の【伸び・成長】が発現されるため、活動の瞬間・瞬間に発現されては消え行く【伸び・成長】を見取り、個に自覚化できるように関わることが求められる。発現される【伸び・成長】を【伸び・成長】と同定するには、的確な個の理解(形成的な評価に基づくもの)が必要であり、形成的評価によって、個に応じた支援策、導くべき方向性が決定される。【評価の視点】で子どもの活動を追っていくことで、発現される資質・能力の【伸び・成長】を見極め、タイミングよく個に返していくことが、【伸び・成長】の自覚化につながると考えられる。その際、形成的評価を積み重ね、総括的な評価としてまとめたものを子どもに返すことも必要となる。活動の様子をビデオや写真に撮影しておき、個の変容を視覚化できるようにしておくことも、有効な手立てとなるだろう。これらのデータは、自己評価・相互評価の契機においても、有効に活用できるものともなる。
 次に、自己評価という契機であるが、単元の終末段階に限らず、適切な場を見つけては、自己の活動を振り返る態度を育成することが大切である。自己を見つめ直すことで、【伸びや成長】が自覚化できるのである。活動ごとに記入しているワークシートなどもファイリングしておき、自分の学習の足跡を辿っていくことも、【伸び・成長】が視覚化しやすくなる。こうした活動が、やがてポート・フォリオに発展していき、子どもが必要に応じて、自ら自分の学習活動を振り返るという行動につながっていくと考えられる。生活科の学習においては、自立の基礎づくりという観点から、指導者の意図的・計画的な促しによる振り返りの活動をすることで、振り返ることの意味・価値に気づき、学習の方法として定着するよう働きかけていくことが重要であろう。
 最後に、相互評価という契機であるが、活動の中で交流・対話が活性化するよう、意図的・計画的に構想を練ることが大切となる。一人の子の発見や気付き、課題解決の方法、活動などがもつ意味や価値をどう感じたのか、出し合う場を組織していくのである。友だちから認められたり、賞賛されたりすること、反対に改善の方向が示唆されたりすることで、自己認識が強化されたり、あるいは修正を迫られたりする。そこに自信が生まれ、あるいは自己を厳しく見つめ直すという体勢が育っていく。つまり確かな自己評価能力が育っていくのである。
 さらに、成長や伸びの自覚を促す場の設定として、次の2つのものが挙げられる。

@ 毎時間、活動を振り返り、活動の手ごたえや達成感を実感できる場を設定する。
A 友だちどうしで認め合う交流の場や【他者】から認められる場を設定する。

活動を終えた後に、ワークシートを記入することで、自分の活動を振り返る。そうした成果や困ったことを交流しあうことで、成長や伸びが自覚されたり、新たな成長や伸びを志向する「願いや思い」を持ったりすることができるのである。
 2年生の単元「夏野菜を育てよう」では、夏野菜を栽培、収穫するという活動に止めず、子どもたちの願いや思いをもとに、収穫した野菜を給食の食材として使ってもらうと同時に、自分たちの活動の成果を1年生に発表するという場を設定した。「1年生に、野菜を作りたいという思いをもってほしい」という新たな願いを核にし、カリキュラム改善を施した授業構想を図ったわけであるが、活動に他者を巻き込み、【他者】というフィルターを通して、自分たちの活動の手ごたえが確かめられる場を設定するのである。
【他者】を活動に巻き込んでいくことにより、活動がよりダイナミックに展開するだけではなく、自己評価や同年齢の集団内での相互評価では気付けない自分たちの成長・伸びを実感したり、自分たちの評価をより客観的なものにしたりすることが可能となる。【他者】からもらった感想などをファイリングしておき、必要に応じていつでも見ることができるようにしておくことで、振り返りを学習の一つの方法として主体的に行うことができるだけでなく、成長・伸びの実感を強化することもできるのである。このように、【他者】とのかかわりを組織化することは、学びがいのある学習を成立させる上で有効な方法であると考えられる。