◇体育科

自分の体と対話する子どもを育てるカリキュラムの構築

はじめに

 昨年度は、運動を自分のものにしていく子どもの側から体育科という教科を見直し子どもがつかむ動きの感じを軸にしたカリキュラムの構想を目指して実践を通した研究を進めてきた。その結果、次のような成果を得ることができた。

 ・動きの感じをつかみ、それを友だちと共感しながらよりよい動きを求める子ども  の姿が見られるようになった。

 ・子どもがつかむ動きの感じをもとに従来の運動領域を見直した結果、3つの運動  の系列とその中の6つの運動のまとまりを見出すことができた。

 ・子どもの育ちをもとに6つの運動のまとまりの構造を想定し、カリキュラムのア  ウトラインを明らかにすることができた。

 そこで、今年度は、6つの運動のまとまりの構造を実践を通して検証していくとともに、発達に応じて子どもがどのように動きの感じをつかんでいくのかをさらに明らかにすることによって単元の内容の設定と配列とを具体化しようと考え、教科テ−マを「自分の体と対話する子どもを育てるカリキュラムの構築」と設定した。

1 体育科が目指すもの

 1 体育科の本質的目標

 従来より体育科では、体力や運動能力の向上と、生涯にわたって運動に親しむ態度や能力の形成が目標にされてきた。私たちは、これらの点をふまえつつ、さらに、運動を楽しむ子どもが学習する過程で自ら育んでいく態度や能力に注目しようと考えた子どもは、ある運動をできるようになろうとするとき、動きの全体像を思い描きながら(動きのイメ−ジ)、体の内部に生じる様々な反応(動きの感じ)をつかもうとする。このように、動きのイメ−ジを明確にし、動きの感じをとらえて構造化する力を私たちは「動きの内観力」と呼ぶことにする。子どもは動きの内観力を駆使し育んでよりよい動きを追求し、また、友だちと動きの感じやイメ−ジを共有し、互いの動きを高め合って運動を楽しんでいく。このような、自分や友だちの体との対話ともいうべき学びこそ体育科独自のものであり、私たちが大切にしたいと考えるものである。そして、このような自分の体を鋭く見つめる態度や能力は、自他の健康への関心やそれを築くための実践へとつながっていくであろう。そこで、私たちは、体育科の本質的目標を「自ら動きを見つめ、体に対する感受性を研ぎ澄ますことによって、よりよい動きや生命のあり方を具現化できるようにすること」ととらえることにした。

 2 体育科が目指す子ども像

 上述の本質的目標が実現された姿として、以下のように目指す子ども像を設定した。

・運動の快さを感じ、意欲的に取り組む子ども。

・自分の動きを感じ取り、意識し、自分なりの工夫を重ねてよりよい動きを追求する   子ども。

・積極的に友だちと交流することで互いの動きを高め合う子ども。

・健康な体のあり方に関心をもち、自他の生命を大切にすることのできる子ども。

2 カリキュラム構築の視点

 カリキュラムの構築にあたっては、動きの内観力の育ちとそこから導かれる活動の指向性、活動の行い方を自分の体と対話する子どもの育ちととらえ、これを縦軸に位置づける。また、横軸には、運動の系列・まとまりを位置づける。

 1 自分の体と対話する子どもの育ち

 自分の体と対話する子どもの育ちを表10−1のようにとらえた。上述のように、動きの内観力から活動の指向性や活動の行い方を導き出すと、低、中、高学年の子どもの学びの育ちは、あるキーワードで表すことができる。すなわち、低学年は「見つける」、中学年は「つなげる」、高学年は「組み立てる」というものである。

         表10−1  自分の体と対話する子どもの育ち

 2 運動の系列・まとまり

 横軸には、学ぶべき内容が位置づくことになる。すなわち、「時間・空間の構築」「動作・技の協応」「もの・ことの表出」の3つの運動の系列に加えて、「健康・安全の理解」(いわゆる保健領域)である(表10−2参照)。

           表10−2  運動の系列・まとまり

 「健康・安全の理解」については、低学年では、3つの運動の系列の学習の中で、自分の健康状態や学習の場の安全に注意することがその内容となる。しかし、自分の体を客観的に見つめることができるようになる中学年以降においては、発達段階に応じて独自に単元を構成し、学習を進めることが必要になると考える。また、運動を通じて自分の体と対話する3つの運動の系列の学習は、健康の保持・増進という視点から自分の体を見つめる「健康・安全の理解」の学習を背景にしていると考える。そして両者は、互いに関連しながら体への感受性を高め、よいよい生命のあり方を目指すものである。そこで、こうした考えのもとにカリキュラムの構造をとらえ、以下の図に表した。          

           図10−1  カリキュラムの構造

3 カリキュラムの実際

 1 運動のまとまりにおける動きの感じの発展の道筋

 上述の子どもの育ちを縦軸に、運動の系列・まとまりを横軸に位置づけると、低・中・高学年それぞれに応じた運動とつかんでいく動きの感じを見出すことができる。実際の単元の内容設定や単元の配列は、こうした運動のまとまりにおける動きの感じの発展の道筋に合わせて行う必要がある。そこで、以下に、「走る・跳ぶ」運動のまとまりと「支える・回る」運動のまとまりを例に、運動のまとまりにおける動きの感じの発展の道筋とそれらの関連性について述べる。(図10−2参照)

 まず、「走る・跳ぶ」運動は、這ったり歩いたりすることとならんで基本的な運動であり、動きそのものは就学以前に身についている。また、これらの動きは子どもの日常の遊びにも多く見られ、その中で方向や速さ、リズムを変えて走ったり、とびあがる、とびおりる、踏み切る、とびこすなどの動きの感じをつかんでいく。そして、こうした感じを意識しながら学習の場で運動経験を積み重ねることによって、子どもの動きは、ピッチやストライドをコントロ−ルした「走」や、遠く・高く・リズムよくという発展の方向をもった「跳」へと分化してくる。中学年になると、低学年でつかんだ走のコントロ−ルに踏み切りやとびあがり、とびおりの感じを統合してより遠く、さらに、より高くとぶ動きの感じをつかんでいく。また、高学年になると、数台のハ−ドルのあるコ−スを走ることを一まとまりの動きとして感じ取り、表現することができるようになる。        

    図10−2  動きの感じの発展の道筋と単元の設定

 次に、「支える・回る」運動のまとまりでも、低学年の子どもたちは、体育の学習はもとより、日常の遊びの中で、這う、転がる、ぶら下がる、振る、回る、支える、手をついて跳ぶなどの感じをつかんでいく。中学年になると、例えば鉄棒をしていても大きく振りたいとか続けて回りたいといった課題意識がはっきりしてくる。そこで低学年でつかんだ回る感じに、頭の振りをつなげてダルマ回りをしたり、同様に低学年でつかんだ支える感じにダルマ回りの回転加速の感じをつなげて台上前転をしたりというように技を自分のものにしていく。さらに、足の振りをつなげて支持回転、そして、支えと脚部の振りを強めつなげて腕の突き放しと脚部のはねで頭はねとび(はねおき)へと発展する、高学年になり、筋力がつくと、さらに強い突き放しで体を反転させる切り返し系の技へと発展していく。このように、低学年の個別に存在するものから、それらをつなげてより大きく、力強く、ダイナミックな方向へと発展していくこれらの動きが「支える・回る」運動のまとまりである。  上述の台上前転や頭はねとびの助走には、「走る・跳ぶ」運動でつかんだ助走を生かした踏み切りの感じが関係してくる。この他、「かわす・とらえる」運動のまとまり(リレ−、ボ−ルゲ−ムなど)では、「走る・跳ぶ」運動や「操る・合わせる」運動(用具操作のまとまり)の学習でつかんだ感じをベ−スにして、状況判断を繰り返しながら自分の目的に最適の間合い(スペ−スやタイミング)をつくり出す学習が進んでいくことになるのである。

 2 単元配列のあり方

 単元の配列にあたっては、上述の運動のまとまりにおける動きの感じの発展の道筋に沿うという原則のもとに、以下の2つの視点から考えることにする。1つめは関連した単元を組み合わせたり連続したりして配列するもの、2つめは季節性や同一の運動のまとまりの中での順序性を考慮して一定の期間をおいて配列するものである。 ボ−ルを操作する「操る・合わせる」運動と「かわす・とらえる」運動は、関連した単元として組み合わせたり連続したりして配列するのが望ましいと考える。これはボ−ルゲ−ムではボ−ルを投げたり受けたりする動きの感じをつかんでいることが楽しさに触れるために大切な条件になっているからである。また、ボ−ルを投げたり受けたりする動きの巧拙は経験の差に起因するものである。そこで、十分にボ−ル操作ができる単元を学習した後にそこでつかんだ感じを生かすことができることも考慮して、ボ−ルゲ−ムの単元を配列するのである。以下に、2年生と4年生の単元配列の例を示す。 これら以外の単元は、一定の期間をおいてまとまった時数をもった単元を配列するようにする。その際には、1・2年、3・4年、5・6年の2年間の大きなスパンで考え、子どもがつかむ動きの感じの発展性に沿った順序で配列する。例えば、「走る・跳ぶ」運動では、幅跳び(「遠くへ跳ぼう」)は3年、高跳び(「高く跳ぼう」)は4年に配列する。単一の学年で行うことによって時数が確保でき、子どもにとっては片足で強く踏み切って跳ぶ感じをつかんで楽しむことができやすくなる。また、これらの運動が「走る」と「跳ぶ」の組み合わせであることから考えて、子どもたちはまず、助走のスピ−ドをそのまま生かして踏み切り、空中や着地の姿勢、動作をコントロ−ルする感じをつかんで遠くへ跳ぼうとする。そして、幅跳びでつかんだ感じを生かして、体を上に引き上げる踏み切りや空中での動きを自分のものにしていくのである。そこで、幅跳び→高跳びの順に配列する。

 また、「まねる・表す」運動や「健康・安全の理解」(保健領域)では、他教科、道徳、特別活動、総合的学習との関連が考えられる。その場合には、他教科・領域との関連が十分に図れるように実施時期を検討し、単元を配列することが必要である。

 3 厳選した内容設定のあり方

 単元を設定するにあたっては、低・中・高学年の子どもの育ちから導かれる「活動の喜び」・「達成の喜び」・「創造の喜び」を満たす内容に焦点化することが厳選の視点になる。

 低学年(「活動の喜び」)

 この時期の児童は、運動欲求は強いが自分の動きに対する課題意識がまだ低い。そこで、低学年の学習は、興味関心に応じて様々な動きに出会う中でそれに特有の動きの感じを感じ取ること、つまり、いろいろな動きの感じを「見つける」ことを保障できるものである必要がある。活動欲求が強く、考えるよりもまず行動する低学年の学習では、まず子どもが「やってみたいな」と思うような場の構成が不可欠である。そのためには、アニメ、ゲ−ム、童話など子どもが日常の生活の中で関心をもっていることがらに学習の設定を求める等の工夫が必要である。そうした場でイメ−ジを豊かにもって活動することでより多くの動きの感じを見つけていくのである。

 中学年(「達成の喜び」)

 中学年になると、活動への意欲に加えて、技能向上への意欲が強くなり、活動を粘り強く続けることができるようになる。そのため、子どもたちは、つかんだ動きの感じをつなげて、一まとまりの技を達成することに喜びを感じるようになる。そこで、この時期には、技を達成を通して、自分の体との対話の大切さを実感できるようにすることが必要である。また、自分なりの言葉で動きを客観的に把握することによって友だちとの学びの交流が容易になる。そこで、達成の喜びを味わえる内容の設定とともに、友だちと教え合える場の工夫が必要である。  一方、中学年では、技の達成を通して体との対話によって体に対する感受性を研ぎ澄ますだけでなく、生活における自分の体に直接目を向ける単元の設定も必要であると考える。すなわち、毎日の生活における自分の健康や、体の成長に着目し、望ましい生活習慣を形成し、性に関する内容を含む体の発育や発達についての正しい理解ができるようにすることがねらいとなろう。

 高学年(「創造の喜び」)

 新しいことができるようになるというよりは、それまでにできるようになっていることの質を高めたり、楽しみ方を組み合わせて新たな楽しみ方を創り出したりすることができるようにすることを保障できるような単元の構成が必要である。  また、高学年では、自分の健康を環境や社会の状況と関係づけて考え、自分なりの問題解決ができることが大切である。けがの防止や病気の予防、心の健康など、毎日の生活に関わる内容とともに、薬物の乱用等の問題についても、正しい判断と行動ができるようにするため、総合的学習との関連を図っていくことが必要である。  この他、高学年になると、子どもなりに社会の様々な環境と関わる中でストレスがたまり心と体が解放されない状況が積み重なっていることもある。そこで、自分でも気づかない姿勢のゆがみや体の緊張などを感じ取ることができるように、2人組になって手足をゆするなどの体ほぐしの運動をウオ−ミングアップ等に取り入れるようにする。内容設定のあり方を以下の表10−3にまとめたので参照されたい。

            表10−3  内容設定のあり方