◇体育科 平成15年度論 評価を生かした「身体と対話する授業」の改善
左近まどか 安原 巧
はじめに
昨年度は、授業の中で、「子どもの育ちをどのように具体的に評価するのか」といった点を明確にもって子ども一人一人の確かな学びをつくりだすための評価のあり方を考えた。そして実際の授業の中で「何を見て、どう評価していくのか」を観点別評価と照らし合わせ、評価方法が妥当であるのかを実践を通して検証していった。観点別評価の結果から子ども一人一人の学びの姿をとらえ、より一層具体的に支援しようと考えたのである。その結果以下のような成果と課題が明らかになった。
成果
○ 昨年度までに見いだしてきた評価規準の妥当性を授業実践で検証すると共に、それぞれの運動の系列に応じた具体的な評価規準を設定することができた。
○ 観点別評価のあり方、及び具体的な評価方法について提案し、そのおよその妥当性を見ることができた。
課題
◇評価規準や評価方法について実践を通して検証を重ねる必要性がある。
◇観点ごとに評価した結果を生かして、より適切な支援を具体化する必要がある。
◇評価を生かしこれまでの活動構成や単元配列等の妥当性を見直す必要が出てきた。
そこで、今年度は、評価を生かし、たえず活動を見直していくことで身体と対話する子どもが育つ授業をさらに深めて構築していきたいと考え研究テーマを「身体と対話する授業の評価を生かした改善」として実践、検証を重ねていこうと考えた。
1.体育科で育てたい豊かな子どもの姿
体育の授業の中で、子どもたちは自らの動きや身体を意識的に感じるとともに友だちの動きをまねることで、その動きを意識的に感じ取り、動きの感じを身につけていくことができる。例えば鉄棒運動で、ダルマ回りの際、回転に勢いがなくて困っている子どもに、首の振りが小さく、勢いが足りないことに気づいた友だちが「もっと遠くで『うん』といったら」といって、首を大きくふって回って見せた。その動きをまねて試していく中で、子どもは首を振り大きく回転する動きの感じをとらえるようになり、ダルマ回りを習得することができた。このように動きの感じを自分の身体で感じ取り、そこから得た動きの感じを自分のものとしたり、相手の動きや身体の状態を自分の身体で起こっているように感じあえる豊かな子どもの姿を体育科では目指し、以下のような姿を大切にしている。
・自分の身体と対話する姿 −運動あるいは静止している時、自分の動きや身体からどのような感じがするのかを感じ取り、そこから得た感覚を手がかりに身体のよりよい動きやあり方を追究していく姿。
・他者の身体と対話する姿 −自分の身体と対話し、よりよい動きを追究していく中で、対話により感じ取った動きの感じを軸に子どもたちがつながって、対話をより深め、動きをよりよいものへとしていく姿。
2.育てたい子どもの姿からとらえた評価観点と規準
^ 【学ぶ態度】【思考・判断】【技能】【健康・安全の理解】の4つの観点
身体と対話する力が育つと、子どもの中には「学ぶ意欲」「思考・判断」「動き」「知識」の高まりや深まりが見られるようになる。そこで、意欲をもって自ら運動に向かい、身体と対話しようとしている姿勢を【学ぶ態度】、身体との対話がどのようになされているかを【思考・判断】身体との対話が動きに現れた姿を【技能】として評価していく。また、主に保健領域の【健康・安全の理解】は知識的な理解と共に運動領域と同じ身体の学びとして上記の3つの観点を合わせ、評価していくものと考えた。
_ 身体と対話する力の現れ(評価規準)
体育科で育てたいものは身体と対話する力であり、授業の中で子どもたちの活動を具体的に支援していくためには、指導者自身が目指すべき子どもの姿を具体的に持っておかねばならない。これは、指導者が目の前の子どもが今、どのような育ちの姿を見せているのかを、発達の過程として見極め、その力を伸ばすために、どのような支援が行えるのかを指導者自身がはっきりと持っておかなければいけないからである。そこで、これまでの実践から、それぞれの運動のまとまりごとに期待される身体と対話する力が現れた子どもの育ちを3つの観点で具体的に表した。 このような姿を授業の中で逃がさずとらえ評価することを通して、具体的な支援をしていきたい。ただし、この際、3つの観点別評価を別々のものとして考え支援するのではなく、観点別評価の結果を重ね合わせてみることと観点毎の評価のバランスからその子の現状を見極め、支援することが必要だと考えている。以下にその支援について考察していきたい。
3.指導と評価の一体化
身体と対話する力を伸ばしていくには、今の子どもの姿を正しくとらえ、タイミングよく支援していくことが必要となる。そして子どもの姿を正しくとらえるのに有効であるのが、観点別評価であると考える。ここでは、3年「幅跳び遊び」の実践を例にとり、各観点の問題の表れ方、それに対して行った支援、その後の子どもの変容から指導と評価のあり方、次に学習計画に基づいた評価計画のあり方を探っていく。
(1) 指導と評価のあり方
@【学ぶ態度】に対する支援
これまでの実践から、学習の中で真っ先に支援が必要であるのは、【学ぶ態度】に問題が見られる子(楽しんでいる様子が見られない子)ととらえている。活動意欲がなければ、まず活動に取り組むことができない。これをふまえ、この学習では活動の場を工夫したため、最初から全員がこわさを持つことなく、楽しく活動に取り組んだ。
学習全体を見ると、学習の初期や、学習が進む中で【思考・判断】や【技能】の高まりに応じて、違う場に挑戦し始める時にこわさを感じとまどう姿や【技能】の高まりに時間がかかることから運動に対する姿勢が低下しがちな姿が見られやすい。そこで、新しい場での活動に挑戦する初期には【学ぶ態度】への働きかけを大切にしたい。
A【技能】・【思考・判断】に対する支援
【学ぶ態度】の次に支援が必要と考えられるのが、【技能】と【思考・判断】のバランスに問題が見られる姿である。これは、@【技能】はあるが、【思考・判断】が少ない姿(できるがわからない姿)、あるいはA【思考・判断】があって【技能】の高まりが見られない姿(できないがわかっている姿)である。両者の中でも早急に支援が必要であると感じるのは、@のケースである。以下二つのケースを見ていきたい。
〜@のケース〜 B児は、始めから思い切った踏み切りができ、飛距離もある跳躍ができていたため、自らの動きを振り返ったり、友だちの動きの変容に注目したりすることなく、同じ動きのままで活動を続ける姿が【思考・判断】に見られた。しかし、距離や高さといった結果ばかりに注目しているため、越えられない段階までくると、どうしてよいかわからなくなっていた。そこで、友だちにB児の動きを見てもらい、動きのよさや体のどこが物に当たっているか等、感じ取ったことをB児に伝え、同じ視点で友だちの動きを見て、感じ取ったことを伝えるように働きかけた。B児は自分の課題を見つけると同時に互いに働きかけるよさを感じ、意欲的に運動に取り組み始めた。
@のような場合、自分で判断し、工夫していく喜びや目指すところが見えないため、技能が高まらず、活動を続けていくうちに意欲の高まりも停滞してくることが多い。
〜Aのケース〜 C児は、熱心に活動し、友だちの動きも意欲的に感じ取ろうとするが、それがなかなか動きの高まりにつながらない姿が【技能】に見られた。意欲的に運動に取り組んでいるが、徐々にその表情や動きにあせりが現れ始めた。そこで、友だちの動きを横から感じ取ろうとすることに加え、課題となる技能を修得しやすい場で試したり、同じ課題を克服したばかりの友だちの跳んだ後にすぐ、まねて跳んだりするように促した。C児は徐々に自分の身体でその感覚を体現していき、できる喜びをつかんでいった。
Aのような場合、意欲的に自ら学んでいこうとするが、【技能】の高まりが見られるのに時間がかかりすぎると、次第に意欲が低くなっていってしまうため、安心して見ていてはいけないのである。
以上のように、指導者は子どもの姿に問題を感じた時、何が原因かを見極め、働きかけた。原因は様々であるが、どの評価観点における問題であっても、結果的に【思考・判断】に働きかけていくことで問題が解決へと導かれた。これは、全ての単元で【思考・判断】を育もうと、身体と対話する力が軸となるような活動を構成し、支援しているためであり、逆に言えば、活動構成や支援が有効であれば、【思考・判断】が全ての観点の軸(身体と対話する力の軸)となるからであると考えられる。
(2)学習計画に基づく評価計画
子どもの現状を早い段階で把握するには、学習計画に基づく評価計画を持つことも必要である。例えば、子どもが運動を受け入れる段階において指導者としては、まず、【学ぶ態度】を把握して全ての子が活動を理解できるように、次に、全ての観点を把握して現状を明らかにすることで全ての子が本質的に楽しい活動へ向かえるような支援の方向を明確に持つ。同時に、この間の子どもの活動自体、全ての子どもが今から行う運動の楽しさにふれるものを目指す。このように評価を行っていくことで、子どもに応じて適切に支援すべきタイミングや支援のあり方が見えてくるのである。
4.観点別評価から見えてくるもの〜活動を見直す目〜
(1)今ある子どもの学びの姿
先に述べたように、観点別評価を具体的に行っていくと、現在、その子がどのような状態にいるのかが見えてくる。「どのような学びの道筋におり、今、何を求め、何につまずいているのか」は、観点ごとにばらばらに見えてくるものではなく、運動領域で言えば、【学ぶ態度】【思考・判断】【技能】それぞれでの評価を重ね合わせ、関連を探っていくことで見えてくる。この観点別評価を重ね合わせることで見えてくる観点ごとのバランス(図10−3)が「今の子どもの姿」を表していると考える。
(2)発展的課題の設定
こどもの観点別評価結果のバランスから「今の子どもの姿」をとらえると、次は子どもがどこにいるのかを設定した評価規準によって子どもの姿をとらえる。これにより、子どもがどの段階にいるのかが把握でき、一人一人に支援していくべき次の課題が見えてくるのである。評価規準はそれぞれの運動における身体との対話の深まりにより観点ごとに設定されている。
評価規準は思考・判断の質的転換点をとらえた子どもの姿で表される。「しっぽ取り鬼」の学習は1・2年で行われ、時間数の関係から各学年の評価規準も活動によって切ることになる。
A規準に達した子も次に目指すものが持てるよう、支援していくためにも、思考・判断の質的転換点を明確にとらえ、次にめざす運動の活動の場が必要であるのではないだろうか。このように、観点別評価のあみに子どもをかけて見て、評価規準によりその子の位置をとらえることで、支援すべき現状が把握できると共に支援すべき方向が具体的に見えてくる。このようにして、今ある子どもの学びの姿を見極めることにより、その時に必要な支援が行えるのである。
(3)評価結果を生かしたカリキュラムの改善
これまでの実践より、観点別評価からは、指導内容及び指導者のあり方も評価できると考えている。例えば、【学ぶ態度】からは、活動構成や支援の見直しの必要を感じさせられる。運動に楽しく取り組めない子どもの姿には、個人的な姿勢の問題ではなく、「場がこわい」「ルールが難しい」「おもしろくない」といったような、とまどいの姿が見られることがある。その原因は、活動構成自体に無理があったり、子どもの学びに即していなかったり、その子の今にあった支援が学習の中で行われていない等の可能性があることが多い。また、【思考・判断】からは場づくりや単元の流れ、支援の見直しの必要性を感じることがある。これは、予測していた思考・判断の深まりが子どもの姿から感じられなかった時に、学習の流れの不自然さとして見えてくる。身体との対話の深まりに即した流れであれば、こうした不自然さはないはずである。【技能】からは、活動構成や単元の配置、カリキュラム全体等の見直しの必要を感じる。子どもの育ちを縦に連続して見たときに、身についている技能を最大限に生かし運動に取り組めていない姿や、活動に必要な技能を自分のものとしていない姿から見えてくる。例えば昨年度の3年「越えろ!アマゾン川」の学習では、最初の場設定で殆ど全員が意欲的に活動に取り組み、片足で踏み切ることのよさに気付いていたため、すぐに片足で踏み切るようになるだろうと局面ごとの場を設定していた。しかし、第2時を終えて片足で踏み切って跳ぶという動きにいく前段階の動きの感じをとらえておらず、片足で踏み切ることができない子がいた。そこで、活動を構成する段階で、低学年からのつなぎの学年であることを動きの高まりの中でも考えることの必要性を改めて感じ、自然に片足で跳ぶ感じがつかめる場を場設定に取り入れたのである。
このように活動を見直していくことにより、1〜6年のカリキュラム全体の構成や一年間の単元の配置や時間配分、活動構成等における課題が明らかになり、改善していくことができるのである。こうしたことを指導者が絶えず自己評価し、それを生かし、真摯に見直していくことで、よりよい授業づくりを目指していきたい。
*図や具体例を挙げた説明については省かせていただきました。
本校研究発表会<平成15年10月24日(金)>では資料を配付しますので是非おいでください。