平成14年度体育科各論

身体と対話する授業と評価の改善

はじめに

 昨年度は、身体と対話する力を発揮した子どもの姿をどのような観点でとらえ、授業の中でどのように評価していくのかを評価規準を想定し、実践を通してその妥当性を検証していった。その結果、次のような成果と課題が明らかになった。

成果 ○育てたい子どもの姿から4つの観点を見出し、各領域ごとに評価規準を設定することができた。

○設定した評価規準を元に子どもたちに働きかけた結果、身体との対話が深まる姿が見られたことから、妥当性を確かめることができた。

課題 ◇よりよい授業を目指し、実践を重ねる中で評価規準を確かめていく。

 そこで、本年度は授業の中で具体的に子どもの育ちをどのように評価するのかといった点を明確に持って実践を行っていきたい。そうして評価した子どもの姿から、身体と対話する力の育ちを見極め、よりよい授業をめざし、評価のあり方を改善していきたいと考え、本年度研究テーマを「身体と対話する授業と評価の改善」とした。

1 体育科で育てたい豊かな子どもの姿

 体育科では、自ら運動に取り組み、身につけ、習得するといった身体の学びを自ら高めていくと同時に、相手の身になって感じ合える姿こそ、育むべき豊かな子どもの姿であると考えている。そこで、以下のような二つの姿を大切に考えている。

図10−1 体育科で育てたい子どもの姿

@ 身体と対話する姿

運動あるいは静止している時、自分の動きや身体からどのような感じがするの

を意識的に感じ取り、そこから得た感覚を手掛かりに身体のよりよい動きやあり

方を追究していく姿。

A 身体との対話を通し、つながっていく姿

自分の身体と対話し、よりよい動きを追究していく中で、感じ取った動きの感

じを軸に子どもたちがつながって、対話をより深め、動きをよりよいものへとし

ていく姿。これは、身体と対話する力が共創的実践力として現れた姿である。

 身体と対話する力は、元々子ども自身が持っているもので、運動の中で感じ取ったものを生かし、感覚を高めていこうとすることでさらに育まれていく。そして、その対話する力を発揮することによって、互いの身体から相手の状態を感じ取ることのよさを体感していくのである。子どもたちは、自ら運動を学び取ることで運動する喜びを感じることができ、相手の身になって感じ合えることで、共に学び合うことのすばらしさを共に感じ合っていくことができるのである。これが、体育科で育むことのできる共創的実践力である。そこで、このような姿が多く見られる授業を構成していきたいと考えている。

2 育てたい子どもの姿からとらえた評価観点と規準

(1)「学ぶ態度」「思考・判断」「技能」「健康・安全の理解」の4つの観点

身体と対話する力が育っていくと、子どもの中には「学ぶ意欲」「思考・判断」「動き「知識」の高まりや深まりが見られるようになる。(図10−2)そこで、身体と対話しようとする意欲や姿勢を【学ぶ態度】、身体との対話がどのようになされているかを【思考・判断】、身体との対話による思考・判断が動きに現れた姿を【技能】として評価していく。また、主に保健領域の【健康・安全の理解】は、知識的な理解と共に運動領域と同じ身体の学びとして上記の3つの観点を合わせ、評価していくものと考えた。

図10−2 子どもの姿からとらえた観点

図10−3 身体と対話する子どもの姿

(2)身体と対話する力の現れ

身体と対話する力を運動の中で育んでいくためには、単元を構想する時点で、教師自身が学習の中で現れるだろう身体と対話する子どもの姿を想定しておかねばならない。(図10−3)さらに、授業の中で子どもたちの活動を支援していくためには、活動の中で目指す子どもの姿をより具体的にもつ必要がある。そこで、これまでの実践から、それぞれの運動のまとまりごとに期待される身体と対話する力が現れた子どもの育ちを4つの観点で具体的に表した。(当日配布資料参照)このような姿を授業の中で逃さずとらえ、支援し、評価していくことで身体と対話する力を育んでいくことができると考える。

3 学ぶ喜びを生む授業と評価のあり方

次に、子どもが日常的に自ら主体的に学ぶ喜びを感じられる授業を行うために、子どもをどのように評価し、どのように働きかけることで何が高まり、学ぶ喜びを感じられるようになるのかを運動領域を例にして述べていきたい。

運動の中で、指導者が子どもたちを【学ぶ態度】【思考・判断】【技能】といった観点で評価するのは、指導者が子ども一人一人が確かな学びを身に付けたかどうかを見極めることに主眼があると考える。そして、その結果を次の指導に生かしていくのである。確かな学びを身に付けることは、子どもにとっての学ぶ喜びにつながるだろう。しかし、子どもの中では3つの観点が分かれているわけではなく、渾然一体となった姿で現れてくる。では、指導者はどうやって評価すべき支援の対象を見つけるのだろうか。学習の中での学びは全て子どもの動きに現れてくる。指導者は、子どもの動きから、その子どもに何が必要であるか判断し、働きかけるのである。学習の中で真っ先に支援が必要なのは【学ぶ態度】に問題が見られる子どもであり、次は【思考・判

 図10−4 観点別評価を生かした指導のあり方

断】【技能】に問題が見られる子どもである。そこで、指導者は、まず「楽しそうに運動に取り組んでいるか」そして、「わかって、できているか」の2点から、子どもたちの動きをみとって働きかけていくのである。指導者は、この2点に的をしぼり、支援し、評価していくことで、子どもたちの姿が明確にとらえられるようになり、自然に学びの全ての観点を評価し、働きかけていくことができるようになるのである。

(1) 一人一人の学びをうながす働きかけ

ここでは、授業の中で見られた子どもの姿と指導者の働きかけによる子どもの変容から、それぞれの観点の特徴をとらえ、いつ、どのように評価することがより子どもの育ちに生かされるのかを明らかにしたい。

中学年の『鉄棒運動』を例にとって3人の子どもの姿から考えてみたい。

A児 単元の始め頃、鉄棒にふれているかと思えば、すぐ離れてやめてしまう等、問題が【学ぶ態度】として現れた。そこで、まずAと対話し、なぜ「やりたくない」状態になっているのか原因を探っていった。原因は、「痛い」「こわい」(場)、「うまくできない」(技能)といったものであった。そこで、補助具で場の工夫をすると同時に、うまくいく時の身体の感じを補助して体感させ、なぜうまくできないのか(思考・判断)を自分の身体から感じ取るように働きかけていった。すると、少しずつ「わかる」ようになってきたAはおもしろさを感じ、すすんで取り組むようになり、自分が「うまく」なってきたことを感じると技に何度も何度も挑戦するようになっていった。

ここから、【学ぶ態度】は、【思考・判断】が深まるにしたがって深まっていくことがわかる。しかし、自ら進んで活動していこうとする姿勢は常に大切にしたい。そこで、単元の学習を総括する際には、各時間の評価結果を平均してみていくのが適切であると考える。

B児 技への意欲的な挑戦が続けられたが、技がなかなか上達しないため悔しくて泣き出してしまうというように、問題が【技能】として現れた。Bをよく見ると、熱心に何度も何度も繰り返し挑戦していっているのだが、決して友だちの動きを見ようとしないし、自分の動きを見せまいとしているのに気がついた。Bは技をできるようになりたいのだが、結果ばかりに注目し、「なぜうまくいかないのか」という過程に注目していなかったのである。そこで、同じようにうまくできずに困っている子とできている子の動きを見比べて、アドバイスをさせた。Bのアドバイスで友だちがうまくできるようになると、喜び、自分も同じ点に気をつけて取り組んだ。その後も、友だちに見てアドバイスをもらい、結果、その技ができるようになったのである。

ここから、【技能】は、単元途中までは、運動経験の違い等による差が見られるが、【思考・判断】の現れ方にしたがって、最終的にはおよそ同じような深まりが見られることがわかる。そこで、単元の学習を総括する際には、最終的な技能の高まりに重点をおくことが適切であると考える。

C児 単元初めから取り組みも早く、技もスムーズにできるが、ぱっとやっては終わり、動きを楽しんでいるようには見えなかった。「どうやったらできるの」と聞くと、「わからない」と答えが返ってくる。できているけど、「なぜできるのか」がわかっていないのである。そこで、できない子の動きと自分の動きを比べアドバイスをさせた。Cは友だちの動きを見てから、「ちょっと待って」と自分でもやってみて、自分の動きの感じをつかもうとし始めた。「あ、わかった」と生き生きした表情で言ったCは動きの感じに注目し、友だちと自分の身体から感じることを楽しむようになっていた。

ここから、【思考・判断】は、経験を通し、徐々に深まっていくことがわかる。そこで、一人一人がどのように身体との対話を深めたり、広げたりしているかを活動の中での子どもの姿や学習カードから継続的に変容を読み取っていき、その最終段階で総括するのが適切であると考える。

以上のように、授業の中で、【学ぶ態度】、【技能】、【思考・判断】の問題はおよそ上記の3人のような姿で現れている。そして、どの場合も【思考・判断】に働きかけることで問題を解決へと導くことができる。つまり、指導者が【思考・判断】を中心として働きかけていくことが、全ての観点に働きかけることにつながっていくのである。3つの観点の軸になっているのは、【思考・判断】なのである。そうして評価したことを元に授業を振り返り、日々の授業を工夫していくことで、確かな学びを身に付けると共に自ら身体と対話する喜びを感じられる子どもを育てていくことができると考える。

(2) 互いの学びを深め合う働きかけ

身体と対話する力を育てるということは【思考・判断】を深めていくことである。そこで、【思考・判断】に働きかけるには、具体的にどのような支援が必要であるかを簡単に述べてみたい。ここで必要な支援は、身体との対話の方法を知らせるといったものではなく、身体との対話に適切なタイミングや見るべき視点を気づかせるものであると考える。例えば、何が原因でうまくいかないのかがわからず、停滞している子どもには、同じところで停滞していたが乗り切った子と出合わせたり、動きがよりよくなった時に、なぜよくなったのかを問い掛けることで対話を促したりすること等である。そうすることで、「なぜできないのか」「こうしたからうまくいった」ということを自ら導き出すことができるようになり、次第に自分からその運動特有の動きの感じに即した視点をもって活動を振り返り、そこに価値を見出すことができるようになっていくであろう。(各指導案参照)

4 身体との対話を共有する指導者のあり方

これまで述べてきたような評価を子どもの姿によりそって行い、生かしていくためには、指導者自身が子どもたちの身体と対話する力を高めていくことが必要不可欠である。目の前の子どもが、何を求め、何にとまどい、何に気づいているのかということがわからなければ、どう支援してよいかもわからないし、誤って判断してしまった場合には、子どもの学びを停滞させてしまうことも考えられるからである。子ども一人一人の学びの道筋は違い、それをみとっていくためには、一人一人の現状をあるがままに受け止め、その背景にあるものを、その子の身体と対話しながらじっくりとみとっていくことが大切であると考える。こうした子どもの身体と対話する力を高めていくためにも、指導者自身が毎時の授業の中での評価と子どもの姿を真摯に受け止め、授業をよりよいものへと工夫し、実践していきたい。