◇図画工作科
はじめに
風が強い日、スズランテープや紙テープを持って子どもと一緒に校庭に出る。子どもたちはテープがなびくことに気付き、目を輝かせる。ある子は何本ものテープを束ねてなびかせ、「テープが踊っているみたい」といい、ある子はテープを腕や体に付けて走り回ったりするようになる。どの子どもも、少しでも、思うようになびくように一生懸命つくる活動を繰り返す。そうした中で味わう楽しさこそが、子どもの内面に価値あるものとして残っていく。たとえそれが、作品として形に残らなくとも。
審議会の答申によれば、図画工作科では、高学年においても楽しい造形活動の推進が図られる一方で、総合的な学習の実施により、中学年では10時間、高学年では20時間の時間数が削減されることとなった。つまり、図画工作科では、すべての領域において、楽しい造形活動を推進する学習内容の追及という視点から、内容の厳選を図るとともに、単なる題材開発ではない、新たなカリキュラムの構築を迫られることとなった。
楽しい造形活動とは、決して個人的で娯楽趣味的なものではなく、子どもが、材料に出合い、扱い、駆使する中で覚える自らの変容を、ものをつくることで、自分のみならず、友だちを始めとする回りの人々に伝えることである。これは、現行では一領域としてしか扱われていない「造形遊び」の基本理念である。新たな内容構造では、現行の「絵や立体の表す」「つくりたいものをつくる」「造形遊び」「鑑賞」といった領域が「造形遊び」の基本理念によって捉え直されるのである。
そこで、今年度は、「造形遊びを核にしたカリキュラムの構築」をテーマとした。総合的学習との棲み分けを見据えながら、子どもの造形活動に感じる楽しさの追及を支えるカリキュラムの構築を進めていく。
1.「造形遊び」を核にした図画工作科のカリキュラム
新たなカリキュラム構造を構築するにあたり、造形遊びを基本理念にした図画工作科の内容構造とは、どのようなものになるのだろうか。総合的な学習との棲み分けとともに明らかにしておきたい。
(1) 「造形遊び」を核にしたカリキュラムの内容
1年生の子どもが作品を見せながら「スパンコールやビーズ玉で(を貼ったら)、きれい(な箱)になったよ」と話してくれる。6年生の子どもが図工カードに「いろいろな色の点の組み合わせ方を工夫すると、木の自然な感じが表せました」と記述する。「飾りの美しさ」と「自然の印象」といった表現の対象の違い、「たくさん貼ること」と、「組み合わせ方」という工夫の質的な違いはあっても、どちらも点の形の材料の扱い方に関心・意欲を示している点では共通している。「今までの図工の活動で、印象に残っているものは何か、それはどんな理由からか」といった調査を行った結果でも、子どもは「大きさ」「飾り」「動き」「うつす」などの内容に関心・意欲を抱きながら、「材料に関わる感じ方や扱い方」を楽しんでいる。この、子どもが「材料に関わる感じ方や扱い方」を駆使することで、内容のある楽しさを得られるということが、材料をもとにした造形活動である「造形遊び」をカリキュラムの核にすることの価値なのである。
「造形遊び」を学習内容の核とすることは、表現の活動だけではなく、鑑賞の活動のあり方も変える。子どもが表現のよさを味わうためには、作品を漠然と見るのではなく、材料の扱い方や表現されている図の形態をどう見るかということをてがかりにしなければならない。鑑賞での図や材料は、表現における材料とその扱い方と同じ役割を持っており、双方で子どもの見方や感じ方を重視した活動を設定するのである。
このように、図画工作科のカリキュラムは子どもの見方や感じ方を重視した表現と鑑賞を内容とすることにより、子どもにとって、より有意義なものとなるのである。
(2) 「造形遊び」の視点に立った学習内容の厳選
図画工作科は、材料や場と出合い、材料や場が持つよさや、それらを扱うよさを味わいながらその楽しさを表現するものをつくる教科である。造形遊びの視点に立つと現行のカリキュラムでは「始めに知識・技能ありき」そして、「始めに課題ありき」の内容が見直しの対象となる。
〔1〕 「始めに知識・技能ありき」の内容
現行の内容では、身の回りの生活に役に立つ工芸的、あるいは、デザイン的な学習が実施されている。材料・用具や機能の理解に関わる知識・技能を必要とする木材加工や機構工作は、子どもにとって習得しなければいけないものが多すぎると考えられる。つまり、子どもが創意・工夫する楽しさに至るまでに必要な時間が多すぎるのである。ましてや高い完成度が求められるポスター製作は、知識・技能を必要としながら、一点のみの製作であれば、それを見る多くの人々に働きかけるというポスターの意味を成さない。こうした「始めに知識・技能ありき」のものづくりの内容は、子どもが自らの生活を改善することを目的として、必要に応じた知識・技能を学ぶことができる総合的な学習の内容に移行されるべきだと考えられる。
〔2〕 「始めに課題ありき」の内容
子どもが絵を描くとき、それは、「〜を描きたい」という感情を沸き立たせるものごとに出合ったときや、材料の色や形、材質から何らかの想像が引き起こされたときである。社会に目を向けると、テレビやビデオ、ゲーム、図版といった映像文化が、ますます生活に密着しつつある。子どもは、そこから得られる様々なイメージを組み合わせたり組み換えたりしながら、それぞれが表したいものやことに発展させることを楽しむ。描く活動にしろ、つくる活動にしろ、指導者が表現の課題を与えることは子どもがあらわしたいものやことをつくりだす楽しさを奪うことになりかねない。身近な環境を見つめたり、自らの生活や行動を振り返ることに役立つ観察や写生、記憶再生型の表現活動といった「始めに課題ありき」の内容もまた、総合的学習の地域や環境に関わる学習の中で取り扱われることがふさわしいと考えられる。
「造形遊び」の視点に立って内容を厳選すると、図画工作科の内容のすべてが「始めに材料と関わる子どもの楽しさありき」の題材になる。図8―1は本研究の内容厳選後の学習内容の棲み分けを示したものである。
図8―1
材料のよさに対する子どもの見方や感じ方に基づいた表現をねらいとする図画工作科では、子どもが扱い方や表し方に関わる経験の組み合わせや組み換えにより、非日常的なイメージやスケールの表現をすることを期待する。非日常的な表現を繰り返すことが、総合的な学習における日常生活に対する考え方や改善に向かう行動を助けるという意味で、両者の棲み分けが成り立つのである。
2.造形表現の育ちと造形主題を軸にしたカリキュラムの具体化
子どもの造形表現の育ちと子どもが材料をもとにした造形活動に感じる楽しさの内容を基盤に、カリキュラムを具体化する。
(1) 子どもの発達につれて変容する造形表現の育ち
子どもの造形表現は、造形活動に関わる経験を積み重ねながら、おおよそ低・中・高学年で変容する。その様相は次の通りである。
○ 低学年:扱いたい材料や表すものやことをみつける
○ 中学年:材料の扱い方や表したいものやことやその表し方をひろげる
○ 高学年:材料の扱い方や造形主題の表し方を組み合わせたり組み換えたりする
(2) 子どもが造形活動に期待する楽しさをまとめる造形主題
子どもが造形活動に抱く関心・意欲とは、子どもが造形活動に期待する楽しさである。これらの内容を、楽しさを感じた題材の理由からまとめると、次のようになる。
○ 大きさ:材料のつなぎ方や積み方を駆使して、ひろさや長さ、大きさを感じるものをつくる
○ 動き :風や坂などで材料が動くことをもとに、自分なりの動き方をつくる
○ 飾り :材料の装飾的な美しさを感じ、材料や記号、図像の並べ方や組み合わせ方を工夫して飾りをつくる
○ うつす:知っているものやことや好きなものやこと、自分が表したいものやことの色や形を見てうつしたり、版にしてうつしたりする
○ 批評 :自分や友だちの作品、芸術作品に見られる図や材料の扱い方から表現のよさを批評したり、表現活動に生かしたりする。
子どもが、期待する楽しさの内容は、今までの「絵や立体に表す」や「つくりたいものをつくる」といった領域にかわるものとして造形主題とし、子どもの造形表現の育ちとともに、楽しい造形活動を推進するカリキュラム構築の基盤となる。
(3) 24カ月カリキュラムを構築する題材群構想
5つの造形主題のそれぞれを、低・中・高学年それぞれの時期に「みつける」「ひろげる」「かえる」活動に具体化するため、材料を選択し、活動内容を導く提案や造形環境から構想したものが題材となる。低学年で「大きさ」を感じ、「大きさ」をつくりだすことを楽しむ題材を構想するとき、紙テープ、古新聞、棒状の材料、大きな穴が掘れる砂場というように、何通りかの材料や場が考えられるように、題材も何通りかを構想できる。それぞれの発達の段階で造形主題を実現するための何通りか構想できる題材の集まりが題材群である。それぞれの題材群には、子どもにとっての活動の期待値があり、以下に紹介する。
〔1〕 大きさ
| 低学年 |
ひろさや身体の大きさをつくる |
| 中学年 |
身体と比べながら、身体を超える大きさをつくる |
| 高学年 |
基準を決めて、客観的な身体を超える大きさをつくる |
〔2〕 動き
〔3〕 飾る
〔4〕 うつす
〔5〕 批評
一つの題材が終了すると、子どもから「次の時間は、どんなことするのかな」や、「どんな材料を使うのかな」といった声があがる。子どもは、内容に基づく系統的な配置・配列ではなく、絶えず新たな主題が実現できる非連続的な配置・配列を期待しているのである。造形遊びを核にしたカリキュラムは、造形表現の育ちを縦軸に、造形主題を横軸に置き、それぞれがクロスする関連から題材群を開発する構造(図8―2)にしたがって、低・中・高学年それぞれの24カ月ごとに子どもの育ちを支える。子どもの発達や、関心・意欲、学校や学校を取り巻く環境などの諸問題を考慮しつつ、低・中・高学年それぞれの24カ月の間にそれぞれの題材群構想に基づく題材を過不足なく実施することによって子どもの経験の中で内容の系統性ができる。これが、24カ月の題材群構想である。題材群構想を基盤にして、題材を開発、実施することによって、指導観が明確になり、指導者はどの題材でも子どもの楽しさを支える読み取りや支援、評価のあり方、鑑賞活動の関連を具体化することができる。
3.造形遊びを核としたカリキュラムの具体化とその運用
造形遊びを核としたカリキュラムをから構想する題材群には、その内容に応じた材料や操作と緊密に関連する。それぞれの題材群の具体的な内容を紹介しながら、その運用にあたって考慮する点を紹介する。
(1) 造形主題を基盤にした題材の開発
本研究が始まってからの題材である低学年の「棒の材料をつないでつないで」や「吹き上げる風の中で」では、期待した大きさや動きに関わる楽しさが、本研究以前の大きさや動きの題材よりも、多く詳しく記述されていた。これは、造形主題を基盤にした題材の開発が、子どもが材料をもとにした造形活動に感じる楽しさを十分支えられたことを示している。つぎに、題材群構想による題材開発の具体的内容を作品例とともに紹介する。
〔1〕 大きさ
〔2〕 動き
〔3〕 飾り
〔4〕 うつす
今後、題材群構想をもとにした題材の開発を進めることで、より内容の充実したカリキュラムを構築することができるだろう。
(2) 鑑賞題材の充実と題材群の構成
6年生の「タッチを生かして」の活動では、モネ、スーラ、ゴッホの代表的な作品の部分拡大図を見て、「何を描いた絵か」「似ているところと違うところはどこか」、作品全体を見て「何を描いた絵か」「似ているところと違うところは」「誰が描いた絵か」ということについて話し合うアートゲームを行った。その後「表現のよさを取り入れた活動をしようか」という提案をすると、子どもは校庭の木々や空、水といった自然物を対象にした写生に取り組んだ。作家の自然の表現に対する取り組み方とそのよさを感じとることで、自ら自然のみずみずしさを表現しようしたのである。
高学年で必要に応じて表現と独立して行う鑑賞の学習を、子どもにとって具体的な成果が得られるようにするには、ただ、作品を漠然と見て、感想を述べ合うだけでは十分ではない。作品に使われている材料の扱い方や図の表し方といった、実際に表現から見えるものに関わる見方や感じ方をてがかりに、表現に込められた内容を見て取り、批評しながら、よさを判断する力を培う学習が必要である。
アートゲームは造形芸術作品から見えるものをてがかりにして、作品の主題性や表現様式、文化的な意義に触れる学習を楽しく進めるものである。目に見えるものとは、「材料とその扱い方」「図の表し方」であり、そこから、目に見えない「表現内容」の読み取りに発展させることにより、そのよさを見極める判断規準を得ることができるのである。先に紹介したように、具体的な観点で表現を見て取り、批評し合う学習は、表現活動にも生かされる。また、批評の活動を、自分たちの活動の振り返りも活用することで、自らの育ちに関わる気付きを促し、造形活動で得た成果を確実に身に付けることにもつながる。表現の活動と密接に関連させながら、自分や友だち、芸術作品からそのよさを批評し、判断する力を培うための鑑賞に関わる題材群を開発することもまた、子どもの豊かな造形表現の育ちを支えるためには必要なのである。
(2) 子どもの関心・意欲を喚起する造形環境や題材名の見直し
一つの造形活動で、材料以外に子どもが出合うのは、活動するための造形環境と題材名である。
例えば、低学年の「つないで、つないで」という題材で、子どもは、校庭で、棒状の材料を針金の結束帯でつなぎながら、次第に家や迷路、囲いなど、自分の身体が入る大きさのものをつくりだすようになる。広さを感じられる場所で、材料をつなぐことでできる大きさを自分なりのイメージに関連させて表すのである。しかし、子どもが家のようなものをつくり、それに十分な広さだからといって部屋の中で「つないでつくろう、○○ハウス」といった題材にすると、つくるものの形ばかりに意識が先行し、大きさを楽しめるものにならないかもしれない。重要なことは「つなぐことでどんな楽しいことができるか」ということに子どもが期待感を持てるかということである。造形環境とともに、題材名は子どもにとっては造形活動を楽しむための大切な道しるべ的な役割を持っている。子どもが自らの見方・感じ方をもとに楽しく造形活動に取り組みためには、条件の多い内容や、抽象的な題材名を見直し、十分な造形環境の中で、子どもが活動への期待感が高まるような題材名に出合えるようにしたい。
(3) 子どもが造形主題を実現する姿を捉える
題材を実施したとき、活動中や活動後に子どもが期待する造形主題を実現しているかどうかを読み取り、評価する必要がある。活動中の子どもの発信や表情、そして材料の扱い方や作品に見られる表し方から読み取れることが望ましいが、すべての場合に実行できるものではない。そこで、題材実施後や学期末に、それぞれの題材で期待した活動をどのように楽しめたかを記述する図工カードを用いて、子どもが感じた楽しさの内容を捉えることも一つの手段である。それによって、題材の内容や指導の在り方、さらに、現在の題材群構想を改善するてがかりにすることができる。しかし、カードはあくまでも補助資料であり、教師の読み取りと支援、評価が前提であることはいうまでもない。
(4) 環境問題に配慮した材料選択
今までの題材で扱ってきた材料の中には、現在の環境問題から見ると、その扱いに配慮が必要なものが少なくない。作品として残す方法や材料の再利用の可能性、できるだけ環境に悪影響のでない処理の方法などを考慮することも、新たな、図画工作科のカリキュラムを構築していくうえで欠かすことのできない課題である。
本研究は、数年後に迫っている教育課程の改定に伴う、新しい図画工作科のカリキュラムを構築するものである。子どもの発達と造形主題を基盤にした題材群構想をもとに、子どもが期待する楽しい造形活動の内容をより具体的に追及することで、新たな題材の改善と開発とその位置づけを進めていきたい。このことが、材料をもとにした造形活動に感じる楽しさを推進する教科のカリキュラムの一層の具体化を進め、学校教育における図画工作科の役割を明確にするものであると考えている。