子どもとつくる造形活動とそのカリキュラム


 本年度は昨年度の成果のうえに立ち、教科時間数の削減にとどまらず、教科の本質に迫るため、子どもの造形活動への情意にもとづいた主体的で創造的な造形活動から図工科のカリキュラムのあり方を明らかにしていきたいと考えた。そこで本年度は研究テーマを「子どもとつくる造形活動とそのカリキュラム」と設定し研究を進めることにした。この「子どもとつくる造形活動」という考え方は「子どもが造形活動に感じる楽しさ」に学ぶという姿勢に根ざすものである。そこで本研究では、造形活動を通 して子どもの中に何がつながっていくのかを明らかにすることから、子どもの造形活動への楽しさに根ざした教材観を導き出し、そこに位 置づく「題材群」を構想することで子どもとともにつくる年間カリキュラムの具体化を図りたいと考えた。

1 造形活動をつくり出す子どもの姿

(1) 図工科が担っているもの

 子どもたちは、材料や場所と出合い,かかわる中で、その対象の持つ色や形や手触りなどの様子に関心を抱く。それらに働きかけ働きかえされることによって対象が変化していくことに造形活動の楽しさを感じ、自らの造形活動を創造的に発展させていくのである。こうした造形活動の過程において、これまでの体験や経験を越える活動ができたり,新たなものを創り出すことができたとき,子どもたちは造形への楽しさを増し達成の満足感を感じ取ることができる。

 こうした子どもたちの姿こそ、図工科が目指す子どもの姿なのである。このように、図工科は「対象にかかわる情意」によって色や形に積極的にかかわり、自らの価値判断、意志決定にもとづいて思いを色や形におきかえていくことを学ぶ教科であるといえる。

(2) 「情意」の高まりを支える楽しさの内容と、楽しみ方の育ち

 子どもの「情意」が高まるとき,そこには次に示す二つの要因がかかわっている。

 @ 造形活動への楽しさの内容

 平成10年度の研究において「造形活動に子どもが感じる楽しさ」の内容を調査した結果 学年を問わず多くの子どもたちが造形活動に対して「材料の扱い方」「大きさ・広さの実現」「動きの創造・動く仕組みの工夫」「イメージや感覚の具象化」という4つの内容(図8-1)にかかわる活動に「楽しさを感じている」ことが明らかになっている。(1998:西尾,山田)

 A 造形活動の楽しみ方の育ち

 学年を経るに従って次第に変容していく造形活動の楽しみ方があげられる。この学年による楽しみ方の育ちは低学年、中学年、高学年という幅の広い期間のなかで「みつける・並べる」から「ひろげる・組み合わせる」へ、そして「生かす・組み換える」へと次第にひろがっていく。

 

2 子どもとつくる造形活動

 子どもたちが先の二つの要因にもとづいた造形活動を展開していくとき、それを支える教師は以下の点を大切にしなければならない。

(1) 表現領域の拡張や統合を可能にする

 低学年の子どもの表現は未分化な状態にあり、言葉や身体活動などと造形活動とが混然としていることがある。そこでこのような表現をあるがままの表現として受け止める必要がある。

 中学年頃になると、音楽表現や、身体表現、造形表現をそれぞれ違った表現領域として意識することができるようになり、さらに高学年頃には、自らの表現を追究する上でこうした表現領域を意図的に自らの造形活動へ統合させようとするようになる。こうした子どもの造形活動への統合的な表現を受け入れることもまた必要である。

(2) 造形活動の過程で自他に思いを発信できる

 造形表現には他伝達と自己伝達の二つの意味があるといわれる(1988:林)。これまでは表現する活動そのもののなかで自己伝達すなわち自己に向かった発信(これを自己発信と呼ぶことにする)がなされていると考えてきたが、本研究では子ども自身がより自由にそしてより主体的に自他に発信できることを保障しなければならない。

 そこで教師は活動の場面で、子どもたちに情報を送るとともに、子どもからの発信を促し、その発信をより多く的確に受けとめるように心がける必要が生まれる。

 また、特に低学年に対しては、自らの活動を自分なりに捉え直す鑑賞の目がもてるような工夫をすることによって、子どもが自分に向かって情報を発信できるように支えることも必要になる。

3 子どもとつくる造形活動から導かれる教材と題材群

 教材は、図工科の活動内容を構成する要素によって成立し、そうした教材観をもとに、発達に応じた操作や行為、扱わせたい具体的な材料などを設定し、そこから学習内容を具体化したものが題材である。

(1) 子どもの主体的な造形活動から生まれた教材観

 子どもの主体的な造形活動の成立と、造形活動への情意の連続性を期待するなら、子どもの造形活動に根ざした新しい教材の観点が必要になる。  具体的には子どもが造形活動に感じる4つの楽しさの内容のうち、「材料や場所」といった外的要因と「内的イメージや感覚」といった内的要因は、子どもの造形活動の中核をなす要素であると考えている。子どもたちはこうした活動の過程で、材料の扱い方はもとより、その材料や自分や友だちの光らせ方に対する見方や感じ方を深めることができるのだと考えられる。

 ア、材料や場所、表現方法をもとに造形活動を展開する教材

 材料や場所をもとに、大きさや動き、触覚的な感覚、具象的なイメージなどといったそれぞれの造形主題を具現化する過程で、発達に応じた操作を駆使し自分なりの材料や場所の扱い方や、それに対する造形的な見方や感じ方をひろげたり深めたりする。

 イ、イメージや感覚をもとに造形活動を展開する教材

 表したいと思った事柄や触覚的な感覚をもとにして、材料や場所や表現方法を追究したり、大きさや動きなどといった造形主題を具現化したりする過程で、発達に応じた操作を駆使し自分なりのイメージの表し方や、それに対する造形的な見方や感じ方をひろげたり深めたりする。

 (2) 教材観にもとづく題材群構想

 さらに先の二つの教材を材料や行為などを設定することで活動内容とそれにもとづく表現の期待値などを具体化したものが題材であり、同じ教材に位 置づく同じような活動内容の題材をまとめたものが題材群である。

 @ 材料や場所、表現方法にもとづく題材群

 「材料や場所、表現方法をもとに造形活動を展開する」教材における題材は、具体的な材料や場所、表現方法をもとにしながら、低・中・高学年それぞれの楽しみ方で活動を展開し「大きさや広さを実現する」ことや「イメージを具象化する」こと、そして「動きや仕組みを工夫する」ことの中のいずれかを具現化するといった活動の内容が考えられる。扱う材料や場所は違っていても、同じ楽しさの内容を追究する題材はいくつも開発することができるだろう。そこでこれら3種類の楽しさの内容を追究する題材を複数開発することで3種の題材群を導くことができる。また、材料との豊かな関わりのみを期待する場合は、3つ楽しさの内容を個々が自由に選択的に実現していけるような総合型の題材も構想できる。そこで,3種の楽しさにまたがる4つ目の題材群を導くことができる。

 A イメージや感覚にもとづく題材群

 また、「イメージや感覚をもとに造形活動を展開する」教材における題材は、具体的なイメージや感覚にかかわる提案をもとにしながら、低・中・高学年それぞれの楽しみ方で活動を展開し「大きさや広さを実現する」ことや「材料や場所、表現方法を追究する」こと、そして「動きや仕組みを工夫する」ことの中のいずれかを具現化するといった内容が考えられる。@と同様に、初発の提案の内容やそれによって抱くイメージ、感覚などが違っていても、同じ楽しさの内容を追究する題材を複数開発することで3種類それぞれの題材群を導くことができる。また、子どもの造形主題の追究を期待する題材の場合も、3つ楽しさの内容を個々が自由に選択的に実現していけるような4つ目の題材群を見いだすことができる。

4 子どもとつくる年間カリキュラム

(1) いくつかのカリキュラム例

  図8-4-氓ヘ1年間の総時数に応じて、一つ一つの題材をあらかじめ1年間を通 して配列しておき、それに従って順次題材を実施していくというものである。このような年間カリキュラムは、実施する側にとっては意図的計画的に見通 しを持って題材を実施することができるが、一つ一つの題材が単発のものとなり、その点から子どもの主体的な造形活動を支えている情意を連続・発展させていくことが難しい。

 の「題材群構想にもとづくカリキュラム」では、すでに実施してきた題材から共通 の内容や、活動方法に応じた題材群を構成し、複数の題材を題材群として準備し、その題材群を年間の総時数に従って配列しておくのである。そして、子どもの実態等に応じて子どもと教師が相談する中で、題材群から題材を選択的に実施する。

 。「必須選択型カリキュラム」では、それぞれの発達時期でどの子どもにも必ず扱わせたい材料や、表現方法、そしてイメージの具象化の過程ではたらかせる大きさの実現などについては、必須題材として設定することで保障する。

 「「題材開発型カリキュラム」では、子どもたちが前題材の経験をもとに、教師との相談の上で新しい題材を開発するようなことまでも、含めて考えることも可能となる。つまり、一つ目の題材を終えた後に、次の題材について子どもたちの意見を尊重しながら新しい題材を構想し、実践していくのである。

 このようなカリキュラムでは、子どもたちがカリキュラムづくりに間接的あるいは直接的にかかわることになる。それによって子どもたちにとって題材相互の関連も深まることから、これまで以上に子どもの情意の連続・発展が期待できる。

 」「個別選択型カリキュラム」では、さらに題材群配列は年度当初から決定しておくが、そのカリキュラムにもとづいてそれぞれの題材群の中の題材を子ども一人一人が自由に選択し、個々別 々の順序で題材を実施していく。ただ、このカリキュラムを実現していくためには、コーナー学習やTTを導入するなど、子どもたちの活動を支える手だてが必要になる。また、子どもたちが集団で活動することで互いのよさを認め合うといった機能を生かすことができないといった、問題点も含んでいる。

(2) 子どものカリキュラム評価を次年度のカリキュラムに生かす。

 また、先述の考え方に沿って実施してきた題材の配列について、子どもたちにアンケートを実施することで、子どもたちが題材の関連をどのように感じ取っていたのか、また、題材の配列についてどのように感じておりどのような配列にすればよいと感じているのかを子どもの側から見直すことができる。こうした試みは、に次年度の題材の配列や、年間カリキュラムの再構成を図ることができると考えおり、今後実施していきたい。

 

【参考文献】

 西尾正寛・山田芳明 「研究紀要「」 大阪教育大学教育学 部附属平野小学校 1999.3

 林 健造 「造形教育の探求〜三系論を核にして〜」 日本文 教出版 1988.4  

 

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