平成15年度図画工作科 研究各論
「子どもの造形的学びの連続性と教師のかかわり」
はじめに
昨年度より、導入した「評価指標」には、子どもが評価規準を実現するための具体的な方策としての有効性を見いだすことができた。その成果をもとに本年度は、子どもの造形表現にかかわる資質や能力がどのように連続発展するのかという造形的学びの発展の連続性に着目した。本年度は、研究テーマを「子どもの造形的学びの連続性と教師のかかわり」とし、評価指標の活用方法のさらなる改善と、より多くの子どもが確かな造形的学びを育む姿を支える教師のかかわりを具体化しようと考えた。
1.子どもの造形的学びの連続性
総論で述べられている子どもの学びを、図画工作科の目標である「表現および鑑賞の活動を通して、つくりだす喜びを味わうようにするとともに造形的な創造活動の基礎的な能力を育て、豊かな情操を養う」を踏まえて、造形的学びに解釈すれば「造形的な楽しさや美しさ、秩序などを感じる対象を色彩や色調、イメージで捉え、解釈し、自らの思いを込めて表す力」ということができる。
(1)カリキュラムにおける造形的学びの連続性
こうした力を養うため、本校では、一昨年度までのカリキュラム研究において、子どもが味わう多様な造形的な楽しさから、6年間、変わらず味わおうとする4つの楽しさをねらいとする単元群(単元のまとまり)を設定した。低・中・高学年それぞれの子どもの発達に応じたねらいをもつ単元(題材のまとまり)では、それに属するすべての題材が単元のねらいを共有するように構想している。
単元群に位置付く単元のねらいは、子どもの造形表現の育ちに応じた連続性をもっていなければならない。それは、同じ単元群に属する単元のねらいが、低・中・高学年それぞれ2年間の間に達成されることにより、単元群のねらいが連続発展的に達成され、子どもに期待する確かな造形的学びが育まれるからである。こうした子どもの視点にたったカリキュラムにより、図画工作科の造形的学びの基盤である造形への関心・意欲・態度の実現が期待できるのである。
図8―1「カリキュラムと単元のねらい」
(2)題材における造形的学びの連続性
題材では、子どもが生来的にもっている造形的な楽しさを味わおうとする造形的学びを形成することが大切である。一方で、子どもが友だちとともに同じねらいに迫りながら、自分らしく表現を発展させる造形的学びを形成することも大切にする必要がある。そこに、題材における造形的学びの連続性に着目する意味がある。題材の目標には、単元のねらいをもとに、どの子もがともに味わう楽しさと、それぞれの子どもが、自分なりのよさを生かして表現を発展させていくことを期待する内容が含まれることが必要なのである。
2.造形的学びの連続性を支える評価指標
子どもの視点にたったカリキュラムでは、単元のねらいが、おおむね満足できる状況を想定するために必要な「全員が到達することを期待できる」と「それを実現することで、次の単元の学習を円滑に進めることができる」という条件を満たしている。それは、どの子もおおむね満足できる状況の実現をメ通過モし、十分満足できる状況にせまる可能性をもつものともいえる。しかしながら、実際にそれは、現実的ではない。なぜならば、子どもの資質や能力には幅があり「おおむね満足できる状況」の実現の仕方に多様性が見られるからである。
評価指標は、どの子もが「おおむね満足できる状況」を通過したり「十分満足できる状況」を実現したりする過程で、一人一人の子どもの活動が題材の目標と一致するかどうかを見極めるために準備する「物差し」としての働きと、子どもが主体的にたどる道筋を指し示すための支援に役立てる「道しるべ」としての働きをもっている。
実際の授業場面において評価指標は次の二つの段階で働く。
(1)おおむね満足できる状況への過程を支える評価指標の活用
「おおむね満足できる状況」はどの子もが単元のねらいを実現する共有できる造形的学びを駆使している状況である。それは「全員が到達することを期待できる」ものであるがゆえに、題材の初期の段階で、どの子もが題材の目標と一致した思いや考えをもって活動しているかどうかを見極めることは、大変重要である。
例えば、高学年の単元「表したいことの構想を練ったり、誇張や省略を生かして表したりする」単元に位置付く題材に「大きな○○に出合ったよ」がある。この題材でどの子にも期待するのは、身近なものの大小の関係を逆転させることで、ユニークなイメージを表現することである。その活動には観点別にいえば「本来小さな虫を人と同じ大きさに見えるような表し方をする」や「大きな建物と同じぐらいの恐竜を表す」など多様な発想とどのような材料でどのように表すかといった構想とともに具体的に材料を扱うことで具現化するための技能が一体となった様相が見られる。またそのような表現に役立つ資料を見たり友達の活動のよさに着目し、自分の活動に生かしたりすることも考えられるが、実際の授業場面でそれらを逐一具体的に評価することは大変な困難を要するものである。そこで、一人ひとり幅のある発想や構想、技能や鑑賞の能力に共通する方向性を造形的学びととらえ、子どもをとらえることが有効であると考えられる。この題材の場合の造形的学びは「もの(図)ともの(図)あるいは背景(地)の大小や位置、重なりなどの関係を操作する」で、それにかかわる発想や構想、技能を駆使していれば、子どもは主体的に「おおむね満足できる状況」を実現すると判断するための「物差し」として扱う。また「おおむね満足できる状況」が実現していないと判断される子どもには、評価指標を見いだすためには、発想や構想、技能のどの面から支援すればよいのかを判断し、相談や提案という方法によって支援を具体化する。つまりここで評価指標は、支援を具体化する「道しるべ」となるのである。これが「おおむね満足できる状況」への過程を支える評価指標である。
図8―3(別表)において、単元のねらいとどの子にも期待したい評価規準、それを支える評価指標をまとめて示す。
(2)十分満足できる状況への過程を支える評価指標の活用
この題材における、よりユニークな表現への発展とはどのようなものであろうか。例えば、人を省略して小さく表し、昆虫の姿をより「写実的に表す」ことによって大きく見せることにより、二つの大小の関係を強調できる。また、大小の関係に現実感を持たせるために、人の大きさに合った樹木や建物を加え、「三つ以上の大小の関係を操作する」ことや「視点を決め」「重なりの関係を操作する」ことでも、昆虫の大きさをより確信的なものにできる。こうした具体的な工夫には、子どもが自分のよさを伸ばし、表現を発展させるために駆使する造形的学びであり、教師が評価指標で捉え、評価するものである。「十分満足できる状況」には際限がなく、その子その子ののびしろに応じた評価指標が設定されるが、「おおむね満足できる状況」の実現を判断する評価指標をもとに題材に応じてどのようなのびしろが考えられるのかを想定し、準備しておかなくてはならないことはいうまでもない。教師は、その子がどのような自分らしさを発展させようと試みようとしているのかを読み取ることが大切である。新たな発想が曖昧であり、実際の表現に至っていない子どもには、どこまで考えや見通しがはっきりしているのかについて相談することで、必要ないくつかの考えやアイデア、材料などを提案することができる。また、技能的な問題で困っている子どもには、新しい材料・用具やその扱い方などを紹介することもできる。教師は、子どもの活動の中に潜在するその子らしさを読み取り、子ども自身が自分らしく表現を発展させていくためには何が必要かを子どもとともに考え、支援を実行してくために評価指標を活用するのである。
図8―2「子どもの活動における評価指標の活用と支援」
3.造形的学びの連続性を支える教師のかかわり
子どもの造形的学びの連続発展を支えるために、題材の構想や適切な評価観が重要なことは先にも述べたが、一つ一つの題材で期待する造形的学びの駆使やカリキュラムで育てたい子どもを実現するには、題材や評価観より機能的に働かせるための教師のかかわりが必要である。それが以下に述べる、題材における直接的な教師のかかわり方や題材設定やカリキュラム編成にかかわる間接的なかかわりである。
(1)題材における造形的学びの連続性を支える教師のかかわり
@教師が期待する共有できる造形的学びをどの子もが意識する提案
題材名は、どの子もが駆使する共有できる学びを意識できる端的な情報である。教師は、題材名と、材料や場所、手がかりとなる造形品などとの出合いなどとの組み合わせによって、どの子もが共有できることを期待する造形的学びを意識できるように提案することが大切である。そのためには、教師は学級の子どもの興味や関心とともに題材における材料や場所、テーマ性などを十分吟味することで、教師が期待する活動と子どもの意欲との接点を探り、接点を具体化する必要がある。それが子どもの学ぶ意欲を喚起するとともに、学ぶ内容を価値あるものにするからである。
A子どもが自分らしい造形的学びの連続性を意識する対話の組織
「対話の組織」とは、教師の提案に対する、子どもの感じ方や考えを対話を通して、組織立ててまとめるものである。同じ方向性をもつものと別の広がりをもつもの、目的的、直接的に目標に迫るものと試みや経験のなぞりから間接的に迫るもの、など子どもの考えの違いと共通点に整理し、子どもがどのような道筋で進もうとしているのかを確かめ、自信と確信をもって活動に取り組めるようにするものである。それが子どもが共有できる造形的学びを意識しながら自分らしく発展させている見通しをもって活動できるようにするからである。
B子どもの造形的学びの連続性の可能性を拡げる視覚的な情報の提供
材料を用いた直接的な交流や、図によって構造化された板書のことである。子どもが考えたことを実際の材料を用いて学級に伝えたり、その内容を教師が図に表して板書に位置づけたりする。対話の組織の内容を板書にまとめたものは活動の始まりだけではなく、活動の途中に黒板を見直し、自分の活動を確かめるとにも役立てることができる。したがって、活動の途中で表れた新しい発想や構想について、教師だけではなく、子どもも板書に参加し、思いや工夫の発展を記録することにより、表現の多様な連続性が図示されていくことが望ましい。表現の参考になるような友だちの作品や芸術作品を提示したり、用具の扱い方を図示したものを資料掲示したりする場の活用も重要である。多様な情報源が子どもの造形的学びの連続性を多様に拡げるのである。
(2)カリキュラムにおける造形的学びの連続性を支える教師のかかわり
@表現方法を選択する題材内選択の題材設定
例えば「大きな○○に出合ったよ」は、ものとものとの大小や重なりの関連や、その表し方の工夫を駆使することが期待する造形的学びであれば、必ずしも平面あるいは立体にこだわる必要なないと考えられる。子どもが自分の思いや経験に合わせて、平面と立体の双方から様式を選べば、より多くの子どもが「おおむね満足できる状況」を実現する可能性が高まる。
A表現内容を選択する単元内選択の題材設定
例えば「動きの創造」の低学年「動きを見つけたり仕組みを知ったりする」では、動きを起こすもとを風や坂道、バネやゴムなど様々に考えられるが、例えば風から、例えば坂道で、など、教師が場を決めて題材化することもあるが、題材の目標に単元のねらいを置き、子どもが身近な場所や材料から様々な動きや動く仕組みを見つけ出し、交流することによって、子どもは、一つの題材でより多様な造形的学びを共有することができる。単元の大きなねらいを実現するためには、時には大きな場の設定から表現内容を子どもに任せることができるように題材を設定することが、子どもの豊かな造形的学びを育むことになる。
B上質の経験を保障するカリキュラム編成
題材は、過去の経験を直接的に生かして比較的短い時間で新たな学びを育もうとする構想と、ある程度の時間をかけ、視覚的な情報や新たな試みをもとに経験や学びの再構成をねらいとする構想の仕方がある。「大きな○○に出合ったよ」が後者であるのに対し、同じ単元の古く見えるイメージを絵に表すことを楽しむことをねらいにしている「古く見えるかな」は、前者にあたる。身近な資料や情報をもとに、古く見える文字や絵を表す内容(図)の工夫と、紙を変色させたり、しわを加えたりする紙そのもの(地)の組み合わせ方を駆使することは、多くの子どもに無理なく取り組めるものである。双方の題材を組み合わせ、子どもに上質の経験を保証するカリキュラム編成が、子どもの造形的学びを確かに育むものになると考えられる。
4.たゆまぬ評価活動の改善
子どもがある題材で、新たな造形的学びを形成するということは、それまでに形成してきた造形的学びを発展させたり、新たに再構成したりすることである。これが、造形的学びの連続性が生じた姿である。
子どもが、集積したワークシートで「どの題材でどんな楽しさを味わうことができたか」「子どもがどのような成長を感じたか」を振り返り、その内容が、教師が評価した造形的学びと一致しているかどうかや、子どもが困った時に教師の評価指標の活用が生かされていたのかを検証する。あるいは、教師が集積した評価結果から、同じ単元の題材で「おおむね満足する状況」と評価した活動に、同じ造形的学びを見いだすことができるかという検証が大切になる。その成果が単元のねらいと評価規準、評価指標の改善に還元されることになるからである。
子どもの確かな造形的学びを育むためには、カリキュラムをもとにした評価指標の運用や教師のかかわりを実行していくことが大切である。しかし、教師は、現在運用しているカリキュラムや評価指標そのものが最善ではないという意識をもちつつ、それらを改善するたゆまぬ活動が必要であることはいうまでもない。
題材開発と評価観の確立、そしてカリキュラム編成の3つの問題を相互に還元させながら、造形的学びの連続性と教師のかかわり方を具体化する研究を進めていきたい。
図8―3単元のねらいとどの子にも期待したい評価規準、それを支える評価指標のリンクへ