この章は,実験からはじめましょう。このペトリ皿には寒天が入っています。寒天以外に硝酸カリウムKNO3も入っていますから食べることはできませんよ。 ペトリ皿の両端にはアルミニウム箔を入れてあります。このアルミニウム箔に50Vの電圧をかけます。そして,ペトリ皿の寒天の中心に,小さい過マンガン酸カリウムKMnO4の結晶をのせます。 赤紫色のしみが左側に移動しているのがわかりますね。左側は陽極です。陽極に向かって移動する粒子にはどのような性質があるのでしょうか。負の電気を帯びていることがわかりますね。この赤紫色のしみは過マンガン酸イオンMnO42−です。 イオンということばを聞いたことはありますね。イオンは,マイケル・ファラデーによって命名されました。 イオンとはギリシャ語の「行く」の意味であるienaiから考案されました。また,陽イオンのcationとはgo to cathode(陰極に行く)の意味であり,陰イオンのanionとはgo to anode(陽極へ行く)の意味です。電場の中におけるイオンの動きから考えたようですね。彼は製本屋に年季奉公した後,王立研究所の助手に採用され,電磁気学を中心に多大な業績を残したのみならず,クリスマスに王立研究所主催で開かれる子どもたちへの科学講座を中心になって推し進めた,教育者としても偉大な人です。そのときのテーマの1つ,ローソクの科学は今も読み継がれ,また王立研究所では今日も科学講座が開催されています。 ところで,イオンionとは電気を帯びた粒子のことです。どうして電気を帯びた粒子が安定に存在するのでしょうか。また,中学校のときに学んだ電気分解や電池は,イオンが関係しているのです。イオンの考え方を使うと,電気分解や電池の説明が簡単になります。がんばって勉強しましょう。具体的な今日の内容は, (1)電気泳動 (2)イオンの電子配置 (3)イオンの生成とエネルギー (4)原子とイオンの大きさ です。
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<電気泳動の実験> |
電気泳動の実験について考えてみましょう。陰極側に動く青いしみは,+,−のどちらの電気を帯びているでしょうか。また,硝酸銀水溶液を吹きかけると灰白色のしみができました。このしみの部分にあったものは,+,−のどちらの電気を帯びているでしょうか。 塩化銅(II)は,水に溶けると,+の電気を帯びている粒子と,−の電気を帯びている粒子に分かれることがわかりますね。電解質は,水溶液中で電気を帯びた粒子に分かれるのです。このような現象を電離といいます。また,電気を帯びた粒子をイオンといいます。 青色のしみは陰極に動いていますから,+の電気を帯びた粒子であることがわかります。このように,+の電気を帯びたイオンを陽イオンといいます。また,硝酸銀水溶液をふきかけて灰白色になった粒子は,硝酸銀水溶液を吹きかける前は,−の電気を帯びていることがわかります。このように,−の電気を帯びたイオンを陰イオンといいます。 塩化銅(II)は水溶液中で,次のように電離します。
でも,どうして銅原子は2価の陽イオンになり,塩素原子は陰イオンになるのか不思議ですね。その理由を考えることにしましょう。ところで,希ガスはどのような性質がありましたか。無色無臭の気体で,融点・沸点が低く,反応性が小さく,他の元素と化合しにくかったですね。そして,希ガス原子の電子配置は閉殻か,最外殻電子が8個でしたね。安定な粒子の条件は電子配置にあるのです。 |
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希ガス原子と同じ電子配置をとるためにイオンになると言ったら言いすぎでしょうか。でも,結果的には,陽イオンも陰イオンも,希ガス型電子配置をとっています。 次にエネルギー的に,イオンのなりやすさを考えてみましょう。ここでは,イオン化エネルギーと電子親和力について紹介します。イオン化エネルギーは,電子を放出して陽イオンになるのに必要なエネルギーと定義されています。したがって,値が小さいほど陽イオンになりやすいと考えられますね。一方,電子親和力は,電子を受け取って陰イオンになったとき,どれだけのエネルギーを放出するかという定義です。したがって,値が大きいほど安定しているわけですね。 |
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参考までにイオン化エネルギーと電子親和力の値を紹介します。単位はeVです。 イオン化エネルギー(I:第一イオン化エネルギー,II:第二イオン化エネルギー〔eV=96kJ/mol〕)
電子親和力〔eV=96kJ/mol〕
電子親和力は,18族を除く元素のうちで,F,Clのように周期表の右上に位置する元素ほど,一般にこの値が大きく,陰イオンになりやすいと教科書に書いてあります。では,どうしてフッ素より塩素の方が大きいのでしょうか?
次にイオンについて考えてみます。原子が陽イオンになるときは,最外殻の価電子が放出され,その半径は小さくなります。また,原子が陰イオンになるときは,最外殻に新たな電子が配置されるため,半径が大きくなります。原子が陰イオンになるときは,電子の数は増えますが,電子を引きつける原子核の正電荷は変わりません。 |
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原子番号が大きいほど半径が小さいなんて,意外だったのではないですか。原子核の正の電荷が大きくなると,電子を引きつける力が強くなるからだと考えられています。しかし,電子殻が1つ増えると,まちがいなく原子の半径は大きくなります。 それでは,この章の学習内容を確認しましょう。
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答
1.陽イオン
2.陰イオン
3.イオンの価数
4.陽性
5.陰性
6.陽イオンになるために必要なエネルギー
7.イオンイオンになったときに放出するエネルギー
8.小さくなる。
9.小さくなる。