08ko-016 第16章 化学反応の量的関係
 物質量がマスターできると,化学反応の量的関係について考えることができます。しかし,その前に必要なものがあります。それは化学反応式が正しくかけるということです。この章は,化学反応式と化学反応の量的関係についての勉強です。
 この章の学習内容は,次の通りです。
(1)化学反応式
(2)イオン反応式
(3)モル濃度
(4)化学変化の量的関係
 では,化学反応式からはじめましょう。中学校のときに,簡単な化学反応式を勉強しましたね。化学反応式にはどのようなきまりがありましたか。
思えているかな?
1.反応物の化学式と生成物の化学式は,それぞれ左辺・右辺のどちらにかきますか?
反応物の化学式は左辺,生成物の化学式は右辺にかく。
2.左辺と右辺は,どのような記号で結びますか?
化学変化の向きを示す矢印「→」
3.水素と酸素が反応して水が生じる化学変化を,化学反応式で示しなさい。
2H+O→2H
   

第16章 化学反応の量的関係
(1)化学反応式
 化学変化において,反応する物質(反応物)と生じる物質(生成物)の関係を,化学式を用いて示した式
 (例)NaCl+AgNO
→AgCl↓+NaNO
    CaCO
+2HCl→CaCl+HO+CO
  化学反応式中の↓は沈殿の生成を,↑は気体の発生を示す。


<化学反応式のつくり方>
1)反応物の化学式を左辺に,生成物の化学式を右辺にかいて,
→で結ぶ。
  溶媒や触媒などはかき入れない。
2)左辺と右辺でどの元素も原子の数が等しくなるように,化学式
の前に係数をつける。
 係数は最も簡単な整数比で表し,1を省略する。

 係数が簡単に決められない化学反応式があります。そのようなときには,係数を未知数とし,両辺の各原子数に関する連立方程式をつくり,その値を求める未定係数法という方法を使います。例えば,アセチレンCを完全に燃やすと,二酸化炭素COと水HOができます。この化学反応式を考えてみましょう。
各化学式の係数をとおくと,
CO
となりますね。両辺の各原子の数は互いに等しいはずだから,次の関係が成り立つ。
Cの係数から 2
Hの係数から 2 =2
Oの係数から 2 =2
を1とすると, =2, =1, =5/2
係数は整数だから,全体を2倍すると,次の化学反応式が得られる。
2C+5O→4CO+2H
 次はイオン反応式です。塩化ナトリウム水溶液に硝酸銀水溶液を加えると,塩化銀の白色沈殿が生じますね。この反応について考えてみましょう。まず,化学反応式で示します。
  NaCl+AgNO→AgCl↓+NaNO3 
 ところで,塩化ナトリウムは水溶液中でイオンに分かれていますね。これをイオン反応式で示すと,次のようになります。
  NaCl→Na+Cl− 
 硝酸銀も水溶液中でイオンに分かれています。これもイオン反応式で示しましょう。
  AgNO→Ag+NO 
 生成した硝酸ナトリウムも水溶液中でイオンに分かれています。
  NaNO→Na+NO− 
 すなわち,ナトリウムイオンNaと硝酸イオンNOは,変化していないことになります。
 

(2)イオン反応式
 イオンが関係する反応において,反応しないイオンを省略した化学反応式
 左辺のもつ電気の量と右辺がもつ電気の量は等しい

<塩化ナトリウムと硝酸銀の反応>
 (化学反応式) NaCl+AgNO→AgCl↓+NaNO
 (反応しないイオンを消去) 
 Ag+NO+Na+Cl→AgCl↓+Na+NO
 (イオン反応式) Ag+Cl→AgCl↓


<炭酸カルシウムと塩酸の反応>
 (化学反応式) CaCO+2HCl→CaCl+HO+CO
 (反応しないイオンを消去) 
 CaCO+2H+2Cl→Ca2++2Cl+HO+CO
 (イオン反応式) CaCO+2H→Ca2++HO+CO

 濃度というと%濃度を思い出しますね。しかし,この濃度は溶媒の質量と溶液の質量の関係を表したものです。化学では,物質の質量より粒子の数を知りたいことが多いのです。そこで,モル濃度です。
  

(3)モル濃度
 溶液1Lあたりの溶質の物質量〔mol〕であらわした濃度
モル濃度
 / 〔mol/L〕 :溶質の物質量〔mol〕, :溶液の体積〔L〕
  〔mol/L〕の溶液を 〔mL〕とったとき,その溶液に含まれる
溶質の物質量→cv /1000〔mol〕

 モル濃度で表される水溶液をつくるときは,メスフラスコを使います。メスフラスコの使い方を説明しましょう。1.00mol/Lの塩化ナトリウム水溶液をつくるには,1Lのメスフラスコを使うと便利です。塩化ナトリウム1molは58.5gですから,58.5gの塩化ナトリウムを溶かして,水溶液を1Lにすればよいのです。ただし,メスフラスコの中で塩化ナトリウムを溶かしてはいけません。溶解熱により容量が変化するかもしれないからです。ビーカーの中で塩化ナトリウムを水に溶かして,メスフラスコに移します。もっちろん何度もビーカーを水で洗う必要があります。洗液もメスフラスコに移します。最後に水を加え,液面を標線と一致させます。しかし,ここで終わりではありません。水溶液の濃度を均一にするため,よく振ることが必要です。活栓をして,口を下にしたり上にしたり繰り返します。 
    
 それでは,最後に化学反応の量的関係について考えることにしましょう。化学反応式は2つのことを意味しています。

(4)化学反応の量的関係 
<化学反応式の意味>
1)反応で変化する物質の種類を,物質の化学式で表す
2)反応で変化する物質の粒子の数の比,すなわち物質量(mol)の比を,係数で表す


<量的関係>
 (化学反応式)  2H 2HO(気)
 (物質量) 2mol 1mol 2mol
 (質量) 2×2.0g 32.0g 2×18.0g
 (体積) 2×22.4L 22.4L 2×22.4L
 体積は標準状態に換算したもの 
 次の章では,実験で量的関係について調べてみます。炭酸カルシウムCaCOに塩酸HClを加えると,二酸化炭素COが発生しますね。
  
 この反応を,ビーカーの中で行うと,生成した二酸化炭素が逃げますから,その分質量が減少します。もし,質量の減少分を発生した二酸化炭素の質量と仮定すると,炭酸カルシウム,塩酸,二酸化炭素の量的関係がわかるはずですね。さて,どうなるでしょうか。

  
 
それでは,この章の学習内容の確認です。
確認しよう
1.化学変化において,反応する物質と生じる物質の関係を,化学式を用いて示した式を何といいますか?
2.次の化学変化を,1の式を使って示しなさい。アセチレンCが完全燃焼すると,二酸化炭素と水になる。
3.イオンが関係する反応において,反応しないイオンを省略した1の式を何といいますか?
4.次の化学変化を,3の式を使って示しなさい。硫酸銅(II)水溶液に亜鉛を入れると,亜鉛はイオンになって水溶液に溶け,銅は金属の単体に変化する。
5.密度1.1g/cm,質量パーセント濃度20%の塩酸のモル濃度はいくらですか?


1.化学反応式または反応式
2. 2C+5O→4CO+2H
3.イオン反応式
4.Cu2++Zn→Cu+Zn2+
5.塩酸1Lの質量は,1000×1.1=1100〔g〕です。1100gの塩酸には,塩化水素は1100×20/100=220〔g〕の塩化水素が溶けています。220gの塩化水素は,塩化水素のモル質量が36.5g/molですから,220/36.5=6.02…〔mol〕ですから,約6.0mol/Lとなります。