08ko-020 第20章 酸・塩基の強さ
 中学校では,純粋な水は電流を通さないと習いましたね。確かに,中学校で使う電流計では,ほとんど針は振れません。しかし,本当に電流を通さないのでしょうか。
   
 ドイツのコールラウシュW.G.Kohlrauschという物理学者は,特別の蒸留装置を使って,空気やガラスに触れさせないように数十回蒸留をくり返し,その純水について調べたそうです。彼の最後の言葉?「それでも水は電気を通す」。彼のつくった水は,有史以来最も純粋な水であると考えられています。
    
 この章の学習内容は,次の通りです。
(1)水のイオン積
(2)水素イオン濃度と液性
(3)pH
 pHは日常よく聞く言葉ですが,この機会にきちんと理解しておきましょう。  

第20章 酸性・塩基性の強さ
(1)水のイオン積
 純粋な水はごくわずかに電離している
 HO ⇔ H + OH
 水素イオンの濃度=[H]〔mol/L〕
 水酸化イオンの濃度=[OH]〔mol/L〕
 水の濃度=[HO]〔mol/L〕 とすると,

[H][OH
 K ――――――
[HO]

 [H][OH]= [HO]= w (
水のイオン積
  w =1.0×10−14〔(mol/L)〕(25℃)
  w の値は高温ほど大きくなる

 なお,[H]は水素イオン濃度,[OH]は水酸化物イオン濃度,[HO]は水の濃度を表しています。もちろんモル濃度です。水のイオン積は,温度のよって次のように変わります。普通は,25℃の値を使うようです。
 
温度〔℃〕 w〔(mol/L) 温度〔℃〕 w〔(mol/L)
0.114×10−14 30 1.47×10−14
10 0.292×10−14 40 2.92×10−14
20 0.681×10−14 50 5.47×10−14
24 1.000×10−14 60 9.61×10−14
25 1.008×10−14
 酸が酸性を示すのは,水に溶けると電離して水素イオンを生じるからです。では,酸性のときは,水溶液中には水酸化物イオンは存在しないのでしょうか。
 水のイオン積から,水素イオンの濃度と水酸化物イオンの濃度の積が一定で,それが1.0×10−14〔(mol/L)〕であるということがわかります。したがって,酸性だから水酸化物イオンが存在しない,塩基性だから水素イオンが存在しないということにはなりません。では,どう考えたらよいのでしょうか。
 中性のときは,水素イオンの濃度と水酸化物イオンの濃度が等しくなっているのです。どちらも存在していて,その濃度はそれぞれ1.0×10−7〔mol/L〕なのです。酸性とは,中性のときより水素イオンの濃度が大きくなっているはずですから,その濃度は1.0×10−7〔mol/L〕よりも大きくなっています。もちろん,水酸化物イオンの濃度は,1.0×10−7〔mol/L〕よりも小さくなっています。
思えているかな?
1.強酸には,どのようなものがありますか?
塩酸や硫酸など
2.弱酸には,どのようなものがありますか?
酢酸など
3.強塩基には,どのようなものがありますか?
水酸化ナトリウムや水酸化カルシウムなど
4.弱塩基には。どのようなものがありますか?
アンモニアなど
 水素イオンの濃度が大きければ大きいほど,強い酸性であるといえます。また,水酸化物イオンの濃度が大きければ大きいほど,強い塩基性であるといえます。
 

(2)水素イオン濃度と液性
 [H]=[OH]=√ w =1.0×10−7
酸性のとき [H 1.0×10−7mol/L [OH
塩基性のとき [H 1.0×10−7mol/L [OH
 そこで,いよいよpHの登場です。まず,読み方ですが,現在では英語読みが主流です。教科書にもピーエイチと書いてありますね。以前はペーハーとよんでいました。授業では,ピーエイチとよぶようにしましょう。
 pHはデンマークのソレンセンが1909年に考案したものであるといわれていますが,pHは何の頭文字であるかは,いろいろ説があるようです。たとえば,power of hydrogen ion concentration(水素イオン濃度の指数)とかpotential hydrogen(水素の起電力)です。ソレンセンはどのような意味でpHとしたのでしょうか?日本語では,水素イオン指数と訳されています。
 数学で対数を勉強しているでしょうか。まだでしたら,少し厳しいですね。詳しいことは,数学で扱うと思いますが,とりあえず必要なことだけ紹介しましょう。
 常用対数では,次のように定義されています。10のとき,=log10>0,10を底という)
 常用対数の計算は,次の要領で行います。log101=0,log1010=1,log10log10,log10×)=log10+log10,log10/)=log10−log10
 

(3)pH
 水素イオン指数
 中性のとき [H]=1.0×10−7 〔mol/L〕
小数    指数 対数 −対数
0.00000010 1.0×10−7 −7   7
 pH=−log10[H

[H]=1.0×10−7〔mol/L〕のとき
 pH=−log10[H
   =−log101.0×10−7
   =−(log101.0+log1010−7
   =−(log101.0−7log1010)
   =−(0−7)
   =7


[H]=1.0×10 〔mol/L〕のとき
 pH=−log10[H
   =−log101.0×10
   =−(log101.0−log1010)
   =


[OH]=1.0×10−1〔mol/L〕のとき

 [H ――――
[OH

      =1.0×10−14/(1.0×10−1
      =1.0×10−13〔mol/L〕
 pH=13

 0.10mol/Lの塩酸の電離度α=1とすると,[H]=0.10mol/Lだから,pH=1.0×10−1=1になりますね。では,この塩酸を,水で10倍の体積になるようにうすめると,pHはいくらになるでしょうか。単純に考えて,体積が10倍で物質量は変わらないからモル濃度は1/10のはずです。このときの電離度α=1とすると,[H]=0.010mol/Lだから,pH=−log101.0×10−2=2になりますね。
  
 では,水で10倍に薄めるという操作をくり返していくと,そのときのpHは,3,4,5,6,7,8,と変化していくのでしょうか。ちょっとまってください。pH8とは塩基性です。塩酸をどんどん薄めていくと,水溶液は塩基性になるなんて,聞いたことありませんね。どのように考えたらよいのでしょうか。

−塩酸をうすめても塩基性にならない理由−        
 いま,塩酸の濃度を1.0×10−8mol/Lとしましょう。この塩酸の電離度α=1とすると,塩酸の電離による[H]=1.0×10−8mol/Lです。ところで,溶媒の水も電離していましたね。この水の電離による[H]=[OH]= mol/Lとします。すると,塩酸の電離によるイオンと水の電離によるイオンをあわせると,[H]=1.0×10−8 〔 mol/L〕であり,[OH]= 〔 mol/L〕です。したがって,w =[H][OH]=(1.0×10−8)×  =1.0×10−14になるのです。2次方程式になってしまいましたが, =0.95×10−7となり,[H]=1.0×10−8+0.95×10−7≒1.1×10−7になります。決して,pHが7を超えることはありません。
  
  
 それでは,この章の学習内容の確認です。
確認しよう
1.25℃のとき,水のイオン積はいくらですか?
2.[H]=10〔mol/L〕のとき,pHはいくらですか?
3.pHが1だけ小さくなると,[H]はどれだけ大きくなりますか?


1.1.0×10−14〔(mol/L)
2.
3.10倍