08ko-029 第28章 環境と化学T
 今までの章で学んだことをもとにして,酸性雨について考えてみることにしましょう。酸性雨とはどのような雨か知っていますか?単に酸性の雨では正解とはいえません。空気には二酸化炭素が含まれているため,雨に二酸化炭素が溶ければ酸性の雨になります。でも,このような雨は酸性雨とはいいません。
  
 この章の学習内容は,次の通りです。
(1)二酸化炭素の溶解
(2)ヘンリーの法則
(3)酸性雨
 では,二酸化炭素が水にどの程度溶けるか試してみましょう。注射器(100mL)を使って実験をします。
  
 小学校の教科書に,二酸化炭素の入ったペットボトルに水を入れて振る実験が紹介されています。
思えているかな?
1.二酸化炭素の入ったペットボトルに水を入れてよく振ると,ペットボトルはどのようになりますか。
変形する
2.1の理由を説明しなさい。
二酸化炭素の一部が水に溶け,ペットボトル内の圧力が小さくなったから。
 二酸化炭素は結構水に溶けるのです。ただし,この実験は,炭酸飲料用のものではなく,お茶などに使われているペットボトルを使った方がよいでしょう。なぜなら,炭酸飲料用のペットボトルは耐圧設計されていて,ポリエチレンテレフタラートのシートが厚くなっているからです。 

第29章 環境と化学T
(1) 二酸化炭素の溶解
<実験>
1 1本の注射器に50mLの二酸化炭素を取る。
2 もう1本の注射器に50mLの水を入れる。
3 2本の注射器をつなぐ。
4 二酸化炭素の入った注射器のピストンを押す。
5 水と二酸化炭素の入った注射器をよく振る。
6 水と二酸化炭素全体の体積を調べる。

 水の体積は変わらないとする。
7 水と溶け残った二酸化炭素全体の体積を測定する。
8 水の体積は50mLのままである。
9 全体の体積から水の体積を引く(これが溶け残った二酸化炭素の体積)。
10 50mLから溶け残った二酸化炭素の体積を引く。

 よく振ると,結構二酸化炭素が水に溶けていきます。念のため,200回くらいは注射器を振った方がよいみたいです。うまくいくと,水50mLに二酸化炭素は40mL程度溶けます。ちなみに,二酸化炭素の溶解度は,20℃,1atm(1013hPa)のとき,水1Lに3.90×10−2molとなっています。これを体積に換算すると,約940mLで,水50mLには47mL溶けることになります。

(2) ヘンリーの法則
<実験>
 溶け残った二酸化炭素を捨て,かわりに空気を入れる。
1 注射器の中の水溶液(炭酸水)をこぼさないように注意して,溶け残った二酸化炭素をすべて出す。
2 注射器のピストンを下げながら,空気を20mL入れる。
3 体積の変化がなくなるまで注射器をよく振る。
4 水と気体全体の体積を調べる。




溶けている二酸化炭素の体積〔mL〕
溶け残りの二酸化炭素の分圧〔atm〕
分圧/体積


1.0










ヘンリーの法則…温度が一定で,溶解度の小さい気体が一定量の溶媒に溶けるとき,気体の溶解度(質量)はその圧力に比例する。

 空気を入れてよく振ると,水に溶けていた二酸化炭素が出てきます。不思議ですね。では,実験結果を確認しましょう。

 1では,二酸化炭素の体積と水の体積の和が60mLになりました。溶け残った二酸化炭素は10mLですから,溶けた二酸化炭素の体積は40mLとなります。もちろん圧力は大気圧に等しいですから,約1.0atmです。
 2では,気体の体積と水の体積の和が89mLになりました。水の体積は50mL,空気の体積は20mLですから,水溶液から19mLの二酸化炭素が出てきたことになります。したがって,このとき水溶液中に溶けている二酸化炭素の体積は,40−19=21〔mL〕となります。また,二酸化炭素の分圧は,1.0×19/39=0.49〔atm〕です。
 3では,気体の体積と水の体積の和が79mLになりました。水の体積は50mL,空気の体積は20mLですから,水溶液から9mLの二酸化炭素が出てきたことになります。したがって,このとき水溶液中に溶けている二酸化炭素の体積は,21−9=12〔mL〕となります。また,二酸化炭素の分圧は,1.0×9/29=0.31〔atm〕です。

溶けている二酸化炭素の体積〔mL〕
溶け残りの二酸化炭素の分圧〔atm〕
分圧/体積

40
1.0
0.025

21
0.49
0.023

12
0.31
0.026
 

 分圧/体積 の値は,ほぼ一定になりますね。
<発展>
 大気中には,0.034 %の二酸化炭素が含まれています。二酸化炭素の溶解度と電離度,分圧の法則を用いて,雨水のpHを計算してみると,次のようになります。
 20℃,1気圧の条件では,二酸化炭素は,水1Lに870mL溶けます。20℃,1気圧における二酸化炭素の密度は0.0018g/cm3だから,水1Lに約1.6 gの二酸化炭素が溶けることになります。しかし,空気中には二酸化炭素は体積で0.034%しか含まれていないため,分圧は0.00034atmです。したがって,大気中の二酸化炭素は水1Lに0.00054 g溶けることになります。その水溶液の濃度は,約0.000012mol/Lです。
 炭酸は,次の2段階で電離します。
  HCO → H + HCO  (電離定数:4.4×10-7
    HCO → H + CO2−    (電離定数:5.6×10-11
近似的には第1段階の電離だけと考えてもいいので,水素イオン濃度は次のようになります。
 水素イオン濃度[H]=cα=√cK=√(1.2×10-5×4.4×10-7)=√(5.28×10-12)≒2.3×10-6〔mol/
 したがって,
 pH=−log(2.3×10−6)=−log2.3+6=−0.36+6≒5.6
となります。すなわち,大気中に含まれている二酸化炭素の影響で雨水のpHは,5.6 程度であることがわかります。酸性雨の定義がpH5.6以下の雨となっている理由です。
 

(3)酸性雨
 大量の石油や石炭などの燃焼によって,大気中に排出される硫黄酸化物(SO
,SOなど)や窒素酸化物(NO,NOなど)が原因 
 SO+HO→HSO
 3NO+HO→2HNO+NO
 pH5.6以下の雨→
酸性雨
 土壌や湖沼の酸性化
 生態系に影響
 野外の建造物や彫刻が侵される被害
 
 環境問題を論じるためには,まだまだ化学の勉強が必要ですね。化学は生活に関係しないと考えていた人が多くいたと思いますが,この1年間で考え方は変わりましたか。いろいろと便利になった生活を送る上で,基本的な化学の知識は不可欠になっています。また,環境問題を正しく判断するためにも,化学の知識は不可欠です。
   
 では,この章の学習内容を確認しましょう。
確認しよう
1.温度が一定で,溶解度の小さい気体が一定量の溶媒に溶けるとき,気体の溶解度(質量)はその圧力に比例します。この法則を何といいますか?
2.酸性雨とは,どのような雨のことですか?
3.酸性雨の原因物質と考えれているものは何ですか?


1.ヘンリーの法則
2.pH5.6以下の雨
3.硫黄酸化物や窒素酸化物