08ko-034 生成熱と結合エネルギー
 この章では,生成熱や結合エネルギーについて学びましょう。この章の内容も,ヘスの法則と関係があります。
思えているかな?
1.単体とは何ですか?
それ以上細かい成分に分けることのできない純物質のことをいう。
単体は,1種類の元素でできた純物質である。
2.共有結合とは,どのような結合ですか?
原子間で出し合った価電子を共有してできる結びつきのことをいう。 
 生成熱とは,物質1molがその成分元素の単体から生成するときの反応熱のことです。単体の生成熱は0kJ/molとすることに注意してください。反応熱は,その反応に関係する物質の生成熱から,ヘスの法則に基づいて計算することができます。
 結合エネルギーは,化学 II で扱う内容ですが,ここで紹介しておきます。結合エネルギーは,共有結合を切るために必要なエネルギーです。この結合エネルギーを使っても,反応熱を求めることができます。
    
 この章の学習内容は,次の通りです。
(1)生成熱
(2)結合エネルギー
 では,生成熱からはじめましょう。単体の生成熱が0になることに注意してください。 

第34章 生成熱と結合エネルギー
(1)生成熱

 物質1molがその成分元素の単体から生成するときの反応熱
生成熱
 
単体の生成熱は0
 生成物の生成熱を kJ
 反応物の生成熱を kJ とすると
 反応物から生成物に変化するときの反応熱 〔kJ〕は
 
 すなわち,
 
反応熱=生成物の生成熱の和−反応物の生成熱の和
 
 

<例1>黒鉛と水蒸気の反応
 C(黒鉛) + HO(気) = CO(気) + H(気) + kJ


1.反応物の生成熱
 
単体の生成熱は0
 黒鉛は単体だから生成熱は0
 水の生成熱だけを考える
 水(気体)の生成熱は242kJだから
 H(気) + 1/2O(気) = HO(気) + 242kJ

2.生成物の生成熱
 水素は単体だから生成熱は0
 一酸化炭素の生成熱だけを考える
 一酸化炭素の生成熱は111kJだから
 C(固) + 1/2O(気) = CO(気) + 111kJ

3.生成熱から反応熱を求める
 反応熱=生成物の生成熱の和−反応物の生成熱の和だから
  =111−242
   =−131〔kJ〕



 
 
 「反応熱=生成物の生成熱の和−反応物の生成熱の和」の関係ををしっかり覚えておきましょう。
 次は結合エネルギーです。多くの結合エネルギーが求められていますが,異なる化合物から求めた結合エネルギーの値は,必ずしも一致しません。例えば,C=Oの結合エネルギーは,ケトン類(詳しくは有機化学で)と二酸化炭素では異なりますから,注意して下さい。結合エネルギーからも,ヘスの法則に基づいて生成熱を計算で求めることができます。
  

(2)結合エネルギー
 共有結合を切るとき必要なエネルギー→
結合エネルギー
 結合1molあたりの値で示す
 生成物の結合エネルギーを kJ
 反応物の結合エネルギーを kJ とすると
 反応物から生成物に変化するときの反応熱 〔kJ〕は 
 
 すなわち
 
反応熱=生成物の結合エネルギーの和−反応物の結合エネルギーの和
 
 

<例2>メタンの燃焼
 CH(気)+2O(気)=CO(気)+2HO(気)+ kJ
1.反応物の結合エネルギー
 C-H(CH)の結合エネルギー=416〔kJ〕
 C-H結合は4個あるから
 CH = C + 4H − 4×416kJ
 O=Oの結合エネルギー=498〔kJ〕
 Oが2分子必要だから
 2O
 = 4O − 2×498kJ

2.生成物の結合エネルギー
 C=O(CO)の結合エネルギー=804〔kJ〕
 C=O結合は2個あるから
 CO = C + 2O − 2×804kJ
 O−H(HO)の結合エネルギー=463〔kJ〕
 O−H結合が2個,HOが2分子だから
 2H
O = 4H + 2O − 2×2×463kJ

3.結合エネルギーから反応熱を求める
 反応熱=生成物の結合エネルギーの和−反応物の結合エネルギーの和
 だから
  =(2×804+2×2×463)−(4×416+2×498)
   =(1608+1852)−(1664+996)
   =3460−2660
   =800〔kJ〕


 
 
 ヘスの法則が理解できていないと,この章の内容は難しいですね。ヘスの法則は大切です。必要に応じて,復習して下さい。それと,計算練習を数多くこなすことが必要です。
  
 
それでは,この章の学習内容を確認しましょう。
確認しよう
1.生成熱とはどのような反応熱ですか?
2.反応熱と,生成物の生成熱の和と,反応物の生成熱の和の関係はどのようになりますか?
3.次式の の値を求めなさい。C(固)+HO(気)=CO(気)+H(気)+kJ
ただし,HO(気)の生成熱を242kJ/mol,CO(気)の生成熱を111kJ/molとします。
4.結合エネルギーとはどのようなエネルギーですか?
5.生成物の結合エネルギーと,反応物の結合エネルギーと,反応熱の関係はどのようになりますか?
6.次式の の値を求めなさい。H+Cl=2HCl+
ただし,H-Hの結合エネルギーを436kJ/mol,Cl-Clの結合エネルギーを243kJ/mol,H-Clの結合エネルギーを432kJ/molとします。
7.次の熱化学方程式を使って,下の問いに答えなさい。
 H(気)=2H(気)−432kJ
 C(黒鉛)+2H(気)=CH(気)+74.5kJ
 C(黒鉛)=C(気)−715kJ
 (1)メタン分子中のC-H結合の結合エネルギーを求めなさい。
 (2)炭素原子間の単結合と二重結合の結合エネルギーは,それぞれ368kJ/mol,590kJ/molである。エチレンに水素が付加してエタンが1mol生じる反応の反応熱を求めなさい。
  


1.物質1molが,その成分元素の単体から生成するときの反応熱
2.反応熱=生成物の生成熱の和−反応物の生成熱の和
3.反応熱 =生成物の生成熱の和−反応物の生成熱の和=(111+0)−(0+242)=−131〔kJ〕
4.共有結合を切るとき必要なエネルギー
5.生成物と反応物の結合エネルギーの差が,反応熱と等しくなる。
6.1molの水素分子を2molの水素原子にするのに436kJが必要だから,H=2H−436kJ と表すことができる。同様に,Cl=2Cl−243kJ と表すことができる。一方,2molのH原子と2molのCl原子から2molのHCl分子ができるとき,2×432kJのエネルギーを放出するから,2H+2Cl=2HCl+2×432kJ と表すことができる。したがって,3つの熱化学方程式をたすと,H+Cl=2HCl+185kJ となる。
7.(1) 2H(気)=4H(気)−432×2kJ
    −)C(黒鉛)+2H(気)=CH(気)+74.5kJ
     CH(気)=C(黒鉛)+4H(気)−432×2kJ−74.5kJ
    +)C(黒鉛)=C(気)−715kJ                  
     CH(気)=C(気)+4H(気)−1653.5kJ
    したがって,C-H結合の結合エネルギーは1653.5÷4=413〔kJ/mol〕である。
  (2) CH=CH(気)+H(気)=CH-CH(気)+ kJ
     生成物の結合エネルギーの和=C-H結合×6+C-C結合=413×6+368=2846〔kJ/mol〕
     反応物の結合エネルギーの和=C-H結合×4+C=C結合×1+H-H結合×1=413×4+590+436=2678〔kJ/mol〕
      =2846−2678=168〔kJ/mol〕