08ko-036 第36章 酸化剤と還元剤
 この章では,酸化剤と還元剤について勉強することにします。
思えているかな?
1.物質が電子を失う反応を何といいますか?
酸化
2.物質が電子を得る反応を何といいますか?
還元
3.1,2の反応では,原子の酸化数はどのように変化しますか?
酸化数は,原子が酸化された場合は増加し,還元された場合は減少する。
 酸化作用を有する物質を酸化剤といいます。一般に,相手の物質に酸素を与えるか,水素を奪うか,電子を奪うものです。したがって,酸化剤自身は還元されることになります。逆に,還元を起こさせることのできる物質を還元剤といいます。相手の物質から酸素を奪うか,水素を与えるか,電子を与えるものです。したがって,還元剤自身は酸化されることになります。日本語は難しいですね。注意してください。
 この章の学習内容は,次の通りです。
(1)酸化剤と還元剤
(2)過酸化水素とヨウ化カリウムの反応
(3)過マンガン酸カリウムとシュウ酸の反応
(4)過マンガン酸カリウムと過酸化水素の反応
 それでは,酸化剤と還元剤の定義からはじめましょう。酸化剤と還元剤との間で電子のやりとりを行います。
  

第36章 酸化剤と還元剤
(1)酸化剤と還元剤
 他の物質を酸化することができる物質(eを奪う)→酸化剤
 他の物質を還元することができる物質(eを与える)→
還元剤
酸化された(eを失った,酸化数増加)
 ┌────────────┐
 |  ↓
 酸化剤 還元剤 還元生成物 酸化生成物
    ↑
  └──────────┘
  還元された(eを得た,酸化数減少)
 
 
 それでは,具体的に酸化剤と還元剤を使って,酸化還元反応を考えてみましょう。
 まず,過酸化水素Hとヨウ化カリウムKIの反応です。消毒に使うオキシドールは,約3%の過酸化水素水溶液です。傷口につけたときに泡がみられますが,あれは酸素です。過酸化水素が分解されているのですね。デンプンの検出に用いるヨウ素溶液は,ヨウ素をヨウ化カリウム水溶液に溶かしたものです。ヨウ素は分子結晶なので水には溶けにくいのですね。
  
 ヨウ化カリウム水溶液に硫酸を加え,さらに過酸化水素水を加えると,溶液が無色から赤褐色に変化し,デンプン溶液を加えると,ヨウ素デンプン反応がみられます。このことより,ヨウ化物イオンIは酸化されてヨウ素分子Iになったと考えられますね。ヨウ化物イオンを酸化したのは,過酸化水素です。
 次に,過酸化水素が酸化剤としてはたらく反応の半反応式と,ヨウ化物イオンが還元剤としてはたらく反応の半反応式から,化学反応式をつくってみましょう。それぞれの半反応式をたすと,電子eが消えて,イオン反応式ができます。イオン反応式の両辺に,硫酸イオン,カリウムイオンを加えると,化学反応式になります。
 最後に酸化数の増減を確認しましょう。過酸化水素の酸素原子の酸化数は−1ですね。これが水の酸素原子になるわけですから,酸化数は−1から−2に減少しています。すなわち,還元されていることになります。一方,ヨウ化カリウムのヨウ素原子の酸化数は−1です。これが,ヨウ素分子になるわけですから,酸化数は−1から0に増加しています。すなわち,酸化されたことになります。

(2)過酸化水素とヨウ化カリウムの反応 
 酸化剤の半反応式; +2H+2e→2HO …(1)
 還元剤の半反応式; 2I→I+2e …(2)
 (1)+(2)より
 イオン反応式; +2H+2I→2HO+I
 化学反応式; +HSO+2K→2H+KSO
 酸素原子の酸化数;−1→−2
 (酸化数減少,還元された,酸化剤として働いた) 
 
ヨウ素原子の酸化数;−1→0
 (酸化数増加,酸化された,還元剤として働いた)

 次に硫酸酸性の過マンガン酸カリウムKMnO水溶液にシュウ酸(COOH)を加えたときは,過マンガン酸イオンの赤紫色が消えます。マンガン(II)イオンMn2+になるからです。マンガン(II)イオンは淡赤色ですが,うすいと無色に見えるのです。 
  
 次に,半反応式から化学反応式をつくってみましょう。それぞれの半反応式の電子e
の係数をそろえます。そして,両辺をたすと電子eが消えます。次に,両辺にカリウムイオンK,硫酸イオンSO2−を加えると,化学反応式になります。
 最後に,酸化数の増減について考えてみましょう。過マンガン酸カリウムのマンガン原子の酸化数は+7で,硫酸マンガンのマンガン原子の酸化数は+2です。したがって,酸化数は減少しています。還元されていますね。一方,シュウ酸の炭素原子の酸化数は+3であり,二酸化炭素の炭素原子の酸化数は+4です。したがって,酸化数は増加していますから,酸化されていることになります。
 

(3)過マンガン酸カリウムとシュウ酸の反応
 酸化剤の半反応式; MnO+8H+5e→Mn2++4HO …(1)
 還元剤の半反応式; (COOH)→2CO+2H+2e …(2)
 (1)×2+(2)×5より
 イオン反応式; 2MnO+6H+5(COOH)→2Mn2++8HO+10CO
 化学反応式; 2KMn+3HSO+5(OOH)→2MnSO+8HO+10+KSO
 マンガン原子の酸化数;+7→+2
 (酸化数減少,還元された,酸化剤として働いた)
 
炭素原子の酸化数;+3→+4
 (酸化数増加,酸化された,還元剤として働いた)

 いままでの例では,過マンガン酸カリウムKMnOも過酸化水素Hも,ともに酸化剤としてはたらいていました。ところが,硫酸酸性過マンガン酸カリウム水溶液に過酸化水素水を加えると,赤紫色が消えます。これは,明らかに,過マンガン酸イオンMnOがマンガン(II)イオンMn2+に変化したことを意味します。ということは,過酸化水素は還元剤としてはたらいたのでしょうか。
   
 過酸化水素が還元剤としてはたらくと,酸素を発生します。この半反応式と過マンガン酸イオンが酸化剤としてはたらくときの半反応式から,化学反応式をつくってみましょう。
 最後に,酸化数の増減について考えましょう。過マンガン酸カリウムのマンガン原子の酸化数は+7で,硫酸マンガンのマンガン原子は+2です。還元されていますね。一方,過酸化水素の酸素原子の酸化数は−1であり,これが単体の酸素になったと考えると0ですね。したがって,酸化数は増加したことになり,酸化されています。すなわち,還元剤としてはたらいたことになります。

(4)過マンガン酸カリウムと過酸化水素の反応 
 酸化剤の半反応式; MnO+8H+5e→Mn2++4HO …(1)
 還元剤の半反応式; →2H+O+2e …(2)
 (1)×2+(2)×5より
 イオン反応式; 2MnO+6H+5H→2Mn2++8HO+5O
 化学反応式; 2KMn+3HSO+5H→2MnSO+KSO+8HO+5
 マンガン原子の酸化数;+7→+2
 (酸化数減少,還元された,酸化剤として働いた)
 
酸素原子の酸化数;−1→0
 (酸化数増加,酸化された,還元剤として働いた)

 以上のように,酸化剤や還元剤とは絶対的なものではなく,相対的なものであることに気を付けてください。高校化学のレベルでは,酸化剤と還元剤の両方に関係する物質は,過酸化水素Hと二酸化硫黄SOです。 
 酸化剤;+2H+2e→2HO 
 還元剤;→2H+O+2e
 還元剤;SO+2HO→SO2−+4H+2e
 酸化剤;SO+4H+4e→S+2H
 ただし,ハロゲンの単体どうしの酸化力の強さの関係から,両方の立場を取ることもあります。ハロゲンの単体の酸化剤としての強さは,
 F>Cl>Br>I 
です。少しややこしいですが,がんばってください。
 それでは,この章の学習内容を確認しましょう。
確認しよう
1.電子を与え,相手の物資を還元する物質を何といいますか?
2.電子を奪い,相手の物質を酸化する物質を何といいますか?
3.ハロゲンの単体の中で,最も強く酸化剤として働くのは何ですか?
4.過マンガン酸カリウムと過酸化水素の反応では,どちらが酸化剤としてはたらきますか?
5.硫酸鉄(II)FeSOと塩素Clの反応を,イオン反応式で示しなさい。
6.硫化水素HSと二酸化硫黄SOの各反応を,イオン反応式で示しなさい。


1.還元剤
2.酸化剤
3.フッ素
4.過マンガン酸カリウム
5.2Fe2+→2Fe3++2e…(1)
Cl+2e→2Cl…(2)
(1)+(2)より,2Fe2++Cl→2Fe3++2Cl
6.2HS→2S+4H+4e…(1)
SO+4H+4e→S+2HO…(2)
(1)+(2)より,2HS+SO→3S+2H