この章では,酸化剤と還元剤について勉強することにします。
この章の学習内容は,次の通りです。 (1)酸化剤と還元剤 (2)過酸化水素とヨウ化カリウムの反応 (3)過マンガン酸カリウムとシュウ酸の反応 (4)過マンガン酸カリウムと過酸化水素の反応 それでは,酸化剤と還元剤の定義からはじめましょう。酸化剤と還元剤との間で電子のやりとりを行います。 |
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それでは,具体的に酸化剤と還元剤を使って,酸化還元反応を考えてみましょう。 まず,過酸化水素H2O2とヨウ化カリウムKIの反応です。消毒に使うオキシドールは,約3%の過酸化水素水溶液です。傷口につけたときに泡がみられますが,あれは酸素です。過酸化水素が分解されているのですね。デンプンの検出に用いるヨウ素溶液は,ヨウ素をヨウ化カリウム水溶液に溶かしたものです。ヨウ素は分子結晶なので水には溶けにくいのですね。 ヨウ化カリウム水溶液に硫酸を加え,さらに過酸化水素水を加えると,溶液が無色から赤褐色に変化し,デンプン溶液を加えると,ヨウ素デンプン反応がみられます。このことより,ヨウ化物イオンI−は酸化されてヨウ素分子I2になったと考えられますね。ヨウ化物イオンを酸化したのは,過酸化水素です。 次に,過酸化水素が酸化剤としてはたらく反応の半反応式と,ヨウ化物イオンが還元剤としてはたらく反応の半反応式から,化学反応式をつくってみましょう。それぞれの半反応式をたすと,電子e−が消えて,イオン反応式ができます。イオン反応式の両辺に,硫酸イオン,カリウムイオンを加えると,化学反応式になります。 最後に酸化数の増減を確認しましょう。過酸化水素の酸素原子の酸化数は−1ですね。これが水の酸素原子になるわけですから,酸化数は−1から−2に減少しています。すなわち,還元されていることになります。一方,ヨウ化カリウムのヨウ素原子の酸化数は−1です。これが,ヨウ素分子になるわけですから,酸化数は−1から0に増加しています。すなわち,酸化されたことになります。 |
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次に硫酸酸性の過マンガン酸カリウムKMnO4水溶液にシュウ酸(COOH)2を加えたときは,過マンガン酸イオンの赤紫色が消えます。マンガン(II)イオンMn2+になるからです。マンガン(II)イオンは淡赤色ですが,うすいと無色に見えるのです。 次に,半反応式から化学反応式をつくってみましょう。それぞれの半反応式の電子e−の係数をそろえます。そして,両辺をたすと電子e−が消えます。次に,両辺にカリウムイオンK+,硫酸イオンSO42−を加えると,化学反応式になります。 最後に,酸化数の増減について考えてみましょう。過マンガン酸カリウムのマンガン原子の酸化数は+7で,硫酸マンガンのマンガン原子の酸化数は+2です。したがって,酸化数は減少しています。還元されていますね。一方,シュウ酸の炭素原子の酸化数は+3であり,二酸化炭素の炭素原子の酸化数は+4です。したがって,酸化数は増加していますから,酸化されていることになります。 |
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いままでの例では,過マンガン酸カリウムKMnO4も過酸化水素H2O2も,ともに酸化剤としてはたらいていました。ところが,硫酸酸性過マンガン酸カリウム水溶液に過酸化水素水を加えると,赤紫色が消えます。これは,明らかに,過マンガン酸イオンMnO4−がマンガン(II)イオンMn2+に変化したことを意味します。ということは,過酸化水素は還元剤としてはたらいたのでしょうか。 過酸化水素が還元剤としてはたらくと,酸素を発生します。この半反応式と過マンガン酸イオンが酸化剤としてはたらくときの半反応式から,化学反応式をつくってみましょう。 最後に,酸化数の増減について考えましょう。過マンガン酸カリウムのマンガン原子の酸化数は+7で,硫酸マンガンのマンガン原子は+2です。還元されていますね。一方,過酸化水素の酸素原子の酸化数は−1であり,これが単体の酸素になったと考えると0ですね。したがって,酸化数は増加したことになり,酸化されています。すなわち,還元剤としてはたらいたことになります。 |
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以上のように,酸化剤や還元剤とは絶対的なものではなく,相対的なものであることに気を付けてください。高校化学のレベルでは,酸化剤と還元剤の両方に関係する物質は,過酸化水素H2O2と二酸化硫黄SO2です。
それでは,この章の学習内容を確認しましょう。
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答
1.還元剤
2.酸化剤
3.フッ素
4.過マンガン酸カリウム
5.2Fe2+→2Fe3++2e−…(1)
Cl2+2e−→2Cl−…(2)
(1)+(2)より,2Fe2++Cl2→2Fe3++2Cl−
6.2H2S→2S+4H++4e−…(1)
SO2+4H++4e−→S+2H2O…(2)
(1)+(2)より,2H2S+SO2→3S+2H2O