08ko-037 第37章 実験−酸化還元反応
 この章では,酸化還元反応について調べる実験を紹介します。その前に,酸化剤と還元剤について復習しておきましょう。
思えているかな?
1.酸化剤とは何ですか?
酸化還元反応において,電子を奪い,相手の物質を酸化する物質のことをいう。
2.還元剤とは何ですか?
酸化還元反応において,電子を与え,相手の物質を還元する物質のことをいう。
 この章の実験では,色の変化に注目をして下さい。例えば,過マンガン酸イオンMnOは赤紫色ですが,還元されてマンガン(II)イオンMn2+になると淡赤色です。ただし,これはかなり濃いときの色で,今日の実験のような濃度では無色に見えます。また,二クロム酸イオンCr2−は橙赤色ですが,還元されてクロムイオン(III)Cr3+になると緑色に変化します。
 次に,ヨウ化物イオンIが酸化されてヨウ素分子Iになると,もちろん色の変化があります。しかし,それだけではなく,ヨウ素デンプン反応によってヨウ素分子を確認することができますね。
 また,色の変化がなくても,酸化されると気体が発生するものもあります。シュウ酸(COOH)が酸化されると二酸化炭素COが発生します。過酸化水素Hが酸化されると酸素Oを発生します。しかし,気体の発生は少量であり,急激なため注意しなければいけません。

第37章 実験−酸化還元反応
<銅と水素の反応>
1-1 乾いた試験管に水素を入れ,ゴムを栓する。
1-2 らせん状に巻いた銅線をガスバーナーの外炎で赤熱し,
1の試験管に下から静かに入れる。銅線の表面や試験管の内部
の変化をみる。

 
 
 実験結果を確認しましょう。
1-2では,加熱後炎から遠ざけたときは,銅Cuは空気中の酸素と反応して黒色の酸化銅(II)CuOに変化しました。また,1の試験管に入れたときは,黒色の酸化銅(II)CuOが水素Hに還元され,赤色の銅Cuに戻りました。そのとき,試験管内の水素は酸化されて水HOになりますから,試験管の内部がくもりましたね。
  

<ヨウ化カリウムと塩素の反応>
2-1 試験管にヨウ化カリウムKI水溶液を1mLとり,塩素Cl
を1mL加える。
2-2 1の試験管に蒸留水を5mL加え,さらにデンプン水溶液を
1mL入れる。

 実験結果を確認しましょう。
 2-1では,溶液の色が無色から褐色に変化しました。ヨウ化物イオンIがヨウ素分子Iに変化したからです。つまりヨウ素と塩素では,塩素の方が酸化剤として強いことがわかります。ハロゲンの単体の酸化剤としての強さは,
  F>Cl>Br>I2 
です。
 2-2では,溶液の色が褐色から青色に変化しました。ヨウ素デンプン反応ですね。
 

<ヨウ化カリウムと過酸化水素の反応>
3-1 ペトリ皿にヨウ化カリウムKI水溶液10mLとデンプン水溶液5mLを入れる。また,別のペトリ皿には過酸化水素H水(3%)10mLと希硫酸HSO5mLを入れる。
3-2 硝酸カリウムKNO水溶液をつけたろ紙の両端を2つのペトリ皿の水溶液につける。電圧計と接続した炭素棒を,それぞれのペトリ皿の水溶液に浸して(電圧計の針が負の方に振れたら,導線の端子を逆にする),約3分間,電圧計の針の振れと,両方の水溶液のようすをみる。

 
 
 実験結果を確認しましょう。
 3-2では,+極が過酸化水素H水,−極がヨウ化カリウムKI水溶液になりました。また,ヨウ化カリウム水溶液に浸した炭素棒の周囲が青色に変化しました。ヨウ化物イオンIがヨウ素分子Iに変化し,ヨウ素デンプン反応を示したからですね。すなわち,過酸化水素は酸化剤として,ヨウ化物イオンは還元剤としてはたらいています。
 酸化剤の半反応式;  H + 2H + 2e → 2HO 
 還元剤の半反応式;  2I(無色) → I(赤褐色) + 2e
したがって,ヨウ化物イオンから過酸化水素に電子が移動したわけです。電子は負極から正極に移動するのでしたね。

<いろいろな酸化還元反応>
4-1 過マンガン酸カリウムKMnO水溶液1mLを試験管にとり,希硫酸HSOを1mL加えた後,シュウ酸(COOH)水溶液を2mL加え,おだやかに加熱する。
4-2 二クロム酸カリウムKCr水溶液1mLを試験管にとり,希硫酸HSOを1mL加えた後,亜硫酸ナトリウムNaSO水溶液を2mL加える。


<過マンガン酸カリウムと過酸化水素の量的関係>
5 試験管に過マンガン酸カリウムKMnO水溶液を10滴入れ,希硫酸HSO3滴加える。これに過酸化水素H水を1滴ずつ加えてよく振り,何滴で水溶液の色が変化するか調べる。

  実験結果を確認しましょう。
 4-1では,気泡が生じ,水溶液が赤紫色から無色に変化しました。シュウ酸(COOH)が還元剤としてはたらき,二酸化炭素COを発生します。また,過マンガン酸イオンMnOが2価のマンガンイオンMn2+に変化したから無色になったのですね。2価のマンガンイオンMn2+は淡赤色ですが,うすいために無色に見えるのです。
 
 4-2では,水溶液が赤橙色から緑色に変化しました。二クロム酸イオンCr2−が3価のクロムイオンCr3+に変化したからですね。
 5では,水溶液の色が赤紫色から無色に変化しました。過マンガン酸イオンMNOが2価のマンガンイオンMn2+に変化したからです。滴下した過酸化水素水の体積をビュレットを使って正確に求めると,きちんとした量的関係が検討できますね。そのような滴定を酸化還元滴定といいます。
 それでは,考察です。        

 操作1での銅の変化を化学反応式で示すと,
炎から遠ざけたとき;2Cu+O→2CuO (酸化された)
試験管に入れたとき;CuO+H→Cu+HO (還元された)
 操作2で,ヨウ化物イオンが変化してできたものは,
ヨウ素 I
 操作2のヨウ化物イオンの変化,塩素分子の変化をそれぞれ半反応式で示すと,
2I 2e (酸化された)
Cl Cl 2e 2Cl (還元された)
 操作3で,電子の移動した向きは,
ヨウ化カリウム水溶液から過酸化水素水溶液に電子が移動した。
 操作4で,酸化剤として働いているものは,
1;KMnO   2;KCr
 操作5で,過マンガン酸イオンおよび過酸化水素の変化それぞれ半反応式で示すと,
MnO MnO 8H 5e Mn2+ 4H (還元された)
2H 2e (酸化された)
 操作5で,水溶液1滴の体積が等しいものとすると,同じ濃度の過マンガン酸カリウムと過酸化水素の体積比は,
KMnO水溶液:H水溶液=2:5



 ヨウ素デンプン反応
 デンプン分子はらせん構造をしており,多数のヒドロキシル基-OH
がらせんの外側に向き,らせんの中は疎水性になっている。この
らせん構造の中にヨウ素分子Iが入り込み,Iとデンプン分子の間
に分子間力による弱い結合が形成され,青〜青紫色に呈色する。
熱すると,Iはらせん構造の外側に出て色が消えるが,冷やすと再
び呈色する。
 


 この実験で使った酸化剤と還元剤の変化(半反応式)
<酸化剤>
MnO(赤紫色)+8H+5e→Mn2+(淡赤色)+4H
Cr2−(橙赤色)+14H+6e→2Cr3+(緑色)+7H
Cl+2e→2Cl
+2H+2e→2H
<還元剤>
(COOH)→2CO↑+2H+2e
2I(無色)→I(赤褐色)+2e
→2H+O↑+2e
SO2−+HO→SO2−+2H+2e
 この章の実験のポイントは,次の通りです。
確認しよう
1.銅を空気中で加熱すると,酸化されて黒色の酸化銅(II)CuOになり,水素中に入れると還元されて銅Cuに戻ります。
2.ヨウ化カリウムKIと塩素Clを反応させると,ヨウ化物イオンIが酸化されてヨウ素分子Iになり,塩素分子Clが還元されて塩化物イオンClに変化します。ハロゲンの単体の酸化力の強さは,フッ素>塩素>臭素>ヨウ素 の順です。
3.過酸化水素Hとヨウ化カリウムKIで電池ができます。このとき,過酸化水素が+極で,ヨウ化カリウムが−極になります。ヨウ化カリウムから過酸化水素に電子が移動するのですね。
4.過マンガン酸カリウムKMnOとシュウ酸(COOH)を反応させると,過マンガン酸カリウムは酸化剤としてはたらき,シュウ酸は還元剤としてはたらきます。このとき,赤紫色の過マンガン酸イオンMnOは淡赤色(実際には無色に見える)の2価のマンガンイオンMn2+に変化し,二酸化炭素COが発生します。
5.二クロム酸カリウムKr2に亜硫酸ナトリウムNaSOを反応させると,二クロム酸カリウムが酸化剤としてはたらき,亜硫酸ナトリウムが還元剤としてはたらきます。このとき,橙赤色の二クロム酸イオンCr2−が緑色の3価のクロムイオンCr3+に変化します。
6.過マンガン酸カリウムKMnOと過酸化水素Hを反応させると,過マンガン酸カリウムが酸化剤としてはたらき,過酸化水素が還元剤としてはたらきます。このとき,赤紫色の過マンガン酸イオンMnOは淡赤色(実際には無色に見える)の2価のマンガンイオンMn2+に変化し,酸素Oが発生します。