中学校のときに,水の電気分解を勉強しましたね。
この章では,電気分解についてさらに詳しく勉強することにします。電気分解では,外部の電源の負極と導線で連結した電極を陰極,正極と連結した電極を陽極といいます。中学校で−極と呼んでいたのが陰極,+極と呼んでいたのが陽極です。 陰極では,溶液中の陽イオンが電子を受け取り,還元反応が起こります。一方,陽極では溶液中の陰イオンが電子を失い,酸化反応が起こります。電池も電気分解も,酸化還元反応なのですね。 この章の学習内容は,次の通りです。 (1)塩化銅(II)水溶液 (2)硫酸銅(II)水溶液 (3)水 (4)電解工業 それでは,中学校のときに学習した塩化銅(II)水溶液の電気分解です。一般に,電極は白金や炭素を使います。 |
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次に硫酸銅(II)水溶液に電流を通すと,どのような変化が見られるでしょうか。白金電極で実験を行うと,陰極に銅が付着し,陽極から酸素が発生します。その理由は,塩化物イオンのように水よりも酸化されやすい陰イオンがあれば,それらが酸化されて単体になります。ところが,硫酸イオンや硝酸イオンのように酸化されにくい陰イオンのみがあるときは,水分子が酸化されて酸素が発生するのです。 電極を白金から銅に変えててみましょう。今度は酸素の発生は見られません。しかし,陽極の銅は銅イオンとなって水溶液中に溶け出してしまいます。すなわち,陰極の銅は電気分解によって質量が増加し,陽極の銅は質量が減少するのです。その理由は,銅のように酸化されやすい金属を陽極にすると,陽極自身が酸化されるからです。白金や炭素を電極にしたときは,そのようなことが起こりません。 |
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中学校で行った水の電気分解では,電流を通しやすくするために,水に水酸化ナトリウム水溶液を加えました。水酸化ナトリウムは,単に電気伝導性を高めただけでしょうか。 陰極では,最も還元されやすい物質が反応します。一般に液中の陽イオンが反応するわけですが,イオン化傾向の大きな金属の陽イオンは陰極で還元されにくいのです。ナトリウムはもちろんイオン化傾向の大きい金属ですから,ナトリウムイオンは還元されにくいのです。このようなときは,水分子が還元されて,水素を発生します。 また,水酸化ナトリウムは塩基性の物質ですが,塩基性の水溶液のときは,陽極で水酸化物イオンが酸化されて酸素が発生します。したがって,陽極から発生する酸素は,水分子の酸素というより水酸化ナトリウムの酸素というべきでしょうか。そうすると,水の電気分解というのはまずいですね。しかし,水もわずかに電離しているのですから,そのような議論は無意味かもしれません。 では,酸性溶液ではどのような変化が見られるのでしょうか。希硫酸を電気分解すると,やはり,陰極から水素が,陽極から酸素が発生します。酸性溶液では,陰極で水素イオンが還元されて水素が発生するのです。一方,硫酸イオンは酸化されにくいため,陽極では水が酸化されて酸素が発生します。 |
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次に塩化ナトリウム水溶液の電気分解を考えてみましょう。 塩化ナトリウム水溶液を炭素電極電気分解すると,陰極では,ナトリウムイオンは還元されにくいため,水が還元されて水素を発生します。このとき,溶液中の水酸化物イオンの濃度は増します。一方,陽極では塩化物イオンが酸化されて塩素の発生が見られます。したがって,水溶液中のナトリウムイオンの濃度は変化せず,塩化物イオンが減る代わりに水酸化物イオンが増えることになります。すなわち,塩化ナトリウムが水酸化ナトリウムに変わるわけです。 水酸化ナトリウムを工業的につくる方法としてイオン交換膜法があります。陽イオン交換膜を使ってナトリウムイオンを陰極側に移動させ,水酸化ナトリウム水溶液をつくるのです。 |
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アルミニウムは融解塩電解でつくられます。したがって,アルミニウムの製造に多量の電力が必要なのです。そのため,アルミニウム缶のリサイクルが盛んに行われているのですね。 純度99.99%以上の純粋な銅は,電解精錬によってつくられています。電極に銅を使った硫酸銅(II)水溶液の電気分解です。陰極が純銅で,陽極が粗銅であることに注意して下さい。 これら以外に,電解工業として電気めっきがあります。銅の電解精錬で,陰極の銅を他の金属と変えると,その金属の表面に銅が付着し,銅めっきができるのです。 それでは,この章の学習内容を確認しましょう。
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答
1.還元
2.酸化
3.陰極に銅が付着し,陽極から塩素が発生する。
4.陰極に銅が付着し,陽極が溶け出す。
5.陰極から水素が発生し,陽極から酸素が発生する。