08ko-44 第44章 ハロゲンの単体と化合物
 この章から無機物質について,勉強します。まず,周期表と元素の性質の関係について復習しましょう。
思えているかな?
1.典型元素の単体の性質は,何の増加とともに周期的に変化しますか?
原子番号
2.同じ族に属する元素群を何といいますか?
同族元素
 同族元素は性質がよく似ていましたね。そこで,無機物質の学習は,周期表の族で分類しながら進めていくことにします。とりあえず非金属からはじめましょう。
  
 18族の希ガスは,1年生のときに詳しくやりましたから,17族元素からはじめます。17族元素はハロゲンと総称されていますが,Haloはギリシャ語で「造塩」,genは「素」の意味です。NaClなどの塩をつくる素になっているという意味でしょうか。
  
 身近なところでは,塩素が水道水の消毒に使われており,ヨウ素はうがい薬(イソジンガーグル)などに使われています。ハロゲン原子の価電子は7個でしたね。したがって,1価の陰イオンになりやすいのです。
 この章の学習内容は,次の通りです。
(1)ハロゲン元素
(2)ハロゲンの単体
(3)ハロゲンの化合物
 それでは,ハロゲン元素からはじめましょう。主なものは,フッ素F,塩素Cl,臭素Br,ヨウ素Iです。
      

第44章 ハロゲンの単体と化合物
(1)ハロゲン元素 
 F  fluorine 蛍石(CaF
 Cl chlorine 黄緑(ギリシャ語)
 Br bromine 臭い(ギリシャ語)
  iodine すみれ色(ギリシャ語)
 価電子が7個→1価の陰イオンになりやすい
 電子を受け取りやすい→還元されやすい(酸化作用)

 ハロゲンの単体は,2原子分子からなり,有色・有毒です。融点・沸点は原子番号が大きいほど高くなります。有色の気体の例はそれほど多くないので,きちんと色を覚えてきましょう。フッ素は淡黄色の気体です。塩素は黄緑色の気体です。塩素は酸化マンガン(IV)に濃塩酸を加えて熱するか,さらし粉に塩酸を加えて発生させます。臭素は赤褐色の液体です。ヨウ素は黒紫色の固体です。ヨウ素溶液をしていますね。デンプンの検出に使います。実は,ヨウ素は水には溶けにくいのす。ヨウ素溶液とは,ヨウ素をヨウ化カリウム水溶液に溶かしたものなのです。
 I + I → I− 
   
 ハロゲンの単体では,酸化力に差があること,漂白・殺菌作用があることが重要です。酸化力の強さは,
  F>Cl>Br>I 
です。原子番号が小さいほど強くなっていますね。原子半径が小さいほど,電子を引きつける力が大きいからです。酸化還元の実験で,ヨウ化カリウム水溶液に塩素水を加えましたね。結果は,ヨウ化物イオンがヨウ素にかわり,ヨウ素デンプン反応を示しました。また,塩素が水に溶けると,その一部が反応して塩化水素HClと次亜塩素酸HClOを生じます。この次亜塩素酸には強い酸化作用があるために,塩素水は漂白剤や殺菌剤として使われているのです。
   

(2)ハロゲンの単体 
<塩素の製法>
 酸化マンガン(IV)に濃塩酸を加えて加熱
加熱
 MnO+4HCl MnCl+2HO+Cl
 高度さらし粉に塩酸を加える
 Ca(ClO)・2HO+4HCl CaCl+4HO+2Cl
 工業的には塩化ナトリウム水溶液の電解(イオン交換膜法
電解
 2NaCl+2H 2NaOH+H+Cl

<酸化力>
 X+2e→2X X原子は還元された
 Cl+2e→2Cl
 2I→I+2e
 すなわち 2I+Cl→I+2Cl
 酸化力の強さ 
Cl>I  
 ハロゲン全体では >Cl>Br>I

<漂白作用・殺菌作用>
 HClOの強い酸化作用
 Cl+HO→HCl+HClO 
 HCl +H +2e Cl
 酸化数+1   酸化数−1
 酸化数減少→還元された=相手を酸化した(酸化作用)
 ハロゲンの化合物では,ハロゲン化水素,塩素酸塩,次亜塩素酸,ハロゲン化銀などが代表的なものです。
 塩酸HClは,ハロゲン化水素の一種である塩化水素の水溶液です。濃塩酸は約37%で,12mol/Lです。塩化水素は,工業的には,水素と塩素を反応させてつくります。実験室では,塩化ナトリウムNaClに濃硫酸HSOを加えて加熱してつくります。
   
 このとき,硫酸水素ナトリウムNaHSOができることに注意して下さい。硫酸ナトリウムNaSOではありませんよ。塩化水素は水に溶けやすく,下方置換法で捕集します。
 フッ化水素HFは,ガラスを溶かす性質があるので,目盛りをつけるのに使われます。
  
 塩素酸塩の一種である塩素酸カリウムKClOは,加熱すると酸素を発生するので,実験室で酸素を発生させるときに使われます。
  
 また次亜塩素酸塩は,酸化剤・漂白剤・殺菌剤としてよく使われます。「混ぜるな危険」と書いてあるものですね。塩素系漂白剤には,次亜塩素酸ナトリウムなどの次亜塩素酸塩が使われています。これに塩酸を含んだ洗浄剤を混ぜると塩素が発生するのです。
 
 
 ハロゲン化物の塩は,一般には水に溶けやすいものが多いですが,銀塩は溶けにくいのです。但し,フッ化銀AgFは例外です。また,カルシウム塩では逆で,CaFは水に溶けにくいのです。これは,電気陰性度の差で説明することができます。
AgF AgCl AgBr AgI
溶解性 不溶 不溶 不溶
電気陰性度の差 2.1 1.1 0.9 0.6
 塩化ナトリウムの電気陰性度の差も2.1です。したがって,フッ化銀が水に溶けることは不思議ではありません。しかし,他のハロゲン化銀の電気陰性度の差は,水分子の電気陰性度の差1.4よりも小さいのです。そのようなものをイオン結晶と考えていることに無理があるのではないでしょうか。
CaF CaCl CaBr CaI
溶解性 不溶
電気陰性度の差 3.0 2.0 1.8 1.5
 フッ化カルシウムの電陰性度の差は3.0もあり,イオン結合が強すぎるのです。水和の余地がないといったら言い過ぎでしょうか。電気陰性度の差が大きすぎても,また小さすぎても水には溶けにくいことがわかりますね。
 銀塩には感光性があり,光が当たると分解して銀が析出します。この性質は,写真のフィルムや印画紙に利用されています。
    

(3)ハロゲンの化合物 
<ハロゲン化水素>
 NaCl+HSO
NaHSO+HCl
 CaF+HSO→CaSO+2HF
 
フッ化水素酸HFは弱酸ガラスを溶かす性質

<塩素酸塩>
 2KClO→2KCl+3O
 触媒としてMnOを使用
 塩素酸カリウムKClOはマッチの頭薬,花火や火薬に使用


<次亜塩素酸塩>
 次亜塩素酸イオンClOを含む→
酸化作用
 水溶液は酸化剤,漂白剤,殺菌消毒剤
 塩酸と反応して塩素を発生
 NaClO+2HCl→NaCl+HO+Cl


<ハロゲン化銀>
 Ag+X→AgX↓水に溶けにくい  
 AgCl:白色,AgBr:淡黄色,AgI:黄色
 ただし
AgFは水に溶けやすい
 ハロゲンは反応性が高く,身近なところでよく使われています。塩素系漂白剤には次亜塩素酸塩などがよく使われています。これに強い酸を作用させると,塩素が大量に発生するので危険です。「混ぜるな危険」という表示に注意しましょう。
  
 また,水に溶けにくい塩化物は,塩化銀AgClと塩化鉛PbClの2種類だけと覚えておきましょう。共に白色ですが,塩化鉛は熱湯に溶けるので塩化銀と区別することができます。
 では,この章の学習内容の確認です。
確認しよう
1.ハロゲンの原子の価電子は何個ですか?
2.ハロゲンの単体で,室温で液体であるのは何ですか?
3.塩素を実験室で発生させるには,酸化マンガン(IV)に何を加えて加熱しますか?
4.ハロゲンの単体で酸化力の強いものから順に並べると?
5.塩素が水に溶けると,その一部は水と反応して何ができますか?
6.ハロゲン化水素で,ガラスを溶かすものは何ですか?
7.塩化銀,臭化銀,ヨウ化銀の色はそれぞれ何色ですか。


1.7個
2.臭素
3.濃塩酸
4.F>Cl>Br>I
5.塩化水素HClと次亜塩素酸HClO
6.フッ化水素酸HF
7.塩化銀;白色,臭化銀;淡黄色,ヨウ化銀黄色