08ko-065 第65章 実験−気体の炭化水素
 有機化合物は難しいと思っている人がいますが,そのようなことはありません。少しずつ慣れていくことが大切です。まず,実験を楽しむことにしましょう。しかし,有機化合物の実験では,濃硫酸を使ったり,引火性の溶媒を使うことが多いですね。反応も,少し時間がかかるものが多くなります。実験では,注意点をよく守り,間違いのないようにして下さい。
  
 この章では,メタンCH,エチレンC,アセチレンCの性質を調べる実験を紹介します。これらの物質は,常温では気体です。
思えているかな?
1.炭化水素とはどのような化合物ですか?
炭素Cと水素Hのみでできた化合物
2.炭素原子がすべて単結合の炭化水素を何といいますか?
飽和炭化水素
3.脂肪族炭化水素のうち,飽和炭化水素を何といいますか?
アルカン
4.脂肪族炭化水素のうち,不飽和炭化水素で二重結合1個を含むものを何といいますか?
アルケン
5.脂肪族炭化水素のうち,不飽和炭化水素で三重結合1個を含むものを何といいますか?
アルキン
 最も簡単な構造の炭化水素はメタンCHです。都市ガスの主成分はメタンです。大阪ガスでは約88%がメタンだそうです。それ以外に,エタンが6%,プロパンが4%,ブタンが2%含まれているようです。したがって,都市ガスを水上置換して,それをメタンとします。メタン以外に,エチレンCH=CHとアセチレンCH≡CHを合成して,それらの性質を調べることにしましょう。
  

第65章 実験−気体の炭化水素
<メタンの捕集>
1 ガスバーナーの上部を筒をはずし,塩化ビニル管をつける。水上置換でメタン(都市ガスの主成分)を試験管4本に捕集し,最初の1本は捨て,残り3本にゴム栓をする。

 
 
 エチレンは,次の方法でつくってください。160℃がポイントです。
濃硫酸
 COH O 
160℃以上
 約140℃で反応させると,ジエチルエーテルができます。
濃硫酸
 2COH -O-C O 
140℃

<エチレンの発生>
2 エタノール2mLを試験管に取り,水道水で冷却しながら濃硫酸4mLを少しずつ加え,よく振って混合する。これに沸騰石を加え,160℃(発生器内が褐色になる程度)に加熱する。水上置換で,エチレンを3本の試験管に捕集する。
注意 水が逆流するのを防ぐため,誘導管を水槽から引き上
げてから加熱をやめる。


 
 
 アセチレンは,次の方法でつくってください。
 CaC 2H Ca(OH)
 アセチレンは本来,無色無臭ですが,カルシウムカーバイドから発生させたものにはホスフィンPHなどが含まれるので悪臭をもちます。

<アセチレンの発生>
3 小指大の炭化カルシウムを試験管に入れ,水中に沈める。炭化カルシウムと水の反応で生じるアセチレンを,3本の試験管に捕集する。

 
 
 これで準備が整いました。それぞれの炭化水素の性質を調べます。まず最初は燃え方の違いを調べましょうろうそくの炎は黄色で,明るいですね。これは,ろうが炭素を多く含んでいるからです。水素が燃えても黄色い炎を出しませんね。したがって,炎の色で炭素含有量の多少がわかるのです。また,炭素を多く含んでいるものは,燃えるときにすすを出します。
  

<炭化水素の性質>
4 1本目の試験管にマッチで点火し,炎の色,すすの発生の度合いなどをみる。
5 2本目の試験管に臭素水を1mL入れ,ゴム栓をしてよく振り,色の変化をみる。
6 3本目の試験管に硫酸酸性の過マンガン酸カリウム水溶液を1mL入れ,ゴム栓をしてよく振り,色の変化などをみる。



メタンCH エチレンC アセチレンC
点火のようす


Braq


KMnOaq


  実験結果の確認をしましょう。


メタンCH エチレンC アセチレンC
点火のようす うすい青色の炎 黄色の炎,すすの発生 黄色の炎,多量のすすの発生
Braq 変化なし 無色に変化 無色に変化
KMnOaq 変化なし 無色または褐色に変化 無色または褐色に変化
 炭素含有量は,メタンが75%,エチレンが 86%,アセチレンが92%です。
 エチレンやアセチレンのように不飽和結合をもっている物質は,臭素の付加反応が起こります。したがって,臭素分子の色(赤褐色)が消えるのです。しかし,アセチレンに臭素水を入れても臭素分子の色が消えないことがあります。二重結合への付加の方が速いのですね。
 それでは考察です。        

 エチレンとアセチレンの発生反応を化学反応式で示すと,
OH
CaC 2H Ca(OH)
 メタン,エチレン,アセチレンの完全燃焼を化学反応式で示すと,
CH 2O CO 2H
3O 2CO 2H
2C 5O 4CO 2H
 エチレン,アセチレンと臭素との反応化学反応式で示すと,
CH=CH Br CHBr−CHBr
1,2-ジブロモエタン
CH≡CH Br CHBr=CHBr
1,2-ジブロモエチレン
CHBr=CHBr Br CHBr−CHBr
テトラブロモエタン
 メタン,エチレン,アセチレンのうち,硫酸酸性過マンガン酸カリウムによって酸化されやすいものは,
エチレンとアセチレン
MnO 8H 5e Mn2+ 4H
赤紫色 淡赤色(ほとんど無色)
 ただし,マンガン原子が酸化数+4で止まれば,MnOになる。


 炭化水素の燃焼
 水素原子は燃焼により水になる。

4H + O = 2HO + kJ
 炭素原子は燃焼により二酸化炭素になる。
C + O = CO + kJ
 水素原子の割合が少ない→が小さい→C−Cが残る→すすが発生する。
Cの燃焼熱=394kJ/mol,Hの燃焼熱=286kJ/mol
C−Hの結合エネルギー=416kJ/mol,C−Cの結合エネルギー=286kJ/mol
 この章の実験のポイントは,次の通りです。
確認しよう
1.エタノールに濃硫酸を加え,約160℃以上に熱すると,エチレンが発生します。
2.炭化カルシウム(カーバイド)に水を加えると,アセチレンが発生します。
3.メタン,エチレン,アセチレンを燃やすと,炭素含有率の大きいアセチレンが,最もすすを出します。
4.エチレンやアセチレンのような不飽和結合をもった化合物に臭素水を加えると,臭素水の色が消えます。
5.エチレンやアセチレンのような不飽和結合をもった化合物は,硫酸酸性過マンガン酸カリウムによって酸化されやすいです。