08ko-081 第81章 実験−フェノールと安息香酸
 この章では,フェノールや安息香酸の性質を調べ,安息香酸を合成する実験を紹介します。
   
 安息香酸は,天然には,天然樹脂の安息香に遊離酸やエステルとして含まれているようです。
思えているかな?
1.エステルとはどのような化合物ですか?
酸とアルコールから水分子が取れて生じる化合物
2.エステルの一般式を示しなさい。
R-COO-R’
 それでは,フェノールの性質から調べましょう。

第81章 実験−フェノールと安息香酸
<フェノールの性質>
1 フェノールCOHを1mL試験管にとり,純水約5mLを加えてよく振り,静置する。ガラス棒を用いて万能pH試験紙につけ,pHを調べる。
2 1の溶液を他の2本の試験管にも分けて3等分し,それぞれ下の(1)〜(3)の試薬を加えてよく振る。



加える試薬
変化の様子
(1)
塩化鉄(III)FeCl水溶液を1〜2滴

(2)
(a)水酸化ナトリウムNaOH水溶液約1mL


(b)(a)の溶液にさらに塩酸HCl約1mL

(3)
水を5mL加えた後,臭素Br水を2mL

(注意) この実験の臭素水は濃いものを利用しているので取り扱いに特に注意する。
 実験結果を確認しましょう。

加える試薬
変化の様子
(1)
塩化鉄(III)FeCl水溶液を1〜2滴
青紫色に変化する
(2)
(a)水酸化ナトリウムNaOH水溶液約1mL
溶ける

(b)(a)の溶液にさらに塩酸HCl約1mL
油状に分離する
(3)
水を5mL加えた後,臭素Br水を2mL
白色綿状の沈殿物ができる
 フェノールは水に溶けにくいですね。ベンゼン環の疎水性の効果が大きいのでしょう。
 塩化鉄(III)水溶液を加えると,青紫色を呈します。この反応を塩化鉄反応といいます。Fe3+にフェノールが配位して錯イオンをつくっているのです。
 フェノールに水酸化ナトリウム水溶液を加えると,塩(ナトリウムフェノキシドC-ONa)になって溶けます。これに塩酸を加えると,油状に分離します。弱酸(フェノール)の塩に強酸(HCl)を加えると,強酸の塩(NaCl)ができて,弱酸(フェノール)が遊離します。
 フェノールに臭素水を加えると,白色綿状の沈殿物(2,4,6−トリブロモフェノール)が生成します。
  
 次は,安息香酸の性質です。 

<安息香酸の性質>
3 安息香酸CCOOHを小さじ半分ほど試験管に取り,純水約5mLを加えてよく振り,静置する。また,ガラス棒を用いて万能pH試験紙につけ,pHを調べる。
4 3の水溶液に水酸化ナトリウムNaOH水溶液を約1mL加えてよく振り,変化を見る。
5 4の溶液に塩酸HClを約2mL加えて,変化を見る。

 実験結果を確認しましょう。

 安息香酸の溶解度は小さく,結晶が溶け残ります。水溶液のpHは約4です。
 水酸化ナトリウム水溶液を加えると,安息香酸は溶けて,無色透明の溶液になります。また,これに塩酸を加えると,もとの安息香酸にもどり,白色綿状の結晶が析出します。
  
 次は,酸としての強さの比較です。

<酸としての強さの比較>
6 COH約0.5mLを試験管に取り,純水約3mL加えてよく振る。次に,炭酸水素ナトリウムNaHCO水溶液約2mLを加えてよく振る。
7 安息香酸CCOOHを小さじ試験管に取り,炭酸水素ナトリウム水溶液約2mL加えてよく振る。さらに塩酸HCl約1mLをゆっくり加える。

 実験結果を確認しましょう。

 6では変化がありません。したがって,フェノールは炭酸より弱い酸であることがわかります。7ではCOを発生しながら溶けますから,安息香酸の方が酸性が強いことがわかります。

<安息香酸の合成>
8 試験管に過マンガン酸カリウムKMnO
水溶液を約4mL取り,これに1.5mLのベンズアルデヒドCCHOを加える。
9 8の試験管を95℃の熱湯にに浸け,約15分間反応させる。
10 反応後,試験管を放冷し,亜硫酸ナトリウムNa
SO水溶液約5mLを加えて未反応の過マンガン酸カリウムをすべて酸化マンガン(IV)に変える。
 
 
11 10の溶液に水酸化ナトリウム水溶液を約1mL加えてろ過する。
12 ろ液に塩酸を少しずつ加える。

 
 
  実験結果を確認しましょう。

 8では,溶液の色が赤紫色から褐色に変化しましたね。赤紫色は過マンガン酸イオンMnOで,マンガン原子の酸化数は+7ですね。褐色では酸化マンガン(IV)に変わっていますから,マンガン原子の酸化数は+4に減少しています。
 12では,白色綿状の安息香酸の結晶が析出しましたね。
    
 それでは,考察です。        

 フェノールと水酸化ナトリウムの反応は,
-OH + NaOH → C-ONa + H
 ナトリウムのフェノキシドと塩酸の反応は,
-ONa + HCl → C-OH + NaCl
 安息香酸と水酸化ナトリウムの反応は,
-COOH + NaOH → C-COONa + H

 安息香酸ナトリウムと塩酸の反応は,
-COONa + HCl → C-COOH + NaCl
 安息香酸と炭酸水素ナトリウムの反応は,
-COOH+NaHCO
→C-COONa+HO+CO
 安息香酸ナトリウムと塩酸の反応は,
-COONa + HCl → C-COOH + NaCl
 酸の強さの順序は,
塩酸>安息香酸>炭酸>フェノール

 この章の実験のポントは,次の通りです。
確認しよう
1.フェノールは水に溶けにくいですが,水酸化ナトリウム水溶液には塩となってよく溶けます。
2.フェノール類は塩化鉄(III)水溶液により呈色反応を示します。
3.フェノールに臭素水を加えると,置換反応が起こり,2,4,6−トリブロモフェノールが生成します。
4.安息香酸も水に溶けにくいですが,水酸化ナトリウム水溶液には塩となってよく溶けます。
5.酸としての強さは,塩酸>安息香酸>炭酸>フェノールの順になります。
6.ベンズアルデヒドを過マンガン酸カリウムで酸化すると,安息香酸が生成します。