08ko-083 第83章 実験−サリチル酸
 この章では,サリチル酸の性質を調べる実験や,サリチル酸メチル,アセチルサリチル酸の合成の実験を紹介します。
  
 実験の途中で,きっとよく知っている「におい」が登場します。
  
思えているかな?
1.芳香族カルボン酸の水溶液は何性を示しますか?
弱い酸性
2.フェノール類に塩化鉄(III)FeCl水溶液を加えると,どのような変化が起こりますか?
青や紫などの特有の呈色反応を示す。

第83章 実験−サリチル酸
<サリチル酸の性質>  
1 試験管にサリチル酸C(OH)COOHを小さじ1杯とり,蒸留水5mL加えてよく振る。溶けなければ加熱する。
2 1のサリチル酸の水溶液の液性を,pH試験紙で調べる。
3 1のサリチル酸の水溶液に塩化鉄(III)FeCl水溶液を1〜2滴加える。

 実験結果を確認しましょう。
サリチル酸は冷水に溶けにくいですが,温めると溶けるようになります。フェノールよりも親水性の効果が大きいと考えることができます。また,サリチル酸の水溶液は酸性で,塩化鉄(III)水溶液を加えると赤紫色に呈色します。 

<酸としての強さの比較>
4 試験管に飽和炭酸水素ナトリウムNaHCO水溶液を2mL とり,これに小さじ半分ほどのサリチル酸を加える。さらに,塩酸HClを約1mL (気泡が出なくなるまで)加える。

 実験結果を確認しましょう。
4ではCOを発生しながら溶けますから,サリチル酸の方が酸性が強いことがわかります。また,塩酸を加えると,炭酸水素ナトリウムとの反応で気体(二酸化炭素)を発生し,サリチル酸の結晶が析出します。サリチル酸の塩が遊離するからです。しかし,加える塩酸が少ないと,結晶が析出しません。二酸化炭素が出なくなるまで塩酸を加えた方がよいですね。 
 塩酸・硫酸>スルホン酸>カルボン酸>炭酸>フェノール類 

<サリチル酸メチルの合成>
5 
乾いた試験管にサリチル酸0.5gをとり,これにメタノールを5mL加えて溶かし,さらに濃硫酸0.5mLを少しづつ加える。その後約60℃の湯に5分間つける。(ときどきビーカーから試験管を出して振ること)
6 ビーカーに飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を20mL入れ,5の溶液を注ぐ。

 
 
 実験結果を確認しましょう。
強い芳香をもった無色の液体ができましたね。これは知っているにおいです。さて,何のにおいでしょう?
消炎鎮痛剤のにおいですね。消炎鎮痛の湿布やぬり薬には,サリチル酸メチルが含まれています。
      
 炭酸水素ナトリウムは未反応のサリチル酸や硫酸と反応して,二酸化炭素が発生します。このとき,サリチル酸メチルは油状になって,ビーカーの底で分離しています。

<アセチルサリチル酸の合成>  
7 乾いた試験管にサリチル酸を1gとり,無水酢酸を2mL加えて溶かす。
8 濃硫酸を5滴,よく振りながら加え,5分間よく振る。
9 試験管に蒸留水10mL加えた後,氷水につけて冷却し,結晶を析出させる。
10 試験管に9の結晶を少量とり,水を5mL加えて溶かした後,塩化鉄(III)水溶液を1〜2滴加える。

 
 
  実験結果を確認しましょう。
白色の針状結晶が得られます。これはアセチルサリチル酸です。アセチルサリチル酸は解熱鎮痛剤に用いられています。アセチルサリチル酸はフェノール類でなくなっているため,塩化鉄(III)水溶液を加えても,呈色反応を示しません。
       
 それでは,考察です。        

 塩酸,サリチル酸,炭酸について,酸の強さは,
塩酸>サリチル酸>炭酸
 サリチル酸メチルの合成は,
(OH)COOH+CHOH→C(OH)COOCH+H
 アセチルサリチル酸の合成は,
(COOH)OH+(CHCO)O→C(COOH)OCOCH+CHCOOH

 薬として使っている物質の中には,案外簡単に合成できるものがあるのですね。意外に思った人も多いのではないでしょうか。
     
 この章の実験のポイントは,次の通りです。
確認しよう
1.サリチル酸は水に溶けにくいですが,水溶液は酸性を示します。
2.サリチル酸は炭酸より強いです。したがって,炭酸水素ナトリウム水溶液にサリチル酸を加えると,サリチル酸の塩ができ,炭酸が遊離して二酸化炭素を発生します。
3.サリチル酸をメタノールでエステル化すると,サリチル酸メチルができますサリチル酸メチルは外科用塗布剤に用いられます。
4.サリチル酸を無水酢酸でアセチル化すると,アセチルサリチル酸ができます。アセチルサリチル酸は解熱剤として用いられます。