08ko-108 第108章 過酸化水素の分解速度
 過酸化水素を触媒を使って分解すると,水と酸素になります。この反応で発生した酸素の体積から,反応速度を求めることができます。
 
 この章の学習内容は,次の通りです。
(1)水蒸気圧の影響
(2)分解された過酸化水素の物質量
(3)過酸化水素水の濃度の変化量
(4)反応速度
 それでは,最初に水蒸気圧の影響のついて検討しましょう。
思えているかな?
1.蒸気圧とは何ですか?
密閉容器内に適当量の水を入れて放置すると,その上部の空間に蒸発した水蒸気が,一定温度では一定の圧力を示すようになる。このとき,上部の空間には水蒸気が飽和した状態になっている。このときの圧力を水の蒸気圧と言う。
2.分圧の法則とはどのようなものでしたか?
混合気体の全圧は,各成分気体の分圧の和に等しい。1801年にイギリスのドルトンが発見した。
3.過酸化水素を分解すると,何が生成しますか?
水と酸素ができる。

第108章 過酸化水素の分解速度
(1) 水蒸気圧の影響
 29℃:40hPa(0.039atm)
 40℃:74hPa(0.073atm)

 有効数字2桁で計算しますから,水蒸気圧の影響は無視できませんね。
 それでは,分解された過酸化水素の物質量を求めてみましょう。過酸化水素の分解では,2molの過酸化水素から1molの酸素が発生します。したがって,一定時間に発生した酸素の体積の実測値をもとにして,水蒸気圧も考慮し,理想気体の状態方程式から酸素の物質量を計算します。求めた酸素の物質量を2倍すると,分解された過酸化水素の物質量になります。
 

(2) 分解された過酸化水素の物質量
 理想気体の状態方程式pvnRTより,pv/(RT)〔mol〕
 2H→2HO+O 
 分解されたHの物質量は,発生した酸素の物質量の2倍
 したがって
 分解されたHの物質量=2pv/(RT)〔mol〕


<結果の例>
 分解されたHの物質量=2pv/(RT
                  =2×973×0.022/(83.1×302)
                  =0.00171
 分解されたHの物質量=2×973×0.009/(83.1×302)
                  =0.000698
 分解されたHの物質量=2×939×0.063/(83.1×313)
                  =0.00455
濃度 温度 温度 時間 気圧 の分圧 体積 の物質量 の物質量
6% 29℃ 302K 30秒 1013hPa 973hPa 0.022L 0.00085mol 0.0017mol
3% 29℃ 302K 30秒 1013hPa 973hPa 0.009L 0.00035mol 0.00070mol
6% 40℃ 313K 30秒 1013hPa 939hPa 0.063L 0.0023mol 0.0046mol
 次に過酸化水素水の濃度の変化量を求めることにしましょう。
過酸化水素水4.0mL に塩化鉄(III)水溶液1.0mL 加えていますから,水溶液の体積は5.0mL になっています。したがって,濃度の変化量は分解された過酸化水素の物質量を体積で割ればよいことがわかりますね。水溶液の体積は5.0mL ですが,1/1000倍してL の単位にすることを忘れないようにして下さい。
  

(3) 過酸化水素水の濃度の変化量
 Haq4.0mL +FeClaq1.0mL =5.0mL だから,
 Δ[H]=過酸化水素の物質量/(5.0/1000)〔mol/L 〕


<結果の例>
 Δ[H]=0.00171×1000/5.0
        =0.342
 Δ[H]=0.000698×1000/5.0
        =0.140
 Δ[H]=0.00455×1000/5.0
        =0.910
濃度 温度 温度 の物質量 Δ[H
6% 29℃ 302K 0.0017mol 0.34mol/L
3% 29℃ 302K 0.00070mol 0.14mol/L
6% 40℃ 313K 0.0046mol 0.91mol/L
 それでは,反応速度を求めることにしましょう。過酸化水素水の濃度の変化量を時間で割ります。時間は30秒です。
  

(4) 反応速度
 反応速度をとすると,=|Δ[H]|/Δt 

<結果の例>
 =0.342/30=0.0114
 =0.140/30=0.00467
 =0.910/30=0.0303
濃度 温度 時間 の物質量 Δ[H Δ[H]|/Δt 
6% 29℃ 30秒 0.0017mol 0.34mol/L 0.011mol/(L ・s)
3% 29℃ 30秒 0.00070mol 0.11mol/L 0.0047mol/(L ・s
6% 40℃ 30秒 0.0046mol 0.91mol/L 0.030mol/(L ・s
 反応物の濃度が大きくなると,反応速度は大きくなる
 温度を10K上げると,反応速度は2〜3倍になる

 温度が一定のとき,6%の過酸化水素では,0.011mol/(L ・s)ですが,3%では0.0047mol/(L ・sになっています。確かに,反応物の濃度が大きくなると,反応速度は大きくなっていますね。
 濃度が一定のとき,29℃では0.011mol/(L ・s)ですが,40℃では0.030mol/(L ・sになっています。確かに,温度を上げると,反応速度は大きくなっています。
 
 それでは,この章の学習内容を確認しましょう。
確認しよう
1.分解された過酸化水素の物質量は,発生した酸素の物質量の何倍ですか?
2.発生した酸素の物質量を求めるには,何が必要ですか?
3.分解された過酸化水素の物質量を何で割ると,濃度の変化量がわかりますか?
4.濃度の変化量を何で割ると,反応速度がわかりますか?


1.2倍
2.酸素の分圧,体積,温度
3.体積
4.時間