08ko-111 第111章 化学平衡
 この章では,化学平衡について学びましょう。
 可逆反応とは,どちらの向きにも進む反応のことです。それに対して1つの向きだけに進む反応を不可逆反応といいます。また,平衡とは,物事が一方にかたよることなく、ある安定した状態を保つことですね。化学では,本当は反応が進んでいるのですが,見かけ上反応が止まっている状態を化学平衡とよんでいます。
 この章の学習内容は,次の通りです。
(1) 不可逆反応と可逆反応
(2) 化学平衡と平衡定数
(3) 平衡定数と気体の分圧
(4) 平衡定数と反応の向き
 内容が多く,大変だと思いますががんばりましょう。
 それでは,不可逆反応と可逆反応から考えてみましょう。
思えているかな?
1.下の図で,右向きに進む反応を何反応といいますか?
正反応
2.正反応の活性化エネルギーは何kJ/molですか?
165kJ/mol
3.下の図で,左向きに進む反応を何反応といいますか?
逆反応
4.逆反応の活性化エネルギーは何kJ/molですか?
186kJ/mol
 

第111章 化学平衡
(1) 不可逆反応と可逆反応
<不可逆反応>
 Zn + HSO → ZnSO + H
 2H → 2HO + O
 一方向だけに進行する反応
 気体発生反応や沈殿反応に多い

<可逆反応>
 N + 3H ⇔ 2NH
 CHCOOH + CHO ⇔ CHCOOC + H
 どちらにも進む反応

 上の可逆反応の例は,アンモニアの製法(ハーバー・ボッシュ法)や酢酸エチルの合成などがありましたね。酢酸エチルはボンドのにおいがしました。
 
  
 原理的には,反応物と生成物が存在するとき,すべての反応は可逆反応です。しかし,実際には,平衡状態で生成物の割合が著しく大きい反応系の場合,逆反応は非常に小さく,反応が不可逆的に一方向に進むと考えて差し支えがありません。
 閉じた容器に窒素と水素を入れます。しばらくすると,アンモニアが生成されますね。やがて,容器内の窒素の濃度と水素の濃度とアンモニアの濃度が,それぞれ一定の値をとるようになります。しかし,正反応も逆反応も進行しているのです。すなわち,「正反応の反応速度=逆反応の反応速度」の関係が成立しているのです。
   
 化学平衡において,平衡定数が定義されています。平衡定数は,反応の種類や温度によって変わります。逆の言い方をすれば,種類と温度が一定であるなら,平衡定数は一定ということになります。この平衡定数の説明の前に必要なことがあります。
 いま,次の反応を考える。
 A + B → C 
 AがあるBに衝突する回数はAの濃度([A])に比例する。また,BがあるAに衝突する回数はBの濃度([B])に比例する。そこで,反応速度は衝突回数に比例すると仮定すると次の式が成り立つ。
 [A][B] は速度定数 rate constant 
 B=Aのとき,あるAに衝突する別のAは1個減り,(a−1)個になるため,a(a−1)個に比例するが,ここは近似を使う。したがって,次の式が成り立つ。
 [A][A]=[A] 
 2A→C のとき,[A] だから,
 A→C のとき,[A] になる。
 そこで,次のような反応を考える。
 A + B → C + D 
 この反応の反応速度は次のような式になる。
 [A][B] 
 では,次の可逆反応について考えてみよう。
 A + B ⇔ C + D 
 右向きの正反応の反応速度を,左向きの逆反応の反応速度をとすると,は次の式で与えられる。
 [A][B] 
 '[C][D]
 化学平衡に達すると,であるから,次の式が成り立つ。
 [A][B]'[C][D] 
 約束事として平衡定数を次のように定義する。

 [C][D]
 ―――――
 [A][B] '
  この係数K平衡定数といいます。また,平衡時の物質の濃度間に成り立つ式の関係を「化学平衡の法則」といいます。この関係は1864年,ノルウェーのグルベルグとボーゲにより提唱されました。この関係は「質量作用の法則」ともいわれています。low of mass action を直訳しているのでしょう。mass を質量と考えたのですね。私も高校生時代に変な名前の法則だなと思った記憶があります。mass には,(一定のかたちのない)大きなかたまり,多数,多量,大部分,大半,大衆,庶民,大きさ,量,かさなどの意味があります。また,mass action には大衆行動という意味があります。
 それでは,具体的にアンモニアの合成で考えてみましょう。
 

(2) 化学平衡と平衡定数
<化学平衡>
正反応
 N 3H 2NH
逆反応
 正反応の速さ=逆反応の速さ
 見かけ上反応が止まってしまうような状態
 →
化学平衡

<平衡定数>
 A + B ⇔ C + 

[C][D]
――――― 平衡定数
[A][B]

 N + 3H ⇔ 2NH

[NH
――――――
[N][H
 ここで,平衡定数を求める練習をしましょう。
 2NO + O ⇔ 2NO2 
 この反応の平衡定数の値を求めましょう。ただし,10℃で2Lのフラスコに,はじめ一酸化窒素1.0molと酸素1.0molを入れて反応させると,平衡状態では一酸化窒素の濃度が0.3mol/Lであるとします。一酸化窒素は2Lのフラスコに0.6mol残っていることになります。したがって,0.4molの一酸化窒素が反応したことになりますから,生成した二酸化窒素は0.4molです。このとき,酸素は0.2mol反応していますから,0.8mol残っていますね。

2NO 2NO
反応前 1.0mol
1.0mol
0mol
反応量 0.4mol
0.2mol

反応後 0.6mol
0.8mol
0.4mol
 反応前と反応後の各物質の濃度を考えてみましょう。2Lの容器に一酸化窒素が1mol入っていますから,濃度は1/2=0.5〔mol/L〕です。酸素も同じですね。

2NO 2NO
反応前 0.5mol/L
0.5mol/L
0mol/L
反応後 0.3mol/L
0.4mol/L
0.2mol/L

[NO (0.2)
 K ―――――― ――――――― 1〔(mol/L)−1
[NO][O (0.3)×0.4

 一見難しそうにみえますが,慣れるとそうでもありません。
 

(3) 平衡定数と気体の分圧
 混合気体中の成分気体Aについて,
 RT
 濃度//(RT
 したがって,

[NH NH/RT NHRT
  ―――――― ―――――――――― ――――――
[N][H /RT )(/RT
 平衡定数は,実際に計算をしてみる必要があります。はじめは難しく感じるかも知れませんが,何度も使っているうちに難しく感じることはなくなるでしょう。
 

(4) 平衡定数と反応の向き
 平衡状態でないとき→平衡定数を表す式に代入
→計算値から反応の向きを知る
 ・計算値が平衡定数より大きい→値が小さくなる向き
=逆反応の向きに反応が進む
 ・計算値が平衡定数より小さい→値が大きくなる向き
=正反応の向きに反応が進む
 
 反応または生成する物質の量が計算できる

 具体的に考えてみましょう。二酸化炭素と水素が反応すると,一酸化炭素と水ができます。
 CO + H → CO + HO 
    
 いま,容積10.0Lの容器に二酸化炭素と水素を11.0molずつ取り,1200Kに保ったとします。そのとき,一酸化炭素と水が6.00molずつ生成したとします。このときの平衡定数は次のようにして求めることができます。

CO CO
反応前 11.0mol
11.0mol
0mol
0mol
反応量 6.00mol
6.00mol
6.00mol
6.00mol
平衡時 5.00mol
5.00mol
6.00mol
6.00mol

[CO][HO] (6.00/10.0)(6.00/10.0)
  ―――――― ――――――――――――――― 1.44
[CO][H (5.00/10.0)(5.00/10.0)

 では,同じ容器に二酸化炭素と水素を1.20molずつ取り,1200Kに保つと,平衡状態では一酸化炭素は何mol生成するでしょうか。一酸化炭素が mol生成するとすると,水も mol生成し,二酸化炭素と水素は(1.20−)molずつ残りますね。温度が変わりませんから,平衡定数は1.44です。


CO CO
反応前 1.20mol
1.20mol
0mol
0mol
反応量 mol
mol



平衡時 (1.20−)mol
(1.20−)mol
mol
mol

[CO][HO] /10.0)(/10.0)
  ―――――― ――――――――――――――――――――― 1.44
[CO][H {(1.20−)/10.0)}{(1.20−)/10.0)}

―――――― (±1.20)
(1.20−

――――― ±1.20
1.20−

=0.655,7.2
0≦ ≦1.20より
=0.655〔mol〕
 とにかく慣れることが大切です。また,それしか方法がありません。
 
 それでは,この章の学習内容を確認しましょう。
確認しよう
1.化学平衡について説明しなさい。
2.次の気体の反応が化学平衡のとき,平衡定数を表す式をかきなさい。N+3H⇔2NH 
3.温度 〔K〕,体積 〔L 〕の混合気体中に成分気体Aが〔mol〕存在するとき,その濃度 はどのような式で表すことができますか。ただし,分圧を 〔hPa〕,気体定数を〔hPa・L/(mol・K)〕とします。


1.正反応の反応速度と逆反応の反応速度が等しくなり,見かけ上反応が止まってしまうような状態。
2.=[NH/([N][H
3.//(RT