08ko-114 第114章 電離平衡
 この章では,電離平衡について学習します。酢酸を水に溶かすと,その一部が電離して平衡状態になります。
 CHCOOH ⇔ H + CHCOO− 
 このような電離反応の化学平衡を電離平衡といいます。
思えているかな?
1.酢酸は強酸ですか,弱酸ですか。?
弱酸
2.弱酸とはどのような酸でしたか?
電離度が1より著しく小さい酸
3.電離度とは何でしたか?
酸や塩基が水に溶けたとき,溶けた電解質の量に対する電離した電解質の量の比
  
 この章の学習内容は,次の通りです。
(1)強酸の電離とpH
(2)弱酸の電離とpH
(3)酢酸の電離とpH
(4)酢酸ナトリウムの加水分解
(5)緩衝液
 内容が多いですが,がんばりましょう。まず,最初は一般論です。強酸の電離とpHについて考えてみましょう。強酸とは,電離度が1に近い酸でしたね。したがって, mol/Lの1価の強酸では,水素イオン濃度が mol/Lとなり,水溶液のpHは−log になります。

第114章 電離平衡
(1)強酸の電離とpH
  mol/Lの1価の強酸

HA
電離前 mol/L
0mol/L
0mol/L
電離後 0mol/L
mol/L
mol/L

 [H
]= mol/Lだから,pH=−log
 では,弱酸ではどうでしょうか。弱酸では,酸の濃度と水素イオン濃度が異なることに注意して下さい。 mol/Lの1価の弱酸の電離度をαとすると,水素イオン濃度はαmol/Lです。 したがって,水素イオン濃度は−logαになります。
 また,電離定数を酸の濃度と電離度を使って表すことができます。このとき,近似的に1−α≒1とすると,a=αとなります。
 

(2)弱酸の電離とpH
  mol/Lの1価の弱酸

HA
電離前 mol/L
0mol/L
0mol/L
電離後 α)mol/L
αmol/L
αmol/L

 [H
]=α mol/Lだから,pH=−logα

[H][A α・α α
 a= ――――― ―――― ―――
[HA] α 1−α

 1−α≒1とすると,a=α
,α=√(a/
 次は酢酸水溶液のpHについて考えてみましょう。
 pHメーターで,pHは3.0と表示されたとします。では,水素イオン濃度はいくらになるでしょうか。pHが3.0ということは,水素イオン濃度が1.0×10−3〔mol/L〕であるということは知っていますね。もし,pHが3.1だとしたら,水素イオン濃度を求めるには関数機能付きの電卓が必要になります。使い方は,実験のところで説明しました。  
 酢酸イオンの濃度は,水素イオン濃度と同じです。では, [CHCOOH]はいくらになるでしょうか。これは,電離していなくて,分子として存在している酢酸の濃度です。したがって,酢酸の濃度から酢酸イオンの濃度(水素イオンの濃度と等しい)を引けばよいことがわかります。水素イオンの濃度[H],酢酸イオンの濃度[CHCOO],電離していない酢酸の濃度[CHCOOH]がわかれば,電離定数と電離度を求めることができますね。実験では,1.0mol/Lの酢酸を,200mLの蒸留水に加える設定になっていました。
 

(3)酢酸の電離とpH
 酢酸の物質量〔mol〕=濃度〔mol/L〕×体積〔L〕=1.0×1.0/1000〔mol〕
 酢酸の体積〔mL〕=1.0+200=201〔mL〕=0.201〔L〕

1.0×1.0/1000
 濃度〔mol/L〕 ―――――――― 4.98×10−3〔mol/L〕
0.201

 pH=3.0とすると,[H
]=[CHCOO]=1.0×10−3〔mol/L〕
 [CHCOOH]=4.98×10−3−[H
]=4.98×10−3−1.0×10−3=3.98×10−3〔mol/L〕


CHCOOH CHCOO
電離前 4.98×10−3mol/L
0mol/L
0mol/L
電離後 3.98×10−3mol/L
1.0×10−3mol/L
1.0×10−3mol/L

[H][CHCOO (1.0×10−3
 a= ――――――――― ―――――――― 2.5×10−4〔mol/L〕
[CHCOOH] 3.98×10−3

1.0×10−3
 α ――――――― 0.20
4.98×10−3
 酢酸ナトリウム水溶液にフェノールフタレイン溶液を加えると,うすい赤色になりますね。ちょうど,フェノールフタレインの変色域の色です。フェノールフタレインの変色域は,pH8.2〜9.8です。 

(4)酢酸ナトリウムの加水分解
 CHCOONa ⇔ Na+ + CHCOO
 HO ⇔ H+ + OH
 酢酸イオンと水素イオンの反応を考えると,
 CHCOO CHCOOH
 酢酸イオンと水の反応を考えると,
 CHCOO CHCOOH OH
 その結果[H]<[OH
 では,酢酸ナトリウム水溶液のpHはどれくらいでしょうか。計算で求めてみることにします。内容的には少し発展的です。
 CHCOO CHCOOH OH

 [ CHCOOH][OH
 ―――――――――― 
 [CHCOO][HO]
 
 [ CHCOOH][OH
 ――――――――――  [HO] h
    [CHCOO

[H][ CHCOO
 a  ―――――――――  w=[H][OH
[CHCOOH]

 w [CHCOOH][OH
 ―  ――――――――――  h
 a [ CHCOO

 a=1×10−5mol/L,w=1×10−14(mol/L)とすると,
 h=1×10−9mol/Lとなる。
 また,

CHCOO CHCOOH OH
反応前 mol/L


0 mol/L 0 mol/L 
反応後 α)mol/L


αmol/L αmol/L

 だから,

[CHCOOH][OH α・α α
 Kh ―――――――――― ―――― ―――
[ CHCOO α 1−α

 1−α≒1とすると,
 h=α,α=√(h/
 =0.10mol/ の溶液では,α=√(1×10−9/1×10−1)=1×10−4
 [OH]=α=1×10−1×1×10−4=1×10−5〔mol/L〕
 [H]=w/[OH]=1×10−9
 pH=−log[H]=9

 酢酸溶液に塩酸や水酸化ナトリウム水溶液を加えたときのpHの変化と,酢酸に酢酸ナトリウム水溶液を加えたものに,塩酸や水酸化ナトリウム水溶液を加えたときのpHの変化は違います。後者の方が,pHの変化が小さいのです。その理由を考えてみましょう。

(5)緩衝液
 酢酸+酢酸ナトリウム
 CHCOOH CHCOO  [CHCOOH]が大
 CHCOONa Na CHCOO  [CHCOO]が大
 強酸を加える⇒ CHCOO CHCOOH
 酢酸イオンがなくなるまで[H]はほとんど変化しない 
 強塩基を加える⇒ CHCOOH OH CHCOO
 酢酸分子がなくなるまで[OH]はほとんど変化しない
 したがって,pHを一定に保つことができる

 酢酸イオンが水素イオンを捕まえ,酢酸分子が水酸化物イオンを水に変えるのです。まるで魚がえさを待っているように,酢酸イオンや酢酸分子が水素イオンや水酸化物イオンを待っているのです。
  
 酢酸と酢酸ナトリウムの緩衝溶液のpHは,次のようになっています。

0.1mol/L 酢酸の体積〔cm 32 16
0.1mol/L の酢酸ナトリウム水溶液の体積〔cm 16 32
pH 3.2 3.5 3.8 4.1 4.4 4.7 5.0 5.3 5.6 5.9 6.2
 また,弱塩基でも同じような現象がみられるます。
 緩衝液のpHについて考えてみます。少し発展的です。
 酢酸と酢酸ナトリウムの混合水溶液のpHは,次の電離平衡と電離定数から求めることができる。
 CHCOOH CHCOO

 [H][ CHCOO
   ―――――――――― 
 [CHCOOH]
 すなわち,
  [CHCOOH]
 [H  ―――――――  ×
     [ CHCOO
 したがって,
[CHCOOH]
 pH −log  ―――――――  ×
[ CHCOO
 酢酸ナトリウムは完全に電離しているので,酢酸イオンの濃度
[ CHCOO]は最初の酢酸ナトリウムの濃度[CHCOONa]にほぼ等しい。
 酢酸はほとんど電離していないので,酢酸分子の濃度
[CHCOOH]は最初の酢酸の濃度にほぼ等しい。
 すなわち,水素イオン濃度[H]は,最初の酢酸と酢酸ナトリウムの濃度の比で決まると考えることができる。
 たとえば,0.20mol/L酢酸水溶液1Lに酢酸ナトリウムの結晶0.10molを溶かした水溶液の25℃での水素イオン濃度は次のように求めることができる。ただし,25℃での酢酸の電離定数は2.7×10−5mol/Lとする。
 [CHCOOH]=0.20〔mol/L〕,[ CHCOO]=0.10〔mol/L〕,a=2.7×10−5mol/Lを代入すると,
  0.20
 [H 2.7×10−5 × ――― 5.4×10−5〔mol/L〕
     0.10

 pH −log[H] −log(5.4×10−5 5−log5.4 =4.3
 また緩衝液を水で薄めても,
[CHCOOH]
 ――――――― 
[ CHCOO

の値は変わらないので,[H]はあまり変化しない。すなわち,pHもあまり変化しない。

 酢酸ナトリウムは,酢酸と水酸化ナトリウムの中和によってできる塩でしたね。弱酸である酢酸に,強塩基である水酸化ナトリウムを加えていったときの中和滴定曲線の形を覚えていますか。
 
 中和点がpH7よりも大きいのが特徴です。これは,酢酸ナトリウムの加水分解によって説明できましたね。酢酸ナトリウムの水溶液にフェノールフタレイン溶液を加えると,うすい赤色でした。しかし,酢酸に水酸化ナトリウム水溶液を加えていったときの中和滴定曲線には,もう一つ特徴があります。それは,中和点まであまりpHが変化しないことです。これはどうしてでしょう。酢酸と酢酸ナトリウムによる緩衝作用ですね。
 最後に,弱酸の塩に強酸を加えると,弱酸が遊離しましたね。また,弱塩基の塩に強塩基を加えると,弱塩基が遊離しましたね。その理由を考えてみましょう。
 酢酸ナトリウム水溶液に希硫酸を加えると,酢酸のにおいがします。これは,強酸である希硫酸から生じる多量の水素イオンのため,CHCOO+H⇔CHCOOHの電離平衡が右向きに移動するからです。また,濃い塩化アンモニウム水溶液に濃い水酸化ナトリウム水溶液を加えると,アンモニアが発生します。これは,強塩基である水酸化ナトリウムから生じる多量の水酸化物イオンのため,NH+OH⇔NH+Hの電離平衡が右向きに移動し,水溶液中に溶けきれなくなったアンモニアが気体となって発生したからです。
 これらのように,電離定数が小さい弱酸や弱塩基の塩(の水溶液)に,強酸や強塩基を加えると,電離平衡が移動して弱酸や弱塩基が遊離します。ちなみに,単体または基が他と化合せずに存在することや,それらが化合物から分離することを遊離とよんでいます。有機化合物の塩を遊離する現象も,全く同じ原理です。
 それでは,この章の学習内容の確認です。
確認しよう
1.弱酸の電離定数は,濃度が小さくなるほどどのように変化しますか?
2.弱酸の電離度は,濃度が小さくなるほどどのように変化しますか?
3.塩が水に溶けたtき平衡移動が起こり,OHやHを生じて塩基性や酸性を示すことを何といいますか?
4.少量の酸や塩基を加えても,またうすめてもpHがほとんど変化しない溶液を何といいますか?
   


1.変わらない
2.大きくなる
3.塩の加水分解
4.緩衝液