この章では,電離平衡について学習します。酢酸を水に溶かすと,その一部が電離して平衡状態になります。
この章の学習内容は,次の通りです。 (1)強酸の電離とpH (2)弱酸の電離とpH (3)酢酸の電離とpH (4)酢酸ナトリウムの加水分解 (5)緩衝液 内容が多いですが,がんばりましょう。まず,最初は一般論です。強酸の電離とpHについて考えてみましょう。強酸とは,電離度が1に近い酸でしたね。したがって,c mol/Lの1価の強酸では,水素イオン濃度がc mol/Lとなり,水溶液のpHは−logc になります。 |
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では,弱酸ではどうでしょうか。弱酸では,酸の濃度と水素イオン濃度が異なることに注意して下さい。c mol/Lの1価の弱酸の電離度をαとすると,水素イオン濃度はcαmol/Lです。 したがって,水素イオン濃度は−logcαになります。 また,電離定数を酸の濃度と電離度を使って表すことができます。このとき,近似的に1−α≒1とすると,Ka=cα2となります。 |
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次は酢酸水溶液のpHについて考えてみましょう。 pHメーターで,pHは3.0と表示されたとします。では,水素イオン濃度はいくらになるでしょうか。pHが3.0ということは,水素イオン濃度が1.0×10−3〔mol/L〕であるということは知っていますね。もし,pHが3.1だとしたら,水素イオン濃度を求めるには関数機能付きの電卓が必要になります。使い方は,実験のところで説明しました。 酢酸イオンの濃度は,水素イオン濃度と同じです。では, [CH3COOH]はいくらになるでしょうか。これは,電離していなくて,分子として存在している酢酸の濃度です。したがって,酢酸の濃度から酢酸イオンの濃度(水素イオンの濃度と等しい)を引けばよいことがわかります。水素イオンの濃度[H+],酢酸イオンの濃度[CH3COO−],電離していない酢酸の濃度[CH3COOH]がわかれば,電離定数と電離度を求めることができますね。実験では,1.0mol/Lの酢酸を,200mLの蒸留水に加える設定になっていました。 |
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酢酸ナトリウム水溶液にフェノールフタレイン溶液を加えると,うすい赤色になりますね。ちょうど,フェノールフタレインの変色域の色です。フェノールフタレインの変色域は,pH8.2〜9.8です。 |
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では,酢酸ナトリウム水溶液のpHはどれくらいでしょうか。計算で求めてみることにします。内容的には少し発展的です。
酢酸溶液に塩酸や水酸化ナトリウム水溶液を加えたときのpHの変化と,酢酸に酢酸ナトリウム水溶液を加えたものに,塩酸や水酸化ナトリウム水溶液を加えたときのpHの変化は違います。後者の方が,pHの変化が小さいのです。その理由を考えてみましょう。 |
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酢酸イオンが水素イオンを捕まえ,酢酸分子が水酸化物イオンを水に変えるのです。まるで魚がえさを待っているように,酢酸イオンや酢酸分子が水素イオンや水酸化物イオンを待っているのです。 酢酸と酢酸ナトリウムの緩衝溶液のpHは,次のようになっています。
緩衝液のpHについて考えてみます。少し発展的です。
酢酸ナトリウムは,酢酸と水酸化ナトリウムの中和によってできる塩でしたね。弱酸である酢酸に,強塩基である水酸化ナトリウムを加えていったときの中和滴定曲線の形を覚えていますか。 中和点がpH7よりも大きいのが特徴です。これは,酢酸ナトリウムの加水分解によって説明できましたね。酢酸ナトリウムの水溶液にフェノールフタレイン溶液を加えると,うすい赤色でした。しかし,酢酸に水酸化ナトリウム水溶液を加えていったときの中和滴定曲線には,もう一つ特徴があります。それは,中和点まであまりpHが変化しないことです。これはどうしてでしょう。酢酸と酢酸ナトリウムによる緩衝作用ですね。 最後に,弱酸の塩に強酸を加えると,弱酸が遊離しましたね。また,弱塩基の塩に強塩基を加えると,弱塩基が遊離しましたね。その理由を考えてみましょう。 酢酸ナトリウム水溶液に希硫酸を加えると,酢酸のにおいがします。これは,強酸である希硫酸から生じる多量の水素イオンのため,CH3COO−+H+⇔CH3COOHの電離平衡が右向きに移動するからです。また,濃い塩化アンモニウム水溶液に濃い水酸化ナトリウム水溶液を加えると,アンモニアが発生します。これは,強塩基である水酸化ナトリウムから生じる多量の水酸化物イオンのため,NH4++OH−⇔NH3+H2Oの電離平衡が右向きに移動し,水溶液中に溶けきれなくなったアンモニアが気体となって発生したからです。 これらのように,電離定数が小さい弱酸や弱塩基の塩(の水溶液)に,強酸や強塩基を加えると,電離平衡が移動して弱酸や弱塩基が遊離します。ちなみに,単体または基が他と化合せずに存在することや,それらが化合物から分離することを遊離とよんでいます。有機化合物の塩を遊離する現象も,全く同じ原理です。 それでは,この章の学習内容の確認です。
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答
1.変わらない
2.大きくなる
3.塩の加水分解
4.緩衝液