08ko-124 第124章 実験−アミノ酸
 アミノ酸にはいろいろな種類があります。タンパク質を構成するα-アミノ酸は,約20種類が知られています。今日は,その中で最も構造が簡単なグリシンとL−アラニンを使って実験を行いましょう。この章の実験によって,アミノ酸の特徴を理解して下さい。

思えているかな?
1.混合物を分離したり精製したりする方法として,どのようなものがありましたか?
ろ過,蒸留,再結晶,抽出,クロマトグラフィー,昇華法など
2.それぞれの操作方法を説明しなさい。
ろ過…物質をつくる粒子の大きさの違いを利用し,ろ紙などの目を通過できるかどうかで物質を分ける方法。
蒸留…液体を含む混合物を熱して沸騰させ,その蒸気を冷やして液体の分離,精製を行う操作。
再結晶…固体を溶媒に溶かし,溶解度の差を利用して分離,精製する方法。
抽出…溶媒に対する溶解度の差を利用し,混合物から特定物質を溶かし出す方法。
クロマトグラフィー…吸着剤との親和力の違いを利用した分離法。
昇華法…固体混合物中の昇華性物質を気体にし,再び固体に戻すことによって物質を分離,精製する方法。
 この章の実験では,ペーパークロマトグラフィーも紹介します。

第124章 実験−アミノ酸
<アミノ酸の溶解性>
1 3本の試験管(a)(b)(c)にそれぞれ次のアミノ酸を入れ,さらに溶媒を加えてよく振る。
 (a)グリシン小さじ1杯+蒸留水3mL
 (b)アラニン小さじ1杯+蒸留水3mL
 (c)グリシン小さじ1杯+ヘキサン3mL

<アミノ酸の検出>
2 操作1の(a)(b)の水溶液1mLをそれぞれ別の試験管に移し,ニンヒドリン水溶液数滴ずつ加え,数十秒加熱する。

<アミノ酸の性質>
3 グリシン小さじ1杯と水酸化カルシウムCa(OH)小さじ2杯をよく混ぜ合わせ,試験管に入れて穏やかに加熱する。
 試験管の口に湿らせたpH試験紙を近づける。
 試験管の口に濃塩酸をつけたガラス棒を近づける。
4 操作1の(b)の水溶液を1mL試験管にとり,炭酸水素ナトリウムNaHCOを小さじ1杯加え,よく振って気体の発生の有無を観察する。

 実験結果を確認しましょう。
 
1の結果は次の通りです。
 (a)溶ける。(b)溶ける。(c)溶けない。
 このことより,アミノ酸は水に溶けるが,ヘキサンのような有機溶媒には溶けないことがわかります。水は極性溶媒,ヘキサンは無極性溶媒でしたね。
 2の結果は次の通りです。
  (a),(b)ともに赤紫色に変化する。
 この反応を,ニンヒドリン反応といいます。ニンヒドリン反応は,ペプチド,タンパク質,多くの第一級アミン,アンモニアなどにみられる反応です。グリシンでは,アミノ基が関係しています。
 ニンヒドリン反応のしくみ
ニンヒドリンの構造式(I) グリシンと反応してできた物質の構造式(II)
ニンヒドリンがグリシンやアラニンと反応すると,(II)の物質とHCHO,CO,NHができる。
生じたNHが(I)と(II)とに反応してできた物質の構造式(赤紫色)

 3の結果は,次の通りです。
 pH試験紙→塩基性を示す。
 濃塩酸との反応→白煙が生じる。
 発生した気体は,水溶液が塩基性で塩化水素HClと反応すると,白い固体ができるものですね。発生した気体はアンモニアNHです。
 4では気泡を生じながら炭酸水素ナトリウムが溶けます。発生する気体は二酸化炭素COです。これより,アラニンは炭酸より強い酸性の基があることがわかります。この基は,カルボキシル基−COOHですね。

<ペーパークトマトグラフィーによるアミノ酸の分離>
5 長さ8cm×8cmのペーパークロマトグラフィー用のろ紙を用意する。
6 操作1の(a)および(b)の残りの水溶液を,ガラス板の上に1滴ずつ落とす。また,別のところに(a)1滴と(b)1滴を落とし混合する。
7 6の3種類の液滴に,それぞれ毛細管の先をつけて溶液を吸い上げる。
8 ろ紙の下から1.5cmのところに毛細管の先を接触させて溶液を少量ずつつけ,しばらく放置して乾かす。
9 集気瓶に展開液(1-ブタノール,酢酸,蒸留水の体積比4:1:1の混合溶液)を深さ1cmになるように入れ,操作8のろ紙を集気瓶の中に立て,ガラス板でふたをする。(25分間放置)
10 ピンセットを用いてろ紙を取り出し,乾かす。乾燥したらニンヒドリン水溶液を噴射し,ドライヤーで暖める。

 実験結果を確認しましょう。
 
グリシンよりアラニンの方が高く上がります。したがって,ペーパークロマトグラフィーによりグリシンとアラニンを分離することができます。

 それでは考察です。        

 操作3で発生した気体は,
アンモニアである。アンモニアの発生によりグリシンには窒素元素が含まれていることがわかる。また,窒素元素を含む(官能基はアミノ基−NHである。
 グリシンに含まれている官能基のうち,操作4より確認できるのは,
カルボキシル基−COOHである。
 酸性,中性,塩基性の水溶液中でのグリシンの構造は,
<酸性> <中性> <塩基性>
 グリシンの水およびヘキサンへの溶解性の違いは,
グリシンは,アミノ基やカルボキシル基(カルボキシ基)を有する極性分子であるので,水にはよく溶けるが,ヘキサンには溶けない。



 グリシンは,溶解度22.55g/水100g(20℃),エタノールにはほとんど溶けない。
 アラニンは,溶解度15.8g/水100g(20℃),エタノールにはほとんど溶けない。 一定の条件で薄層クロマトグラフィーによる分離を行った際に得られる物質特有の値をRf値といい,試料の移動距離〔cm〕を展開溶媒の移動距離〔cm〕割ったものである。

 ペーパークロマトグラフィーのRf値(展開溶媒は1-ブタノール,酢酸,蒸留水の体積比4:1:1の混合溶液)
名称 略号 略号 Rf値
アラニン Ala 0.40
チロシン Tyr 0.51
セリン Ser 0.30
システイン Cys 0.12
メチオニン Met 0.57
グルタミン酸 Glu 0.35
リシン Lys 0.17
アルギニン Arg 0.25
 この章の実験のポイントは,次の通りです。
確認しよう
1.グリシンやアラニンは水によく溶けます。
2.グリシンやアラニンにニンヒドリン水溶液を加えて温めると,赤紫色になります。この反応をニンヒドリン反応といい,アミノ酸の検出に使われます。また,タンパク質もニンヒドリン反応を示します。
3.グリシンに水酸化カルシウムを加えて加熱すると,アンモニアが発生します。これにより,アミノ基の確認ができます。
4.グリシンに炭酸水素ナトリウムを加えると,二酸化炭素を発生します。炭酸水より強い酸であるカルボキシル基をもっているからです。
5.グリシンとアラニンは,ペーパークロマトグラフィーによって分離することができます。