08ko-130 第130章 実験−ナイロンとレーヨン
 この章では,合成繊維の6,6-ナイロンと,再生繊維の銅アンモニアレーヨンを合成する実験を紹介しましょう。
 6,6-ナイロンは,アジピン酸とヘキサメチレンジアミンを使って合成します。しかし,脱水剤が必要ですので,今日の実験ではアジピン酸ジクロリドCl-CO-(CH)-CO-Clを使います。これを使えば,水ではなく塩化水素ができます。塩基の水溶液を使えば,塩化水素は中和されますね。したがって,反応がうまく進むことになります。化学平衡のところで学びましたね。
  
 銅アンモニアレーヨン(キュプラ)はセルロースをシュワイツァー試薬(銅アンモニア溶液)に溶かし,それを希硫酸中に通してつくります。つまり,セルロースが再生するわけです。
  
思えているかな?
1.硫酸銅(II)水溶液に水酸化ナトリウム水溶液を加えると,何ができますか?
水酸化銅(II)Cu(OH)の沈殿
2.1の生成物にアンモニア水を加えると,何ができますか?
テトラアンミン銅(II)イオン[Cu(NH]2+
第130章 実験−ナイロンとレーヨン
<6,6-ナイロンの合成>
(全体の準備)
1 2mol/L のNaOHaqを100mLのビーカーに75mL取り,ヘキサメチレンジアミンを1.5mL加えてよく混合する(これをA液とする)。    
2 ヘキサン50mLを100mLのビーカーに取り,アジピン酸ジクロリドを1mL加えてよく混合する(これをB液とする)。

(各班での実験)
3 A液,B液を駒込ピペットで,それぞれ1.5mLずつスクリュー管に入れる。このとき,A液とB液が混ざらないように注意しながら,A液の上にB液を静に加える。。
4 両液の界面にできる膜をピンセットでつまみ,静かに引き上げて試験管に巻き取る。
5 試験管に巻き取った6,6-ナイロンをエタノールで洗い,次に水道水でよく洗った後乾燥する。

 
  
 実験結果を確認しましょう。
 試験管に巻き取っても,6,6-ナイロンが次々にできてきますね。おもしろいでしょう?水洗いしながらナイロンを少し引き延ばすと,より丈夫な繊維になります。でも,あまり強く引くと,切れてしまいますよ。
 次は,銅アンモニアレーヨンの合成です。 

<銅アンモニアレーヨンの合成>  
6 硫酸銅(II)五水和物2gを50mLビーカーに取り,水5mLに溶かし,チャック付きのポリエチレン袋に入れる。これに,6mol/L水酸化ナトリウム水溶液を1mLを加えて混ぜる。
7 6の袋に濃アンモニア水8mLを加えてよくかき混ぜ,沈殿を溶かす。さらに,固体の水酸化ナトリウム1粒を加えて溶かす。
注意 濃アンモニア水を用いるので換気に注意すること。
8 7で得られた溶液をかき混ぜながら,小さく切った脱脂綿を約0.2g溶かす。
注意 
この脱脂綿を均一に溶かすことがこつ。
9 8の溶液の一部を注射器に移し,トレイに入れた2mol/L硫酸中に,注射器から少し出す。ピンセットで注射器から繊維をゆっくり引き出す。ひも状の物質が白くなったら,ピンセットで取り出して水洗いし,乾燥させる。
10 8の残りの溶液をスパチュラでガラス板に薄く塗り,2mol/L硫酸中にしばらく浸す。色が白くなったら,ガラス板からフィルムをピンセットではがす。

 
  
 実験結果を確認しましょう。
脱脂綿は溶けて,粘性のある深青色の溶液ができましたね。希硫酸中に移すと,繊維になりました。
 硫酸銅(II)五水和物が水に溶けると,次のように電離します。
 CuSO→Cu2++SO2− 
 これに水酸化ナトリウム水溶液を加えると,水酸化銅(II)が沈殿します。
 Cu2++2OH→Cu(OH)↓ 
 アンモニア水を加えると,沈殿が溶けます。
 Cu(OH)+4NH→[Cu(NH]2++2OH− 
 深青色溶液ですね。これがシュワイツァー試薬(銅アンモニア溶液)ですね。
 それでは,考察です。
  

 ヘキサメチレンジアミンとアジピン酸ジクロリドから6,6-ナイロンができる反応を化学反応式で示すと,
N(CHNH ClOC(CHCOCl
→-[-HN(CHNHCO(CHCO-]-+2 HCl
または,
N(CHNH ClOC(CHCOCl
→H-[-HN(CHNHCO(CHCO-]-Cl+(2−1)HCl
 操作1で,水酸化ナトリウム水溶液を用いたのは,
反応の副生成物としてできるHClを中和するためである。
 6,6-ナイロンは合成繊維,銅アンモニアレーヨンは再生繊維といわれる。合成繊維と再生繊維の違いは,
鎖状の合成高分子からつくった繊維が合成繊維であり,セルロースを溶解してから再生させた繊維が再生繊維である。



 ナイロンは世界初の合成繊維である。1935年,アメリカのデュポン社のウォーレス・ヒューム・カロザースが合成に成功した。ナイロンは本来,デュポン社の商品名だが,現在ではポリアミド系繊維の総称として定着している。
 女性のストッキング用として使われたのがはじまり。石炭と水と空気からつくられ,鋼鉄よりも強く,クモの糸より細い,というのが当時のキャッチフレーズだった。
 この章の実験のポイントは,次の通りです。
確認しよう
1.ヘキサメチレンジアミンとアジピン酸ジクロリドから6,6-ナイロンができます。
2.テトラアンミン銅(II)イオンを含む溶液(シュワイツァー試薬)はセルロースを溶かします。セルロースが溶けた溶液を希硫酸中に通すと,銅アンモニアレーヨン(キュプラ)ができます。