08ko-136 第136章 核酸U
 「1953年2月28日,ついにDNAモデルの鍵となる特徴が明らかになった。
思えているかな?
1.DNAの中の塩基には,どのようなものがありますか?
アデニン,グアニン,シトシン,チミン
 2本の鍵を保持していたのは,アデニンとチミン,グアニンとシトシンという組み合わせによる強力な水素結合だった。前年,シャルガフの研究にもとづいてクリックが推測したことは正しかったのだ。アデニンはチミンと,グアニンはシトシンと結合する−しかしそれは分子の面が上下に重なるのではない。研究室にやってきたクリックはたちまちすべてを理解し,塩基を対にする私の案に同意した。彼はすぐに,二本の鎖が互いに逆方向に伸びていることに気がついた。
 それは最高の瞬間だった。私たちはそれが正解だと確信した。これほど単純明快な構造は正解に決まっていた。いちばん興奮させられたのは,二本の鎖に沿って並ぶ塩基配列の相補性だった。一方の鎖の塩基配列がわかれば,自動的にもう一方の配列がわかる。細胞分裂に先だって起こる染色体の分裂の際,遺伝情報がなぜあれほど正確に複製されるのかが,これで明らかになったのだ。分子はファスナーを開くようにして二本の鎖に別れる。そしてそれぞれの鎖が,新しくつくられる鎖を作るための鋳型となり,ひとつだった二重らせんがふたつになるのである。」ジェームス・D・ワトソン,アンドリュー・ベルー著「DNA」(講談社)より
  
 この章の学習内容は,次の通りです。
(1)分子の極性と水素結合
(2)DNA
(3)RNA
(4)ゲノム
 最初に,分子の極性と水素結合について復習しておきましょう。
思えているかな?
2.水素結合とはどのような結合ですか?
フッ化水素HFは,分子構造の似た他のハロゲン化水素に比べて,分子量は一番小さいが沸点は最も高い。水HOやアンモニアNHも同族元素の水素化合物の中で異常に高い沸点を示す。これは,隣接分子間で電気陰性度の大きい原子(フッ素F,酸素O,窒素N)が水素原子Hと引き合うからである。このようなHを仲立ちとした形の結合を水素結合という。溶液中の2つのカルボン酸が引き合っているのも水素結合による。水素結合は共有結合やイオン結合よりは弱いが,ファンデルワールス力よりは強い。ファンデルワールス力や水素結合など,分子間に働く力をまとめて分子間力という。

第136章 核酸U
(1)分子の極性と水素結合
 2個の原子が結合したとき,各原子がその電子を引きつける強さを数値で表したもの→
電気陰性度
 Mulliken
 =0.5(
 :電気陰性度,:イオン化エネルギー,:電子親和力


 
Pauling
 A−B=(A−AB−B1/2
 :電気陰性度,:結合エネルギー

 分子内の電荷の偏り→
極性
 極性をもつ分子→
極性分子

 HF,H
O,NHの沸点が高い→ファンデルワールス力以外に水素結合がはたらく
 
水素結合…水素原子を間にはさんだ分子間の結合
 ファンデルワールス力<水素結合<化学結合


 Mullikenの定義の方がわかりやすいですが,一般にはPauringの定義で算出された値がよく使われます。
2.1
Li Be
1.0 1.5 2.0 2.5 3.0 3.5 4.0
Na Mg Al Si Cl
0.9 1.2 1.5 1.8 2.1 2.5 3.0
Ca Sc Ti Cr Mn Fe Co Ni Cu Zn Ga Ge As Se Br
0.8 1.0 1.3 1.5 1.6 1.6 1.5 1.8 1.8 1.8 1.9 1.6 1.6 1.8 2.0 2.4 2.8
Rb Sr Zr Nb Mo Tc Ru Rh Pd Ag Cd In Sn Sb Te
0.8 1.0 1.2 1.4 1.6 1.8 1.9 2.2 2.2 2.2 1.9 1.7 1.7 1.8 1.9 2.1 2.5
Cs Ba La Hf Ta Re Os Ir Pt Au Hg Tl Pb Bi Po At
0.7 0.9 1.1 1.3 1.5 1.7 1.9 2.2 2.2 2.2 2.4 1.9 1.8 1.8 1.9 2.0 2.2
 この表から,一般に周期表で右上側にある元素ほど電気陰性度は大きいことがわかりますね。Fの4.0が最大です。ただし,希ガスを除いてです。
 DNAでは,アデニンとチミンが2か所で,グアニンとシトシンが3か所で水素結合しています。

(2)DNA
 水素結合により二重らせん構造が保たれる。


 細胞が分裂するとき,2本鎖がほどける。
 1本鎖に新たなヌクレオチドがつくられる。
 同じ塩基配列の二重らせんが2組複製される。

 ワトソンとクリックは,DNAの二重らせん構造をイギリスの有名な科学雑誌NATUREに投稿し,1953年4月25号737ページに彼らの論文が掲載されました。http://www.natureasia.com/japan/nature/2003-50dna-pdf/watsoncrick.pdf
 その論文は,次にようにはじまります。
 MOLECULAR STRUCTURE OF NUCLEICD ACIDS
 A Structure for Deoxyribose Nucleic Acid
 We wish to suggest a structure for the salt of deoxyribose nucleic acid(D.N.A).Thisstructure has nevel features which are of considerable biological interest.
 英語の得意な人は,訳してみてください。
 
 ところで,タンパク質の合成は,次のようにして行われます。
1.核の中でDNAの二重らせんが部分的にほどけ,DNAがmRNAに写し取られる。
2.mRNAは核から細胞質に出て,リボソームに付着する。
3.細胞質にあるtRNAは,特定のアミノ酸と結合し,リボソームに運ぶ。
4.リボソーム上で,mRNAの情報にもとづいて特定のアミノ酸が並べられ,rRNAによってペプチド結合が形成される。
 このように,タンパク質の合成においてRNAは大変重要なはたらきをしています。
思えているかな?
3.RNAの中の塩基には,どのようなものがありますか?
アデニン,グアニン,シトシン,ウラシル

(3)RNA
 1本鎖
 タンパク質合成に関与
 
伝令RNA(mRNA)…DNAの遺伝情報の一部を写し取る。
 
運搬RNA(tRNA)…アミノ酸を決まった順序にならべる。
 
リボソームRNA(rRNA)…アミノ酸の間にペプチド結合を形成する。
 DNAの配列を読むことは,きわめて困難でした。ハーバード大学のギルバートとケンブリッジ大学のサンガーの二人は,同じ時期にそれぞれ別の配列決定法を考え出しました。サンガーといえば,実はノーベル賞を2度受賞しています。ちなみに,ノーベル賞を2度受賞したのは,サンガー(1958年,1980年,ともに化学賞)以外に,マリー・キュリー(1903年と1911年,ともに化学賞),ジョン・バーディン(1956年,1972年,ともに物理学賞),ライナス・ポーリング(1954年化学賞,1962年平和賞,2度とも単独受賞)の4人だけです。サンガーは,1958にタンパク質の配列を決定し,それをインスリンに応用しました。彼のタンパク質配列決定法とDNA配列決定法の間にはなんの関係もありません。技術的にも発想の点でも,サンガーはどちらも全くゼロから考え出したのです。すごいことだと思いませんか?
 ところで,ゲノムということばを聞いたことがあるでしょう。ゲノムとはある生物がもっている全遺伝情報のことです。1991年「ヒトゲノム計画」がスタートし,2000年6月でほぼ完了しました。酵素によってDNAを切断し,電気泳動の結果をコンピュータで処理するようですが,ジム・ケントという人が100台のパソコンを使って4週間ぶっ続けで解析のプログラムを使ったそうです。
  

(4)ゲノム 
 対をなす染色体の一方→
ゲノム
 ゲノム中の塩基対の配列順序が遺伝情報に対応
 2000年にヒトゲノムの解読終了

 ヒトゲノムが解読されたことによって,どのようなことができるようになるのでしょうか。人類の歴史をもっとよく知ることができます。遺伝子の指紋として法廷に使われます。ヒトの病気の遺伝学が進歩し,遺伝病の治療や予防が可能になります。しかし,使い方を誤ると,大変なことが起こりそうですね。
   
 それでは,この章の学習内容を確認しましょう。
確認しよう
1.塩基対の水素結合の組み合わせは何ですか?
2.3種類のRNAはそれぞれ何と呼ばれていますか?


1.アデニンとチミン,グアニンとシトシン
2.伝令RNA,運搬RNA,リボソームRNA