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―想像物語を書こう!― ※本資料は1999年12月4日(土)に開催された第35回大阪教育大学国語教育学会における、ゼミナール研究発表の発表原稿をもとに作成されています。 目次 1.
はじめに 2.
ワークブックの分析 3.
ワークショップの実際 4.
おわりに
1.はじめに この絵を見てください。皆さんはこの絵からどのような物語の世界が浮かぶでしょうか。 私たちは昨年に引き続き、『創造的に書くこと』の実践的な方法を研究してきました。今年の研究では、『創造的に書くこと』の方法を1つのまとまったカリキュラムとしてとらえようと、創造的に書くことの一つの方法である『想像物語』のワークブックを取り上げました。それをまず翻訳・加工し、プログラムとしてどのような活動が構想されているのかを分析しました。そして、ワークショップを企画し、自分たちで実践してみました。今回、そのワークショップで取り扱った活動を分析し、その活動を通してどのような意味、可能性が期待できるのかという考察を交えて報告をさせていただきたいと思います。
2.ワークブックの分析 2−1.ステーション学習とは(→資料はこちら) 今回のワークショップを行うときに取り扱ったのが、クリスティアーネフルヒナーの、『第3・4学年における自由に書くこと:想像物語』です。このワークブックはステーション学習というシリーズの中の分冊として位置づけられているものですが、ステーション学習とは、1つの大きな目標を達成するために、その目標を一つ一つの小さな部分(ステーション)に分け、まるで駅のように立ち止まりながらその部分の強化(練習)をします。プログラムされた段階を追って、順番通りに、または自由選択的に1つ1つのステーションを経験することによって、最終的に1つの大きな目標を達成することができるのだと考えられているのです。資料1の下線Aを見てください。そこに書かれているように、このステーション学習は4つの目標の方向性をもっています。1つ目に、いろいろな視点から構想された課題や支援によって子どもに最適な練習を可能にすること。2つ目に、子どもが自発的に自分の可能性や能力に応じて1つのテーマに取り組むこと。3つ目に、子どもが作業を通して物事を探求、経験して、その物事を自発的に加工・処理すること。4つ目に、多様な見方を伴う課題や、教科をまたぐ課題(教科書やマスメディア)に対して、子どもたちが全体的な観察の仕方で加工・処理すること。以上のような目標の方向性を持っているステーション学習は、我が国の総合的な学習に類(相当)するものだといえます。 2−2.本テーマ分冊に対する一般的手引き そのステーション学習の一つの分冊として刊行されている『想像物語』は、国語科の中で位置づけられているのですが、子どもたちに美的で創造的な学習活動を可能にするため、下線Bのような観点が顧慮されています。そこには9つの観点が挙げられていますが、私たちが活動を通して重要だと感じたものについていくつか紹介していきます。 芸術科、音楽科の領域との重なり合いをもちながら広く扇状化された多様性および統合的国語科教育を提供すること。語や文との遊技的交流を、小さな部分的テクストや創造的な短いテクストを経て、文量のある想像物語へと段階的に構築すること。活動形式や社会的形式を交換するようなメニューを提供すること。絵や写真、色彩、想像力を刺激する人形や素材などを用いて、ステーションの美的形成に注意を払うこと。この9つの観点に基づいて設定されたのが、資料1の下線Bの下の方に挙げられている12のステーションからなる活動です。 2−3.全体の説明 この12のステーションは、想像物語を書くという1つの全体的な目標に向けての小さな部分となっています。そしてさらに、この12ステーションは、3段階に分かれており、目標に向けてのステップになっているといえます。 1つ目の段階は、資料1に表示されているように、準備的練習であるといえます。言葉(単語)を次々と出していく活動や、単語をつなげて文を作る活動など、文章を書いていく上で基礎となる段階だといえます。 2つ目の段階は、1段階目の活動(文と文のつながりなど)をふまえ、小さな部分的テクスト、創造的な短いテクストを書く段階です。物語の1部分を自分が受け持って書いたり、小さな物語を書いたりと、1段階よりも書く量が少し増え、物語の構成を重視するような活動がでてきます。これは、次の3段階目に引き継ぐための重要な段階になっていると考えます。 3つ目の段階は、いよいよ物語を実際に自分で作っていきます。物語を書くために与えられるいろいろな材料から、今までのステーションで培った力を総動員して物語を書いていきます。 ナンバー2の資料2をごらんください。先程述べたような観点を持って構想されたワークブックを用いたワークショップは、このようなプログラムで行いました。このプログラムの順序に従って、ワークショップの実際の活動と結びつけながら、その具体的な方法と、その活動の特質についての考察を報告させていただきます。
3.ワークショップの実際 3−1.Station1の説明 最初に行った活動は、ステーション1『アイデア・オリンピック』です。この活動は、どれだけ同義語・類義語を考えていけるか広げていけるかを競う活動です。 作業手順を簡単に説明します。最初に3〜5人ぐらいでグループを作ります。次に、資料3−1を見てください。このようなアイデアシートを用意し、『動作をあらわす言葉』3種類についてその同義語・類義語を5分間のうちに思いつくかぎり書いていきます。実際のワークショップではこの他にも「名詞」(物の名前を表す言葉)と「副詞、形容詞、形容動詞など」(様子を表す言葉)のシートも用意しました。一つの活動が終わるごとに答え合わせをして、資料3−2のような評価シートを参考にし、評価を行います。答え合わせの際、「これが正解です」と言うものは用意していなく、みんなで発表しあい、答えが適当であれば正解という形を取りました。→作品例はこちら フルヒナー(1998)の中でも、この『アイデア・オリンピック』は、12個ある活動の中で、最初に位置づけられています。その意味を考えてみました。 まず1つ目は、これから一連の活動していくためのウォーミングアップという意味合いです。限られた時間で、思いつく限りの言葉を書いていくという活動や、話し合い、グループ同士の交流により答え合わせをするといった活動はこれからのステーション学習を活性化するものであるといえます。これにより、学習者同士の交流や活動の場の雰囲気をつくるきっかけとなるのではないかと考えます。 2つ目は、物語を書いていくための基礎練習をするという意味合いです。物語を書くに当たり、物語で使う言葉の語彙を広げていくという目的を持つと考えました。例えば、「景色を見る」という時に、ただ「見る」というのではなく「ながめる」というと表現の感じが変わります。このように月並みな表現をさけ、多様な言葉で物語の世界を十分に表現できるようにするためは、まず物語の最小の要素である語彙を広げていくという活動が必要になります。したがって、このステーションでは、『アイデア・オリンピック』という名のとおり語彙のアイディアをどんどん広げ、その量を増やしていくということを目標にしています。 これで、ステーション1についての説明と考察を終わります。 3−2.Station4 プログラムでは次に資料4−1、資料4−2のようなステーション4『メモシート』という物語の要素を何枚かの絵から考える活動があるのですが、今回は時間の都合により考察を省略させていただきました。 3−3.Station5 続いて実践したのが、Station5のかくし絵です。みなさん、このかきかけの絵は、何の絵の一部だと思いますか。どんな世界が思い浮かぶでしょうか。Station5の活動は、このような描きかけの絵をもとに、イメージを膨らませ、物語を作っていく活動です。 まず、これらの描きかけの絵から、自由に1枚を選びます。その絵をよりどころとしてイメージを広げ、1つの完成した絵を作ります。そして、完成させた自分の絵をもとに、物語を書きます。この活動で一番重要視されているのは、物語を作るためにイメージを広げるということです。 何もない白紙の状態から自由に絵を描くのは一見簡単そうに見えますが、実は難しく、自分が以前に見たことのある絵が思い出され、他人の模倣、既存のものになりやすくなります。それに対して、描きかけの絵は好奇心を刺激し、イメージを膨らませやすく、1つの自分の世界を作っていくきっかけとなります。そして、絵を描きながらも、もうすでにその人の頭の中で、物語は動き始めています。そして、どんどん広げて膨らませていった自分のイメージを、絵にタイトルをつける、物語を書くという作業によって、自分のイメージの世界を追体験し、言葉によって再構成します。 そして、この描きかけの絵をもとに出来上がった作品例がNO、5の資料5の2、5の3です。みなさんのイメージした絵と比べてみてどうでしょうか。Iさんは、この描きかけの絵から、「出っ歯」を思い浮かべました。この作品の中には、出っ歯がチャームポイントの人が登場します。そして、虫歯菌との戦いに疲れた歯が、ストライキを起こすところにこの作品のおもしろさがあると思います。 3−4.Station8 続いて、Station8の『途方もない物語』、という活動を実践しました。この活動は、グループになって作業するのですが、日本でもよく実践されている、「リレー式に創作をする」ことを少し応用させた活動です。先ほど説明したStation5のイメージを広げる活動とは違い、この活動は、無秩序なものに秩序を無理やりつくっていく活動です。→作業シートはこちら まず、2〜4人のグループを作ります。次に、この、「彼」「彼女」「それ」の中から主人公を一つ選び、問1〜問4に同じチェックをします。そして、問1に答え、その答えが見えないように作業シートを折り込み、隣の人に渡します。隣の人は、問2に答え、同じように作業シートを折って隣の人に渡します。このように作業を続けます。そして、問6まで答えたら、その作業シートを広げます。するとこのように、1つ1つの問の答えが、すべて関連のない、バラバラの要素が書いてあるはずです。その物語の要素となる情報をつなげて、一人で物語にします。このように、グループの一人一人が全くつながりのない物語の情報を与え合い、それをすべてつなげて1つの物語にするのです。そのことによって、1人だけですべてが関連のある構成を考えて物語を書くよりも、意外な文章、飛躍的な文章、つまり『途方もない』物語になるのです。したがって、このような作業をするには、柔軟な思考と物語を作る構成力が必要になります。 もし、資料6の1のような作業シートが自分のところにきたら、皆さんはどんな物語を作るでしょうか。実際この情報をもとに作られた物語は、自分の都合のよいように、この物語を「人、動物、物と問わずすべてのものが言葉を話せる世界でのこと」としてしまいました。このような発想の転換が、柔軟さと構成力の絡み合いの結果作り出されたものといえるのではないでしょうか。むりやりな苦しいつなげ方をしているところもありますが、やはり本当に途方もない物語となっています。 3−5.Station12 つづいて、ワークショップの最後に行った、ステーション12『やみくも物語』の考察に移ります。レジュメNo.7を見て下さい。この活動は、私たちが用意した7枚の芸術的絵画から、1枚、自分で選び想像を自由に膨らませ、物語を書いていく活動です。そしてできた作品を発表しあいました。その中で、もっとも評価されたのが資料7−2に示したUさんの作品です。Uさんは前に示しているこの絵に基づいて物語を書いています。 発表の冒頭で、みなさんにこの絵を見ていただき、どのような物語がイメージされますかと問いかけました。もしステーション12での活動が独立したものとしていきなり、提示されたらどうでしょうか。 Uさんの作品を読み、私がまず感じたことは全体の印象として、静かで暖かい世界が描かれていると言うこと。絵画中の女の人が語り手ではなく、男の人が語り手となっていること。またこのことが、二人のいる空間をイメージさせること。「あれから6年」という言葉により時間の流れが描かれていること。 これらから、登場人物の設定、空間設定、時間設定、が巧みに織り込まれていると私は思います。先程、説明考察させていただいたステーション4、8で意識されていた物語の設定・構成といった基本的練習の成果が生かされていると思います。 そして、もう一つ感じたことが物語世界の深まりなのです。 ステーション12の活動だけでなく、ほかのステーションでも、実際に書いて感じたことなのですが、フルヒナー(1998)第3.4学年における自由に書くこと『想像物語』に基づいて書いた作品を読み返すと、自分・自己といったものが何らかの形で含まれていることに気づくのです。なぜ、自分・自己といったものが表れるのでしょうか。もしこの活動を最初に行ったならば、この自分・自己といったものが表れるのでしょうか。そういった視点でステーション1.4.5.8を考察してみると、ステーション1.5にはイメージを広げる活動が重要視されているのではないかと考えました。イメージを膨らますという作業の中では、自分の体験や考えが含まれてきます。そしてステーション1.4.12を並べてみると、段階をふまえてイメージを膨らます練習がくまれていることがわかります。 ステーション1では、言葉を広げる活動 ステーション5では書きかけの、完成されていない絵からイメージを膨らませる活動 ステーション12では完成された絵からイメージを膨らませる活動です。 つまり、ステーション12では1や5で行われたイメージを広げる活動があったからこそ、与えられた学習材からイメージが広がり、物語世界に深まりがでたのだと感がえられるのではないでしょうか。
4.おわりに 私たちは自分の学習に対して、楽しさや喜びを感じるとき、学習意欲が高まるのではないかと考えています。実践する中で、私たちは、語彙力・表現力の乏しさ、想像力のなさを痛感し、落ち込む場面もありました。しかし、そのときの自分の能力に応じて苦しみながらも物語を楽しく書けたのは、夢中で想像し、夢中で書き、その中で作品ができあがっていく満足感や充実感があったこと、また発表をして、みんなに評価される喜びや刺激があったこと、さらにワークショップの和やかな雰囲気の中で活動ができたこと、が大きな要因だと考えています。 今回この活動をワークショップという形で行ったのは、このような学習サークルといった形式が提案されていたということもありますが、お互いに交流しあいながら集団で書くという学習の形態が、子どもたちにとって貴重な経験になるのではないかと考えたからです。ワークショップというような形態の中で、自分の他にも同じように物語を作っている友達(書き合う相手)がいる、一緒にものを作っていく集団がいるということはとてもうれしく、その中で相互交流をしながら「書く」ことは、まず書くことへの抵抗感を和らげるのではないかと思います。同じ空間と時間を共にして、一人一人が自由なアイディアを出し合いそれが自由に飛び交う。このような活動の形式が「書く」ことに何か変化をもたらすことができるのではないかと感じました。 |