斑鳩の里 法起寺 平成17年睦月9日 小雪
 
冬枯れの畦道からの法起寺
 
時に雪片の舞う斑鳩の北端をしばし歩いた。三井の里なる法輪寺に立ち寄る。三重塔の回りをめぐり、よく案配された木と石を眺めた。春を待つ花芽をつけた小ぶりな梅の古木。その根本に薄く苔が敷かれ、さびた色合いの小石がさらに取り巻く。松の小枝を吹く風の音がかそけくふる。さざんかの紅がさむざむに垣根に咲く。ここにいるだけでなにとはなく心の鎮まるお寺である。鐘楼の前に立ち振り返る。講堂にいます御仏たちに黙礼。南門を出づ。ちらちらと小雪が舞いだした。南の方、飛鳥の山影が遠くにかすむ。
 
(伝)山背大兄王の墓所
 
法輪寺から法起寺へと早足で歩く。右手に冬枯れの山背大兄王の墓所と伝えられる岡を見る。後の林でひゅうと風が鳴る。山背大兄王は、厩戸皇子(別名聖徳太子)の子である。皇位継承をめぐる当時の血まなぐさい争いに敗れて自殺した。皇位は、皇極天皇の弟である孝徳天皇へと日継ぎされた。日本書紀では、逆賊として曽我入鹿を一方的な悪者として描くが、事実は隠されているのであろう。日本書紀を読めば、日本書紀の論理に、知らずのうちに則ってつじつまを合わせて「歴史」を辿る。仕組まれた立場に立たされて物事を解釈し、それが事実・真実だと納得することになる。用心しても、どうしてもそうなる弱さが己にあることの苦さを想いつつ歩をあゆます。法起寺の塔がのぞいてきた。畦道を遠回りに歩いてお寺を眺める。雲間から陽光が漏れ照る。遠望する白壁の白さが身にしみる。垂れ込めた雪雲を塔がするどく刺す。境内には立ち入らずに冬枯れの草草ごしに見とれていた。唐突に、桃太郎は鬼ヶ島の鬼どもを征伐にどうしてもいかねばならなかったのだと心の裡に閃いた。鬼どもが島内で平安無事に暮らしていたならば鬼ではなかったろう。無慈悲な振る舞いによって害をなすからこそ鬼である。話し合いで解決することなぞ端からない。だからこそ鬼なのだ。ビニールハウスの前の農家の出店で大ぶりの苺をもとめた。