斑鳩の里  法輪寺―法起寺  平成16年4月3日 晴
 
法輪寺
 
ゆく春。黄砂。沈丁花の香りが小さくなるにつれて、小庭の吉野ツツジ(三つ葉ツツジ)の鮮やかな桃色の花がこんもりとした。園芸店の店先には、柔らかな色合いの花々の苗が所狭しと並んでいる。桜前線は早足で北上する。桜の國の春爛漫。昼まで読書し、午後に弁当とお茶を携えて、斑鳩の里を散策した。聖徳太子ゆかりの法輪寺と法起寺を尋ねた。王子町の市街を抜けて石橋を渡ると斑鳩町。竜田川の川岸の桜が満開であった。漆喰と木板の古家の家並みを押し包むように咲く。法隆寺の前を過ぎ、田畑の道に折れると、法輪寺にたどり着く。桜花が伽藍をつつむ。屋根瓦がまぶしい。春の陽光にかがやくお寺である。門前では写生をする人たちが絵筆をはしらせている。どちらかというと話しを楽しんでいるようでもあった。田圃の畦に座ってお茶を一服。弁当。まもなくの春耕をひかえた田に蓮華の花が咲く。一羽の紋白蝶がひらひらと流れていく。飛んでいるのか風に身をまかせているのかわからない。ただ、この白いものの飛翔は、春の斑鳩の里にひたむきに似つかわしい、という印象だけがあった。ぼうっとなった。岡の原(伝・山背大兄王の墓所)の前を行く。山背大兄王は聖徳太子の皇子である。権力政争の中に倒れる。なまぐさい諍いを遠い昔のことというように、丘陵には葡萄畑がなだらかに広がる。法起寺三重塔が小さく見えてきた。
 
法起寺
 
農家の納屋前の小径を歩く。土の道。田の畦ぞいに塀ごしの法起寺をめぐる。穏やかにも鋭く三重塔が春の空にぬきみでる。西門から境内に入る。拝観料300円。飾りっけのない質朴なお寺さんである。池端の黄のレンギョウの向こうに三重塔。飛鳥様式の最大最古の三重塔。こじんまりとした鐘楼跡の石組み。鐘の音が響いた古へに思いをはせた。南大門は固く閉じられている。聖天堂、講堂とめぐる。時を経た漆喰の白壁に木の影が揺れる。観音様(木造十一面観音菩薩立像)を拝する。杖をついた老婦人が薄暗い収蔵庫を覗き込み、観音様の御顔を見え上げて、「いいお顔だねえ。」と付き添いの息子に、語るともなくつぶやく。息子ものぞきこむ。静かに時が刻まれる。深緑の池面には、時折に、大鯉が浮かび上がって、そしてゆっくりと池底に沈んでいく。小さな愛娘らの写真を撮る知人に出会う。この近所にお住まいとのこと。ゆっくりと法輪寺まで歩き帰る。はるかに溜池が光る。帰りは広陵町まわりの道をとる。在所の大和棟の集落。その道筋に続く桜木。さらに行けば、二上山を遠景に大和川の堰堤の桜花。この国に生まれた幸せを想ふ。森羅万象萌え出づる春に再出発。もうすぐ入学式だ。