大和路 斑鳩の里 斑鳩神社―幸前神社 平成16年5月1日 晴
 
天満池の土手からの法隆寺五重塔
 
大和盆地の黒い瓦屋根に初夏の光が照る。油を流したような屋根瓦の波に鯉幟が泳ぐ。皐月の空に緑風が吹く。法輪寺から斑鳩神社、さらに中宮寺を経て幸前神社と歩く。青葉からぐんと天に抜き出た法輪寺三重塔を拝しながら、サイクリング路を辿って、斑鳩神社前に出る。途中には火葬場と墓地とがある。誰彼もなく、避けることなく、いつかは平等に逝く道である。幸いなことに、今日は生身で散策する。この一事の有り難さ。山道然とした路を抜けると、眼前に天満池が波静かに侍している。池に面した小山がある。石の鳥居をくぐり、石段をのぼる。菅原道真公をお祭りする斑鳩神社である。絵馬の掛かる拝殿にて拝礼。黒い石の牛が顔を社殿に向けて寝そべる。再び石段を下って、天満池の端に腰を下ろして弁当。いい眺めである。法隆寺五重塔と伽藍の壮重な屋根が重なりつづく。夢殿の南方に目をやれば、畝傍山が藤原京あたりを知らせる。土塀にそって法隆寺東大門前に出る。参道は観光客で賑う。塔頭の門から端正な庭を拝する。西門をくぐり、夢殿の鐘楼を見上げる。中宮寺の門前から白壁の塀をながめる。両側から土壁の迫る小路づたいに歩く。味わいぶかく古びた看板の立ついかるが蕎麦の「いこい」の先で右折する。築地の土塀をくりぬいて瓦の囲いに、仏様が小さく祭られていた。手を合わせる。民家の門から苔を敷いた庭が見える。道路に出ると、こじゃれた市場に出会う。名は、創作市場「夢違」(ゆめたがえ)。悪夢から人をお救いになるという「夢違観音」(銅造観音菩薩立像)に由来するものか。靴を脱いで上がる。奈良の物産やら竹細工、陶器、ガラス細工など小物が展示即売されていて、見るだけでも楽しいくつろぎの空間である。前庭では挽きたてのコーヒーやら焼きたてのみたらし団子やらを、その場で味合うことができる。集落の間の小道を縫って幸前神社。こんもりとした杜のなかに社がある。拝礼。静寂が辺りを払う。幸前神社から少し山手に歩く。ここからは、法起寺と法輪寺の三重塔を二つながらに一望できる。岡の原を左手に見ながら法輪寺にたどり着いた。諸処の苗代の田に水が張られていた。もう半袖が気持ちいい季節となった。