葛城古道 鴨都波神社 平成17年2月5日 天曇
 
鴨都波神社拝殿
 
暦の立春を迎えた。名のみの春。葛城おろしがひゅうと鳴る。山麓の鴨都波神社を訪ねる。この葛城の地には他に、高鴨神社(上鴨社)と御歳神社(中鴨社)の鴨社が鎮まる。鴨都波神社(下鴨社)は、葛城山系から流れ出た葛城川と柳田川とが合流する地にある。国道沿いの鳥居をくぐる。石の小径の向こうに明るく白い庭が広がる。御祭神は、積羽八重事代主神と下照比売命の二柱。御配神は、建御名方命、大物主櫛ミカ玉命。古記に主祭神は、「鴨都味波八重事代主神」と記す。意味は「鴨の水辺で折目ごとに祀られる田の神」とのこと。稲作に関連した神である。祓戸神社(氣吹度主神・速佐須良比売神・瀬織津比売神・速開津比売神)を拝し、手水で身を浄めて拝殿にて拝礼。拝殿の奥に壮麗な本殿がある。本殿の横に天神社(菅原道真公)、猿田彦神社(猿田毘子大神)、火産霊神社(竈三柱大神・金山彦命)を祭る摂社がある。拝礼。境内の中ほどに焚き火のあとがあり、白い灰が堆い。埋もれ火の温もりにあたる。御神木のいち樫の大木を見上げる。きりりと注連縄が幹に締められている。杜の中に宮城に向かって遙拝所が設けてあった。境内には、八坂神社(素戔嗚命)、笹神社(市杵島比売命)、神農社(少名毘古那神)、稲荷神社(宇賀之魂大神)の社がある。宮司さんに由緒書をいただき、本神社についての小講義をしていただいた。厚く礼を申して去る。うす暗い杜に八咫烏(ヤタガラス)の羽ばたきを聞いた。よく見れば烏二羽。正門の鳥居から出る。葛城川の川縁を金剛山を望みながら歩いて、孝昭天皇陵に至る。白梅が匂う。古事記には「御真津日子訶恵志泥命、葛城の掖上宮に坐しまして、天の下治らしめしき」、「御陵は掖上の博多山の上に在り」とある。第5代天皇である。大和棟の民家の門を縫う小径を辿る。こぼれる土壁に稲架けの木の棒が並ぶ。御陵北面に出る。柿の畑に黒い板の小屋が建っている。その向こうに葛城山が青む。消え残りの雪が白く筋となる。鍬をふるって畑を打っていた老人が、仕事を終えて原付に跨り帰る。御陵を一周して、再び鴨都波神社の前に戻る。田畑や山なみ、川の流れや古墳の森を見歩いては、しきりに国つ神系の神々を想った。日本人にとっての「神々」とはなにか。寒風のなかに身体はほてっていた。